全日本霊体連合組合

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
12 / 15
組合活動

第5話 ハートレートメジャリングデバイスの使いかた

しおりを挟む
 颯来そらのいた建物の中に入ると、さっきまでのキレイな室内じゃあなくなっていた。

「あれ? 廃墟のままにしておくんだ?」

「うん。このほうが、お客さまの動きがわかりやすいし、私たちも音を立てやすいから」

「なるほど……そんなことまで考えているなんて、颯来さん凄いね」

「みんな、それぞれやりかたがあるから、私のやりかたが凄いワケじゃあないんだけどね」

 そう言って肩をすくめて笑うけれど、俺からしたら、凄いことだと思う。
 怖がらせると聞いたときは、俺は単純に、配信者お客さまに触れたり、耳もとで話しかけたり、姿を見せてみたりと、配信者の後ろをついて回って、そんなことをすればいいだろう、と考えていたから。

「今、少しだけ見ていただいたのでわかるかと思うのですが、基本的な手順としましては、最初に気配を感じたら、HMD心拍計測器で男か女かを確認することです」

 さっき、広前のところから戻ったときに、颯来もHMDを振りかざしていたっけ。
 あのとき確かに男のマークが光っていた。

「ちなみに、マークが点灯しているときは一人、点滅しているときは複数になりますが、人数まではわかりません」

「ふうん。でも、点滅したら二人以上、ってことか。両方が光ったら、男も女もいるってことになるんだよな?」

「そうですね。今日は颯来さんは、お客さまがみえてから近くに行きましたけど――」

「後ろからついていって、足音立てたりしてたよな?」

「ええ。ですが、こちらが複数人いた場合ですと、後ろから音を立てる人、前を歩いて声を出す人などと、分業しています」

 それは配信者のほうからみたら、怖いことだろう。
 以前、見ていた動画でも、そんなふうに周り中から音がしているのがあったっけ。

「相手が複数で、こちらも複数のときはいいんですが、こちらが一人だったときは、ちょっと忙しくなります」

「一人で何人も相手にしなきゃいけないから?」

「その通りです。ですから、そんなときにはあらかじめターゲットを絞ったほうがいい場合もあります」

 複数人の場合、手分けをしてあちこちを回っているから、みんなを怖がらせるのは大変だという。
 それもそうだろう。
 小さな建物内であれば、こちらの移動も難しくはないけれど、こういった廃村や、大きな建物だと、バラバラに動かれたら、全員を追いかけるだけで大変だ。

「本当は、ここも颯来さんだけでなく、あと二名ほど待機していただきたいんですが、今はそれが難しいんです」

全連ぜんれんって、そんなに組合員の数が少ないのか?」

「一応、全国対応なので、少ないとは言い難いですが、以前に比べると減っていますね」

「なんで?」

「そうですねぇ……まあ、ポイントが貯まったかたが多くなって、みなさん、成仏されてしまったんですよ」

 ポイント――。
 三軒さんげんが言っていた、報酬のことか。
 ポイントが貯まると、いろいろなものと交換できると言っていたっけ。
 その一つが、成仏への道なのか。

「三軒さんはポイント貯めるの、かなり大変って言っていたよな?」

「ええ。ですが、うちの会員のかたがたは、もう長くやっているかたが多いので」

 やっぱりみんな、ポイントが貯まると上がっていくことが多いそうだ。
 長くこんなふうに残っていると、未練も薄れていくものなんだろうか?
 俺は特に、未練はないと思うけれど、なんで残っているんだろう……?

 なんらかの理由があるはずで、それは死んだことと関わりがある気がする。
 全連で、こうして廃村で配信者たちを怖がらせているうちに、なにか思い出すだろうか?

 時折、なにかを思いだしそうな気がするけれど、手繰り寄せる前に消えてしまう。
 それから、広前ひろまえだ。
 会ったことはないはずだし、広前も会っていないはずだと言っていた。

小森こもりさん、高梨たかなしくん、そろそろお客さまがみえますよ!」

 外からだんだんと、配信者の声が近づいてくる。
 ここのほかにも、入れそうな建物はあった。
 一つずつ、回っているから、来るのが遅いんだろう。

「お客さまが来たら、高梨くんも足音、立ててみてね」

「うん、わかった」

「初めてですからね、無理のない程度で構いませんから。余裕があれば、颯来さんの動きを見てください」

「了解」

 ガチャリと音が聞こえて、配信者がこの家に入ってきた。

――こんばんは。失礼します――

 動画でも、こうして建物に入るとき、配信者たちのほとんどは、丁寧な挨拶をして入っていたっけ。
 持ち主に許可を得ていたとしても、他人の家や建物に入るんだから、そういうのも当然という感覚なんだろうか?

――うわぁ~、ここも荒れていますねぇ~……床は……大丈夫そう。階段は……ちょっと危なそうですね。二階には行かれないかなぁ――

 建物の中を説明しながら、ゆっくりと中へ入ってくる。
 俺は颯来に言われた通り、床に散らばるガラスを踏んだ。
 パリパリッと小さな音が鳴った。

――はっ! 今、音したよね? ガラスを踏む音!――

 配信者の声が聞こえてくるのをよそに、小森が声を出さずに、胸もとを指さして見せてくる。
 なんだろう? と思いながら、自分の胸もとをみると、HMDのハートマークの横に、数値が出ていた。
 百十と出ている。

 ちょっとは怖いと思わせたか?
 なんだかやる気が出てきた。
 配信者は、また家の中の様子を話し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

捨てられ雑用テイマーですが、森羅万象を統べてもいいですか? 覚醒したので最強ペットと今度こそ楽しく過ごしたい!

