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井手口 隆久
第7話 わたしの七日目
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次に向かうのは両親と祖父母が眠る霊園だ。
もう三年は行っていないと思う。
電車を乗り継いで隣県へ行き、最寄り駅からはバスで十五分ほどのところにある。
行き先が霊園だけれど、大きな場所だから訪れる人は多いようで、青い者両はいくつも現れた。
わたしが選んだ者両は、黒いスーツに身を包んでいる。
きっと、葬儀か法事があって、霊園へ向かうんだろう。
行きたいところなんてないと思っていたけれど、こんな大切な場所を忘れているなんて。
行ったところで、こんな状態では、花も飾ることができないし、線香を立てることもできない。
それでも、みんなが眠っているあの場所に、最後くらい行かなければと、わたしは思った。
公営の広い霊園の中を歩きながら、以前きたときよりも墓石が増えていると気づいた。
所々で、落ち葉掃きをしている人たちがいる。
供えられたままになっている枯れた花や、墓石周りに置かれたままの飲みものなども、揃いの作業服を着た人たちが丁寧に片づけていた。
そういえば、わたしも墓参りに来たときは、花を生けたままで帰っていた。
きっと彼らが片づけてくれているんだな。
楽な仕事ではないだろう。
けれど、もしもこういった仕事を選んでいたら、どんな人生を歩んだんだろうか。
資格があるからと、それが必要とされる仕事に就いたけれど、結局は体を壊して派遣でしか働けなくなっている。
どこにでも、嫌な人間関係はあるだろうけれど、こんな自然の中で、大勢の人が静かに眠る場所を、美しく保つ仕事も良かったのかもしれない。
少なくとも、体や心が壊れることはなかったんじゃあないか?
そんなふうに思える。
「まあ……そう考えるのも、ないものねだりでしかないか……」
たらればの話にそう意味はないとわかってはいても、考えることは、私自身が歩んだ別の道ばかりだ。
考えても仕方ないと思いつつも、頭を離れないのは、わたしの性分だからなのか。
それとも、こんな状況になると、みんな似たようなことを思うのか……。
生垣で奇麗に区分けされた中の一つに、わたしの家の墓がある。
このあたりの区画には、今は誰もいなかった。
以前、来たときに生けた花は、やっぱり奇麗に片づけられている。
「父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、ずっと来られなくてごめんな」
わたしは墓石の前で、ただジッと佇んでいた。
花くらい、生けてあげたかった。
お線香の一本でも、焚いてあげたかった。
なぜ、もっと来なかったんだろう。
日々の生活に追われているからといって、それが来なくていい理由にはならない。
できなくなって、やれなくなって、気づくことばかりだ。
「あのさ……わたしもこんな年で、死んじゃったんだよ。参っちゃうよな。事故だなんて……考えてもみなかった」
返事など帰ってこないのは承知の上で、それでもなにか話さなければと、わたしは言葉を探した。
みんなも同じように、チケットを貰って旅をしたんだろうか?
「父さんたちもさ、サキカワさんから教わって、あちこちにいったりした?」
ひょっとすると、みんなわたしに会いにきてくれていたかもしれない。
わたしの暮らしぶりをみて、ガッカリさせてしまわなかっただろうか?
「今日が七日目なんだ。そのあと、あの白い部屋からどこへ行くのかわからないけれど……」
あの世というところがあるのは、今、わたしがこうしていることでわかる。
ただ、この先はどうなるのか……。
天国やら地獄やらで、先に逝ってしまった人と会えるんだろうか?
「会ったらさ……いろいろと話したいことがあるよ。笑い話として話せるといいんだけど」
日が傾きはじめた霊園の中は、ところどころに植えられた木々の影が伸びている。
わたしがいる区画より奥まで行っていた人たちが、少しずつ戻ってくる。
霊感のある人は、ここに佇むわたしの姿がみえてしまうんだろうか?
