8 / 780
島国の戦士
第8話 西浜防衛戦 ~鴇汰 2~
しおりを挟む
「おい……なんだよ、あれ……」
通常、北浜から西区へ行くには、まず中央へ入るルートをつかう。
けれど、こんなときには中央を通らず、脇道からトンネルを通って向かう抜け道をつかう。
それでももう三時間はすぎているけれど、スピードを上げていたおかげで、かなりの早さで着けそうだ。
トンネルを抜けてカーブを曲がる。
差しかかった丘から、遠く西浜の方角に、黒煙が勢いよく上がっているのが見えた。
車を止めた鴇汰は、急な寒気に身震いをした。
「あんなに燃えるようなもの、西浜にはないっスよね? 敵艦でも燃えたんスかね?」
「だといいんだけどよ……なにか嫌な予感がする。先を急ごう」
「森はダメっスよ。枝をよけながらじゃ、スピードが出せませんから」
距離を稼ごうと、森を抜ける近道へ入ろうとしたところを岱胡に止められ、通常のルートを走った。
西浜へ続く道をしばらく行くと、医療所へ向かう途中の穂高の隊員たちと出くわした。
彼らの抱えている修治と麻乃の部隊のやつらは、かなりの傷や火傷を負っている。
その中になじみのある顔を見つけ、鴇汰は急ブレーキをかけると車を飛び出した。
「麻乃んトコの川上か! 一体どうしたんだ、おまえ――」
肩に手を置こうとして、ギクリとする。
(――腕がない)
気を失っているのか、目を閉じたままで動かない。
ほかの隊員もそろって怪我が重く疲労しきった顔をしている。
聞けば、穂高と梁瀬の部隊が援護にでたけれど、その前に相当な苦戦を強いられていたらしい。
怪我人をトラックに乗せ、急いで医療所に送るように指示すると、助手席からおりてきた岱胡に向かって叫んだ。
「穂高んトコのやつらも、そっちのトラックに乗せてやってくれ! 俺は先にいく!」
車に戻って飛び乗ると、今まで以上のスピードで走り出した。
途中、西詰所が目に入り、なにか情報を聞きに行こうかと思ったけれど、立ち寄る時間が惜しくてそのまま通りすぎた。
さっきから、何度も爆発音が響いている。
(岱胡が言ったように、敵艦が燃えて爆発でもしてるんだろうか?)
目の前に見える、長く緩やかな坂をのぼった向こうに、西浜が広がっている。
川にかかる橋を渡ろうとしたところで、また爆音が響いた。
「さっきからなんなんだよ!」
舌打ちをしてつぶやくと、アクセルを踏み込む。
登りきった丘の上から西浜を見おろし、鴇汰は息をのんだ。
波打ち際に沿うように、黒い焼け跡がのびていて、まだところどころで燻ぶって煙をあげている。
響いていた爆音は砲撃だったようだ。
撤退していくロマジェリカの戦艦を追うように、その周辺にしぶきをあげていた。
堤防沿いには、まばらに立ちつくす隊員たちが、砂浜には黒焦げになって折り重なるように倒れているたくさんの死体が見える。
(どうなってるんだ……? なんだってこんな……)
敵が多く出てくると、当然倒す数も多くなり、大勢の亡骸を見るのは鴇汰も慣れてはいる。
だけど、こんな凄惨な光景は、長く見ていない。
追いついてきたトラックから降りてきた岱胡は、鴇汰の隣に立つと砂浜を見おろした。
「ひどい状態っスね……穂高さんの所のやつらが言うには、みんな堤防までさがっているようです。とりあえず、そっちへ行ってみましょうよ」
「ああ、そうだな……」
丘をおりる途中、焼け跡から少し離れたところで、修治と穂高がなにかをのぞき込むように腰をおろしているのが見えた。
(あいつらなにやってるんだ? あんなところで――)
二人が立ちあがり、こちらを向いた。
修治の腕に、ぐったりとした麻乃が抱かれている。
その姿を見た瞬間、全身から血の気が引いた。
手も足も、力が抜けて震えている気がする。
「岱胡……おまえ、先に向こうに……俺はあっち……」
うまく言葉が出てこない。
岱胡が怪訝そうな表情を浮かべているのを無視して、修治たちのところへ走った。
「鴇汰!」
気づいた穂高が駆け寄ってきて、丘の上に目を向けるとホッとした顔をみせた。
「ちょうどよかった。車で来たなら、麻乃を医療所へ運んでやってくれないかな」
「死んでない……よな?」
「当り前じゃないか! 左肩の傷がちょっとね……多分出血しすぎたんじゃないかと思うんだ」
穂高の答えに鴇汰は深いため息をもらすと、急いで車に戻ってエンジンをかけた。
「もう血は止まっているようだが、あまり動かすとまた出血するかもしれない。ゆっくり向かってやってくれ。後処理が終わったら、俺たちも医療所へ向かう。それまで、こいつを頼む」
修治が後部席にそっと麻乃を寝かせた。
うなずいて麻乃に目を向けると、腕にも足にも火傷を負っている。
できるだけ大きな揺れを出さないように、ゆっくり走りだした。