登龍乃月
ファンタジー
旧題:捨て駒にされた雑用テイマーは史上最強の森羅万象の王に覚醒する  王国最高峰とされるS級冒険者パーティ【ラディウス】 元王国戦士長である勇者バルザック、齢十五にして大魔導の名を持つ超天才リン、十年に一度の大聖女モニカ、元グラディエーターであり数々の武勲を持つ重戦士ダウンズ、瞬弓と呼ばれ狙った獲物は必ず狩るというトップハンタージェニスがそのメンバーである。  そしてそこに雑用係兼荷物持ちテイマー、として在籍するアダム。  アダムは自分の価値の低さを自覚し、少しでも役立てるようにとパーティの経費精算、宿の手配、武器防具のメンテナンス、索敵、戦闘、斥候etc……を一手に引き受けていた。  しかしながらラディウスメンバーからの待遇は冷酷で冷淡、都合の悪いことや不平不満の矛先は全てアダムへと向き、罵声や暴言は日常茶飯事であった。  慈悲深い大聖女であるモニカからも「パーティを抜けるべき」と突き放されてしまう。  ある日S級ダンジョンへ挑戦したラディウスだったが、強大なボスの前に力なく敗走を喫する。  そして——ボスの足止めとしてアダムが生贄に選ばれ、命を散らしそうになった時、アダムは世界の【王】として覚醒する。    

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

進め!健太郎

クライングフリーマン
ライト文芸
大文字伝子の息子、あつこの息子達は一一年後に小学校高学年になっていた。 そして、ミラクル9が出来た。

『突撃!東大阪産業大学ヒーロー部!』

M‐赤井翼
ライト文芸
今回の新作は「ヒーローもの」! いつもの「赤井作品」なので、「非科学的」な「超能力」や「武器」を持ったヒーローは出てきません。 先に謝っておきます。 「特撮ヒーローもの」や「アメリカンヒーロー」を求められていた皆さん! 「ごめんなさい」! 「霊能力「を持たない「除霊師」に続いて、「普通の大学生」が主人公です。 でも、「心」は「ヒーロー」そのものです。 「東大阪産業大学ヒーロー部」は門真のローカルヒーローとしてトップを走る2大グループ「ニコニコ商店街の門真の女神」、「やろうぜ会」の陰に隠れた「地味地元ヒーロー」でリーダーの「赤井比呂」は 「いつか大事件を解決して「地元一番のヒーロー」になりたいと夢を持っている。 「ミニスカートでのアクションで「招き猫のブルマ」丸見えでも気にしない「デカレッド」と「白鳥雛子」に憧れる主人公「赤井比呂」」を筆頭に、女兄妹唯一の男でいやいや「タキシード仮面役」に甘んじてきた「兜光司」好きで「メカマニア」の「青田一番」、元いじめられっ子の引きこもりで「東映版スパイダーマン」が好きな「情報系」技術者の「木居呂太」、「電人ザボーガー」と「大門豊」を理想とするバイクマニアの「緑崎大樹」、科学者の父を持ち、素材加工の匠でリアル「キューティーハニー」のも「桃池美津恵」、理想のヒーローは「セーラームーン」という青田一番の妹の「青田月子」の6人が9月の海合宿で音連れた「舞鶴」の「通称 ロシア病院」を舞台に「マフィア」相手に大暴れ! もちろん「通称 ロシア病院」舞台なんで「アレ」も登場しますよー! ミリオタの皆さんもお楽しみに! 心は「ヒーロー」! 身体は「常人」の6人組が頑張りますので、応援してやってくださーい! では、ゆるーく「ローカルヒーロー」の頑張りをお楽しみください! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

朝がくるまで待ってて

夏波ミチル
ライト文芸
大好きな兄・玲司を七年前に亡くした妹・小夜子と、玲司のことが好きだった男・志岐。 決してもう二度と取り戻せない最愛の人を幻影を通して繋がり合う女子高生と男の奇妙な関係の物語です。

鎌倉らんぶりんぐ(下)

戸浦 隆
ライト文芸
葛西亮二が高校時代に付き合っていたという尾藤香澄美が現れ、桐生瑞希は心中穏やかでない。気持ちの落ち着かないまま、亮二とともに源頼家の周辺の女性を調べていく。すると、梶原景時事件、畠山・稲毛事件、三幡姫入内の裏に女たちの関わりが解ってくる。そうして北条時政の策謀、大江広元や北条政子の思惑、二代将軍頼家の失脚から死にも複雑に絡む背景が見えて来た。二人は頼家最後の地、修善寺に足を伸ばし、政子・頼家の足跡を辿る。また、陶子の先輩の羽林(うりん)信吾が亮二の調査に興味を示す。  一方、過去の出来事も進展している。  黄蝶の逃避行、比企能員の死、小御所合戦と続く中、安達景盛は比企方につくのか北条方につくのか決断を迫られる。そこに青墓の「宿」の木曽喜三太が現れ、景盛に重大な事を告げる。  果たして亮二と瑞希の調査は上手くいくのか? 安達景盛と黄蝶の運命は? そうして頼朝の死の真相は?

魔法使いに育てられた少女、男装して第一皇子専属魔法使いとなる。

山法師
ファンタジー
 ウェスカンタナ大陸にある大国の一つ、グロサルト皇国。その国の東の国境の山に、アルニカという少女が住んでいた。ベンディゲイドブランという老人と二人で暮らしていたアルニカのもとに、突然、この国の第一皇子、フィリベルト・グロサルトがやって来る。  彼は、こう言った。 「ベンディゲイドブラン殿、あなたのお弟子さんに、私の専属魔法使いになっていただきたいのですが」

処理中です...