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組合加入
第3話 全日本霊体連合組合とは?
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コツコツと誰かがドアをノックして、俺はハッと顔を上げて小森をみた。
小森はドアに向かって返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、ピンクとベージュのフリルやレースが揺れるロリータファッションの女性だ。
真っ白な長い髪は後ろで束ねられ、頭に帽子のつばが大きくなったような、これまたフリルや蝶結びになったリボンが大量についたものをかぶっている。
ティーセットを持った彼女は、俺の前に花模様のカップとソーサーを置き、小さなポットからお茶を注いだ。
向かいの席に、同じように二つカップを置き、お茶を注ぐと、俺の目の前に座った。
それを待っていたかのように、小森もその隣に腰をおろした。
「高梨さん、どうでしょう?」
「どう……って、なにが?」
「全連のパンフレット、ご覧になっての印象です」
マジか。
これを見ての印象なんて、胡散臭さ以外になにがあるというのか。
「印象もなにも……なにやってんだかわからないし、なにがしたいのかもわかんないよ」
俺の答えを聞いた小森と女性は、真顔のままでジッと俺を見つめている。
俺の答えが、不本意だったんだろうか?
嫌な沈黙が流れている気がして、焦りを感じた瞬間、二人はブフーっと吹きだして、大声で笑い始めた。
「ですよねぇ? いやー、安心しました!」
「もー! スケさんったら、これだけを見せて、なにかわかってもらうなんて、無理だって!」
「これをみて『良くわかりました』とか『素晴らしい活動だ』などと言われたら、アナタの精神状態を疑うところでした!」
ゲラゲラと笑う姿を、俺は呆気に取られて見つめた。
なんなんだ、コイツらは。
俺をからかっているのか? それとも馬鹿にしているのか?
そんな視線に気づいた女性が、目もとを拭いながら、ようやく笑うのをやめた。
「ふー。ごめんなさいね。申し遅れました。私、副会長をしております、三軒と申します」
たすき掛けに下げた小さなポシェットから、名刺を出して渡してきたのを受け取った。
『全日本霊体連合組合・副会長 三軒 ヨシ』
と書かれている。
思わず顔を見てから、そのファッションを改めて見直す。
年齢で言うと、二十代前半に見えるけれど『ヨシ』という名前は珍しい。
それでいうと、小森の『助六』も、なかなか珍しいか。
「高梨さん、今回、全連に加入していただけるとのことで、本当にありがとうございます」
三軒はそういうと、俺に向かって深く頭を下げた。
隣の小森も同じように頭を下げている。
さっきまでの爆笑はどこへいったのやら、急に丁寧な対応をされると、こっちまでかしこまってしまう。
「まずは、全連についてのご説明を少し……」
昔は今よりも、人と妖や幽霊の境界が曖昧で、出やすく隠れやすく、人も今より勘が強かったのか、認識されやすかったそうだ。
「だから、私たちの側も人を驚かせたり、怖がらせたりし過ぎちゃったのよね」
「もっと悪く言うと、危害を加えてしまうことも多々ありまして……」
悪霊だ怨霊だと言われているうちは良かったという。
霊を祓える人たちが増え始め、祓われるだけならば、まだ帰れば良かった。
それが、消滅させられるほど力のある霊力者が現れはじめて、次々と霊たちが消されていき、危機感を覚えたそうだ。
「浄霊であれば、成仏できるので良いのですが……消滅となると、文字通り跡形もなく消えてしまいますので……」
小森も三軒も、神妙な顔つきだけれど、俺としては、それも仕方ないんじゃあないかと思った。
冷たい言いかただけど、悪霊や怨霊なんかにとり憑かれたら、とり憑かれた側は、たまったもんじゃない。
なんとしても、祓いたい、無理ならば消滅させてでも……と考える。
パンフレットにあった『生身の人間に過度な影響は与えないように努める』というのは、要するに『とり憑くな』ということか。
「人は普通はね、亡くなると成仏するのよね。でも、強い未練や思いがあると、残っちゃうこともあるのよ。それにね――」
俺のように、死んだことに気づかずに、残ってしまう人もいると、三軒はつぶやいた。
下手をすると、そういう人まで消滅させられるんじゃないかと、当時、小森は近隣の霊たちと話し合いの場を設けて、人に危害を加えないグループを作ったそうだ。
「みんなで相談し合って、ルールも決めました。驚かすくらいはするけれど、祟らない、呪わない、というふうに……」
「窮屈だけど、消されないようにするには、それしかなかったんですって」
小森が最初にグループを立ち上げたのは、関西地方で、そこから少しずつ周辺地域へ交流を広げていったという。
ある程度、大きくなったところであらためて『日本霊体連合』と名乗りを上げたそうだ。
「まぁ、そこからいろいろとありまして……関東へ移り、現在の『全日本霊体連合組合』へと繋がるのですが」
「いろいろ? それってどんな――」
なにがあったのか、聞こうとした言葉を、小森はかぶせるように遮った。
「――いろいろです。それはさておき、昨今は世の中の移り変わりも著しく、わたくしどもの活動も、いささか活発になってきています」
「私たちのような団体は、ほかにもあるんですけどね、やっていることは、みんな同じなのよ」
「ほかにも? 全連みたいな団体があるんだ?」
日本は世界の国に比べると、小さいほうだろうけど、それなりに広い。
全国に散らばる霊たちを、ひとまとめに管理なんて、できないんだろう。
やっていることは、みんな同じと三軒はいうけれど、その『やっていること』がなんなのか、俺にはまだ、想像ができないままだ。
小森はドアに向かって返事をする。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、ピンクとベージュのフリルやレースが揺れるロリータファッションの女性だ。
真っ白な長い髪は後ろで束ねられ、頭に帽子のつばが大きくなったような、これまたフリルや蝶結びになったリボンが大量についたものをかぶっている。
ティーセットを持った彼女は、俺の前に花模様のカップとソーサーを置き、小さなポットからお茶を注いだ。
向かいの席に、同じように二つカップを置き、お茶を注ぐと、俺の目の前に座った。
それを待っていたかのように、小森もその隣に腰をおろした。
「高梨さん、どうでしょう?」
「どう……って、なにが?」
「全連のパンフレット、ご覧になっての印象です」
マジか。
これを見ての印象なんて、胡散臭さ以外になにがあるというのか。
「印象もなにも……なにやってんだかわからないし、なにがしたいのかもわかんないよ」
俺の答えを聞いた小森と女性は、真顔のままでジッと俺を見つめている。
俺の答えが、不本意だったんだろうか?
