ラスト・チケット

釜瑪 秋摩

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荒川 瞬

第6話 ボクの六日目

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――六日目――

 昨日は都内に戻ると途中でニッシーくんをおろし、ナンノくんの家までやってきた。
 いったん下者すると、ナンノくんは着替えを済ませてから、また外へと出かけていった。
 ボクはレイナに囲まれた部屋の中で、なんとなく居心地の悪さを感じる。

「ナンノくん、相変わらずポスターの貼りかたがひどいな……」

 ライラックドリームのメンバーは全部で六人だ。寄り添うように並んでいる構図なのに、数種類のポスターや写真をうまく重ねて、レイナだけがみえるように貼ってある。
 重ね合わさった部分にそっと手を伸ばした。

「くぅ……ここにりのりんがいるはずなのに……」

 グッズも写真もほとんど全部、レイナばかりだけれど、さすがにいくつかはメンバー全員が写っているものもあった。
 それを眺めているあいだに、ナンノくんが戻ってきた。
 どうやら夕飯を買ってきたらしい。
 テレビがつけられ、ライラックのライブ映像が流れる。

――やば! 見入ってる場合じゃないぞ。明日の資料を早く作らないと。

 ナンノくんはパソコンを開き、どうやら仕事をするらしい。ただ、映像はそのまま流しっぱなしだ。
 ボクはありがたくその映像を見続けた。

 朝になり、ナンノくんが家を出るときにボクも一緒に部屋を出た。ナンノくんに乗者して途中の駅で青い者両に乗り換えると、まずは会社へ向かった。
 いつも出社していたときと同じように中へ入り、部署へ向かう。

 見えもしなければ聞こえもしないんだろうけれど、昨日の告別式へ来てくれた人たちにお礼だけは言いたかった。
 順番にお礼を告げ、帰ろうと自分の家を思い浮かべた瞬間、フロアにいた人たちが者両に変わった。

「あ……乗るつもりはなかったけど、行こうと思った場所を考えるとこう見えちゃうんだな」

 そう思いながらエレベーターへ向かう途中、初めて赤い者両をみた。
 サキカワさんの『最悪の場合には消滅させられてしまうことも……』という言葉を思い出す。

「やばいやばい。乗りはしないけど、うっかり消滅されられちゃあたまらない」

 セカセカと急ぎ足でエレベーターの前に立った。下へ向かうボタンを押している人はいるけれど、まだドアは開かない。
 そうしているあいだにも、赤い者両はどんどんボクに近づいてくる。

「早く早く……なんでこんなにエレベーター遅いんだよ~」

 ドアの上の階数表示を見上げてじれったさに小さく足踏みをしていると、背後にコツリと靴音が響いた。

――荒川くん?

「ひゃぃっ!」

 ささやくような呼び声に、思わず変な声が出た。恐る恐る振り返る。
 乗者の意思がないからか、視線の先にいる人の姿はもう赤じゃあなかった。

 同じ職場で告別式にも来てくれていた、粕谷智一かすやともかずさんだ。
 エレベーターが着くと、粕谷さんはボクを促して乗り込み、一階で降りて人けのない喫煙スペースへ行き、手招きしてボクを呼んだ。仕方なくボクもそこへ向かう。
 憑いていっていいんだろうか……?
 粕谷さんが悪い人ではないのはしっているけど、消滅されられたら……。

――こんなところまできて、どうしたの?

「えっ? あ……あの、ボクは現世にいられるのが明日までなので……みんなに昨日来てくれたお礼を言いに……」

――えーっ、わざわざ? 律儀だねぇ。

「いや……そんな……あの、別に誰かに祟ろうとか、とり憑こうとか思っていないので、消滅だけは……」

――消滅? 僕が荒川くんを? しないよぉ、そんなことできないもん。

「え……そうなんですか? でもボクのことみえてますよね? 霊感強いんじゃ……」

――みえてはいるけど……確かに霊感も強いけどさ、お祓いとかできないよ。それに荒川くん、成仏に向けての段階をちゃんと踏んでるみたいじゃん。現世にいられるのが明日までとか言ってるし。

 粕谷さんはそういって電子タバコを吹かして笑った。

――っていうかさ、明日って七日目なんじゃない? これって『初七日』ってヤツ?

「ああ……どうなのかな……でもそんな感じですよね、きっと。それより粕谷さんはいつもこんなふうに幽霊と話しを?」

――まさか。するわけないじゃん。おっかないし。荒川くんだったから声をかけてみただけだよ。迷っているなら行き先を教えてあげられるかもしれないと思っただけ。

「気を遣わせちゃってすみません。迷ってはいないんで、大丈夫です」

――死んじゃってて大丈夫もなにもないでしょ。それよりこんなところで時間潰しちゃっていいの? 彼女に会いに行くとかしないの?

「彼女……は、いないんで……でも好きな人には明日会いに行くんです」

――へえ、いいじゃん。いい時間になるといいね。おっと、ちょっとサボりすぎたかな。じゃあ、僕はもう行くね。荒川くん、いつか、またね。

 粕谷さんは軽く手を上げてエレベーターへ歩いていった。
 そのうしろ姿に手を振りながら、消滅させられなくて良かったと、心底思った。
 もしもまったく知らない人だったら、問答無用で消滅させられていたんだろうか。

「こわ……っていうか、こんな身近に赤い者両の人がいるとは……黄色と赤は滅多にないとかサキカワさんが言ってたけど、ボク……両方に遭遇してるじゃん」

 いったん自宅に戻ったら、早めにナンノくんの家に行って、ジッとしているのが良さそうだ。
 だって、あと一日だというのに、消滅させられちゃあたまんないもの。
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