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3章
ミドレスト皇国 召喚7(回想編)
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捕縛されたリカルドは皇帝の間に引きずり出されていた。
「ほぅ、流石のザイツ家。長年忠臣として皇帝を補佐してきただけのことはあるという事ですねぇ…。」
玉座に鎮座する男は身分をすぐに見破った。
「私がザイツ家と分かるということは面識でもお有りかな?」
「アー、何度かねぇ。此処に依り代を仕掛ける際、逐一城内の人間の行動には目を見張っていたからねぇ。」
「…それなら、皇帝が不在だということも知っているのだろう。何がしたい、何が望みだ。」
「勿論知っているともぉ。アストリット領で我が同胞達に襲われ最期を迎えるであろう皇帝・皇后のことも。私は捨て駒に過ぎないけどねぇ。此処にいる理由は万が一に備えて。と行った所でしょうか…。」
「…!?」
もし無事に帰ってこれたとしても、ミドレスト城内は安全ではない。城内に留まっていた人間は十中八九こいつの魔法下に墜ちている。
無事に皇帝一行が帰還できたとしても、城内で戦闘となれば混乱は必至…。
リカルドはチカラを振り絞り、冥府の指輪を用いて、魔法を練り上げる。
すると、兵士が装着している鉄靴(サバトン)がリカルドの腹部(鳩尾)にめり込んだ。
「おいおい、何勝手な事してんのぉ?」
「ぐぅ、ぁッ…かはッ…。」
呼吸が乱れる中、リカルドの栗毛髪を兵士が乱暴に掴む。
冥府の指輪…自身の生命(寿命)を供物にした分だけ、魔力を増幅・安定させ、無詠唱を可能とする指輪。
襲撃者が王座から立ち上がり、リカルドの近づいてくる。
すると、ある風土特有の匂いが香る。
近くに接近してきたからこそ、その匂いに気づくことが出来た。
「ゴホ…っ。白樺に…マグノリアの香りか。お前の顔に見覚えはないが、お前がエーヴァイル家の人間だということは分かったぞ。」
「…!!」
バンギッド大陸の環境下でも耐えうることが出来る植物であること。
大陸によって自生している木々は異なる。白樺はバンギッド大陸特有のもの。バンギッド大陸の首都はヤマザクラ、地方によってはスズラン、クロフネツツジやスペキオススと園芸を嗜む者(貴婦人達)から愛され、特産品として売買が行われている程だ。その中でマグノリアが盛んな自治領は…エーヴァイル領なのだ。
リカルドが正体を見破る。
動揺する襲撃者(ルーベルト)に追い打ちを掛けるようにリカルドはさらに分析する。
「エーヴァイル家の次男以下だろう…。歳的に次兄ルーベルト・エイス・エーヴァイルか。」
此処まで行くと襲撃者(ルーベルト)はいっそ感心してしまう。感心と同様に、その観察眼に畏怖もしていた。
「…流石、お見事というほかないなぁ。ザイツ家とは誠恐ろしい一族ですねぇ。貴方みたいに頭のキレる人は邪魔でしかない。殺すしかないナッ。」
あわよくば弱らせ再度傀儡にしようと試みるのもありかと考えていたが、リカルドの生存はリスクの方が大きいと判断する。
兵士の腰にぶら下がっている長剣を引き抜く。
「それは、誉め言葉かな?でも私も殺されたくないんでな。【偽者(インポスタ)】!!」
ルーベルトが斬り捨てようと刃を突き出す決断を下したのと同時、いや紙一重でリカルドの魔法発動の準備が整う。
無詠唱魔法を放つと、リカルドの持つ指輪に装飾されていた宝石の一つが砕け散る。一度は霧散しかけた魔力を文字通りの命懸けで繋ぎ止めていたのだ。
