ラスト・チケット

釜瑪 秋摩

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金田 千冬

第5話 私の五日目

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――五日目――

 今日は告別式だ。
 昨日は結局、あの女はこなくて、それは今日、現れるかもしれないということになるだろう。
 朝になって家に戻ったときには、正樹はもういなかった。

 私と同じように、職場へ挨拶に行っているのかもしれない。
 今日はみんなと一緒に家を出た。
 子どもたちはみんな、緊張した面持ちだ。
 時間になって、告別式が始まる。典子が言っていた通り、部長たちの姿がみえた。

「忙しい中、足を運んでいただいてありがとうございます」

 みんなのそばへ行き挨拶をしていると、おもてでざわめきが起こり、なにやら揉めている声が聞こえてきた。
 読経が始まって、参列者のお焼香が進む中、両親や子どもたちも、外へ目を向けている。
 私は騒ぎの聞こえるほうへ向かった。

「――あの女!」

 派手な喪服に身を包み、真っ赤な口紅で口汚く私を罵っている女の姿。
 正樹の同僚の萩原はぎわらさんと池端いけはたさんの姿もみえた。数人で女を追い返そうとしてくれている。

――邪魔しないでよ! どうしてあの人の棺があの女の隣に並んでいるのよ!
――よくもここへ顔を出せたな! こんなことになったのは、あんたの責任でもあるんじゃあないのか?
――ここは金田の家族の大切な場所だ。あんたが来ていい場所じゃあないんだ。

 女は驚くほどの暴れようで、正樹の同僚たちの止める手を振り切ると、焼香台の前まで走り寄った。
 子どもたちへ目を向けて満面の笑みをたたえている姿にゾッとした。

――あなたたちが正樹さんの子どもたちね? 私があなたたちのお母さんになるのよ。これからは私と一緒に暮らしましょう?

「……は? この女、なにを言っているの?」

――正樹さんは亡くなっちゃったけど、私がいるから大丈夫よ!
――ちょっと……あんたは一体、なんなんですか?

 会場中が凍り付き、父がその女に嫌悪感をむき出しにして問いかけた。
 葬儀会社の人たちと正樹の同僚たちが女を取り押さえて、会場から退室させようとしている。
 意味のわからないことを叫ぶ女の前に、流歌が立ちはだかった。

――帰れ! クソ女! あんたが私たちの母親? バッカじゃないの? 私たちの母親は、お母さんだけよ!
――なにを言っているの? これからは私が……。
――うるさい! お父さんがあんたにどれだけ迷惑をかけられたか、わかってんの?
――正樹さんと私は愛し合っていたのよ!
――そんなわけないじゃん! お父さんが愛していたのは、お母さんだけなんだから! 私、お父さんに聞いて全部しってるんだから! あんたのことは絶対許さない! 二人が死んじゃったのは、あんたのせいよ!

 流歌の言葉を呆然と聞いていた。
 お父さんに聞いた?
 全部しっている?

「ごめん……」

 後ろから声がして驚いて振り返ると、正樹が立っていた。

「千冬は話しを聞いてくれないし……俺が落ち込んでいたら、流歌が話しを聞いてくれて……」
「だからって……流歌に聞かせるなんて……」
「……それは……本当にごめん」

 正樹はそういって謝るけれど、本当に謝らなければいけないのは私のほうだ。
 うつむいていた正樹が顔を上げた。
 その表情はきつく、あの女を睨みつけている。

「それにしても、まさかここまで来るなんて……本当に許せない……」
「そりゃあ……こんなことになったのも、あの女のせいだろうけど……」
「あの女は俺が追い出す」

 正樹はまだ揉めている女のそばへ行き、葬儀社の人にとり憑いた。

「ちょっと! とり憑くのは駄目ってサキカワさんが……!」

 正樹がとり憑いた葬儀社の人は、強い力で女の腕を取り、グイグイと外へ引っ張っていく。
 女は驚きながらも、まだ私を汚い口調で罵っている。
 それを聞いて、私もまた最初のころのような怒りが沸いた。

 思わず私も正樹とは別の葬儀社の人に憑いた。
 女の背中を突き飛ばし、二人で女を会場の外へ引きずっていくと、敷地から追い出す。

「二度と俺の家族に関わるな!」

 正樹が怒りの叫びをあげた。
 女は悔しそうな顔をしながらも、すごすごと帰っていった。流歌に拒絶をされたのもあってかもしれない。
 完全に姿が見えなくなったのを確認してから、私も正樹も葬儀社の人から離れた。

「やっちゃったわね……大変なことになっちゃうのかしら……?」
「俺一人で良かったのに……千冬までなんで……」
「あんなことを言われて、黙っている私だと思う?」

 それを聞いて正樹は笑った。私もつられて笑う。

「ねえ。ここからは、一緒にみんなのそばにいようよ」
「俺も一緒でいいの?」
「もちろん。それに……あとで話したいこともあるから」

 私は正樹を促して、家族のいる会場へと戻った。
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