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島国の戦士
第26話 幼き精鋭たち ~麻乃 3~
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挑むような視線、立ち居振る舞いを見て、麻乃はデジャヴュを感じた。
くっ、と洸の手首が動き、驚くほどの速さで一気に間合いを詰めながら、下からすくいあげてきた。
抑えようと出した左が、肩の痛みでぶれる。
(しまった!)
洸はそれを見逃さず、肩口で刃を返し、組ひもを狙って突きかかってきた。
それを右の脇差で下からすくいあげて刃を反らす。
くるりと体を回して向きを変え、背後にまわると、左で洸の組みひもを斬り落とした。
(――ちょっとだけ、危なかったかな?)
二刀でなければ、ひょっとすると組ひもの先を斬られていたかもしれない。
洸が悔しさを隠せない様子で、刀を鞘に納めながら聞いてきた。
「あんた、二刀流だったのかよ」
「違うよ。でも、二刀も使える。それからあたしは、あんたじゃなくて藤川麻乃だ」
下を向いて唇を噛み締めているその姿を、横目で確認すると、すぐに目を逸らした。
悔しそうな洸の表情に、思わず笑いそうになるのを麻乃は必死にこらえた。
「二刀使えるようにしておいたほうがいい。攻撃にも防御にも幅がでる。演習や実戦では特にね」
確か、前にも同じことを言った気がする。
落ちた組ひもを拾い集め、ベルトにまとめてくくりつけた。
これで五十二本すべてだ。
勝ったということよりも、夕飯抜きをまぬがれたことに麻乃は心底ホッとした。
「次は絶対負けない! 俺は絶対に負けないからな!」
背中に投げかけられた洸のその言葉を聞いて、ハッとした。
(――そうか。そうだよ、昔、似たようなことがあったじゃないか)
フフッ、と小さく笑うと、麻乃は振り返って洸に向かって言った。
「無理だよ。だって、格が違うからね」
子どもたちを先に帰らせ、森の中を歩きながら昔のことをいろいろと思いだしていた。
最後に洸に向かって投げかけたのと、まったく同じことを麻乃は確かに言った。
まだ十六歳のころ、最後の地区別演習で、今の洸たちと同じように麻乃を舐めてかかってきた連中とやり合った。
まるであの日を再現したかのようで、次々に思い出がよみがえってくる。
懐かしさと、ワクワクするような気持ちがあふれ、左肩の傷が多少痛むのも、全然気にならなかった。
森を出るところで時計を見た。
二時間十分。
まあまあの時間だろうか。
今夜の献立はなんだろう?
道場の前まで戻ってくると、屋根の上に修治の姿が見えた。
そういえば修繕がどうとか先生が言っていたっけ。
修治は麻乃に気づくと驚いた顔をして屋根から飛び降りてきた。
その勢いに麻乃まで驚く。
「なに? どうしたのさ?」
「馬鹿っ! どうしたはこっちのセリフだ! なんだその血は!」
「えっ?」
あわてて自分の姿を見回すと、左肩の傷が開いたのか、包帯を通して上着の肩から胸、肘あたりまでじっとりと血が染みている。
「うわっ! いつの間にこんなに……」
「気づいてなかったのか? ったく、なにをやっているんだおまえは。先生に断ってくる。すぐ医療所に行くから車で待っていろ!」
「修治、高田先生には俺から言っておくから、このまま行け」
塚本は駆け寄ってくると、麻乃の姿を見て、こりゃあひどいな、と苦笑いをした。
「すみません、じゃあ、お願いします。ホラ、行くぞ」
「あっ、塚本先生、これ」
急いで腕から組ひもを外し、それと一緒に奪った組ひもの束をベルトごと渡した。
「あたしの勝ちですよ。ちゃんと高田先生に言っておいてくださいね、夕飯のこと!」
修治に首根っこをつかまれる形で、車に乗せられる姿を、子どもたちが遠巻きに見ていた。
その中に、洸たち七人の姿も見える。
「居残りだ。ざまをみろ」
窓越しに洸を睨むと、麻乃は小さくつぶやいて舌をだしてみせた。
くっ、と洸の手首が動き、驚くほどの速さで一気に間合いを詰めながら、下からすくいあげてきた。
抑えようと出した左が、肩の痛みでぶれる。
(しまった!)