不意打ちの速攻魔法に、リカルドは対処しきれずまともに受ける。
身体が灼ける様に熱くなり、蹲るリカルドは組織が細胞が作り変えられていくのを知覚する。
「どうだ、"ルーベルト"。いや、"リカルド"と呼んだ方がいいかな。」
宰相リカルドにリカルドと呼ばれ、刃に反射して映る自身を視る。
そこに映っていたのは紛れもないもう一人のリカルド・アンドレ・ザイツ本人そのものだ。
【偽者(インポスタ)】…呪詛。姿形を術者の思うがままに変形させ、元の姿を奪うことが出来る。聖魔法上位職者又は術者本人により解呪可能。【呪詛共通】術者を殺害すると呪いが強まる。禁忌に類される魔法。
「本当は魔物にでも変えてやろうかとも思ったがな…。何分急拵えでベース(素体)を変えることまでは出来なんだが…。はぁはぁ…解呪には私の手が要るな。正体がその場でバレてもいいなら司教にでも頼み込むか?いっそ、その姿でサイモン殿に会いにでも行くか?弁明の余地なく葬られそうだな。」
「ぐっ、、きさまァァアアアアアッ!!!!」
したり顔のリカルドにルーベルトは激昂するが、剣を喉元に突き立てるだけでそれ以上の手出しが出来なくなってしまった。
作戦を一人で決行してきたが故に、リカルドの姿見のルーベルトがルーベルトであることを証明するのは至難を極める事となった。
ルーベルトは聖魔法系統を扱えない。自力での解呪は不可能だ。
他者に解呪してもらうにしても恐らくリカルドより高位の実力者でなければならない。一国の宰相をも務めるリカルドに並ぶ聖魔法を使用できる神官がこの世にどれだけいるだろうか。
そのような人物に自身の幻術が効くかどうかも怪しい。
現にリカルドには対抗魔法の類いで打ち消されてしまっている。
神への信仰は聖魔法の効力、呪詛抗力を高める。
どうしようもなくルーベルトは本物の宰相リカルド・アンドレ・ザイツを殺すことも出来ず、秘密裏に幽閉する他なくなってしまい、リカルドに成りすますこととなる。
解呪まで幽閉されたリカルドの監禁生活が始まった瞬間でもあった。
皇帝率いる使節団の帰還後、怪しまれぬよう兵士や侍女達には“いつも通り”務められるよう制限・制約(ギアス)を掛けた状態で意識を戻すことにした。
バンギッド大陸デンブルク領エーヴァイル家、首謀者は今回の作戦を失敗とし、討死確認の取れている三男、四男と共に連絡の取れない次男ルーベルトと部下数十名の弔いを行う。
公に発表されている死亡内容は原因不明の流行病とされている。自領での健常者感染予防対抗措置として感染源を焼殺したため、感染病の特定、又対処法については不明としている。
暗殺事件の顛末をリカルドとなったルーベルトは皇帝帰還後、報告書を読んで知る事となる。
・エーヴァイル家の三男ヨルク、四男ハイゲンらしき人物の討死確認。次男ルーベルトはエーヴァイル家の【公式発表】より死亡確認。全死体回収に失敗。
・ゼブレスト皇国右大臣エディ、皇后ミリア、近衛兵長ハミッド、近衛兵長補佐アシュトン等大臣・兵士含む七九人の戦死確認。
・ゼブレスト皇帝、左大臣ディアナ、外務大臣ソフィア、ロザリー公爵を含む兵士二二人の重傷者確認。
・犯行はバンギッド大陸、デンブルク自治領領主サイモン・ノックス・エーヴァイルらの犯行が濃厚。
・使節団として引き連れていた計二百名の内、百一人の死傷者が出たため、アストリット領との友和親交に皇帝自ら執り行った使節訪問は中止。
・損失、大。一部役職の空きの補填、兵士の補充・強化を求む。
報告書を読み、壮絶な戦いが繰り広げられた末に弟達の戦死を知る。
そして自身の死亡報告に困惑する…。
生き残りはデンブルク自治領に帰っている頃だろう。
ミドレスト国内の殆どの機能が麻痺している内にリカルド(ルーベルト)は一縷の望みに掛け、孤軍奮闘し続けた。
彼は自身の魔法で操った兵をデンブルク領内に送りつけ、父上(サイモン)に私(ルーベルト)は生きているとの書簡を持たせた。
勿論、家族内で使われる隠語を用いて。
しかし送りつけた兵士が帰ってきた試しも返事はなかった。
幾度かの連絡後、やってきたのは刺客であった。
寝室にて眠りに着こうとした矢先、刃物が首元に押しつけられる。
黒い影溜りから刃物を持った片腕だけが此方へ伸びている。
「お前(リカルド宰相殿)を殺す依頼とルーベルトの始末を任されててな?出来たら居場所を吐いてもらえんかね?」
影の中から声が聞こえてくる。
「ど、どういう事だ!!何を言って…?!手紙は其方に渡ったのか??ワタシは忌まわしい呪詛を受けて…」
「一族のみが知る隠語を用いたそうな?依頼主がそれはもう憤慨しててなぁ。簡単に口を割った愚息は見せしめに酷ぉぉく殺してくれとの事なんだわ。ヤツ(ルーベルト)の居場所を吐いてくれんならアンタはサクっとヤッてやるよ??」
暗殺者は聞く耳は持ち合わせていないようで、此方の話をぶった切って再度質問を重ねてくる。
生きて帰りたいとは望んではいなかった。だが、裏切り者、役立たずの称号を以ってサイモンの刺客にみすみす殺される訳には行かなかった。
「まぁ話す気なんてねぇよなぁ…。ヒヒッ、じゃサクッと死んでくれや。」
振りかぶられた腕は切り落ち、影溜りの中に刀が突き刺さる。
魔力制御を失った男の身体は魔法と共に爆散する。
ベッドや壁一面は瑞々しい肉骨粉に塗れ、夥しい量の血を被った。
宰相は目を開けるのもやっとの中、突き刺さる刀の柄頭に片足を乗せて佇む天使を見る。
「大丈夫…?」
命を救われ、声をお掛け下さるとは…。
ルーベルトは初めて安堵感に呑まれ、意識をそのまま手放した。
この日の仕事の腕を高く買われた少女こそ、彼の想い人である。それ以降も、悉く暗殺者を討ち斃したのは、裏仕事の依頼を請負った彼女(ニーナ・イングリッド)であった。
四面楚歌のような生活に…《偽りの味方(ゼブレスト)に正体がバレやしないかビクビクし続け、真の味方(デンブルク)には命を狙われ続けた》心安まる刻など彼(ルーベルト)に与えられる筈もなかった。彼(ルーベルト)にとって、熾天使(ニーナ)は癒しそのものだった。
唯一の安らぎを彼女に感じてしまっていたのだ。それ故に彼は苦しんだ。
敵国の女に魅了されている事実が許せなかったのだ。
女に現を抜かしている場合ではない。と頭はでは分かっている。
だが、心を律する事が出来ないのだ。
いや、出来なくなっていた。
それ程、彼は弱り切っていたのだ。
狂信的な盲目的なエーヴァイル家への忠誠心は彼(ルーベルト)の心を苛み、蝕み、信仰は狂気へ、恋慕は執着へ、侵攻の継続は生への固執へ。
"手段が目的に、すり替わるのに充分な時間"がルーベルトを壊した。
転換期を経て、皇帝派であるリカルドはその立場を利用し、半数以下の重臣達を自分の傀儡にしていくのであった。
「たのしみですねぇ…。ニーナ・イングリッドさまぁ…。キヒヒヒヒヒヒ。」
精根尽き果て、腟部から脈打つ男根を抜き取る。犯されていた少女は下腹部を微かに痙攣させながら、ぐったりと横たわる。落ち着いた宰相リカルド(ルーベルト)は未来の少女の末路を幻視しながら独白を零すのであった。
「ほぅ、流石のザイツ家。長年忠臣として皇帝を補佐してきただけのことはあるという事ですねぇ…。」
玉座に鎮座する男は身分をすぐに見破った。
「私がザイツ家と分かるということは面識でもお有りかな?」
「アー、何度かねぇ。此処に依り代を仕掛ける際、逐一城内の人間の行動には目を見張っていたからねぇ。」
「…それなら、皇帝が不在だということも知っているのだろう。何がしたい、何が望みだ。」
「勿論知っているともぉ。アストリット領で我が同胞達に襲われ最期を迎えるであろう皇帝・皇后のことも。私は捨て駒に過ぎないけどねぇ。此処にいる理由は万が一に備えて。と行った所でしょうか…。」
「…!?」
もし無事に帰ってこれたとしても、ミドレスト城内は安全ではない。城内に留まっていた人間は十中八九こいつの魔法下に墜ちている。
無事に皇帝一行が帰還できたとしても、城内で戦闘となれば混乱は必至…。
リカルドはチカラを振り絞り、冥府の指輪を用いて、魔法を練り上げる。
すると、兵士が装着している鉄靴(サバトン)がリカルドの腹部(鳩尾)にめり込んだ。
「おいおい、何勝手な事してんのぉ?」
「ぐぅ、ぁッ…かはッ…。」
呼吸が乱れる中、リカルドの栗毛髪を兵士が乱暴に掴む。
冥府の指輪…自身の生命(寿命)を供物にした分だけ、魔力を増幅・安定させ、無詠唱を可能とする指輪。
襲撃者が王座から立ち上がり、リカルドの近づいてくる。
すると、ある風土特有の匂いが香る。
近くに接近してきたからこそ、その匂いに気づくことが出来た。
「ゴホ…っ。白樺に…マグノリアの香りか。お前の顔に見覚えはないが、お前がエーヴァイル家の人間だということは分かったぞ。」
「…!!」
バンギッド大陸の環境下でも耐えうることが出来る植物であること。
大陸によって自生している木々は異なる。白樺はバンギッド大陸特有のもの。バンギッド大陸の首都はヤマザクラ、地方によってはスズラン、クロフネツツジやスペキオススと園芸を嗜む者(貴婦人達)から愛され、特産品として売買が行われている程だ。その中でマグノリアが盛んな自治領は…エーヴァイル領なのだ。
リカルドが正体を見破る。
動揺する襲撃者(ルーベルト)に追い打ちを掛けるようにリカルドはさらに分析する。
「エーヴァイル家の次男以下だろう…。歳的に次兄ルーベルト・エイス・エーヴァイルか。」
此処まで行くと襲撃者(ルーベルト)はいっそ感心してしまう。感心と同様に、その観察眼に畏怖もしていた。
「…流石、お見事というほかないなぁ。ザイツ家とは誠恐ろしい一族ですねぇ。貴方みたいに頭のキレる人は邪魔でしかない。殺すしかないナッ。」
あわよくば弱らせ再度傀儡にしようと試みるのもありかと考えていたが、リカルドの生存はリスクの方が大きいと判断する。
兵士の腰にぶら下がっている長剣を引き抜く。
「それは、誉め言葉かな?でも私も殺されたくないんでな。【偽者(インポスタ)】!!」
ルーベルトが斬り捨てようと刃を突き出す決断を下したのと同時、いや紙一重でリカルドの魔法発動の準備が整う。
無詠唱魔法を放つと、リカルドの持つ指輪に装飾されていた宝石の一つが砕け散る。一度は霧散しかけた魔力を文字通りの命懸けで繋ぎ止めていたのだ。
不意打ちの速攻魔法に、リカルドは対処しきれずまともに受ける。
身体が灼ける様に熱くなり、蹲るリカルドは組織が細胞が作り変えられていくのを知覚する。
