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◆付き合ってない
押し付け
しおりを挟むばさりと音がして、友人のスラッジがさっきから一人でせっせと作っていたトランプタワーが崩れた。スラッジは数秒無言になり、溜め息を吐いたかと思うと雑な手付きでローテーブルからトランプを全て払い落とした。どうせ後から拾わないといけないのだから八つ当たりなんてしなければいいものを。
やる気が全部なくなったらしいスラッジは床にごろりと横になった。俺は別に何を言うでもなく、散らばったトランプを片付けてやる訳でもなく、ただスラッジの隣でスマホを弄っていた。
数分して、スラッジは突然思い立ったように起き上がり床に散ったトランプを数枚拾い上げた。何かと思いそちらに目を向ける。
「賭けをしよう」
「……は?」
突然何を言い出すんだこいつは。
「このトランプ三枚使ってさ、ババ抜きしよう。僕が勝ったら君の人生をちょうだい」
「は、あ?」
あまりにも突飛な内容に困惑する俺の手にスラッジはトランプを一枚押し付けてくる。しつこく押し付けてくるのが鬱陶しくて一旦受け取ったら、スラッジは俺が賭けを受けると思ったのかとても嬉しそうな顔をした。
「やるなんて言ってない。そんなのやって俺に何の得があんの? そもそも人生が欲しいってどういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。人生全部ちょうだい。君のこと好きにさせて。僕にあげたくないなら勝てば良いだけの話じゃないか。君が勝ったら僕の人生あげるよ。ほら、早くやろう? どっち引くか選んで」
「だから、やらないって……」
途中まで言って、俺は言葉を詰まらせた。スラッジが右手でトランプを一枚、表向きで差し出している。スペードの1だ。左手ではもう一枚トランプを持っている。
さっき押し付けられたトランプの柄を確認した。ハートの1だ。差し出されたトランプを引けば、俺の勝ちだ。
「……ババ抜きのルール、知ってるんだよね?」
「やだな、当然じゃないか。最後にババを持ってる方の負けだよ」
何を考えているのかと思いながら、試しに左手の方のトランプを引こうとするとスラッジは露骨に遠ざけた。
俺は無言になり、差し出されたスペードの1を受け取った。納得がいかない心境のままハートの1と合わせてその場に捨てる。
「わあ、負けちゃった」
左手に残ったババをひらひらと揺らしてスラッジは笑っている。
「僕の人生、全部貰ってね」
「……もっとマシな告白方法なかったの?」
「僕のこと好きにしていいよ♡」
「返品させて」
「却下。生涯まとわりつくよ」
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