創作BL R-18短編集

とぶまえ

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間違ってるクリスマス

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 クリスマスの夜、僕はベッドに横になってぼーっとしながらえっちな動画を見ていた。普段なら画面上で繰り広げられる行為に少しぐらい興奮していたかも知れないけれど、今日はもはやただ流しているだけだった。ひたすら虚しい。

 本当なら今頃は楽しい夜を過ごしている筈だった。とても趣味の合うセフレと、それはもう楽しい事をする予定だった。ところが夕方になって急に「通り魔に刺された」なんて連絡が来てドタキャンされてしまった。一体どんな嘘なんだ。断るにしてももっとマシな言い訳があるだろう。
 楽しいことをする気満々だった僕は欲求を発散したくて別のセフレに連絡を取った。三人ほど連絡をしたけれど、全員、「今日は予定がある」と素っ気ない返事をしてくるだけだった。クリスマスだからと言って皆何を浮かれてるんだ。一人ぐらい予定を開けてくれていたっていいじゃないか。

 僕は諦めて家でやけ酒を飲み、オナニーでもしようかとえっちな動画を流し、そして「僕は一人で何をしているんだ」と虚無感に襲われて結局何もせず横になっていた。スマホからは喘ぎ声が聞こえてくる。楽しそうだなとはぼんやり思いつつも、全く食指が動かない。

「はあ……」

 クリスマスなんて何も楽しくない。



 何だか首元が擽ったい。僕はゆっくりと目を開いた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。

 部屋にはサンタさんがいた。若くて綺麗な顔立ちをしていて、定番の赤い服を着て、赤い帽子を被っているサンタさん。服はペラっとしていてちょっと安っぽい雰囲気を感じた。そこら辺のお店でコスプレ用品として売られていそうだ。彼は何か書いていたのか右手に赤いマジックペンのような物を持っていた。そして何故か、僕に馬乗りになっている。

「──」

 なんで?

「っだ、誰!?」

 思わず叫んでしまった。誰かはすっと目を細めて僕を見下ろしている。面倒くさがっているかのような顔だ。誰かはペンにキャップをすると、自分の服を指先でつまんで見せた。

「サンタだから大丈夫」

 何がどう大丈夫なんだ。

 僕は不審者を通報するべくスマホを引っ掴んだ。ただちに警察に、と思ったけれど、充電が切れてしまっていてスマホはうんともすんとも言わない。変な動画をずっと流しているんじゃなかったと激しく後悔した。

「うちにはお金なんてないから今すぐ出て行ってくれ!」

 叫ぶように言いながらサンタもどきの下から這い出して起き上がった。サンタもどきは殊更に面倒くさそうな顔をしている。

「強盗じゃなくてサンタ」
「不法侵入者だってことには変わりないじゃないか!」

 サンタもどきは驚いたように一瞬目を見開いた。

「サンタはどこの家に入ったって良いだろ」
「良い訳が無いだろう。そんな事が許されるのはフィクションの世界だけだよ」
「……」

 何故か部屋には沈黙が流れた。数秒黙り込んだ後、サンタもどきはすっと赤い帽子を外す。

「サンタクロースはクリスマスなら何をしたって許されるって聞いたんだけど」
「どこから発信されてる嘘情報なんだいそれは。そもそも君はただのコスプレだろう」
「サンタの格好してればサンタだろ」
「サンタなんて存在しないよ」

 至極真っ当な事を言ったのに、サンタもどきはまた驚いたような顔をした。まさか、彼って本当に純粋にサンタを信じている気の狂った人なのだろうか。だとしてもどうして自分がなろうなんて思ったんだ。

「せっかく都合のいい風習があると思ったのに」

 彼は心底がっかりしたようにため息を吐き、ボタンを外して服を脱ぎだした。

「ここで脱がないでくれ。一体なんなんだ君は」
「自己紹介したら満足?」
「満足はしないけれど取り敢えずしてみて」

 上着を脱ぎつつ彼は口を開く。

「名前はパラスーアサイド。普段は地獄に住んでる悪魔。今日ならサンタの格好さえしてれば人間の家に入りたい放題だって聞いたから、飯食べに来た」
「妄想癖があるみたいだ。僕病院で働いてるから紹介してあげよう」
「狂人じゃない」

 彼はばさっと上着を雑に放った。冬だと言うのに上着の下は半袖だった。寒いだろうに、と思いながら視線を向けていると、左腕に大量のリストカットの傷があることに気が付いた。とても痛々しい。

