4 / 58
荒川 瞬
第3話 ボクの三日目
しおりを挟む
昨日は帰ったら、家には誰もいなかった。
仕方なしに街なかを歩き、かつて通った小学校や中学校を見て回った。
懐かしいような、そうでもないような、フワッとした感情しかわかない。
ただ、山の眺めや海の波音、潮の香りはじわっと胸に沁みる。
「風の心地よさも匂いも、こんなに感じるものなんだ」
そう思いながら海を眺め、暗くなってからまた家へと戻ってきた。
しばらく待つと、両親たちが戻ってきた。
みんな一様に沈んでいる。その原因はやっぱりボクなんだろうか?
――三日目――
朝になって、居間で家族が話しているのを聞いて、亡くなった理由もわかった。
やっぱり事故だった。
交差点でハンドル操作を誤った車が止まっていた車に突っ込んで、玉突きになった一台が、歩道へ突っ込んできたそうだ。
その中に、ボクがいた。まるで思いだせないけれど、そういうことらしい。
四日目に当たる明日にはお通夜で、五日目に当たるあさってが告別式だと話していたっけ。
思ったよりも早いのは、ほかに葬儀がないことと、日取りの問題などもあったようた。
急なことで家族みんながバタバタとしている中、ボクは漁港へやってきて堤防に腰をおろし、ずっと海を眺めていた。
「不謹慎だけど、葬儀が終わるのがライブ前で良かったな」
家を出るとき、妹がボクのスマホをみながら、あちこちへ連絡をしてくれていた。
職場やかつての同窓生たち、ナンノくんへも連絡をしてくれているのが聞こえ、ボクは複雑な気持ちになった。
ナンノくんはともかく、職場で親しくしていた人は特にいない。かつての同窓生にしても、今は疎遠だ。
両親や妹、弟がどんな規模の葬儀をするつもりでいるのかわからないけれど、誰も来なかったらどうするんだろう?
というか……どう思うんだろう。
「三十過ぎてもドルオタで、結婚どころか彼女もいなくて、こんなボクで申し訳ないな……」
情けない気持ちに苛まれ、ボクはリュックに下げたパスケースを開き、りのりんと撮ったチェキをみた。
ナンノくんは来てくれるだろうか?
ジーンズのポケットに入れっぱなしになっていた乗者券をだしてみる。
チケットの日付をちゃんと確認していなかった。
〇〇〇〇年 〇月 ×日 二十時十八分 ~
〇〇〇〇年 〇月 □日 二十時十八分 迄
夜か。
こんな時間になにをしていたんだろう。こんな時間まで残業するような会社じゃあない。
思い当たるとしたら、ライラックのライブ……?
幸せの絶頂にいて、一瞬で転落したのか。
「せつない……ライブのことさえ覚えていないなんて……あぁ……きっとりのりんは可愛かったに違いないのに」
七日目の、現世を離れるときとやらが二十時十八分だとしたら、ライブはきっと最後まで観られるだろう。
リュックをおろして中を漁る。ライブのチケットを取り出し、これも時間の確認をした。
十七時半開場で十八時開演だ。
ナンノくんには悪いけれど、もしも告別式に来てくれたとしたら、そのまま憑いていかせてもらおう。
だってどうせ行き先は同じなんだし、ナンノくんの家には遊びに行ったこともあるし。
ナンノくんはレイナ推しだから、立ち位置がりのりんと真逆で少し離れてしまうけれど、それはいつものことだ。
最後までくっ憑いていることもないだろう。
波の音が響く中、立ちあがると家へと戻った。玄関を通り抜けようとした直前で、家の中からざわざわと声が響き、ボクは思わず玄関脇に隠れた。
どうせ誰にも見えやしないのに、なにをしているんだ、ボク。
――それにしても急だったわねぇ。
――事故だったんじゃあ仕方ないとはいえ、まだ若かったのに。
近所に住む親せきの叔父さんたちだ。
みんなでどこかへ出かけるのか?
――今夜はわたしたちがついているから、姉さんは少し休むといい。
――ありがとう。でも、あんたたちだって疲れるだろうから、そんなに気を遣わなくていいのよ。
「そうか。葬儀場に行くんだ」
ボクは慌てて叔父さんに乗者した。家族を含め、みんな青色をしている。
ということは、堂々としていても誰の目にも触れないだろう。
みんなが乗り込む車にボクも乗る。
電車のときや、空いた場所だと隣や後ろにいればいいんだけれど、狭い場所はどうしても密着してしまう。
シートに座ったボクの上に、叔父さんが腰をおろしている形だ。
霊感の強い人からは、どうみえるんだろう?
二十分ほど走ったところに、古い葬儀場がある。
昔、祖父や祖母が亡くなったときにも、そこでお葬式をした。
一晩中線香を焚くとかで、みんなで控室のような和室に泊まったのを思い出した。
思い出の通り、みんなで和室に入っていく。
祖父母のときは、お通夜の日まで遺体が家にあったけれど、ボクのはそのまま葬儀場で安置されているようだ。
これから自分自身と対面するのか。不思議な気分だ。
「ん……? ちょっと待てよ……? 事故で、って……ボクの体はどうなっているんだろう?」
スプラッター映画みたいに見るに堪えないなんてことは……。
うっかり叔父さんに乗ったままで、叔父さんはボクのそばへ行くと、顔にかかった布をはぎ取った。
「ひぇ……」
思わず両手で顔を覆って指のすき間からチラ見した。
顔に大きな傷はなくて、ホッとした。
まあまあ、奇麗なほうじゃあないだろうか。
とはいえ、血の気のないその顔は、まるでほかの誰かのようにも感じる。
ボクは叔父から下者すると体の横に座り、長い時間ジッと見つめ続けた。
仕方なしに街なかを歩き、かつて通った小学校や中学校を見て回った。
懐かしいような、そうでもないような、フワッとした感情しかわかない。
ただ、山の眺めや海の波音、潮の香りはじわっと胸に沁みる。
「風の心地よさも匂いも、こんなに感じるものなんだ」
そう思いながら海を眺め、暗くなってからまた家へと戻ってきた。
しばらく待つと、両親たちが戻ってきた。
みんな一様に沈んでいる。その原因はやっぱりボクなんだろうか?
