4 / 15
組合加入
第4話 活動内容……?
しおりを挟む
「ところで高梨さんは、心霊スポットや廃墟、トンネルなどに、行かれたことは?」
「俺はないんだよね。近場にそういう場所はなかったし。ネットの動画では観たことがあるよ」
「なるほど、動画ですか」
動画サイトが普及してから、心霊スポットなどに訪れる人が増えてきたと、小森は言った。
「昔から、うわさ話や口コミで訪れてくる人は多かったんです」
「雑誌や新聞に載ったりもしたのよね」
「へぇ……」
そんな場所に、好き好んでいく人の心境がよくわからない。
怖い思いをして、それこそ、とり憑かれでもしたらどうするんだろう?
三軒が言うには、ホテルや旅館、学校などの廃墟、事故物件などは、そんなに問題ではないらしい。
「ただ、廃村や山奥などは、いささか問題がありまして……」
「問題?」
小森は眉をひそめ、眼鏡のブリッジを左手の中指で押し上げた。
「禁足地、というのはご存じですか?」
「禁足地? って、確か、入っちゃいけない場所、だったっけ?」
「入ってはいけない場所、というのもそうですが、出てはいけない場所でもあるんですよ」
「出てはいけない……って、なにが?」
「そこにいるものが、です」
小森は淡々と話しているだけなのに、俺は急に背筋がうすら寒くなった気がした。
そこに、なにがいるっていうんだろう?
ネットの怖い話なんかでは、神域だから入ってはいけない、なんて書かれていたけれど、神域だとしたら、神様がいるか、それに相当するなにかがいるか……。
「そういう場所は――」
考え込んでいたところに、小森の声が届き、また心臓が跳ね上がったような気がした。
もうないはずなのに、奇妙な感覚だ。
「意外に、山の奥や廃村の先にも、あったりするんですよ」
「へぇ……けど、そんなところに行くヤツなんて、そうそういない……」
言いかけて、ハッとした。
たまに観る動画配信サイトでは、そういった場所の配信に長けている人たちが、何人もいることを。
「昔のように、うわさや口コミだけだったら、山の奥まで来る人は多くなかったんですが……」
「視覚的に状況がわかると、行けると思っちゃう人がいるみたいなのよね」
この数年、そういった場所の近くまで訪れてくる人が増えているという。
確かに、動画のサムネイルをみると、同じ場所の動画がいくつも上がっていたっけ。
何人もの人が、入れ替わり立ち替わりでやってくるんだ。
「わたくしたちの活動が活発になっているというのも、そのおかげでして」
「……どういうこと?」
禁足地だから、出ることはもちろんのこと、入るのも許されない。
けれど、禁足地だからといって、必ずしも誰かが管理しているわけでもないらしい。
「神社のように、人の手で管理された場所であれば良いのですが、そうでない場合、大抵が簡単に踏み入られてしまいます」
「山などは、仮に所有者がいたとしても、山全体を管理するのはとても難しいことだと思わない?」
三軒に問われ、俺は少し考えてみた。
確かに、全体にバリケードでもない限り、入ろうと思えば、いくらでも入っていけるか。
山と山が隣同士にくっついていたら、バリケードを作るのも大変な作業だ。
「今は多くの人が、立ち入ろうというときには、所有者に許可をもらっているようですが……」
「所有者も代替わりをするたび、少しずつ禁足地のことを軽んじていき、その存在を忘れてしまうこともあるの。だから止める人がいない場合もあるのよね」
「そして、本来は禁じられた場所へ、人が足を踏み入れる、という事態になるんです」
「そういう場所には、私たちとちょっと違う存在がいらっしゃって、人が踏み入るのを嫌うのよ」
「わたくしたちの組合と提携している『JSA』からも依頼がありまして」
「JSA? JSAってなんなの?」
聞いたことがない言葉に、俺は速攻で聞き返した。
というか……提携しているってなに?
ホント、企業みたいだな!