「別の点でも専門家からのケアが必要そうだからやっぱり紹介を……」

 親切心で言ってあげたのに彼は「いらない」とばっさり切り捨てる。

「ちゃんと治療を受けてくれるなら僕の家に不法侵入したことにも目をつぶって上げるよ」
「そんな事より君食べさせて」
「え?」

 彼は真顔で言っている。彼のさっき言った悪魔という言葉を思い出して、サキュバスだとかインキュバスだとか、そういうものが頭に浮かんだ。そして「食べさせて」という言葉が、僕の脳内でえっちな意味に変換された。

「──うん! それなら大歓迎だ! 僕、今日は楽しい事がしたかったんだ!」

 ぐいっと手を引いてベッドに押し倒した。「は?」なんて言う彼を無視して、彼の服をめくりあげる。お腹は程よく筋肉がついていて引き締まっていた。

「うんうん、僕好みの体型だ。鍛えてる? いいことだよ」
「……」
「肌もすべすべしてる」

 触り心地の良い肌をするりと撫でると息を飲む音がした。

「えっちな事したいんだよね? どんなことする? 楽しいこととか、興味ある? ない? ないならこの機会に持ってくれ」

 存在も言動も不審ということはさておいて。今日の僕はとにかく欲求不満だったので、降って湧いてきた相手に心が踊っていた。
 着衣プレイは好きじゃないのでぐいぐいと服を脱がせる。彼はなされるがままだったので、やっぱりえっちな事がしたいのは間違いないみたいだ。
 生まれたままの姿になった彼はようやく口を開いた。

「君が言う楽しいことって何」
「楽しいことだよ。とっても気持ちよくて頭が馬鹿になっちゃいそうなこと。普通にえっちするだけじゃつまらないだろう」
「……」

 考え込むような表情を見せた。僕はそわそわしながら返事を待った。頭の中は楽しいことの想像でいっぱいだった。

「せっかく人間のところに来たんだし、興味なくもない」

 つまりはやりたいと。僕は満面の笑みを浮かべた。

「準備するから待っててね」

 僕はいそいそとベッドから降り、壁際のチェストの一番上の引き出しにしまっていた道具を取り出してベッドに戻った。持ってきたのはベルトで出来た手枷と足枷だ。鎖をベッドの柵に引っ掛け、彼をベッドの上で大の字に拘束する。
 彼は軽く手足を動かし、拘束が外れないことを確認してから僕に視線を向けた。

「何するの?」
「それはお楽しみ」

 僕はするりと彼の性器を撫でた。中々大きい。弄りがいがある。

「ん……」

 軽く握りゆっくりと扱くと彼は小さく息を吐いた。

「どうしても今日やりたかったんだ。君が来てくれて良かったよ」

 少しずつ、少しずつ扱く速度を早め、出て来た先走りを指先で拭って亀頭に塗り付ける。彼の息は段々乱れてきて、身体が動いてしまうのか時折手枷の鎖ががちゃりと音を立てた。

「っ……ん、ぅ……ッ」

 彼は強めに扱く方が好きみたいだ。その方が反応がいい。気持ちよさそうに顔を歪めて、感じ入ったような声を漏らしてくれる。

「あ、ぁっ……ん……、んぅ……っ」

 イきそう? と尋ねると彼はこくこくと素直に頷いた。素直な子は大好きだ。素直じゃない子も、嫌いという訳ではないけれど。だって、いじめがいがある。

「ッあ……」

 もうちょっとで射精してしまいそうなところで手を離せば彼は切なげな声を漏らした。視線が僕に抗議している。

「もっと頭溶けるようなことしてあげるから」

 笑いかけてから彼に軽くキスをした。ちょっと嫌がられてしまったのでそれ以上はせず、僕はベッドから降りてまた道具を取りに行った。チェストから取り出したのはローションとガーゼだ。今日は、本来ならセフレとこれで遊ぶ予定だったんだ。
 ベッドに戻ると彼はもどかしげに小さく腰を揺らしていた。その行動がかわいくて、いたずらしたくなってしまったので先端を指先でくちくちと弄った。

「っう、んぅ……! それ、やめ……ッあ……!」
「うん。やめてあげる。もっと楽しいことしよう」

 言いつつも指を休めずに動かすと彼の足がびくびくと動いた。この触り方に弱いらしい。ということは今からする事にもとても喜んでくれるだろう。
 弄るのはやめてあげて、僕はガーゼにローションをたっぷり垂らした。ベッドにもぼたぼたと垂れていったけれどそんな些細な事は気にしない。

