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◆付き合ってない
ナンパ
しおりを挟む街で歩いてる最中に好みの男を見つけた。俺より少しだけ低い背をした細身で童顔の男だった。最初に柔らかそうな青い髪に目を奪われた。それから太陽を反射してきらきらと輝く黄色い瞳に心を奪われた。どれほど好みかと言うとそいつに目を取られるあまりに他の通行人に激突したほどだ。
通行人には「死ね」と適当に謝り内心で「すみません」と思いつつ、俺は急いでそいつの後をつけた。これ程好みの相手に出会える機会なんて今後あるかなんて分からないから逃したくなかった。面食いである自覚はある。俺にとって他人の性格なんてどいつもこいつも大して変わらない。見てくれを重視するのも当然の事だ。美人な殺人鬼と不細工な一般人なら殺人鬼の方が良い。
声をかけるタイミングを見計らっているとそいつはスーパーへと入っていった。買い物かごを取り、野菜コーナーへ向かい、熱心に大根を物色している。特売日でもなく、中途半端な時間帯なこともあり辺りには人は全くいない。店内には不慣れそうな声の店内放送が流れていた。
ここでは話し掛けづらい。外に出るのを待って道でも聞くふりをして声をかけた方がまだ自然だろう。
そいつは大根だけを買い店を出て行った。俺はスマホを取り出して、それとなく地図を表示し、さも道に迷っている風な顔をしてそいつに近付いた。
「ねえ、道を聞いていい?」
「え?」
返ってきた声は想像以上に高く、かなり若そうだった。未成年じゃないかと少し不安になった。見てくれは大事だが流石に子供に手を出す気はない。
「この店なんだけど」
「ああ、それなら、あっちだよ」
「君っていくつ?」
「二十歳」
ギリギリだな。しかし子供じゃないならそれで良い。
「それ今日の夕飯?」
「お店に行くんじゃなかったのかい?」
「気になったから」
「そう?」
そいつは首を傾げてなんとも言えない表情を浮かべている。間違いなく怪しまれている。適当な事を言って警戒を解き何とか連絡先を獲得したい所だ。
「あ、これナンパだろ? うんうん、分かるよ。僕かわいいからね。声かけたくなるよね。僕の家に来るかい?」
話が早いにも程がある。
俺は面食らっていた。
「来ないの?」
行くけども。
招かれたのはマンションの一室だった。玄関には同じサイズの靴だけが並んでいた。部屋自体は少し手狭な印象はあるが、一人暮らしだとすれば十分な広さだろう。道路から程近いが部屋に入った途端に周辺の音は全く聞こえなかった。防音も中々。良い部屋の部類だろう。
そいつは台所に向かい冷蔵庫を明け、野菜室でもなんでもない場所に大根を入れた。冷蔵庫の中はやけにがらんとしていた。調味料ぐらいしか入っていないんじゃないだろうか。
「夕飯、何にするつもりなの?」
「んー」
生返事をしながらそいつは冷蔵庫を閉じる。そいつは俺に近付き抱き着いてきた。まさぐるように身体を撫で、それからベルトを外そうとして来る。
待て、話が早い上に展開が早いにも程がある。
「君、どれだけ飢えて……」
「え? ああ、お腹なら空いてるよ。
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