通常、北浜から西区へ行くには、まず中央へ入るルートをつかう。
けれど、こんなときには中央を通らず、脇道からトンネルを通って向かう抜け道をつかう。
それでももう三時間はすぎているけれど、スピードを上げていたおかげで、かなりの早さで着けそうだ。
トンネルを抜けてカーブを曲がる。
差しかかった丘から、遠く西浜の方角に、黒煙が勢いよく上がっているのが見えた。
車を止めた鴇汰は、急な寒気に身震いをした。
「あんなに燃えるようなもの、西浜にはないっスよね? 敵艦でも燃えたんスかね?」
「だといいんだけどよ……なにか嫌な予感がする。先を急ごう」
「森はダメっスよ。枝をよけながらじゃ、スピードが出せませんから」
距離を稼ごうと、森を抜ける近道へ入ろうとしたところを岱胡に止められ、通常のルートを走った。
西浜へ続く道をしばらく行くと、医療所へ向かう途中の穂高の隊員たちと出くわした。
彼らの抱えている修治と麻乃の部隊のやつらは、かなりの傷や火傷を負っている。
その中になじみのある顔を見つけ、鴇汰は急ブレーキをかけると車を飛び出した。
「麻乃んトコの川上か! 一体どうしたんだ、おまえ――」
肩に手を置こうとして、ギクリとする。
(――腕がない)
気を失っているのか、目を閉じたままで動かない。
ほかの隊員もそろって怪我が重く疲労しきった顔をしている。
聞けば、穂高と梁瀬の部隊が援護にでたけれど、その前に相当な苦戦を強いられていたらしい。
怪我人をトラックに乗せ、急いで医療所に送るように指示すると、助手席からおりてきた岱胡に向かって叫んだ。
「穂高んトコのやつらも、そっちのトラックに乗せてやってくれ! 俺は先にいく!」
車に戻って飛び乗ると、今まで以上のスピードで走り出した。
途中、西詰所が目に入り、なにか情報を聞きに行こうかと思ったけれど、立ち寄る時間が惜しくてそのまま通りすぎた。
さっきから、何度も爆発音が響いている。
(岱胡が言ったように、敵艦が燃えて爆発でもしてるんだろうか?)
目の前に見える、長く緩やかな坂をのぼった向こうに、西浜が広がっている。
川にかかる橋を渡ろうとしたところで、また爆音が響いた。
「さっきからなんなんだよ!」
舌打ちをしてつぶやくと、アクセルを踏み込む。
登りきった丘の上から西浜を見おろし、鴇汰は息をのんだ。
波打ち際に沿うように、黒い焼け跡がのびていて、まだところどころで燻ぶって煙をあげている。
響いていた爆音は砲撃だったようだ。
撤退していくロマジェリカの戦艦を追うように、その周辺にしぶきをあげていた。
堤防沿いには、まばらに立ちつくす隊員たちが、砂浜には黒焦げになって折り重なるように倒れているたくさんの死体が見える。
(どうなってるんだ……? なんだってこんな……)
敵が多く出てくると、当然倒す数も多くなり、大勢の亡骸を見るのは鴇汰も慣れてはいる。
だけど、こんな凄惨な光景は、長く見ていない。
追いついてきたトラックから降りてきた岱胡は、鴇汰の隣に立つと砂浜を見おろした。
「ひどい状態っスね……穂高さんの所のやつらが言うには、みんな堤防までさがっているようです。とりあえず、そっちへ行ってみましょうよ」
「ああ、そうだな……」
丘をおりる途中、焼け跡から少し離れたところで、修治と穂高がなにかをのぞき込むように腰をおろしているのが見えた。
(あいつらなにやってるんだ? あんなところで――)
二人が立ちあがり、こちらを向いた。
修治の腕に、ぐったりとした麻乃が抱かれている。
その姿を見た瞬間、全身から血の気が引いた。
手も足も、力が抜けて震えている気がする。
「岱胡……おまえ、先に向こうに……俺はあっち……」
うまく言葉が出てこない。
岱胡が怪訝そうな表情を浮かべているのを無視して、修治たちのところへ走った。
「鴇汰!」
気づいた穂高が駆け寄ってきて、丘の上に目を向けるとホッとした顔をみせた。
「ちょうどよかった。車で来たなら、麻乃を医療所へ運んでやってくれないかな」
「死んでない……よな?」
「当り前じゃないか! 左肩の傷がちょっとね……多分出血しすぎたんじゃないかと思うんだ」
穂高の答えに鴇汰は深いため息をもらすと、急いで車に戻ってエンジンをかけた。
「もう血は止まっているようだが、あまり動かすとまた出血するかもしれない。ゆっくり向かってやってくれ。後処理が終わったら、俺たちも医療所へ向かう。それまで、こいつを頼む」
修治が後部席にそっと麻乃を寝かせた。
うなずいて麻乃に目を向けると、腕にも足にも火傷を負っている。
できるだけ大きな揺れを出さないように、ゆっくり走りだした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる