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◆付き合ってない
パラスの誕生日
しおりを挟む「来週、誕生日だね。何か欲しいものはある?」
彼はその質問にしばらく考え込んだ。場所はレストラン。高級な部類の場所で、店内には落ち着いた空気が流れている。僕は食事を口に運びながらのんびりと彼の言葉を待った。
「今朝皿が割れた」
「うん」
「買って」
とても短い会話だ。どんな大きさの、どんな用途の、どんな形のお皿が欲しいか、一切分からない。でも僕は追求しなかった。彼のささやかな望みに対して、最高の物を送ろうと心に決めただけだ。
◇◇◇
僕は三日かけてネットの海でお皿を探し、とても良いお皿を見つけて丸一日を使って離島に買いに行った。伝統工芸品で、美しい青い模様が特徴的だった。僕の髪の色に似ていて少し親近感が湧く。
僕がこれを選んだ一番の理由は頑丈さだ。特殊な技術が使われていて、金槌でも使って無理矢理割ろうとでもしない限り割れない。彼は長く使えるこれを見てとても満足してくれるだろう。きっとお気に入りのお皿として毎日使ってくれる。使う度に僕のことを思い出してくれる。
彼にプレゼントするのが楽しみで仕方なかった。
◇◇◇
誕生日当日、僕は朝一で彼の家を訪れた。彼は誰が訪ねてきたのか確認すること無く不用心に玄関の扉を開けた。
「誕生日おめでとう」
僕は満面の笑みでプレゼントのお皿を差し出した。お皿は白い箱に入れて赤いリボンで綺麗にラッピングしている。
彼は目を見開いて硬直していた。
「受け取って」
僕がお皿を近付けると、彼はとても険しい顔をしてすぐさま玄関の扉を閉めようとした。僕は扉の隙間に足をねじ込み、皿を小脇に抱えて手で強引に扉を開いた。
「待って。ただ君に贈り物をしたいだけなんだ。お皿、欲しいって言ってたじゃないか。だから用意したんだよ。きっと気に入ってくれる」
「何の……何の話をしてるんだよ!? 会ったことも、話したこともないのに贈り物? 誰なんだよ、俺は君に頼み事なんてしてない、なんで俺の家に……」
彼は益々険しい顔をしている。彼は一つ勘違いをしている。僕は彼にお願いされた訳じゃない。
「言ってたのを聞いただけだよ」
レストランで、僕の後ろの席に座っていた彼と『恋人』の会話を聞いていただけだ。
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