嫌な沈黙が流れている気がして、焦りを感じた瞬間、二人はブフーっと吹きだして、大声で笑い始めた。
「ですよねぇ? いやー、安心しました!」
「もー! スケさんったら、これだけを見せて、なにかわかってもらうなんて、無理だって!」
「これをみて『良くわかりました』とか『素晴らしい活動だ』などと言われたら、アナタの精神状態を疑うところでした!」
ゲラゲラと笑う姿を、俺は呆気に取られて見つめた。
なんなんだ、コイツらは。
俺をからかっているのか? それとも馬鹿にしているのか?
そんな視線に気づいた女性が、目もとを拭いながら、ようやく笑うのをやめた。
「ふー。ごめんなさいね。申し遅れました。私、副会長をしております、三軒と申します」
たすき掛けに下げた小さなポシェットから、名刺を出して渡してきたのを受け取った。
『全日本霊体連合組合・副会長 三軒 ヨシ』
と書かれている。
思わず顔を見てから、そのファッションを改めて見直す。
年齢で言うと、二十代前半に見えるけれど『ヨシ』という名前は珍しい。
それでいうと、小森の『助六』も、なかなか珍しいか。
「高梨さん、今回、全連に加入していただけるとのことで、本当にありがとうございます」
三軒はそういうと、俺に向かって深く頭を下げた。
隣の小森も同じように頭を下げている。
さっきまでの爆笑はどこへいったのやら、急に丁寧な対応をされると、こっちまでかしこまってしまう。
「まずは、全連についてのご説明を少し……」
昔は今よりも、人と妖や幽霊の境界が曖昧で、出やすく隠れやすく、人も今より勘が強かったのか、認識されやすかったそうだ。
「だから、私たちの側も人を驚かせたり、怖がらせたりし過ぎちゃったのよね」
「もっと悪く言うと、危害を加えてしまうことも多々ありまして……」
悪霊だ怨霊だと言われているうちは良かったという。
霊を祓える人たちが増え始め、祓われるだけならば、まだ帰れば良かった。
それが、消滅させられるほど力のある霊力者が現れはじめて、次々と霊たちが消されていき、危機感を覚えたそうだ。
「浄霊であれば、成仏できるので良いのですが……消滅となると、文字通り跡形もなく消えてしまいますので……」
小森も三軒も、神妙な顔つきだけれど、俺としては、それも仕方ないんじゃあないかと思った。
冷たい言いかただけど、悪霊や怨霊なんかにとり憑かれたら、とり憑かれた側は、たまったもんじゃない。
なんとしても、祓いたい、無理ならば消滅させてでも……と考える。
パンフレットにあった『生身の人間に過度な影響は与えないように努める』というのは、要するに『とり憑くな』ということか。
「人は普通はね、亡くなると成仏するのよね。でも、強い未練や思いがあると、残っちゃうこともあるのよ。それにね――」
俺のように、死んだことに気づかずに、残ってしまう人もいると、三軒はつぶやいた。
下手をすると、そういう人まで消滅させられるんじゃないかと、当時、小森は近隣の霊たちと話し合いの場を設けて、人に危害を加えないグループを作ったそうだ。
「みんなで相談し合って、ルールも決めました。驚かすくらいはするけれど、祟らない、呪わない、というふうに……」
「窮屈だけど、消されないようにするには、それしかなかったんですって」
小森が最初にグループを立ち上げたのは、関西地方で、そこから少しずつ周辺地域へ交流を広げていったという。
ある程度、大きくなったところであらためて『日本霊体連合』と名乗りを上げたそうだ。
「まぁ、そこからいろいろとありまして……関東へ移り、現在の『全日本霊体連合組合』へと繋がるのですが」
「いろいろ? それってどんな――」
なにがあったのか、聞こうとした言葉を、小森はかぶせるように遮った。
「――いろいろです。それはさておき、昨今は世の中の移り変わりも著しく、わたくしどもの活動も、いささか活発になってきています」
「私たちのような団体は、ほかにもあるんですけどね、やっていることは、みんな同じなのよ」
「ほかにも? 全連みたいな団体があるんだ?」
日本は世界の国に比べると、小さいほうだろうけど、それなりに広い。
全国に散らばる霊たちを、ひとまとめに管理なんて、できないんだろう。
やっていることは、みんな同じと三軒はいうけれど、その『やっていること』がなんなのか、俺にはまだ、想像ができないままだ。
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