「どうだ、"ルーベルト"。いや、"リカルド"と呼んだ方がいいかな。」
宰相リカルドにリカルドと呼ばれ、刃に反射して映る自身を視る。
そこに映っていたのは紛れもないもう一人のリカルド・アンドレ・ザイツ本人そのものだ。
【偽者(インポスタ)】…呪詛。姿形を術者の思うがままに変形させ、元の姿を奪うことが出来る。聖魔法上位職者又は術者本人により解呪可能。【呪詛共通】術者を殺害すると呪いが強まる。禁忌に類される魔法。
「本当は魔物にでも変えてやろうかとも思ったがな…。何分急拵えでベース(素体)を変えることまでは出来なんだが…。はぁはぁ…解呪には私の手が要るな。正体がその場でバレてもいいなら司教にでも頼み込むか?いっそ、その姿でサイモン殿に会いにでも行くか?弁明の余地なく葬られそうだな。」
「ぐっ、、きさまァァアアアアアッ!!!!」
したり顔のリカルドにルーベルトは激昂するが、剣を喉元に突き立てるだけでそれ以上の手出しが出来なくなってしまった。
作戦を一人で決行してきたが故に、リカルドの姿見のルーベルトがルーベルトであることを証明するのは至難を極める事となった。
ルーベルトは聖魔法系統を扱えない。自力での解呪は不可能だ。
他者に解呪してもらうにしても恐らくリカルドより高位の実力者でなければならない。一国の宰相をも務めるリカルドに並ぶ聖魔法を使用できる神官がこの世にどれだけいるだろうか。
そのような人物に自身の幻術が効くかどうかも怪しい。
現にリカルドには対抗魔法の類いで打ち消されてしまっている。
神への信仰は聖魔法の効力、呪詛抗力を高める。
どうしようもなくルーベルトは本物の宰相リカルド・アンドレ・ザイツを殺すことも出来ず、秘密裏に幽閉する他なくなってしまい、リカルドに成りすますこととなる。
解呪まで幽閉されたリカルドの監禁生活が始まった瞬間でもあった。
皇帝率いる使節団の帰還後、怪しまれぬよう兵士や侍女達には“いつも通り”務められるよう制限・制約(ギアス)を掛けた状態で意識を戻すことにした。
バンギッド大陸デンブルク領エーヴァイル家、首謀者は今回の作戦を失敗とし、討死確認の取れている三男、四男と共に連絡の取れない次男ルーベルトと部下数十名の弔いを行う。
公に発表されている死亡内容は原因不明の流行病とされている。自領での健常者感染予防対抗措置として感染源を焼殺したため、感染病の特定、又対処法については不明としている。
暗殺事件の顛末をリカルドとなったルーベルトは皇帝帰還後、報告書を読んで知る事となる。
・エーヴァイル家の三男ヨルク、四男ハイゲンらしき人物の討死確認。次男ルーベルトはエーヴァイル家の【公式発表】より死亡確認。全死体回収に失敗。
・ゼブレスト皇国右大臣エディ、皇后ミリア、近衛兵長ハミッド、近衛兵長補佐アシュトン等大臣・兵士含む七九人の戦死確認。
・ゼブレスト皇帝、左大臣ディアナ、外務大臣ソフィア、ロザリー公爵を含む兵士二二人の重傷者確認。
・犯行はバンギッド大陸、デンブルク自治領領主サイモン・ノックス・エーヴァイルらの犯行が濃厚。
・使節団として引き連れていた計二百名の内、百一人の死傷者が出たため、アストリット領との友和親交に皇帝自ら執り行った使節訪問は中止。
・損失、大。一部役職の空きの補填、兵士の補充・強化を求む。
報告書を読み、壮絶な戦いが繰り広げられた末に弟達の戦死を知る。
そして自身の死亡報告に困惑する…。
生き残りはデンブルク自治領に帰っている頃だろう。
ミドレスト国内の殆どの機能が麻痺している内にリカルド(ルーベルト)は一縷の望みに掛け、孤軍奮闘し続けた。
彼は自身の魔法で操った兵をデンブルク領内に送りつけ、父上(サイモン)に私(ルーベルト)は生きているとの書簡を持たせた。
勿論、家族内で使われる隠語を用いて。
しかし送りつけた兵士が帰ってきた試しも返事はなかった。
幾度かの連絡後、やってきたのは刺客であった。
寝室にて眠りに着こうとした矢先、刃物が首元に押しつけられる。
黒い影溜りから刃物を持った片腕だけが此方へ伸びている。
「お前(リカルド宰相殿)を殺す依頼とルーベルトの始末を任されててな?出来たら居場所を吐いてもらえんかね?」
影の中から声が聞こえてくる。
「ど、どういう事だ!!何を言って…?!手紙は其方に渡ったのか??ワタシは忌まわしい呪詛を受けて…」
「一族のみが知る隠語を用いたそうな?依頼主がそれはもう憤慨しててなぁ。簡単に口を割った愚息は見せしめに酷ぉぉく殺してくれとの事なんだわ。ヤツ(ルーベルト)の居場所を吐いてくれんならアンタはサクっとヤッてやるよ??」
暗殺者は聞く耳は持ち合わせていないようで、此方の話をぶった切って再度質問を重ねてくる。
生きて帰りたいとは望んではいなかった。だが、裏切り者、役立たずの称号を以ってサイモンの刺客にみすみす殺される訳には行かなかった。
「まぁ話す気なんてねぇよなぁ…。ヒヒッ、じゃサクッと死んでくれや。」
振りかぶられた腕は切り落ち、影溜りの中に刀が突き刺さる。
魔力制御を失った男の身体は魔法と共に爆散する。
ベッドや壁一面は瑞々しい肉骨粉に塗れ、夥しい量の血を被った。
宰相は目を開けるのもやっとの中、突き刺さる刀の柄頭に片足を乗せて佇む天使を見る。
「大丈夫…?」
命を救われ、声をお掛け下さるとは…。
ルーベルトは初めて安堵感に呑まれ、意識をそのまま手放した。
この日の仕事の腕を高く買われた少女こそ、彼の想い人である。それ以降も、悉く暗殺者を討ち斃したのは、裏仕事の依頼を請負った彼女(ニーナ・イングリッド)であった。
四面楚歌のような生活に…《偽りの味方(ゼブレスト)に正体がバレやしないかビクビクし続け、真の味方(デンブルク)には命を狙われ続けた》心安まる刻など彼(ルーベルト)に与えられる筈もなかった。彼(ルーベルト)にとって、熾天使(ニーナ)は癒しそのものだった。
唯一の安らぎを彼女に感じてしまっていたのだ。それ故に彼は苦しんだ。
敵国の女に魅了されている事実が許せなかったのだ。
女に現を抜かしている場合ではない。と頭はでは分かっている。
だが、心を律する事が出来ないのだ。
いや、出来なくなっていた。
それ程、彼は弱り切っていたのだ。
狂信的な盲目的なエーヴァイル家への忠誠心は彼(ルーベルト)の心を苛み、蝕み、信仰は狂気へ、恋慕は執着へ、侵攻の継続は生への固執へ。
"手段が目的に、すり替わるのに充分な時間"がルーベルトを壊した。
転換期を経て、皇帝派であるリカルドはその立場を利用し、半数以下の重臣達を自分の傀儡にしていくのであった。
「たのしみですねぇ…。ニーナ・イングリッドさまぁ…。キヒヒヒヒヒヒ。」
精根尽き果て、腟部から脈打つ男根を抜き取る。犯されていた少女は下腹部を微かに痙攣させながら、ぐったりと横たわる。落ち着いた宰相リカルド(ルーベルト)は未来の少女の末路を幻視しながら独白を零すのであった。
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