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島国の戦士
第74話 すれ違い ~穂高 1~
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翌朝、鴇汰はたくさんの荷物を車の後部席に積んでいた。ドアを開いた瞬間、いろいろな匂いが広がってくる。
「どうしたんだよ? 凄い量の荷物じゃないか」
空いているスペースに、穂高は無理やり、自分の荷物を押し込んだ。
「悪い、思ったより多くなっちまってさ、穂高の荷物、全部入るか?」
「俺のは少ないから大丈夫だけど、これ、もしかして昨日、買い込んでたもの?」
「ん……まぁね。差し入れっつーか……そんなもの」
ハンドルにもたれて窓の外を見ている鴇汰の表情は、穂高の位置からは見えないけれど照れ臭そうにしているだろうことは、見なくてもわかる。
「ふうん、差し入れ、ね。まぁ、確かに資料を届けに演習場に行くからね」
穂高が助手席に座り、ドアを閉めたのを確認すると、鴇汰はゆっくり車を走らせた。
「ほら、今回は西区の道場の人たちも参加してるし、きっと大したもん、食ってねーだろうから」
「昨日、部屋に戻ってからずっと料理していたんだろう? これだけの量だもんな」
「別に……ずっとってわけじゃねーよ」
「鴇汰って、本当に昔からマメなやつだよな。そういえば昨日、買い込んでた食材は、誰かさんが好きなものがほとんどだったみたいだけど?」
バックミラー越しに鴇汰の顔を見ると、思ったとおりの表情だ。しかも、赤くなっている。
「――けなげだよなぁ」
からかうようにして言うと、ムッとした鴇汰が言い返してきた。
「着いたら昼どきだから、穂高のぶんも作ったけど、もう、やるのやめた」
「あっ、ごめん、冗談だよ冗談。怒るなよ~」
「おまえ、やだ。時々、すげー見透かしてるみたいでさ」
「違うよ、鴇汰がわかりやす過ぎるんだって」
「俺ってそんなに感情が顔に出てるか?」
突然、鴇汰は顔をこちらに向けて、真顔で聞いてきた。
「馬鹿! 前を見ろよ! ……いや、ちょっと待って。いったん止めてくれよ」
車が路肩にとまると、助手席から降りて運転席のドアを開け、鴇汰を引っ張り出した。
「なによ? どうしたってんだよ?」
「鴇汰さ、昨日あまり眠っていないんだろう? 運転、俺が代わるから。少しのあいだ、眠るといいよ」
半ば無理やりに鴇汰を助手席に押し込めて、穂高は車を走らせた。
「顔に、っていうよりもさ、最近はもう全身に出ている感じだよ。昔はどっちかと言うと冷静で、簡単に内側が見えなかったかな。でも今は本当に良くわかるな」
横目で見てそう言うと、シートを倒して横になった鴇汰は、目を閉じて、そうか、とつぶやいた。
「なんかさ、ここんとこ急にかな? すげー感情の起伏が激しいっつーか、落ち着かないのよ。自分でもわかるんだよな」
「ずっと忙しい日が続いているからさ、疲れているんじゃないのか? 休みの時はちゃんと休まないと」
「穂高こそ、休んでないだろ? ちゃんと家に帰ってるのかよ?」
「それがさ、このところ、ひどい疲れが出てさ、帰らずに宿舎で寝ることが多かったんだ。そしたらうちの奥さん、カンカンに怒って大変だったよ」
穂高が大袈裟にため息をついて首をすくめてみせると、鴇汰が苦笑した。
「穂高の奥さん、怒ると怖いよな。無駄に強いしよ。戦士あがりだから当たり前なんだろうけど」
「容赦ないからね、子どもができたら変わるんだろうけど……」
「でもいいよな。そういうの」
「この怖さ、鴇汰もいつかわるよ。って言うよりも、鴇汰のほうが怖い思いするのかもしれないよ」
ちらりと鴇汰に目をやって笑った。
「……俺、やっぱりちょっと寝るわ。運転よろしくな」
腕を組んでドアのほうに体を向け、鴇汰は黙ってしまった。
「どうしたんだよ? 凄い量の荷物じゃないか」
空いているスペースに、穂高は無理やり、自分の荷物を押し込んだ。
「悪い、思ったより多くなっちまってさ、穂高の荷物、全部入るか?」
「俺のは少ないから大丈夫だけど、これ、もしかして昨日、買い込んでたもの?」
「ん……まぁね。差し入れっつーか……そんなもの」
ハンドルにもたれて窓の外を見ている鴇汰の表情は、穂高の位置からは見えないけれど照れ臭そうにしているだろうことは、見なくてもわかる。
「ふうん、差し入れ、ね。まぁ、確かに資料を届けに演習場に行くからね」
穂高が助手席に座り、ドアを閉めたのを確認すると、鴇汰はゆっくり車を走らせた。
「ほら、今回は西区の道場の人たちも参加してるし、きっと大したもん、食ってねーだろうから」
「昨日、部屋に戻ってからずっと料理していたんだろう? これだけの量だもんな」
「別に……ずっとってわけじゃねーよ」
「鴇汰って、本当に昔からマメなやつだよな。そういえば昨日、買い込んでた食材は、誰かさんが好きなものがほとんどだったみたいだけど?」
バックミラー越しに鴇汰の顔を見ると、思ったとおりの表情だ。しかも、赤くなっている。
「――けなげだよなぁ」
からかうようにして言うと、ムッとした鴇汰が言い返してきた。
「着いたら昼どきだから、穂高のぶんも作ったけど、もう、やるのやめた」
「あっ、ごめん、冗談だよ冗談。怒るなよ~」
「おまえ、やだ。時々、すげー見透かしてるみたいでさ」
「違うよ、鴇汰がわかりやす過ぎるんだって」
「俺ってそんなに感情が顔に出てるか?」
突然、鴇汰は顔をこちらに向けて、真顔で聞いてきた。
「馬鹿! 前を見ろよ! ……いや、ちょっと待って。いったん止めてくれよ」
車が路肩にとまると、助手席から降りて運転席のドアを開け、鴇汰を引っ張り出した。
「なによ? どうしたってんだよ?」
「鴇汰さ、昨日あまり眠っていないんだろう? 運転、俺が代わるから。少しのあいだ、眠るといいよ」
半ば無理やりに鴇汰を助手席に押し込めて、穂高は車を走らせた。
「顔に、っていうよりもさ、最近はもう全身に出ている感じだよ。昔はどっちかと言うと冷静で、簡単に内側が見えなかったかな。でも今は本当に良くわかるな」
横目で見てそう言うと、シートを倒して横になった鴇汰は、目を閉じて、そうか、とつぶやいた。
「なんかさ、ここんとこ急にかな? すげー感情の起伏が激しいっつーか、落ち着かないのよ。自分でもわかるんだよな」
「ずっと忙しい日が続いているからさ、疲れているんじゃないのか? 休みの時はちゃんと休まないと」
「穂高こそ、休んでないだろ? ちゃんと家に帰ってるのかよ?」
「それがさ、このところ、ひどい疲れが出てさ、帰らずに宿舎で寝ることが多かったんだ。そしたらうちの奥さん、カンカンに怒って大変だったよ」
穂高が大袈裟にため息をついて首をすくめてみせると、鴇汰が苦笑した。
「穂高の奥さん、怒ると怖いよな。無駄に強いしよ。戦士あがりだから当たり前なんだろうけど」
「容赦ないからね、子どもができたら変わるんだろうけど……」
「でもいいよな。そういうの」
「この怖さ、鴇汰もいつかわるよ。って言うよりも、鴇汰のほうが怖い思いするのかもしれないよ」
ちらりと鴇汰に目をやって笑った。
「……俺、やっぱりちょっと寝るわ。運転よろしくな」
腕を組んでドアのほうに体を向け、鴇汰は黙ってしまった。
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