「ジャパン・スピリット・アソシエーションといって、通称がJSAなんです。精霊や自然霊、山霊たちによる機関ですね」
機関ですね、と、サラッと言われても、理解が追いついていかない。
俺はずっと、死んだらそれで終わりだと思っていたんだよ。
死んでからも、こんなふうに企業みたいな団体があると思っていなかったし、ただの幽霊だけじゃなくて、自然霊とかまで洒落た名前の団体を作っているなんて、想像もしていなかった!
「高梨さんは、まだこちら側にきたばかりですもんね? いろいろとあるんですよ、こちら側も」
三軒はお茶を一口飲み、俺にもお茶を勧めてくる。
死んでもお茶を飲めるのか? カップに口をつけてすすると、意外にも甘みを感じた。
小森もしゃべり続けているからか、お茶を飲みながら、ため息をついている。
幽霊もしゃべり疲れるなんてことがあるんだろうか?
いや、あるのかもしれない。
だって俺は、聞き疲れてきた。
そもそも、ここへ来たのは、死んだ理由を知りたくてのことだ。
小森が組合に入れば、思い出すための手伝いができるとかなんとか、言ったからだ。
なのに、なぜか今、こんな話を聞かされている。
「なんか、いろいろと聞かされたけど……結局、この組合の活動っていうのは、なんなワケ?」
「私たちの活動は、そういった場所へ来た人を、禁足地に立ち入らせないようにすることなの」
「どうやって?」
小森と三軒は、互いに顔を見合わせてから俺に向き直り、笑顔で同時に、こう言った。
「怖がらせて」
「俺はないんだよね。近場にそういう場所はなかったし。ネットの動画では観たことがあるよ」
「なるほど、動画ですか」
動画サイトが普及してから、心霊スポットなどに訪れる人が増えてきたと、小森は言った。
「昔から、うわさ話や口コミで訪れてくる人は多かったんです」
「雑誌や新聞に載ったりもしたのよね」
「へぇ……」
そんな場所に、好き好んでいく人の心境がよくわからない。
怖い思いをして、それこそ、とり憑かれでもしたらどうするんだろう?
三軒が言うには、ホテルや旅館、学校などの廃墟、事故物件などは、そんなに問題ではないらしい。
「ただ、廃村や山奥などは、いささか問題がありまして……」
「問題?」
小森は眉をひそめ、眼鏡のブリッジを左手の中指で押し上げた。
「禁足地、というのはご存じですか?」
「禁足地? って、確か、入っちゃいけない場所、だったっけ?」
「入ってはいけない場所、というのもそうですが、出てはいけない場所でもあるんですよ」
「出てはいけない……って、なにが?」
「そこにいるものが、です」
小森は淡々と話しているだけなのに、俺は急に背筋がうすら寒くなった気がした。
そこに、なにがいるっていうんだろう?
ネットの怖い話なんかでは、神域だから入ってはいけない、なんて書かれていたけれど、神域だとしたら、神様がいるか、それに相当するなにかがいるか……。
「そういう場所は――」
考え込んでいたところに、小森の声が届き、また心臓が跳ね上がったような気がした。
もうないはずなのに、奇妙な感覚だ。
「意外に、山の奥や廃村の先にも、あったりするんですよ」
「へぇ……けど、そんなところに行くヤツなんて、そうそういない……」
言いかけて、ハッとした。
たまに観る動画配信サイトでは、そういった場所の配信に長けている人たちが、何人もいることを。
「昔のように、うわさや口コミだけだったら、山の奥まで来る人は多くなかったんですが……」
「視覚的に状況がわかると、行けると思っちゃう人がいるみたいなのよね」
この数年、そういった場所の近くまで訪れてくる人が増えているという。
確かに、動画のサムネイルをみると、同じ場所の動画がいくつも上がっていたっけ。
何人もの人が、入れ替わり立ち替わりでやってくるんだ。
「わたくしたちの活動が活発になっているというのも、そのおかげでして」
「……どういうこと?」
禁足地だから、出ることはもちろんのこと、入るのも許されない。
けれど、禁足地だからといって、必ずしも誰かが管理しているわけでもないらしい。
「神社のように、人の手で管理された場所であれば良いのですが、そうでない場合、大抵が簡単に踏み入られてしまいます」
「山などは、仮に所有者がいたとしても、山全体を管理するのはとても難しいことだと思わない?」
三軒に問われ、俺は少し考えてみた。
確かに、全体にバリケードでもない限り、入ろうと思えば、いくらでも入っていけるか。
山と山が隣同士にくっついていたら、バリケードを作るのも大変な作業だ。
「今は多くの人が、立ち入ろうというときには、所有者に許可をもらっているようですが……」
「所有者も代替わりをするたび、少しずつ禁足地のことを軽んじていき、その存在を忘れてしまうこともあるの。だから止める人がいない場合もあるのよね」
「そして、本来は禁じられた場所へ、人が足を踏み入れる、という事態になるんです」
「そういう場所には、私たちとちょっと違う存在がいらっしゃって、人が踏み入るのを嫌うのよ」
「わたくしたちの組合と提携している『JSA』からも依頼がありまして」
「JSA? JSAってなんなの?」
聞いたことがない言葉に、俺は速攻で聞き返した。
というか……提携しているってなに?
ホント、企業みたいだな!
「ジャパン・スピリット・アソシエーションといって、通称がJSAなんです。精霊や自然霊、山霊たちによる機関ですね」
機関ですね、と、サラッと言われても、理解が追いついていかない。
俺はずっと、死んだらそれで終わりだと思っていたんだよ。
死んでからも、こんなふうに企業みたいな団体があると思っていなかったし、ただの幽霊だけじゃなくて、自然霊とかまで洒落た名前の団体を作っているなんて、想像もしていなかった!
「高梨さんは、まだこちら側にきたばかりですもんね? いろいろとあるんですよ、こちら側も」
三軒はお茶を一口飲み、俺にもお茶を勧めてくる。
死んでもお茶を飲めるのか? カップに口をつけてすすると、意外にも甘みを感じた。
小森もしゃべり続けているからか、お茶を飲みながら、ため息をついている。
幽霊もしゃべり疲れるなんてことがあるんだろうか?
いや、あるのかもしれない。
だって俺は、聞き疲れてきた。
そもそも、ここへ来たのは、死んだ理由を知りたくてのことだ。
小森が組合に入れば、思い出すための手伝いができるとかなんとか、言ったからだ。
なのに、なぜか今、こんな話を聞かされている。
「なんか、いろいろと聞かされたけど……結局、この組合の活動っていうのは、なんなワケ?」
「私たちの活動は、そういった場所へ来た人を、禁足地に立ち入らせないようにすることなの」
「どうやって?」
小森と三軒は、互いに顔を見合わせてから俺に向き直り、笑顔で同時に、こう言った。
「怖がらせて」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
捨てられ雑用テイマーですが、森羅万象を統べてもいいですか? 覚醒したので最強ペットと今度こそ楽しく過ごしたい!
登龍乃月
ファンタジー
旧題:捨て駒にされた雑用テイマーは史上最強の森羅万象の王に覚醒する
王国最高峰とされるS級冒険者パーティ【ラディウス】
元王国戦士長である勇者バルザック、齢十五にして大魔導の名を持つ超天才リン、十年に一度の大聖女モニカ、元グラディエーターであり数々の武勲を持つ重戦士ダウンズ、瞬弓と呼ばれ狙った獲物は必ず狩るというトップハンタージェニスがそのメンバーである。
そしてそこに雑用係兼荷物持ちテイマー、として在籍するアダム。
アダムは自分の価値の低さを自覚し、少しでも役立てるようにとパーティの経費精算、宿の手配、武器防具のメンテナンス、索敵、戦闘、斥候etc……を一手に引き受けていた。
しかしながらラディウスメンバーからの待遇は冷酷で冷淡、都合の悪いことや不平不満の矛先は全てアダムへと向き、罵声や暴言は日常茶飯事であった。
慈悲深い大聖女であるモニカからも「パーティを抜けるべき」と突き放されてしまう。
ある日S級ダンジョンへ挑戦したラディウスだったが、強大なボスの前に力なく敗走を喫する。
そして——ボスの足止めとしてアダムが生贄に選ばれ、命を散らしそうになった時、アダムは世界の【王】として覚醒する。
その後の愛すべき不思議な家族
桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】
ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。
少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。
※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。
『突撃!東大阪産業大学ヒーロー部!』
M‐赤井翼
ライト文芸
今回の新作は「ヒーローもの」!
