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島国の戦士
第15話 過ちの記憶 ~修治 5~
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「浅はかだったんだよ。実戦を知らなかった俺たちは、手負いのほうが厄介だってことを知らなかった。おまけに訓練とは違う、打ち倒すことと本当に倒す――命を奪うということの違いも。ガキのうぬぼれが、取り返しのつかない結果を招いたんだ」
両手で顔をおおい、ため息をついたとき、梁瀬は修治の顔をのぞき込むようにして問いかけてきた。
「麻乃さん、泉翔人にしては髪が赤茶だけど、瞳は黒いよね? 古い文献で鬼神の記述を読んだことがあるけど、髪も瞳も紅いって書いてあったよ。だから僕は今まで、そうかもしれないと思いながらも確証が持てずにいたんだけど」
「ああ。一時的だったから、目を覚ましたら覚醒したときのすべてを忘れていた。髪はうっすら変わっていたが、瞳は黒に戻っていた。それから今までは、あのとおりだ」
「じゃあ、もう鬼神として目覚めることはない?」
「いや、時がくれば必ず覚醒はするそうなんだ。ただ、そのときの状態が安定していれば今と変わらないまま。万一、不安定な精神状態で覚醒すると、敵も味方もない。文献と同じで麻乃は本当に鬼になる」
それを聞いて、梁瀬は腕組をしてうなった。
「あの腕前で敵方に回られたら、僕ら束になっても抑えられないんじゃ……」
「そのときは、俺が刺し違えてでも止める。そのために常に麻乃の前をいくように鍛えてきたんだ。あの日から俺はそう決めて生きてきた。いつでも麻乃が安定していられるように……ずっとそばにいてやれるようにな」
梁瀬が思いだしたように、あっ、と声をあげた。
「さっきの責任うんぬんって、そこからきてるんだ? じゃあ、やっぱり一緒になるってこと?」
その言葉を聞いて、修治は少しだけ笑みを浮かべると、そのままグラスをあおった。
「それはないな。そりゃあ、俺たちになにもなかったとは言わない。そういう意味でずっと一緒にいてもいいと思ったこともあった」
「……うん」
「でも結局、一緒に育ってきた時間が長すぎて、恋だの愛だのっていうよりは家族としてお互いを思いあっていると、俺も麻乃も気づいてしまったんだ」
なにもないまま、そのまま歩いてこられたらよかった。
八年前に思いをとげてから、たった二年のあいだに感じた違和感を、麻乃も感じているようだった。
なにをどう伝えたら良いのかわからずにいた修治に、終わりを告げてきたの麻乃のほうだった。
だからといって二人の間は変わることもなく、それからもずっと、誰よりも一番近い場所で、誰よりも大切な家族としてそばにいつづけている。
「そうかぁ……だから二人とも、いつも微妙な雰囲気だったんだ」
「言っておくが、あんただから話したんだ。他言は無用だぞ」
「僕は話さないよ。麻乃さんもそんな話し、自分からはもちろん聞かれてもしないだろうし。でも、なにか事情があるってことは気づいていると思うよ。巧さんは、ね」
「ったく……あんたたちは本当に食えないオヤジどもだよ」
「だてに場数は踏んでないからねぇ」
思わず呆れて笑った。フフッと梁瀬も意味深に笑う。
梁瀬に話したことで、少しだけ気持ちが楽になった気がするのは、単に罪悪感から逃れたかっただけだろうか。
修治はギュッと握ったこぶしを口もとに持っていくと、数分のあいだ、考えてから梁瀬に告げた。
「俺は今日、あんなに隊員を亡くして、そのあと倒れた麻乃が妙に気になる。なにもないと思うんだが、謹慎のあいだ、少し宿舎を離れて西区の自宅に戻るつもりだ。そのあいだ、こっちとの連絡や資料のやり取りを頼めないだろうか?」
「それはもちろん構わないよ。でもあれだ。二人が一緒に帰るとなると、また騒ぐだろうね」
「……鴇汰のやつか? 立ち向かってくるっていうなら、いつでも受けて立つさ。生半可なやつに麻乃はあずけられないからな」
修治を乗りこえられるだけの相手でなければ、麻乃を渡すつもりはない。
近づく相手は誰であろうとけん制してきた。
それが仲間であっても同じだ。
