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金田 千冬
第4話 私の四日目
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――四日目――
今日はお通夜だ。
朝から母も父もバタバタしている。
子どもたちは、流歌は制服で、輝樹と流里は葬儀会社でレンタルをするらしい。
「そうよね……今日と明日のためだけに新しく服を買っても、どうせすぐに着れなくなるだろうし……」
会場は自宅から車で十五分ほどの斎場のようだ。
昔、祖父が亡くなったときに葬儀を行った場所だ。
「場所がわかっているから、時間になったら会場にいくわね。きっとそろそろ正樹がくるから、私は先に出るから」
一応、母に声をかけて家をでた。
駅まで向かいながら、私は職場の皆へ挨拶をしに行くことにした。
青い者両で職場の最寄り駅へ着いた。
いつも通りの道を職場に向かい、ビルへ入る。
「私の担当していた得意先は誰の担当になるのかしら……」
まずは上司のところへ行ってから、迷惑をかけてしまったことをお詫びした。
聞こえないとわかっていても、言わずにはいられなかった。
そのあと、親しかった同僚たちへも同じように迷惑をかけたことを謝った。
「あれ……? 典子がいない? 給湯室かな?」
一番、親しくしていた同僚の下村典子の姿が見えず、私は給湯室へ向かった。
近くまでくると、典子が誰かと話しているのが聞こえてきた。
見えないのをいいことに、私は給湯室をのぞき込んだ。
一緒にいるのは、隣の部署の松山さんだ。
――……でしょ? 今日は早上がりするの?
――うん、そう。全員では無理だから、今日のお通夜は私と遠藤さん、坂崎くんと山野くんで、明日の告別式は部長と課長と、残りのみんな。
――そうかぁ……急だったもんね。私もびっくりしちゃった。
――しかも旦那さんも一緒でしょ。なにかあったのかな……って。
そう言えば典子とランチのときに、正樹のことを相談していたっけ。
典子は私に、ちゃんと二人で良く話し合ったほうがいいと勧めてきた。
松山さんは、声をひそめて典子にいった。
――なんだか嫌がらせされていたんでしょ? 金田さん。
――知ってるの? そうなんだよね……私も相談されていたんだけど……二人で話し合ったら? っていっちゃって……そうしたら、事故があったじゃない? 私のせいかな……って……。
「そんなことないよ! 典子のせいなんかじゃないから! やだもう……そんなことで気に病まないでよ」
――私ね、金田さんのご主人の会社に友だちがいるんだけど、ちょっと聞いたことがあるのよね。
――まさか不倫の噂じゃあないよね?
――違う違う。その逆よ。なんだか変な女に付きまとわれて、大変だったみたいよ。
――えっ? なにそれ……? ねえ、ちょっとランチのときにでも聞かせてもらっていい?
「変な女……? って……あの女よね……? 付きまとわれてってなんなの?」
二人は手にしたカップにお茶を注ぎ、話しをしながら自分たちの席に戻っていった。
松山さんの言葉が気になって仕方がない。
私も聞かなければ。ランチまでは会議室で時間を潰して待った。
お昼のチャイムが鳴ると、急いで典子のところへ行き、二人について近くのカフェに入った。
――それで、どういうことなの?
――うん、私の友だちが言うにはね、金田さんのご主人が担当していた取引先の女が、金田さんに付きまとっていたって。
松山さんの聞いていた話によると、正樹の取引先にいたあの女が、正樹に一目ぼれをしたらしい。
最初のうちは、取引先に行くたびに言い寄ってくるだけだったのが、やがて正樹の職場に終業時間になると待ち伏せに来るようになったそうだ。
困り果てた正樹が、同僚に相談して、帰社するときには裏口を回って避けていたという。
だんだんと行動がエスカレートしていくのを感じた正樹の職場は、正樹をその取引先の担当から外してくれた。
女のほうはそれが気に入らなかったらしい。
どうやって手に入れたのか、自宅の電話番号や私の職場を知り、嫌がらせを始めたようだった。
――なんだかね、ちょっと変な子みたいで。思い込みが激しいっていうのかな。ご主人とすっかりつき合っているようなつもりでいたらしいのよ。
――え~……。ヤバくない? その女。
――かなりだよね。金田さんが亡くなった日も、帰社時間に押し掛けてきたらしくて、同僚の人たちが追い返したのをみたって友だちが言っていたから。
「そんな……じゃあ、正樹は不倫していたわけじゃあなかったっていうこと……?」
私がもっとちゃんと正樹の話しを聞いていたら、こんなことにはなっていなかった……?
こうなったのは、私のせい……?
「やだ……どうしよう……私、あんなに正樹を責めて……」
もの凄い後悔と罪悪感に襲われた。
どうしていいのかわからずに、体の震えが止まらない。
――ねえ、今日のお通夜に、もしかしたらその女、来るかもしれないわよね?
――そうかも……絶対、亡くなってしまったこと、知っていると思う。
――松山さんのお友だちに連絡取れないかなぁ? 旦那さんの会社でお通夜に来る人と話したいんだけど。
――じゃあ、ちょっとすぐに連絡を取ってみるね。下村さんの連絡先、教えちゃって平気?
