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◆付き合ってる
四月三日
しおりを挟む「え、あれ本気にしてたの?」
付き合って欲しいと言われ、承諾したはずの相手にそう言われた。確かに告白された日は四月一日、エイプリルフールだった。しかしまさかそんな馬鹿馬鹿しいイベントに乗っかるなんて思っていなかった。
「君って意外と純粋なんだね」
告白してきた相手、スラッジはけらけらと笑っていた。「それより今度映画見に行かない?」なんて話を変えようとしている。
俺はスラッジを殴り倒し、自宅に拉致した。
「鬱陶しいから口縫おうか」
「待って待って待って、やめて!」
台所の椅子に縛り付けたスラッジは必死で首を横に振っている。俺は無視して裁縫針に糸を通した。
「そんなに僕のこと大好きだったの!? 君の純情を弄んだことは謝るから早まらないでくれ!」
「いいよ謝らなくて。縫うから」
「仮にも好きな相手にそんな事しないでくれ!」
「俺の事好きじゃないなら好きじゃない」
糸の端を玉結びにする。学生時代に家庭科でやって以来していなかったから二、三回失敗したが何とか出来た。
「や、やっぱり君のこと好きな気がしてきた!」
「気?」
「君のこと大好きだよ!」
「どこを?」
「か、顔! 顔が好き! あと声と性格と身長と体重と歯並びと足のサイズ!」
「それだけ?」
「僕結構頑張って絞り出したと思うけど!?」
「全部ざっくりし過ぎてて具体性がないから駄目。縫うね」
「待って待って待って待って」
必死にがたがたと椅子を揺らしている。縫いにくいな。
「お……思い立ったらすぐ行動に移すアクティブなところが好き」
スラッジは半泣きになって鼻をぐすぐすとすすっていた。俺はすっと裁縫針から糸を引き抜いた。
「ゆ、許してくれた?」
「俺と付き合うなら」
「勿論だよ。この上なく濃密に愛情を持った関係になろう。だから針はしまおう。しまって二度と取り出さないでくれ」
四月三日、晴れて正式に恋人が出来た。
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