怖がらせても申し訳ない。
わたしはサキカワさんの名前を呼んだ。
もう三年は行っていないと思う。
電車を乗り継いで隣県へ行き、最寄り駅からはバスで十五分ほどのところにある。
行き先が霊園だけれど、大きな場所だから訪れる人は多いようで、青い者両はいくつも現れた。
わたしが選んだ者両は、黒いスーツに身を包んでいる。
きっと、葬儀か法事があって、霊園へ向かうんだろう。
行きたいところなんてないと思っていたけれど、こんな大切な場所を忘れているなんて。
行ったところで、こんな状態では、花も飾ることができないし、線香を立てることもできない。
それでも、みんなが眠っているあの場所に、最後くらい行かなければと、わたしは思った。
公営の広い霊園の中を歩きながら、以前きたときよりも墓石が増えていると気づいた。
所々で、落ち葉掃きをしている人たちがいる。
供えられたままになっている枯れた花や、墓石周りに置かれたままの飲みものなども、揃いの作業服を着た人たちが丁寧に片づけていた。
そういえば、わたしも墓参りに来たときは、花を生けたままで帰っていた。
きっと彼らが片づけてくれているんだな。
楽な仕事ではないだろう。
けれど、もしもこういった仕事を選んでいたら、どんな人生を歩んだんだろうか。
資格があるからと、それが必要とされる仕事に就いたけれど、結局は体を壊して派遣でしか働けなくなっている。
どこにでも、嫌な人間関係はあるだろうけれど、こんな自然の中で、大勢の人が静かに眠る場所を、美しく保つ仕事も良かったのかもしれない。
少なくとも、体や心が壊れることはなかったんじゃあないか?
そんなふうに思える。
「まあ……そう考えるのも、ないものねだりでしかないか……」
たらればの話にそう意味はないとわかってはいても、考えることは、私自身が歩んだ別の道ばかりだ。
考えても仕方ないと思いつつも、頭を離れないのは、わたしの性分だからなのか。
それとも、こんな状況になると、みんな似たようなことを思うのか……。
生垣で奇麗に区分けされた中の一つに、わたしの家の墓がある。
このあたりの区画には、今は誰もいなかった。
以前、来たときに生けた花は、やっぱり奇麗に片づけられている。
「父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、ずっと来られなくてごめんな」
わたしは墓石の前で、ただジッと佇んでいた。
花くらい、生けてあげたかった。
お線香の一本でも、焚いてあげたかった。
なぜ、もっと来なかったんだろう。
日々の生活に追われているからといって、それが来なくていい理由にはならない。
できなくなって、やれなくなって、気づくことばかりだ。
「あのさ……わたしもこんな年で、死んじゃったんだよ。参っちゃうよな。事故だなんて……考えてもみなかった」
返事など帰ってこないのは承知の上で、それでもなにか話さなければと、わたしは言葉を探した。
みんなも同じように、チケットを貰って旅をしたんだろうか?
「父さんたちもさ、サキカワさんから教わって、あちこちにいったりした?」
ひょっとすると、みんなわたしに会いにきてくれていたかもしれない。
わたしの暮らしぶりをみて、ガッカリさせてしまわなかっただろうか?
「今日が七日目なんだ。そのあと、あの白い部屋からどこへ行くのかわからないけれど……」
あの世というところがあるのは、今、わたしがこうしていることでわかる。
ただ、この先はどうなるのか……。
天国やら地獄やらで、先に逝ってしまった人と会えるんだろうか?
「会ったらさ……いろいろと話したいことがあるよ。笑い話として話せるといいんだけど」
日が傾きはじめた霊園の中は、ところどころに植えられた木々の影が伸びている。
わたしがいる区画より奥まで行っていた人たちが、少しずつ戻ってくる。
霊感のある人は、ここに佇むわたしの姿がみえてしまうんだろうか?
怖がらせても申し訳ない。
わたしはサキカワさんの名前を呼んだ。
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