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とぶまえ

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◆付き合ってない

不自由

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 ルームシェアしていた友人が突然歩けなくなった。普段と変わらない様子でソファーから立ち上がった直後に、力が抜け出たようにその場に倒れて、それきり彼の足は動かなくなった。
 病院に行っても原因は分からず、勿論治療も出来なかった。

 彼曰く、触ったらちゃんと感覚があるのに、どんなに動かそうとしても力が入らないらしい。動かないことが、もどかしく、歯痒くて、腹立たしいと、暗い顔で言っていた。

 数箇所病院に行っても、結局原因は分からなかった。そのうち、他の病院を探して検査して貰おうよと言っても、「もういい」と返されるようになってしまった。彼は家に引きこもるようになった。

 彼の家族はこのことを知っていたけれど、会いに来ることは無かった。世話なんて出来ないと、それはもう薄情なことを言われたらしい。

 僕はというと、彼のお世話をすることに不満はなかった。少し大変ではあったけれど、でも、今の彼は僕以外を頼れないのだと思うと、嬉しさの方が勝った。彼の事はただの仲のいい友人だと思っていた筈なのに、堪らなく愛おしいと感じた。

 手伝って欲しい時に、彼は僕の名前を呼んでくる。最初は申し訳なさそうだったり、躊躇したような様子だったけれど、段々気軽に僕の名前を呼んで頼ってくれるようになった。彼にとって必要不可欠な存在になっていると思うと、あまりにも嬉しくて、満ち足りた気分だった。

 きっと彼も、僕が彼を愛おしいと感じているのと同じように、僕のことを想ってくれているのだと、そう思っていた。



 思っていたのに、楽しい生活は急に終わってしまった。彼の足は突然動くようになった。最初の時のように、本当に突然。

 足が動いた時、彼は唖然としてた。それから目に涙を浮かべて喜んだ。平生の彼は無邪気にはしゃぐことなんて無かったけれど、この時ばかりは別で、喜びを分かち合いたいとばかりの声で僕の名前を呼んだ。

 僕はそれに対して、笑顔を返すことが出来なかった。
 ずっと歩けないままで良かったのに。ずっと僕に頼っていれば良かったのに。ずっとこの生活が続けば良かったのに。そんな事ばかり考えていた。

 彼は僕の態度を不思議がったけれど、嬉しさのせいか、深く気にした様子は見せず「外を歩きたい」と言って部屋を出て行った。

 取り残された僕はどん底のような暗い気持ちになっていた。昨日まで僕は彼の事をあんなにも愛おしいと思っていたのに、今の彼にそんな感情を持つことは出来そうになかった。むしろ、開放されたかのような顔をする彼に苛立ちを覚えた。まるで僕から離れられたことを喜んでいるように感じてしまった。

 無意識のうちに、僕は台所に行って包丁を手にしていた。
 また歩けないようにすればいいだろうか。足の腱でも、切ればいいだろうか。嫌われるかな。

 嫌われてもいいから、僕の手元に置きたいな。


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