――うん。お願い。
二人はサッと昼食を済ませ、カフェを出ていった。
私はどうしていいのかわからず、とりあえずお通夜の会場へ行くことにした。
会場ではもう準備が進み、祭壇の前に棺が二つ並んでいる。
その前に、正樹の姿がみえた。
私のせいで、正樹まで死なせてしまったのかと思うと、胸が痛んで涙がこぼれる。
合わせる顔もなく、私は見つからないように会場の外で身をひそめて参列の人波を眺めた。
「来なかったわね……あの女……」
てっきり顔を出すと思っていたのに、お通夜が終わっても現れることはなかった。
今日はお通夜だ。
朝から母も父もバタバタしている。
子どもたちは、流歌は制服で、輝樹と流里は葬儀会社でレンタルをするらしい。
「そうよね……今日と明日のためだけに新しく服を買っても、どうせすぐに着れなくなるだろうし……」
会場は自宅から車で十五分ほどの斎場のようだ。
昔、祖父が亡くなったときに葬儀を行った場所だ。
「場所がわかっているから、時間になったら会場にいくわね。きっとそろそろ正樹がくるから、私は先に出るから」
一応、母に声をかけて家をでた。
駅まで向かいながら、私は職場の皆へ挨拶をしに行くことにした。
青い者両で職場の最寄り駅へ着いた。
いつも通りの道を職場に向かい、ビルへ入る。
「私の担当していた得意先は誰の担当になるのかしら……」
まずは上司のところへ行ってから、迷惑をかけてしまったことをお詫びした。
聞こえないとわかっていても、言わずにはいられなかった。
そのあと、親しかった同僚たちへも同じように迷惑をかけたことを謝った。
「あれ……? 典子がいない? 給湯室かな?」
一番、親しくしていた同僚の下村典子の姿が見えず、私は給湯室へ向かった。
近くまでくると、典子が誰かと話しているのが聞こえてきた。
見えないのをいいことに、私は給湯室をのぞき込んだ。
一緒にいるのは、隣の部署の松山さんだ。
――……でしょ? 今日は早上がりするの?
――うん、そう。全員では無理だから、今日のお通夜は私と遠藤さん、坂崎くんと山野くんで、明日の告別式は部長と課長と、残りのみんな。
――そうかぁ……急だったもんね。私もびっくりしちゃった。
――しかも旦那さんも一緒でしょ。なにかあったのかな……って。
そう言えば典子とランチのときに、正樹のことを相談していたっけ。
典子は私に、ちゃんと二人で良く話し合ったほうがいいと勧めてきた。
松山さんは、声をひそめて典子にいった。
――なんだか嫌がらせされていたんでしょ? 金田さん。
――知ってるの? そうなんだよね……私も相談されていたんだけど……二人で話し合ったら? っていっちゃって……そうしたら、事故があったじゃない? 私のせいかな……って……。
「そんなことないよ! 典子のせいなんかじゃないから! やだもう……そんなことで気に病まないでよ」
――私ね、金田さんのご主人の会社に友だちがいるんだけど、ちょっと聞いたことがあるのよね。
――まさか不倫の噂じゃあないよね?
――違う違う。その逆よ。なんだか変な女に付きまとわれて、大変だったみたいよ。
――えっ? なにそれ……? ねえ、ちょっとランチのときにでも聞かせてもらっていい?
「変な女……? って……あの女よね……? 付きまとわれてってなんなの?」
二人は手にしたカップにお茶を注ぎ、話しをしながら自分たちの席に戻っていった。
松山さんの言葉が気になって仕方がない。
私も聞かなければ。ランチまでは会議室で時間を潰して待った。
お昼のチャイムが鳴ると、急いで典子のところへ行き、二人について近くのカフェに入った。
――それで、どういうことなの?
――うん、私の友だちが言うにはね、金田さんのご主人が担当していた取引先の女が、金田さんに付きまとっていたって。
松山さんの聞いていた話によると、正樹の取引先にいたあの女が、正樹に一目ぼれをしたらしい。
最初のうちは、取引先に行くたびに言い寄ってくるだけだったのが、やがて正樹の職場に終業時間になると待ち伏せに来るようになったそうだ。
困り果てた正樹が、同僚に相談して、帰社するときには裏口を回って避けていたという。
だんだんと行動がエスカレートしていくのを感じた正樹の職場は、正樹をその取引先の担当から外してくれた。
女のほうはそれが気に入らなかったらしい。
どうやって手に入れたのか、自宅の電話番号や私の職場を知り、嫌がらせを始めたようだった。
――なんだかね、ちょっと変な子みたいで。思い込みが激しいっていうのかな。ご主人とすっかりつき合っているようなつもりでいたらしいのよ。
――え~……。ヤバくない? その女。
――かなりだよね。金田さんが亡くなった日も、帰社時間に押し掛けてきたらしくて、同僚の人たちが追い返したのをみたって友だちが言っていたから。
「そんな……じゃあ、正樹は不倫していたわけじゃあなかったっていうこと……?」
私がもっとちゃんと正樹の話しを聞いていたら、こんなことにはなっていなかった……?
こうなったのは、私のせい……?
「やだ……どうしよう……私、あんなに正樹を責めて……」
もの凄い後悔と罪悪感に襲われた。
どうしていいのかわからずに、体の震えが止まらない。
――ねえ、今日のお通夜に、もしかしたらその女、来るかもしれないわよね?
――そうかも……絶対、亡くなってしまったこと、知っていると思う。
――松山さんのお友だちに連絡取れないかなぁ? 旦那さんの会社でお通夜に来る人と話したいんだけど。
――じゃあ、ちょっとすぐに連絡を取ってみるね。下村さんの連絡先、教えちゃって平気?
――うん。お願い。
二人はサッと昼食を済ませ、カフェを出ていった。
私はどうしていいのかわからず、とりあえずお通夜の会場へ行くことにした。
会場ではもう準備が進み、祭壇の前に棺が二つ並んでいる。
その前に、正樹の姿がみえた。
私のせいで、正樹まで死なせてしまったのかと思うと、胸が痛んで涙がこぼれる。
合わせる顔もなく、私は見つからないように会場の外で身をひそめて参列の人波を眺めた。
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