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島国の戦士
第65話 稼働 ~麻乃 4~
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「先生のいうとおりりですよね。すみません。あたし、なんだか最近、おかしくて……ねぇ、先生、時々ですけど、自分以外の誰かの視線を感じるのに、周りには誰もいないことって、ありますか?」
「なんだ? なにかに憑かれているかもしれない、とかそういう話しか?」
「いえ……いや、そうなのかな? 観察されているような、明らかに誰かがいるような気配を感じたのに、周りには誰もいないとか」
「うーん、俺はそういったことはないな。その手の話しなら、シタラさまが詳しいんじゃないか? シタラさまに聞いてみたらどうだ?」
「あたし、婆さま、ちょっと苦手です」
市原は苦笑するとお祓いだと言って、麻乃の背中をほこりを払うようにして、バンバンたたいてきた。
「実は俺も苦手なんだよ。ついでに言うなら、塚本とは違ってそういう話しも怖い。おまえは気負いすぎなところがあるからな。疲れのせいかもしれないぞ。こんなときだけれど休むときは、しっかり休まないと駄目だ」
気負いすぎ、か。そういえば最近、巧にも同じことを言われたっけ。
「さて、あいつらみんな、倒されたな。俺たちも動かないと、やつらのためにならないだろう?」
「そうですね。じゃ、あたしはもう少し奥へ行ってみます」
「ああ、麻乃!」
隣の木へ飛び移ると、市原に呼ばれ、振り返る。
「今度またなにかの気配を感じて、もしもなにか見たら俺にも教えろ! 気になって眠れない。それから愚痴があるならいつでも聞くぞ!」
麻乃に向かって軽く手を振ると、市原は木を飛び降り、麻乃とは逆の方向へ走っていった。
(なにか見たら、って、なにを見るっていうんだか)
怖いという割に、気になって眠れないともいう市原に思わず笑ってしまう。
愚痴も聞いてくれるというのなら、時間が空いたら話しに行ってみよう。高田の道場の師範たちでは、確かに市原が一番、話しをしやすい。
木々を移動しながら、たった今、隊員たちを倒した師範に、すれ違いざま目礼をして麻乃はその場から離れた。
そのあとは、いくつかの班がやり合っているところに遭遇し、それを観察するだけにとどまっている。
同じ武器の刀や、槍、斧にはそれなりに応戦できているけれど、弓や銃を相手にすると途端に分が悪くなるようだ。
気配を追えても場所を特定する前に撃たれ、見つけても間合いを詰められないままに倒されている。
(つがう音や装填の音に気づけるようになるまでは、師範たちのいいカモだな)
いっそ飛び出していって、あれこれ助言をしてやりたいところだけれど、それをしてしまうと、自分で考えるのをやめてしまう。そうなると伸びるだろうところをつぶしてしまう可能性があるから、それもできない。
古株のやつらは、さすがに撃たれたときの反応が早く、相応の反撃を見せているから、その姿を見て新人が少しでもなにかをつかめば、師範たちからリストバンドを奪える日も、そう遠くないうちにやってくるだろう。
麻乃は少し戦線を離れて食材の調達に出ることにした。
腰に巻いたかばんの中から麻のリュックを出して背負い、果物や山菜を詰めて拠点に戻った。
もう日が暮れ始める時間で、一陣で出ていた師範が、二陣の師範と交代を始めている。
修治の姿は見えず、火が焚かれて食事の支度もできているところをみると、いったん戻ってきてから、また出ていったようだ。
荷をおろし、いくつか果物を食べると、麻乃に割り当てられたテントに行き、横になった。しばらくして揺り起こされ、眠っていたことに気づく。すっかり陽が落ちて辺りは真っ暗だ。
「おまえ、飯はどうした? 家には戻ってきたのか?」
修治にそう聞かれて飛び起きた。
「ご飯は果物を少しだけ食べたけど、まだ家には戻ってないや。ちょっと片づけしてゴミを捨ててくる」
「ついでに詰所から、いくつかテントを持ってきてくれ。それから演習用の銃弾を二十箱頼む」
「うん。わかった」
馬を走らせ、まずは西詰所に向かい、倉庫からテントと銃弾を出して馬の背に詰んだ。
途中、梁瀬の隊員たちとすれ違い、あいさつを交わして近況を聞くと、今のところは変わったこともなく、敵襲もないと言う。少しホッとして、麻乃は詰所を出た。
「なんだ? なにかに憑かれているかもしれない、とかそういう話しか?」
「いえ……いや、そうなのかな? 観察されているような、明らかに誰かがいるような気配を感じたのに、周りには誰もいないとか」
「うーん、俺はそういったことはないな。その手の話しなら、シタラさまが詳しいんじゃないか? シタラさまに聞いてみたらどうだ?」
「あたし、婆さま、ちょっと苦手です」
市原は苦笑するとお祓いだと言って、麻乃の背中をほこりを払うようにして、バンバンたたいてきた。
「実は俺も苦手なんだよ。ついでに言うなら、塚本とは違ってそういう話しも怖い。おまえは気負いすぎなところがあるからな。疲れのせいかもしれないぞ。こんなときだけれど休むときは、しっかり休まないと駄目だ」
気負いすぎ、か。そういえば最近、巧にも同じことを言われたっけ。
「さて、あいつらみんな、倒されたな。俺たちも動かないと、やつらのためにならないだろう?」
「そうですね。じゃ、あたしはもう少し奥へ行ってみます」
「ああ、麻乃!」
隣の木へ飛び移ると、市原に呼ばれ、振り返る。
「今度またなにかの気配を感じて、もしもなにか見たら俺にも教えろ! 気になって眠れない。それから愚痴があるならいつでも聞くぞ!」
麻乃に向かって軽く手を振ると、市原は木を飛び降り、麻乃とは逆の方向へ走っていった。
(なにか見たら、って、なにを見るっていうんだか)
怖いという割に、気になって眠れないともいう市原に思わず笑ってしまう。
愚痴も聞いてくれるというのなら、時間が空いたら話しに行ってみよう。高田の道場の師範たちでは、確かに市原が一番、話しをしやすい。
木々を移動しながら、たった今、隊員たちを倒した師範に、すれ違いざま目礼をして麻乃はその場から離れた。
そのあとは、いくつかの班がやり合っているところに遭遇し、それを観察するだけにとどまっている。
同じ武器の刀や、槍、斧にはそれなりに応戦できているけれど、弓や銃を相手にすると途端に分が悪くなるようだ。
気配を追えても場所を特定する前に撃たれ、見つけても間合いを詰められないままに倒されている。
(つがう音や装填の音に気づけるようになるまでは、師範たちのいいカモだな)
いっそ飛び出していって、あれこれ助言をしてやりたいところだけれど、それをしてしまうと、自分で考えるのをやめてしまう。そうなると伸びるだろうところをつぶしてしまう可能性があるから、それもできない。
古株のやつらは、さすがに撃たれたときの反応が早く、相応の反撃を見せているから、その姿を見て新人が少しでもなにかをつかめば、師範たちからリストバンドを奪える日も、そう遠くないうちにやってくるだろう。
麻乃は少し戦線を離れて食材の調達に出ることにした。
腰に巻いたかばんの中から麻のリュックを出して背負い、果物や山菜を詰めて拠点に戻った。
もう日が暮れ始める時間で、一陣で出ていた師範が、二陣の師範と交代を始めている。
修治の姿は見えず、火が焚かれて食事の支度もできているところをみると、いったん戻ってきてから、また出ていったようだ。
荷をおろし、いくつか果物を食べると、麻乃に割り当てられたテントに行き、横になった。しばらくして揺り起こされ、眠っていたことに気づく。すっかり陽が落ちて辺りは真っ暗だ。
「おまえ、飯はどうした? 家には戻ってきたのか?」
修治にそう聞かれて飛び起きた。
「ご飯は果物を少しだけ食べたけど、まだ家には戻ってないや。ちょっと片づけしてゴミを捨ててくる」
「ついでに詰所から、いくつかテントを持ってきてくれ。それから演習用の銃弾を二十箱頼む」
「うん。わかった」
馬を走らせ、まずは西詰所に向かい、倉庫からテントと銃弾を出して馬の背に詰んだ。
途中、梁瀬の隊員たちとすれ違い、あいさつを交わして近況を聞くと、今のところは変わったこともなく、敵襲もないと言う。少しホッとして、麻乃は詰所を出た。
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