蓮華

釜瑪 秋摩

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島国の戦士

第58話 それぞれの想い ~麻乃 2~

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「あれ、修治のところも今、終わり?」

「ああ、ちょうどいいタイミングだったみたいだな。そういえば、新しい刀を買ったって?」

「うん、こいつと、もう一刀は家に置いてある」

 腰に差した夜光の柄を握ってみせた。

「鞘に凝った細工がしてあるな。壊れたら泣くんじゃないのか?」

「意地悪なことをいわないでよ。見た目より強いっていってたから、多分平気だよ」

「先生がな、炎魔刀、返してくれるってよ」

 修治が笑ってそう言ったのを聞いて、麻乃は思わず声をあげた。

「本当?」

「ああ。ただし、手もとに置くだけにしろってさ。帯びているところを見つかったら、次は殺されるな」

「置くだけでも十分だよ。そっかぁ、戻ってくるんだ……」

 車の前までくると、午後からの会議でほかのみんなが集まってきていた。
 おりた車のドアを閉めながら、巧が声をかけてきた。

「二人とも久しぶりじゃない。今日はどうしたのよ?」

「顔合わせだよ」

「なんだ、もう選別できたのか? ずいぶんと早いじゃねぇか」

 後ろから顔を出した徳丸も加わる。

「うん、梁瀬さんが資料を細かくまとめてくれてね、選定がかなり短縮できたから」

「じゃあ、あんたたちあれね? 地獄の演習するんでしょ?」

「もちろんだよ。最初にキツイ思いをしたほうが、あとが楽になるもん」

「まったくとんでもねぇ鬼だな。おまえたちは」

 徳丸が笑った。
 サバイバル演習はどの部隊も必ずやるけれど、基礎訓練を済ませてからにしている。訓練開始早々におこなうのは麻乃と修治だけだった。

「ここまで来たのなら、会議にも出ていけばいいのに」

「いや、帰りにいろいろと寄るところがあるんだよ。次の会議には出るつもりだけどな」

 穂高と修治が話しを始めたとき、鴇汰に後ろから腕を引っ張られ、みんなの輪から離れた。

「このあいだはありがとうね。掃除とかご飯とか」

「そんなのはいいんだけど、おまえ、腕はもういいのかよ? ちゃんと医療所行ったのか?」

「あれから痛まないよ、大丈夫。それと、修治にも黙っててくれてありがとう」

「別に……あいつと話すことなんてねーから。ってか、知られるとマズイ理由でもあるのかよ?」

「あまり余計な心配をかけたくないだけだよ」

 鴇汰の問いかけに、麻乃は目を反らして小声で答えた。

「心配って――」

「おい! そろそろ行くぞ」

「鴇汰、俺たちのほうもそろそろ時間だよ。早く向かわないと」

 鴇汰の言葉をさえぎって、修治と穂高が呼びかけてきた。

「うん、今、行く! じゃあね、また今度」

 鴇汰の腕を軽くたたくと、麻乃はそのまま振り返らずに走った。背中に鴇汰の視線を感じる。
 車に乗り込み、走りだすときに少しだけ目線を向けると、穂高と一緒に階段をのぼっていく鴇汰の後姿が見えた。
 たまらなく切なく胸が痛んだ。
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