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◆付き合ってない
雨の日
しおりを挟む雨が降っている。そこら辺の人間は傘をさしていたり、これぐらいならと傘を持っているのにささずに走って目的地に向かっていたり、この後大振りになることを予見してかレインコートを着込んでいたり、様々だ。
俺の手元に傘は無い。これから濡れながら帰ると思うとあまりに憂鬱だ。
「傘持ってないの?」
雨の中に一歩踏み出した瞬間に投げかけられたその質問に俺は返事をしなかった。めげるなんて言葉を知らなさそうなそいつは無視されてもねえねえと話しかけ続けてくる。
あまりにもしつこいから、俺が折れて一言「ない」と返事をしたらそれはもう嬉しそうな顔をされた。
「入れてあげようか?」
「あげなくていい」
「心優しい僕は困っている人を見過ごすなんで出来ないよ」
声をかけてきた友人とも言えないレベルの知り合いに、すっと傘の中に入れられた。必要ないと離れようとしてもまとわりついてくる。
「そんなに動くと濡れちゃうよ。大人しく傘の下に収まってくれ。ただでさえ二人入るのには狭いんだから」
「俺が濡れないようにその傘置いて君は一人で帰って」
「ここで頷くのはただの馬鹿だよ」
馬鹿ではあるだろ。
「そもそも、俺が傘持ってないの君のせいだろ」
「君のうっかりは僕の責任じゃないよ。天気予報はちゃんと見るべきだ。今日の夕方は雨だって、昨日から言ってたよ」
「持って来てないんじゃなくて、持って来てたのに壊されたんだよ。どうせ君がやったんだろ」
「どうだったかな。忘れちゃった。まあ仮に僕が悪戦苦闘しながら傘をへし折ってゴミ箱に突っ込むような人間だったとしても、こうして傘に入れてあげようとしてるんだ。僕が心優しいということは疑いようのない事実だね」
なんで俺の傘の末路を詳細に知ってるんだ。やっぱり犯人だろこいつ。
「なんであれ僕のおかげで雨から身を守ることが出来るのだから良いじゃないか。大丈夫、ちゃんと家まで送ってあげる」
「家の場所知られたくないんだけど」
「もう知ってるから安心してくれ。ほら、断る理由はなくなったね」
なんで知ってるんだ。こいつに限らず、大学で知り合った連中に家の場所を教えた記憶なんて一切ない。
「君と一緒にいること自体が嫌」
「嫌いなものは克服するべきだよ。お喋りは歩きながらでも出来るから、早く行こうじゃないか。ニュースでどんどん雨足が強くなるって言ってたよ。早めに家に帰らないと」
真っ当なことを言っている風ではあるけれど元はと言えばこいつのせいだ。
「どうしたの? もしかして君、雨で濡れる方が好きな奇特な人だったりする?」
「君と帰るよりは濡れた方がマシ。そもそもそこら辺で傘買えば……」
「スマホないのにどうやって? 君現金持ち歩かないだろ?」
「は?」
ない訳がない。筈。スマホを入れている筈のポケットに手を突っ込む。ない。いつもここに入れてるのに。
「どうする? コンビニで万引きでもする? 僕と一緒に帰る?僕と一緒にいればスマホも見つかるんじゃないだろうか」
「返せ」
「一緒に帰る?」
「……」
どうやってスマホ盗ったんだこいつ。
「……帰る」
「わあ、やった。雨というのは素晴らしいものだね。毎日降ればいいのに」
何がそんなに嬉しいんだ。俺は頭痛を感じながらそいつと並んで家に向かうはめになった。
家についてから発覚したのだけれど、スマホはただ単に俺が大学に置き忘れていただけだった。
「なんで知ってて黙ってた?」
「君のうっかりは僕の責任じゃないってさっき言ったじゃないか」
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