洸はそれを見逃さず、肩口で刃を返し、組ひもを狙って突きかかってきた。
それを右の脇差で下からすくいあげて刃を反らす。
くるりと体を回して向きを変え、背後にまわると、左で洸の組みひもを斬り落とした。
(――ちょっとだけ、危なかったかな?)
二刀でなければ、ひょっとすると組ひもの先を斬られていたかもしれない。
洸が悔しさを隠せない様子で、刀を鞘に納めながら聞いてきた。
「あんた、二刀流だったのかよ」
「違うよ。でも、二刀も使える。それからあたしは、あんたじゃなくて藤川麻乃だ」
下を向いて唇を噛み締めているその姿を、横目で確認すると、すぐに目を逸らした。
悔しそうな洸の表情に、思わず笑いそうになるのを麻乃は必死にこらえた。
「二刀使えるようにしておいたほうがいい。攻撃にも防御にも幅がでる。演習や実戦では特にね」
確か、前にも同じことを言った気がする。
落ちた組ひもを拾い集め、ベルトにまとめてくくりつけた。
これで五十二本すべてだ。
勝ったということよりも、夕飯抜きをまぬがれたことに麻乃は心底ホッとした。
「次は絶対負けない! 俺は絶対に負けないからな!」
背中に投げかけられた洸のその言葉を聞いて、ハッとした。
(――そうか。そうだよ、昔、似たようなことがあったじゃないか)
フフッ、と小さく笑うと、麻乃は振り返って洸に向かって言った。
「無理だよ。だって、格が違うからね」
子どもたちを先に帰らせ、森の中を歩きながら昔のことをいろいろと思いだしていた。
最後に洸に向かって投げかけたのと、まったく同じことを麻乃は確かに言った。
まだ十六歳のころ、最後の地区別演習で、今の洸たちと同じように麻乃を舐めてかかってきた連中とやり合った。
まるであの日を再現したかのようで、次々に思い出がよみがえってくる。
懐かしさと、ワクワクするような気持ちがあふれ、左肩の傷が多少痛むのも、全然気にならなかった。
森を出るところで時計を見た。
二時間十分。
まあまあの時間だろうか。
今夜の献立はなんだろう?
道場の前まで戻ってくると、屋根の上に修治の姿が見えた。
そういえば修繕がどうとか先生が言っていたっけ。
修治は麻乃に気づくと驚いた顔をして屋根から飛び降りてきた。
その勢いに麻乃まで驚く。
「なに? どうしたのさ?」
「馬鹿っ! どうしたはこっちのセリフだ! なんだその血は!」
「えっ?」
あわてて自分の姿を見回すと、左肩の傷が開いたのか、包帯を通して上着の肩から胸、肘あたりまでじっとりと血が染みている。
「うわっ! いつの間にこんなに……」
「気づいてなかったのか? ったく、なにをやっているんだおまえは。先生に断ってくる。すぐ医療所に行くから車で待っていろ!」
「修治、高田先生には俺から言っておくから、このまま行け」
塚本は駆け寄ってくると、麻乃の姿を見て、こりゃあひどいな、と苦笑いをした。
「すみません、じゃあ、お願いします。ホラ、行くぞ」
「あっ、塚本先生、これ」
急いで腕から組ひもを外し、それと一緒に奪った組ひもの束をベルトごと渡した。
「あたしの勝ちですよ。ちゃんと高田先生に言っておいてくださいね、夕飯のこと!」
修治に首根っこをつかまれる形で、車に乗せられる姿を、子どもたちが遠巻きに見ていた。
その中に、洸たち七人の姿も見える。
「居残りだ。ざまをみろ」
窓越しに洸を睨むと、麻乃は小さくつぶやいて舌をだしてみせた。
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