いつもの「赤井作品」なので、「非科学的」な「超能力」や「武器」を持ったヒーローは出てきません。
先に謝っておきます。
「特撮ヒーローもの」や「アメリカンヒーロー」を求められていた皆さん!
「ごめんなさい」!
「霊能力「を持たない「除霊師」に続いて、「普通の大学生」が主人公です。
でも、「心」は「ヒーロー」そのものです。
「東大阪産業大学ヒーロー部」は門真のローカルヒーローとしてトップを走る2大グループ「ニコニコ商店街の門真の女神」、「やろうぜ会」の陰に隠れた「地味地元ヒーロー」でリーダーの「赤井比呂」は
「いつか大事件を解決して「地元一番のヒーロー」になりたいと夢を持っている。
「ミニスカートでのアクションで「招き猫のブルマ」丸見えでも気にしない「デカレッド」と「白鳥雛子」に憧れる主人公「赤井比呂」」を筆頭に、女兄妹唯一の男でいやいや「タキシード仮面役」に甘んじてきた「兜光司」好きで「メカマニア」の「青田一番」、元いじめられっ子の引きこもりで「東映版スパイダーマン」が好きな「情報系」技術者の「木居呂太」、「電人ザボーガー」と「大門豊」を理想とするバイクマニアの「緑崎大樹」、科学者の父を持ち、素材加工の匠でリアル「キューティーハニー」のも「桃池美津恵」、理想のヒーローは「セーラームーン」という青田一番の妹の「青田月子」の6人が9月の海合宿で音連れた「舞鶴」の「通称 ロシア病院」を舞台に「マフィア」相手に大暴れ!
もちろん「通称 ロシア病院」舞台なんで「アレ」も登場しますよー!
ミリオタの皆さんもお楽しみに!
心は「ヒーロー」!
身体は「常人」の6人組が頑張りますので、応援してやってくださーい!
では、ゆるーく「ローカルヒーロー」の頑張りをお楽しみください!
よーろーひーこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
朝がくるまで待ってて
夏波ミチル
ライト文芸
大好きな兄・玲司を七年前に亡くした妹・小夜子と、玲司のことが好きだった男・志岐。 決してもう二度と取り戻せない最愛の人を幻影を通して繋がり合う女子高生と男の奇妙な関係の物語です。
鎌倉らんぶりんぐ(下)
戸浦 隆
ライト文芸
葛西亮二が高校時代に付き合っていたという尾藤香澄美が現れ、桐生瑞希は心中穏やかでない。気持ちの落ち着かないまま、亮二とともに源頼家の周辺の女性を調べていく。すると、梶原景時事件、畠山・稲毛事件、三幡姫入内の裏に女たちの関わりが解ってくる。そうして北条時政の策謀、大江広元や北条政子の思惑、二代将軍頼家の失脚から死にも複雑に絡む背景が見えて来た。二人は頼家最後の地、修善寺に足を伸ばし、政子・頼家の足跡を辿る。また、陶子の先輩の羽林(うりん)信吾が亮二の調査に興味を示す。
一方、過去の出来事も進展している。
黄蝶の逃避行、比企能員の死、小御所合戦と続く中、安達景盛は比企方につくのか北条方につくのか決断を迫られる。そこに青墓の「宿」の木曽喜三太が現れ、景盛に重大な事を告げる。
果たして亮二と瑞希の調査は上手くいくのか? 安達景盛と黄蝶の運命は? そうして頼朝の死の真相は?
魔法使いに育てられた少女、男装して第一皇子専属魔法使いとなる。
山法師
ファンタジー
ウェスカンタナ大陸にある大国の一つ、グロサルト皇国。その国の東の国境の山に、アルニカという少女が住んでいた。ベンディゲイドブランという老人と二人で暮らしていたアルニカのもとに、突然、この国の第一皇子、フィリベルト・グロサルトがやって来る。
彼は、こう言った。
「ベンディゲイドブラン殿、あなたのお弟子さんに、私の専属魔法使いになっていただきたいのですが」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる