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◆付き合ってる
指輪
しおりを挟むお風呂から上がると、先にお風呂から上がりソファーでくつろいでいたパラスに手招きをされた。
「誕生日おめでとう」
嬉しげな笑顔で僕を祝ったパラスは小さな黒い箱を差し出してきた。手のひらに収まるぐらいのサイズだ。
「僕の為に用意してれたんだね。嬉しいよ。泣いてしまいそう。お礼にハグをしてあげよう」
箱を受け取ってから抱きつけばパラスはぎゅっと抱き返してきた。感じる体温は温かくて心地良い。うんうん、どこからどう見ても仲睦まじいほのぼのとしたカップルだ。お互いがお互いを大好きだと、見ているだけで感じ取れるだろう。きっと誰もがこの二人は幸せなんだなと思うだろう。
パラスが寝た後、僕は貰った箱を開けた。中には指輪が入っていた。驚きもなければ感動もなかった。明らかに指輪が入っているという形の箱だったし、何より、彼はプレゼントに指輪しか選ばない。
僕はうんざりしていた。最初こそ、初々しくちょっと照れくさそうに渡してきたパラスが可愛くて堪らず、僕は有頂天になる程に喜んだ。指輪を毎日身につけて友人に自慢ばかりしていた。まあ僕に友人はほぼいないのだけれど、そこは置いておくとして。
問題はその後だ。僕が喜んだことに味をしめたのか、パラスはそれ以降何かにつけて指輪を贈ってきた。誕生日、付き合いだした記念日、初めてえっちした日、クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー、果ては新年のお祝いにすら渡してきた。
もう全部の指につけたって余る程に貰っている。彼との思い出の品を入れる為に買った宝箱からも溢れている。特別感の欠片もない。ベットボトルのキャップぐらいの存在感になってしまっている。
いい加減、いらない。
翌日の朝、キッチンで手を洗っているパラスを見つけ、僕はすすっと近付いて話し掛けた。
「君に話があるんだ」
「梨なら皮剥いて冷蔵庫に入れた」
「梨の行方を聞いてる訳じゃないんだよ。君から貰ったプレゼントの話だ」
「プレゼントの? 何? サイズは合ってただろ。それとも太って入らなくなった?」
「僕の体型が変わってないことは誰よりも触ってる君が一番分かるだろう」
「じゃあ何なの」
タオルで手を拭き始めたパラスは心底不思議そうにしている。
「指輪、もう欲しくないんだ。もう一生分貰った。というか来世分も貰った。そろそろ他のものが欲しいよ」
「どんな」
「そこは僕のことを想いながら君が選んでくれ」
「スライムとかでいい?」
「よくないよ。なんでそうなっちゃうんだ」
手を拭き終わったパラスは僕を抱き寄せて額にキスをした。
「来月の記念日、ディナーに連れて行ってあげる。その時にプレゼントも渡すよ」
そう言い残してパラスはキッチンから出ていった。僕はきっと楽しく過ごせるであろう来月の事を想像し、うきうきしながら冷蔵庫の中の梨を取り出した。
そして記念日当日、お高いお店のお高いコースを味わっていると、彼はおもむろに小さな箱を取り出した。手のひらに収まるぐらいのサイズだ。
「……指輪じゃないよね?」
「俺のこと馬鹿だと思ってる?」
「多少」
明らかにイラッとした顔をされてしまった。だって君はたまに凄く頭の悪い事を言い出すじゃないか。
差し出された箱を受け取り彼がそこまで馬鹿ではない事を祈りつつ箱を開けた。中に入っていたのはシルバーのピアスだった。さりげないながらも小洒落ているデザインだ。なるほど、素敵なプレゼントだ。僕の為に時間をかけて悩み、これを選んでくれたのなら嬉しい。愛情を感じる。
僕がピアスをあけていたなら。
「なんで微妙に違う方向に行っちゃうんだ君は……。僕にピアスホールがないことぐらい知っているだろう」
「もう一個プレゼントあるよ」
「えっ」
萎えきっていた気分が少し上がった。どきどきしながら「何?」と尋ねる。
「ニードル」
パラスが取り出したのは個包装されたピアスを開ける時に使うニードルだった。要は太くて穴のあいた針だ。
「なんであけさせようとしてるんだ」
「あけてあげる」
「嫌だよ。痛いのは嫌いなんだ」
「痛いのは一瞬だよ」
「嘘だ。君はそういう時嘘をつくんだ。セックスする時だってそうだった」
重々しい溜め息を吐いた。パラスの方はと言うと、ちょっと落ち込んだような顔をしていた。少し、可愛い。可愛い顔を見て僕の気分は上向きになった。
「君の苦手分野だということはよく分かったよ。今度からプレゼントは一緒に考えよう。これ、ありがとう」
ピアスを大事にポケットの中に入れた。
「次はクリスマスだね」
「クリスマスなら俺にもいい案があるよ」
「本当? どんなプレゼント?」
「木彫りのサンタ」
「もう君は何も考えないでくれ」
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