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島国の戦士
第54話 柳堀 ~鴇汰 2~
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「俺はガキのころに、一緒になるならコイツだ、って決めた相手がいるわけよ」
「へぇ、そうなんだ」
気のない返事が返ってきて、ため息が出たけれど、そのまま続けた。
「けど気づいたらそいつ、身近にいた男と付き合ってやがって、すげーショックだった」
鴇汰は前髪を掻き上げるようにして頭に触れた。
「しばらくして、どうやら別れたらしいって知って、チャンスかと思ったけど……焦るのもどうかって思ってのんびり距離を縮めてたんだよな」
「ふうん……」
「そしたらそいつ、ポッと出てきたくだらねぇ野郎にあっさりたぶらかされて放り出されて……最近は最初の男とまた、なんだかやけに接近してるしよ」
「あ~、なんか面倒臭そうな相手だね。あたしが口を出すのもなんだけど、あんたならその気になれば、いくらでもいい子がみつかるんじゃないの?」
なにもわかっていない――。
的外れなことをいう麻乃に、鴇汰は苦笑いをするしかなかった。
その続きはまだ言っちゃいけない気がするのに、ずっと胸の奥に詰まっていた言葉が、行き場を求めるようにあふれ出して止まらない。
「俺もそう思って、ほかの女の子に目を向けてみたりもしたけどな。駄目なんだよな。どうしてもそいつじゃないと駄目だって言うのよ。心がさ」
親指で胸を指して言い、麻乃に向き直ると、ようやく麻乃が顔を上げた。その目を真っすぐに見て一呼吸、置いてから、思い切って言う。
「どうしても、麻乃じゃないと駄目なんだよ」
麻乃は視線を合わせたまま、他の動きを忘れたかのように、ただ黙々と食べ続けている。
なにも答えないから、今の言葉を聞いていたのかどうかも疑問に思えてきた。
「そこで黙るなよ……ってか、食ってるなよ。なにか言えって」
照れ臭くても麻乃から視線が外せない。ハッとわれに返ったように麻乃は驚いた表情をすると食べていた手を止め、おずおずと聞いてきた。
「あ、あぁ……えっ? だけどあんた、それじゃあ……」
「ヤダー! 鴇汰ちゃんたら、こんなところで愛の告白ゥ?」
いつの間に側に来てどこから聞いていたのか、麻乃の言葉に被せるように、ネエさんたちが騒ぎ出す。
「駄目よォ、こんなところじゃ。そういう告白はねぇ、もっとムードのある場所でしなきゃ」
「そうそう、花束の一つでも抱えて、ねェ」
「スタイルだって、バッチリ決めないと」
「ちょっとネエさんたち、頼むから今は邪魔すんなって! 俺――」
口々に話し合っているのをさえぎって言いかけたとき、店のドアが勢いよく開いて岱胡の隊員が駆け込んできた。
「長田隊長、探しましたよ! 沖に敵艦が現れました! うちの隊長がすぐに戻ってほしいって……」
「なんだって? 来るかよ、普通……このタイミングで……あーっ、クソッ!」
鴇汰は頭をかきむしると、まだ状況を把握していない様子の麻乃の頭をポンポンとたたいた。
「俺、行くわ。また今度な。それからおまえ、謹慎中なんだから浜には来るなよ」
迎えに来た隊員をうながし、鴇汰は店を飛び出した。
「へぇ、そうなんだ」
気のない返事が返ってきて、ため息が出たけれど、そのまま続けた。
「けど気づいたらそいつ、身近にいた男と付き合ってやがって、すげーショックだった」
鴇汰は前髪を掻き上げるようにして頭に触れた。
「しばらくして、どうやら別れたらしいって知って、チャンスかと思ったけど……焦るのもどうかって思ってのんびり距離を縮めてたんだよな」
「ふうん……」
「そしたらそいつ、ポッと出てきたくだらねぇ野郎にあっさりたぶらかされて放り出されて……最近は最初の男とまた、なんだかやけに接近してるしよ」
「あ~、なんか面倒臭そうな相手だね。あたしが口を出すのもなんだけど、あんたならその気になれば、いくらでもいい子がみつかるんじゃないの?」
なにもわかっていない――。
的外れなことをいう麻乃に、鴇汰は苦笑いをするしかなかった。
その続きはまだ言っちゃいけない気がするのに、ずっと胸の奥に詰まっていた言葉が、行き場を求めるようにあふれ出して止まらない。
「俺もそう思って、ほかの女の子に目を向けてみたりもしたけどな。駄目なんだよな。どうしてもそいつじゃないと駄目だって言うのよ。心がさ」
親指で胸を指して言い、麻乃に向き直ると、ようやく麻乃が顔を上げた。その目を真っすぐに見て一呼吸、置いてから、思い切って言う。
「どうしても、麻乃じゃないと駄目なんだよ」
麻乃は視線を合わせたまま、他の動きを忘れたかのように、ただ黙々と食べ続けている。
なにも答えないから、今の言葉を聞いていたのかどうかも疑問に思えてきた。
「そこで黙るなよ……ってか、食ってるなよ。なにか言えって」
照れ臭くても麻乃から視線が外せない。ハッとわれに返ったように麻乃は驚いた表情をすると食べていた手を止め、おずおずと聞いてきた。
「あ、あぁ……えっ? だけどあんた、それじゃあ……」
「ヤダー! 鴇汰ちゃんたら、こんなところで愛の告白ゥ?」
いつの間に側に来てどこから聞いていたのか、麻乃の言葉に被せるように、ネエさんたちが騒ぎ出す。
「駄目よォ、こんなところじゃ。そういう告白はねぇ、もっとムードのある場所でしなきゃ」
「そうそう、花束の一つでも抱えて、ねェ」
「スタイルだって、バッチリ決めないと」
「ちょっとネエさんたち、頼むから今は邪魔すんなって! 俺――」
口々に話し合っているのをさえぎって言いかけたとき、店のドアが勢いよく開いて岱胡の隊員が駆け込んできた。
「長田隊長、探しましたよ! 沖に敵艦が現れました! うちの隊長がすぐに戻ってほしいって……」
「なんだって? 来るかよ、普通……このタイミングで……あーっ、クソッ!」
鴇汰は頭をかきむしると、まだ状況を把握していない様子の麻乃の頭をポンポンとたたいた。
「俺、行くわ。また今度な。それからおまえ、謹慎中なんだから浜には来るなよ」
迎えに来た隊員をうながし、鴇汰は店を飛び出した。
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