蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
12 / 780
島国の戦士

第12話 過ちの記憶 ~修治 2~

しおりを挟む
 確かに梁瀬のいうとおりだ。
 本気でこの国に攻め入ろうと思ったら、なぜ火を放ったすぐあとに次の部隊がなだれ込んでこなかったのか。

 もしも直後に、いつもの部隊がでてきていたら、援軍も間に合わず堤防を突破されていただろう。

 仮に先陣が捨て駒だったとしても、あれだけの数をつかって泉翔の戦士数十人を減らしただけでは、ロマジェリカにとってはお粗末な結果だったんじゃないだろうか?

「目的か……」

 心当たりはある。ダメージは受けた。
 多分相当な痛手だろう。
 けれどそれは個人のレベルでの話しだ。

 今回のことで一番キツイ思いをしたのは、麻乃。
 そして必ずあとに引きずるとハッキリわかる。

(そう、俺にとっても麻乃と同等に――)

 修治は立ちあがるとと棚を開け、酒瓶とグラスを二つ出した。

「このあとはなにも予定はないよな? 少しくらいならいいだろう?」

 酒をそそぎ、梁瀬の前に置くと、そのまま一気にあおった。
 空になったグラスに、今度は梁瀬が酒をそそいでくれた。

 これまで黙っていたことを、今ここで話してもいいものか迷う。
 けれど、自分の中だけで処理するには、今日の出来事が大きすぎた。
 隊員のほとんどを失ってしまったこともそうだ。

 修治は心のどこかで、話せる相手を探していたのかもしれない。
 たまたま聞きたいことがあって梁瀬を呼んだけれど、修治の思いを聞いてもらうには、梁瀬は十分すぎるほど信頼できる相手だ。

 それをわかっていても、どうしても踏みきることができない。
 言葉が継げず、ただ黙ったままでうつむいていた。

「で……? 本当はなにを話したかった? 術のことだけじゃないでしょ。僕が思うに、話しのメインは麻乃さんのこと」

「さすが、鋭いな」

 ためらっている心の奥底を見透かしているかのように、梁瀬はやわらかな口調で問いかけてきた。
 どこかで言い訳を探していた修治にとっては、ありがたい問いかけだった。

(やっぱりもう、知ってもらわなければいけない時期がきたのかもしれない……)

 椅子の背に体をあずけ、大きくため息をついた。

「あんた、麻乃をどう見る?」

「どう、って……あの人は鬼だよ。戦いにおいては、ね。同じ女でも巧さんとはまるで違う。ほかの部分じゃ、ぼんやりしてるし打たれ弱いし、変に不安定だったりするけど」

 梁瀬はそう言いながら、クスリと笑った。
 同じように修治もつい、口もとがゆるむ。
 麻乃は本当に、剣術のこと以外となると、まるで駄目になる。
 ただ、問題なのは行動よりも、その中身だ。

「そうなんだ。不安定なんだよ。梁瀬は俺たちと同じ西区出身だから、知っているかもしれないが、あいつの親のこと……」

「詳しいことは知らないけれど、堤防を抜けた敵兵を追って亡くなったって聞いているよ」

「あれは俺と麻乃……いや、俺のせいなんだよ」

 うなだれてそうつぶやき、窓の外に目を向けると、静かに話し始めた。

「――あの日、西区は各道場の合同演習だったんだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...