「修治さんも、鬼のクチだねぇ」
「明日、麻乃の様子をみて、あさってには帰るつもりだ。あとのこと、よろしく頼む」
立ちあがり頭を下げると、梁瀬は黙ってうなずき軽く修治の背中をたたいて、それに答えてくれた。
両手で顔をおおい、ため息をついたとき、梁瀬は修治の顔をのぞき込むようにして問いかけてきた。
「麻乃さん、泉翔人にしては髪が赤茶だけど、瞳は黒いよね? 古い文献で鬼神の記述を読んだことがあるけど、髪も瞳も紅いって書いてあったよ。だから僕は今まで、そうかもしれないと思いながらも確証が持てずにいたんだけど」
「ああ。一時的だったから、目を覚ましたら覚醒したときのすべてを忘れていた。髪はうっすら変わっていたが、瞳は黒に戻っていた。それから今までは、あのとおりだ」
「じゃあ、もう鬼神として目覚めることはない?」
「いや、時がくれば必ず覚醒はするそうなんだ。ただ、そのときの状態が安定していれば今と変わらないまま。万一、不安定な精神状態で覚醒すると、敵も味方もない。文献と同じで麻乃は本当に鬼になる」
それを聞いて、梁瀬は腕組をしてうなった。
「あの腕前で敵方に回られたら、僕ら束になっても抑えられないんじゃ……」
「そのときは、俺が刺し違えてでも止める。そのために常に麻乃の前をいくように鍛えてきたんだ。あの日から俺はそう決めて生きてきた。いつでも麻乃が安定していられるように……ずっとそばにいてやれるようにな」
梁瀬が思いだしたように、あっ、と声をあげた。
「さっきの責任うんぬんって、そこからきてるんだ? じゃあ、やっぱり一緒になるってこと?」
その言葉を聞いて、修治は少しだけ笑みを浮かべると、そのままグラスをあおった。
「それはないな。そりゃあ、俺たちになにもなかったとは言わない。そういう意味でずっと一緒にいてもいいと思ったこともあった」
「……うん」
「でも結局、一緒に育ってきた時間が長すぎて、恋だの愛だのっていうよりは家族としてお互いを思いあっていると、俺も麻乃も気づいてしまったんだ」
なにもないまま、そのまま歩いてこられたらよかった。
八年前に思いをとげてから、たった二年のあいだに感じた違和感を、麻乃も感じているようだった。
なにをどう伝えたら良いのかわからずにいた修治に、終わりを告げてきたの麻乃のほうだった。
だからといって二人の間は変わることもなく、それからもずっと、誰よりも一番近い場所で、誰よりも大切な家族としてそばにいつづけている。
「そうかぁ……だから二人とも、いつも微妙な雰囲気だったんだ」
「言っておくが、あんただから話したんだ。他言は無用だぞ」
「僕は話さないよ。麻乃さんもそんな話し、自分からはもちろん聞かれてもしないだろうし。でも、なにか事情があるってことは気づいていると思うよ。巧さんは、ね」
「ったく……あんたたちは本当に食えないオヤジどもだよ」
「だてに場数は踏んでないからねぇ」
思わず呆れて笑った。フフッと梁瀬も意味深に笑う。
梁瀬に話したことで、少しだけ気持ちが楽になった気がするのは、単に罪悪感から逃れたかっただけだろうか。
修治はギュッと握ったこぶしを口もとに持っていくと、数分のあいだ、考えてから梁瀬に告げた。
「俺は今日、あんなに隊員を亡くして、そのあと倒れた麻乃が妙に気になる。なにもないと思うんだが、謹慎のあいだ、少し宿舎を離れて西区の自宅に戻るつもりだ。そのあいだ、こっちとの連絡や資料のやり取りを頼めないだろうか?」
「それはもちろん構わないよ。でもあれだ。二人が一緒に帰るとなると、また騒ぐだろうね」
「……鴇汰のやつか? 立ち向かってくるっていうなら、いつでも受けて立つさ。生半可なやつに麻乃はあずけられないからな」
修治を乗りこえられるだけの相手でなければ、麻乃を渡すつもりはない。
近づく相手は誰であろうとけん制してきた。
それが仲間であっても同じだ。
「修治さんも、鬼のクチだねぇ」
「明日、麻乃の様子をみて、あさってには帰るつもりだ。あとのこと、よろしく頼む」
立ちあがり頭を下げると、梁瀬は黙ってうなずき軽く修治の背中をたたいて、それに答えてくれた。
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