「なに、それ」
「良い物」

 ローションをしっかりガーゼに染み込ませてから、僕はガーゼの両端を持って彼の勃起した性器の先端にガーゼを押し当てた。不思議そうな顔をする彼に笑いかけ、ずりゅ、とガーゼを動かす。その瞬間、彼の身体がびくんと跳ねた。

「っ、あ゙ッ!? ッあ、あああ゙っ……! や゙、やめ、~~~~ッ!」

 ずりゅずりゅと左右に動かすと彼はそれはもういい反応をしてくれた。手枷と足枷からはがちゃがちゃと鎖の音が聞こえてくる。彼の身体はびくびくと跳ね続け、口から漏れているのは酷い喘ぎ声だけだ。

「あ゙あ゙ッ、あ゙ッ、っ~~~! ひ、ぐ、ッゔゔう……!」

 綺麗な顔が歪んでいる。凄く、凄く興奮する顔だ。寝落ちする前に見ていたえっちな動画とは比べ物にならないほどに煽情的で、身体の熱が上がるのが分かった。

「気持ちいいね、楽しいね」
「っ、た、のしく、ない゙ッ……! こんな、ッあああ゙……! やめ゙、手、止め……! んんうゔ……ッ!」
「ね」

 左右にずりゅずりゅと、やっているのは単調な動きだ。それでも彼には堪らないらしくてぶんぶんと首を横に振り喘ぎ声を漏らし続けている。

「あああ゙あ゙ッ! や゙、ああ゙ッ……! あ゙ッ……! ひ、ぃ゙ッ、~~~~ッ!」

 相当刺激が強いのか彼は泣いてしまっていた。僕はほうと恍惚の息を吐いた。そう、そう、こういうのが見たくて、今日という日を楽しみにしてたんだ。

「来てくれて良かった」
「ッ~~~! や゙、あ゙ッ、ああ゙あ゙ッ、やああ゙……ッっ! い゙、ああ゙っ……! やめ゙…ああ゙ッあ゙っ、ああ゙あ゙……ッ!」

 涙で顔をぐちゃぐちゃにして喘いでいる。堪らなくかわいい。

「ひ、ぐ、うゔゔ……ッ! ん゙ゔぅ、ん゙ッ、っん゙、ーー~~~ッっ!」
「あれ。もしかして声抑えようとしてる? 我慢しなくていいのに」
 「ッあ゙あ゙ッ……!」

 ずりゅんと、強めに先端を擦りあげると彼のささやかな我慢はあっさり崩れて悲鳴のような声を漏らしてくれた。 
 ローションを足すためにガーゼを離すと、終わったと思ったのか彼は安堵したように深く息をついた。まだまだ始まったばかりなのに。
 しっかりローションで濡らしたガーゼを持ち、再び彼の性器の先端に押し付ける。

「ひ、や……止め……」
「やめたい?」

 優しく声を掛けながら手の動きを再開させる。彼は背を仰け反らせ身体をがくがくと震えさせた。

「っあ゙ッ、や゙、ああ゙あ゙ッ! いああ゙あ゙あ゙……! あ゙っ、ぁ、ーー~~~~ッ!やめ゙、も゙、ぉ、もゔむり゙……! やめ゙て……!」
「そっかそっか。やめよっか」

 ずりゅずりゅと、さっきまでと同じように先端を荒い繊維で磨きあげるかのように手を動かし続ける。彼はどうしてと絶え絶えに訴えてくる。
 僕は一瞬だけ手を止めてあげて、彼に笑顔を向けた。

「ローション全部使い切ったらやめようね♡」




 朝、目が覚めたら彼はいなくなっていた。彼が脱ぎ捨てたサンタの帽子と上着だけが部屋に落ちている。
 昨日は結局ローションを全て使う事は出来ず、半分使ったぐらいで彼は気絶してしまった。使い切ったら今度は濃厚なえっちをしようとしていたからちょっぴり残念だ。
 まあでも、充分満足出来た。彼、パラスーアサイドって名前だったかな。僕もスラッジだって名乗れば良かった。彼とはまた会いたいな。セフレになりたい。

 昨晩の楽しい記憶を思い出しながら顔を洗う為に洗面所に向かった。すると、鏡に映っている自分の首に赤い点線があることに気が付いた。その色で昨日彼が持っていた赤いペンを思い出した。寝ている間にでも書かれたのだろうか。

 まじまじと眺めると、その線は、手術をする時のマーキングのように見えた。まるで、切る場所を確認していたような。

「……」

 僕ってまさか、えっちな意味で狙われてたんじゃなくて、首を狙われていたんじゃないだろうか。

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