48 / 780
島国の戦士
第48話 哀悼 ~麻乃 6~
しおりを挟む
「マジで? これさ、時間がなくて結構手を抜いたのよ。うまかったんなら良かった」
「手を抜いてこれ? あんたってホントに凄いよね」
鴇汰は照れ臭そうに笑いながら、自分のぶんを頬張っている。
ぽつりぽつりと、とりとめのない話しをしながら食事を済ませ、鴇汰がコーヒーを入れてくれたころには、もう時計は十時を回っていた。
「すっかり遅くなっちゃったね。長居して本当にごめん」
「別に構わねーよ。俺が呼んだんだから。明日は昼前に出りゃあいいんだし」
「そっか。じゃあ、寝る時間は十分あるね」
休んでいるあいだの持ち回りを負担させていることで、体調を悪くされては困る。
ホッとして言った麻乃の言葉に、鴇汰は片づけをしていた手を止め、不機嫌な顔で振り返った。
「まだ日付も変わってないんだぜ? 少しくらい朝早くたって、まだ寝なくても平気な時間だよ」
「そうは言ってもさ、あたしらのぶんまで持ち回りが増えてるんだもん、睡眠くらいはちゃんと取ってもらわないと心配だよ」
「だから、そういうの全然平気だって言ったろ? 嫌だったら呼ばないし、とっくに帰してるっての。睡眠だってちゃんと取ってるしよ」
ガチャガチャと音を立てて食器を洗う鴇汰の背中を、麻乃はジッと見つめた。
麻乃の言葉は、なぜか鴇汰を苛立たせることが多いようだ。話していると鴇汰の表情にムッとした色が浮かぶのを、昔からよく見てきた。
さっきも今もそうだ。本当はもっと楽しく話せたら良いのにと、いつも思っている。
(ほかの子が相手なら、もっと鴇汰は笑うのかな……? 一体、どんな話しをするんだろう?)
どうにもうまくいかなくて思考が変に偏ってしまう。麻乃の気持ちは沈んでいく一方だ。
鴇汰はすっかり片づけを済ませて戻ってくると、改めて麻乃の向かい側に腰をかけた。
「それより、俺、あさってまでの北詰所が終わったら、次の持ち回りは西詰所に一カ月なんだよ」
「へぇ……同じ詰所に一カ月ってずいぶんと長いね。そんなの初めてじゃないの?」
「だよな。みんなも驚いてた。で、西詰所って麻乃んトコから近いだろ? 俺さ、暇なときとか飯でも作りに行ってやるよ」
「ええっ! うちに?」
驚いてつい大声を出すと、鴇汰は麻乃を見て眉をひそめ、探るようにたずねてくる。
「なんだよ? なにか問題でもあるのか?」
「いや、ホラ、あたし選別があるから家を空けることが多くなるし、それに今、道場に指導にも出てるからさ、来てもいないかも……」
突然の申し出にうろたえ、あわててそう答えると、急に柔らかな表情で鴇汰が笑い、ドキリとした。
「――どーせ散らかしてんだろ? 家の中」
見透かしたような目で見つめられ、焦りと恥ずかしさで顔が熱くなる。
違うと言えないほど、麻乃が部屋を散らかしているのは確かだ。
「大体、おまえんちが散らかってるだろう、ってのは見なくても想像がつくよ。ついでだから掃除もしてやるって。休みか暇なときだけだけどな」
そう言いながら笑っている。
笑い合って、楽しくすごせたらいいと思ってはいるけれど、それはこういう感じではない。
とはいえ、この雰囲気は心地よくて嬉しくなる。
今さら飾り立ててみせなければならない相手でもない。
そう思うことにして、麻乃は真っ赤になったまま、黙ってうなずいた。
「手を抜いてこれ? あんたってホントに凄いよね」
鴇汰は照れ臭そうに笑いながら、自分のぶんを頬張っている。
ぽつりぽつりと、とりとめのない話しをしながら食事を済ませ、鴇汰がコーヒーを入れてくれたころには、もう時計は十時を回っていた。
「すっかり遅くなっちゃったね。長居して本当にごめん」
「別に構わねーよ。俺が呼んだんだから。明日は昼前に出りゃあいいんだし」
「そっか。じゃあ、寝る時間は十分あるね」
休んでいるあいだの持ち回りを負担させていることで、体調を悪くされては困る。
ホッとして言った麻乃の言葉に、鴇汰は片づけをしていた手を止め、不機嫌な顔で振り返った。
「まだ日付も変わってないんだぜ? 少しくらい朝早くたって、まだ寝なくても平気な時間だよ」
「そうは言ってもさ、あたしらのぶんまで持ち回りが増えてるんだもん、睡眠くらいはちゃんと取ってもらわないと心配だよ」
「だから、そういうの全然平気だって言ったろ? 嫌だったら呼ばないし、とっくに帰してるっての。睡眠だってちゃんと取ってるしよ」
ガチャガチャと音を立てて食器を洗う鴇汰の背中を、麻乃はジッと見つめた。
麻乃の言葉は、なぜか鴇汰を苛立たせることが多いようだ。話していると鴇汰の表情にムッとした色が浮かぶのを、昔からよく見てきた。
さっきも今もそうだ。本当はもっと楽しく話せたら良いのにと、いつも思っている。
(ほかの子が相手なら、もっと鴇汰は笑うのかな……? 一体、どんな話しをするんだろう?)
どうにもうまくいかなくて思考が変に偏ってしまう。麻乃の気持ちは沈んでいく一方だ。
鴇汰はすっかり片づけを済ませて戻ってくると、改めて麻乃の向かい側に腰をかけた。
「それより、俺、あさってまでの北詰所が終わったら、次の持ち回りは西詰所に一カ月なんだよ」
「へぇ……同じ詰所に一カ月ってずいぶんと長いね。そんなの初めてじゃないの?」
「だよな。みんなも驚いてた。で、西詰所って麻乃んトコから近いだろ? 俺さ、暇なときとか飯でも作りに行ってやるよ」
「ええっ! うちに?」
驚いてつい大声を出すと、鴇汰は麻乃を見て眉をひそめ、探るようにたずねてくる。
「なんだよ? なにか問題でもあるのか?」
「いや、ホラ、あたし選別があるから家を空けることが多くなるし、それに今、道場に指導にも出てるからさ、来てもいないかも……」
突然の申し出にうろたえ、あわててそう答えると、急に柔らかな表情で鴇汰が笑い、ドキリとした。
「――どーせ散らかしてんだろ? 家の中」
見透かしたような目で見つめられ、焦りと恥ずかしさで顔が熱くなる。
違うと言えないほど、麻乃が部屋を散らかしているのは確かだ。
「大体、おまえんちが散らかってるだろう、ってのは見なくても想像がつくよ。ついでだから掃除もしてやるって。休みか暇なときだけだけどな」
そう言いながら笑っている。
笑い合って、楽しくすごせたらいいと思ってはいるけれど、それはこういう感じではない。
とはいえ、この雰囲気は心地よくて嬉しくなる。
今さら飾り立ててみせなければならない相手でもない。
そう思うことにして、麻乃は真っ赤になったまま、黙ってうなずいた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる