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◆付き合ってない
双子
しおりを挟む双子の兄が死んだ。信号を無視したトラックに撥ねられて、即死だった。
両親は大事に育てて来た愛息子を失い泣き崩れていた。僕はと言うと、涙は出て来なかった。あまり実感が無かったし、そもそも、そんなに仲も良くなかった。だから葬式に来た名前も分からない遠い親戚からかけられる慰めの言葉にも、曖昧にしか返事を出来ない。
兄弟が死んだら悲しいなんて、単なる思い込みじゃないだろうか。もし僕が死んでいたとしてもあいつは泣かなかったと思う。
そんな事を思っていたけれど、口には出さなかった。流石の僕でも、その言葉を口にしたらどんな目で見られるか分かっている。
感情のやり場がない葬式の最中、僕はとある人に目を奪われた。兄の友人たちの中に紛れていたその人。長めの橙色の髪をしていたその人は、静かに泣いていた。
僕を責めないで欲しい。反射的に思ってしまったのだから、仕方ない。僕はその人に確かな劣情を抱いた。彼の手を取って葬式なんて抜け出して、手近なホテルにでも連れ込んで、抱いてしまいたかった。
式の最中、僕はずっとその人を見ていた。一度も目は合わず、僕はそれが残念でならなかった。
「あの人の名前知ってる?」
ハンカチで目を押えている母にそんな事を聞いた。あまり期待はしていなかったのだけれど、母は答えてくれた。兄の大学の友人で、一度家に来たことがあるのだという。
僕は記憶に刻み込むように母から聞いた名前を何度も心の中で復唱した。
◇◇◇
葬式も火葬も全て終わり帰宅した後、僕は喪服から着替えもせず自室で兄の遺品であるスマホを弄っていた。画面は事故の時の衝撃で大きくヒビが入ってしまっている。
スマホにはロックがかかっているのだけれど、僕には関係なかった。兄のスマホは顔認証で開く。機械ごときに、僕と兄の区別なんて付かなかった。
僕は兄と葬式場にいた彼のやり取りを探した。目当てのものはすぐに見つかった。兄と彼は頻繁にやり取りをしていたようだった。最後のやり取りは彼から送られてきた写真だった。左手が写っている。薬指には銀色の指輪がある。
「君から貰ったやつちゃんとつけてるよ、ねえ……」
まさかただの友人にそんなものを贈る筈が無い。ただの友人に贈られたものを、そこに着ける筈が無い。つまり兄と彼はそういう間柄だった訳だ。
「はあ……」
もはや兄と彼のそれ以前のやり取りを遡る気になんてなれなくて、重々しい溜め息をついた。酷い気分だ。僕と兄はとにかく似ていた。親でさえ見分けがつかなかった。
似ているのは顔だけで良かったのに。好みの相手まで似ているなんて、こんなに嫌なことは無い。
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