――三日目――
朝になって、居間で家族が話しているのを聞いて、亡くなった理由もわかった。
やっぱり事故だった。
交差点でハンドル操作を誤った車が止まっていた車に突っ込んで、玉突きになった一台が、歩道へ突っ込んできたそうだ。
その中に、ボクがいた。まるで思いだせないけれど、そういうことらしい。
四日目に当たる明日にはお通夜で、五日目に当たるあさってが告別式だと話していたっけ。
思ったよりも早いのは、ほかに葬儀がないことと、日取りの問題などもあったようた。
急なことで家族みんながバタバタとしている中、ボクは漁港へやってきて堤防に腰をおろし、ずっと海を眺めていた。
「不謹慎だけど、葬儀が終わるのがライブ前で良かったな」
家を出るとき、妹がボクのスマホをみながら、あちこちへ連絡をしてくれていた。
職場やかつての同窓生たち、ナンノくんへも連絡をしてくれているのが聞こえ、ボクは複雑な気持ちになった。
ナンノくんはともかく、職場で親しくしていた人は特にいない。かつての同窓生にしても、今は疎遠だ。
両親や妹、弟がどんな規模の葬儀をするつもりでいるのかわからないけれど、誰も来なかったらどうするんだろう?
というか……どう思うんだろう。
「三十過ぎてもドルオタで、結婚どころか彼女もいなくて、こんなボクで申し訳ないな……」
情けない気持ちに苛まれ、ボクはリュックに下げたパスケースを開き、りのりんと撮ったチェキをみた。
ナンノくんは来てくれるだろうか?
ジーンズのポケットに入れっぱなしになっていた乗者券をだしてみる。
チケットの日付をちゃんと確認していなかった。
〇〇〇〇年 〇月 ×日 二十時十八分 ~
〇〇〇〇年 〇月 □日 二十時十八分 迄
夜か。
こんな時間になにをしていたんだろう。こんな時間まで残業するような会社じゃあない。
思い当たるとしたら、ライラックのライブ……?
幸せの絶頂にいて、一瞬で転落したのか。
「せつない……ライブのことさえ覚えていないなんて……あぁ……きっとりのりんは可愛かったに違いないのに」
七日目の、現世を離れるときとやらが二十時十八分だとしたら、ライブはきっと最後まで観られるだろう。
リュックをおろして中を漁る。ライブのチケットを取り出し、これも時間の確認をした。
十七時半開場で十八時開演だ。
ナンノくんには悪いけれど、もしも告別式に来てくれたとしたら、そのまま憑いていかせてもらおう。
だってどうせ行き先は同じなんだし、ナンノくんの家には遊びに行ったこともあるし。
ナンノくんはレイナ推しだから、立ち位置がりのりんと真逆で少し離れてしまうけれど、それはいつものことだ。
最後までくっ憑いていることもないだろう。
波の音が響く中、立ちあがると家へと戻った。玄関を通り抜けようとした直前で、家の中からざわざわと声が響き、ボクは思わず玄関脇に隠れた。
どうせ誰にも見えやしないのに、なにをしているんだ、ボク。
――それにしても急だったわねぇ。
――事故だったんじゃあ仕方ないとはいえ、まだ若かったのに。
近所に住む親せきの叔父さんたちだ。
みんなでどこかへ出かけるのか?
――今夜はわたしたちがついているから、姉さんは少し休むといい。
――ありがとう。でも、あんたたちだって疲れるだろうから、そんなに気を遣わなくていいのよ。
「そうか。葬儀場に行くんだ」
ボクは慌てて叔父さんに乗者した。家族を含め、みんな青色をしている。
ということは、堂々としていても誰の目にも触れないだろう。
みんなが乗り込む車にボクも乗る。
電車のときや、空いた場所だと隣や後ろにいればいいんだけれど、狭い場所はどうしても密着してしまう。
シートに座ったボクの上に、叔父さんが腰をおろしている形だ。
霊感の強い人からは、どうみえるんだろう?
二十分ほど走ったところに、古い葬儀場がある。
昔、祖父や祖母が亡くなったときにも、そこでお葬式をした。
一晩中線香を焚くとかで、みんなで控室のような和室に泊まったのを思い出した。
思い出の通り、みんなで和室に入っていく。
祖父母のときは、お通夜の日まで遺体が家にあったけれど、ボクのはそのまま葬儀場で安置されているようだ。
これから自分自身と対面するのか。不思議な気分だ。
「ん……? ちょっと待てよ……? 事故で、って……ボクの体はどうなっているんだろう?」
スプラッター映画みたいに見るに堪えないなんてことは……。
うっかり叔父さんに乗ったままで、叔父さんはボクのそばへ行くと、顔にかかった布をはぎ取った。
「ひぇ……」
思わず両手で顔を覆って指のすき間からチラ見した。
顔に大きな傷はなくて、ホッとした。
まあまあ、奇麗なほうじゃあないだろうか。
とはいえ、血の気のないその顔は、まるでほかの誰かのようにも感じる。
ボクは叔父から下者すると体の横に座り、長い時間ジッと見つめ続けた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる