創作BL R-18短編集

とぶまえ

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鬼と狐

抱かれたい狐

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 山の中で食料を探している最中、狐を見かけた。化け狐ではない、普通の狐だ。狐は俺を見つけるなり警戒して走り去って行った。何とも普通の反応だ。どの生き物でもそうだ。俺を見たらすぐに逃げて行く。俺が鬼と分かっていて近寄ってくる生き物なんて、あの化け狐ぐらいだ。

 そんなことを思っていた矢先。

『どっちが僕?』

 夕方、住処にしている山小屋に帰るとそんな事が書かれた手紙と、二つの石ころが床に置いてあった。化け狐の仕業だろう。あいつは何度繰り返せば気が済むんだ。
 俺は石ころに目をやった。どちらもどこにでもありそうな何の変哲もない石だ。

 あいつの化ける精度は知っている。あいつが化けた石だろうが、その辺の石だろうが、見分けがつくとは思えない。
 両方とも砕いてやろうかと思ったが、砕いた瞬間、前回のようにまた背後から現れて俺を笑うあいつの姿も想像出来る。いや、流石に連続で同じ事はしてこないだろうか。

 それにしても、いつもは突然けしかけてくるのに、どうして今日はわざわざ手紙なんて残したんだ。

「……」

 囮を置いて背後から現れるのは既にやった。それなら、囮を置いて真正面から現れるのはどうだろうか。この手紙に化けていればそれが出来る。俺が石に気を取られている所を馬鹿にしながら現れることが出来る。
 この手紙が、あの化け狐なんじゃないか?

 確信はないまま、疑念を払拭するために手紙を踏み付けた。

「なんで!?」

 次の瞬間、手紙は声を上げながら化け狐へと姿を変えた。狼狽えながら俺の足元から這い出し人間に化ける。

「なんで。僕は完璧に化けてたのに。絶対分かるはずないのに。どうして分かったの?」

 狐は驚愕した表情で見つめてくる。こいつが考えそうな事を予想しただけで、別に手紙に化けていると確信していた訳じゃないし、ただの紙と違う所を見つけた訳でも無い。予想がたまたま当たっただけだ。
 けれど、狐の驚いた顔はとても愉快だったから、真相を伝える気が失せた。

「化けるの下手になったんじゃないの?」

 からかうように言えば狐は目を見開く。

「そんな訳ないよ! 僕は完璧だ! そんな訳……そんな……」

 いつもあれだけ自信満々だったのに、見破られた事が余程衝撃だったのかみるみる自信を失い声が小さくなっていく。狐は見た事が無いほど消沈していた。

「に、人間の姿は? ちゃんと人間に化けられてる? かわいくて格好よくて美人な人間になれてる?」

 狐はふらふらと近付いてきて俺に縋り付きながらそんな事を聞いてきた。俺より少しだけ背が低い狐の無駄に整った顔が俺を見上げてきている。普段と何も変わりは無い。眉尻を下げた不安そうな表情だけがいつもと違う。

 俺が何も答えずにいると、狐は何度も質問を繰り返してきた。化ける事しか能がないこいつにとって、上手く化けられないというのは存在意義に関わる事なんだろう。随分必死な様子だった。

「ちゃんと魅力的な人間に化けられてるよね? ね?」

 そう言ってから、ふいに狐は俺に口付けてきた。一瞬だけ唇に唇が触れて、すぐに離れていく。

「……何?」
「ときめいた? かわいくて格好よくて美人な相手に接吻なんてされれば誰だってどきどきするものだろう」
「全然」
「嘘だ!」

 泣きそうな顔で言い、今度は俺の胸に心臓の音でも確認するかのように耳に当ててきた。

「ひい……めちゃくちゃ落ち着いた心音……」

 まさか本当に口付けられた程度で俺が取り乱すとでも思っていたのだろうか。平常時と変わらない心音を聞いて狐は心底狼狽えている様子だ。
 狐は心音を聞きながらしばらくじっとしていたかと思えば、するりと股間に手を這わせてきた。

「さっきから、君は一体何がしたいんだよ」 
「いつもみたいに僕のこと抱きたいって思ってないかの確認を……」

 さわさわと触ってくる。溜め息をつきたくなった。俺がこれまで一回でもこいつの顔を見ただけで勃起したことがあったか。あるとするならどんなど変態だ。
 狐は兆しもないそこを撫でて一人でしょんぼりとしている。

「僕のこと抱きたくないの?」

 いつもなら、自信満々に「抱きたいんだろう」とか「抱かせてあげてもいいよ」とか言うくせに、今は不安げな泣きそうな顔で見上げてくる。
 自分の姿を確認したいなら大人しく鏡でも見ればいいものを、どうしてこいつは俺の態度で上手く化けられているか判断しようとするんだろうか。馬鹿だからだろうか。馬鹿だからだろうな。

「抱かれたいなら抱いてあげようか?」

 俺の言葉に狐の表情がぱあっと明るくなる。「やっぱり僕がそれだけ魅力的だってことだよね」なんて言って、いそいそと着物を脱ぎ始める。その姿を見ていると、頭が単純過ぎていっそ可哀想になってきた。



◇◇◇



「勃起してる……」

 狐の後孔を慣らした後、挿入する前に舐めさせていると狐は嬉しげに言った。この場合勃起した理由はこいつの見た目に興奮したからではなく物理的な刺激によるものなのだけれど、こいつは分かっていなさそうだ。

「ん、んむ……」

 俺の股座に口を寄せた狐は咥えるのは無理だからと、横から啄むように口付けてくる。赤い舌が竿を舐め上げる。狐は舐めること自体にはあまり慣れてはいなさそうだが、勃起するには充分な刺激だった。

「いれるからもういいよ」

 頭を撫でながら伝える。狐は口元を手の甲で拭うと床に寝そべり、これまでにないぐらい積極的に自分から足を開いた。

「さあ、いれていいよ」

 そんなことを言い、手で自分の尻たぶを広げて穴を見せつけてくる。人間に化けた狐に尻尾はないけれど、尻尾でもあれば、犬のようにぶんぶんと振って喜んでいそうだ。
 そもそも狐の目的は「いつもと同じように人間に化けられているかの確認」であって「俺に抱かれること」ではないだろうに。今のこいつの頭の中では完全に混同されているのだろう。

 狐の腰を掴み、後孔に先端を押し付ける。普段なら怯えて顔を引き攣らせる狐は期待に満ちた顔で見つめて来ている。ずぶ、と奥に腰を進めると狐は感じ入った声を上げた。

「あ、は、いってる……んッ、んん」

 ゆっくりゆっくりと腰を進める。達成感に溢れた顔をしていた狐だったが、奥の壁に先端が当たると少しだけ顔を歪めた。

「ん゙ぅぅ、奥は、苦しいって……」

 ふるふると首を横に振っている。強引に押し込んでも良かったけれど、敢えて動きを止めて「じゃあ抜く?」なんて声を掛けた。

「えっ、や、やだ、抜かないで。駄目。抜いちゃ駄目」

 腰を引こうとすると、狐は慌てた様子で制止する。足を俺の腰に抱きつくようにして回してくる。

「奥、い、入れていいから」

 狐の顔には不本意だとありありと書かれている。けれど、狐自身が入れていいと言うのだから遠慮なくやろう。狐の腰を掴み直し、ぐりぐりと先端を結腸の入口に押し当てる。

「ん゙っ…ぐ、ぅ゙、うゔー……!」

 狐の顔は苦しさに歪んでいる。こいつのこういう表情なら好きだ。自信に満ち溢れている小憎たらしい顔よりよっぽどいい。いつもこんな顔をしていればいい。

「ん……ん゙、ゔ……んん゙っ!」
「もうちょっと」
「あ、うあっ、あああ゙ッ……!」

 ぐちゅりと入口を突き破り亀頭が奥へと入り込む。狐は大きくびくりと震えた。

「んん゙ゔ…ひあっ……あ゙……!」

 ゆっくりと抽挿を繰り返す。狐は苦しそうに喘ぎつつも、確かに感じているようで勃起していた。先端からはたらたらと先走りが漏れ出てきている。
 ふと、狐の乳首が触ってもいないのに立ち上がっている事に気が付いた。手を伸ばして、くに、と押しつぶすと狐は大袈裟に反応した。

「ん、ひっ、さ、触らないでくれ」

 相変わらずここは敏感らしい。無視してくりくりと弄ると狐はびくびくと震える。

「んっ……んぅう、ひ、あっ、駄目、だって」

 抵抗しようとした狐の手を掴み、無理矢理指先を乳首に押し付ける。

「自分で弄って」
「な、なんで」
「その方が締まって気持ちいいから」
「……」

 俺の言葉にどう納得したのかは分からないが、狐はぎこちない手つきでそこを弄り始めた。緩く撫で擦り、恐る恐るといった様子で抓る。

「ん……ふ、っぅう……」 

 自分で胸を弄り声を漏らす狐の様子をじっと見ていると、見られている事に気付いた狐は笑顔になった。

「そんなに僕が感じてるところ見るの楽しいのかい」

 赤い顔をしながら得意げに言う。

「んっ、胸弄るの、むずむずして変な気分になるからあんまり好きじゃないのだけれど、君がそんなに僕の痴態を見たいと言うのなら仕方ないね。僕は感じてる姿もかわいくて格好良くて美人だからね。……そうだよね?」

 まだ少し自信が無いのか、最後だけ不安げに視線を寄越しながら聞いてきた。

「そういう事にしといて」

 そっちの方が面白そうだから。
 俺の返事を聞いた狐の表情が喜色に染まる。

 俺は性器を抜け出るぎりぎりまで引き抜き浅い所を突き上げた。前立腺を狙って刺激すると狐は乳首を弄るのも忘れて喘ぐ。

「ん、ぅううー……!」
「手、止めないで」
「や、む、むり、これ、むり、ぃッ……!」

 ごりごりと擦りあげると面白いぐらいに狐は体をびくつかせる。手を動かすように催促すると泣きそうな顔をしながら弄り始めた。

「うう、んううッ……あっ…ひああ……!」

 奥を突いていないからか、狐の声は明らかに快感だけを感じている声を上げている。指の力を上手く調整出来ていないらしく乳首はぎゅっと押し潰されている。性器の先端からはとめどなく先走りが溢れ出し、少しでも触ればすぐにイキそうだ。

「んっ、あ、ああ゙っ……! まっ、て、やめて……ッぬ、抜いて……!」
「今更何言ってるの」
「っ、ぁあ……! ちが、へん、変なんだ、お願い、待って……! やぅう……ッ!」

 嫌だ嫌だと叫ぶ狐の言葉を無視して前立腺をぐりっと強く押し上げた。

「──あ゙、ーーー~~~~ッ!」
「んぅ……」

 ぎゅううと中が締まり、狐の背が仰け反る。狐は声にならない声を上げながらびくびくと震えている。既視感がある。前は乳首でイッていたけれど。

「中イキ出来るようになったんだ?」
「え、え……?」

 余韻が抜け切っていないのか狐は惚けた顔をしている。中は断続的にぴくぴくと震えていた。
 奥の方を突き上げると、惚けた顔は消え狐は焦ったような表情を浮かべる。

「や、今やめて……」
「前立腺でも乳首でもイけるんだし、奥でもイけるだろ。イく所見せて」
「む、無理だって……! お、おくは、ほんとに、苦しいから……」
「奥突かれて勃起してた癖によく言う」

 ぐりゅりと奥の入口をこじ開けた。狐は顔を歪めながら声を上げる。

「ああ゙ーー……! っあ、んゔう……! やめでぇ……!」
「イッたらやめてあげるよ。多分」
「む……むりだってぇぇ……!」

 狐が弱々しく首を横に振っているのに構わず腰を動かした。荒い動きでは苦しげな声しか上げない狐も、ゆっくりと動くと感じ入ったような声を上げる。

「んうう……! いや、ッああ……! あ゙あーー……!」

 奥を突くたびに、一度も射精していない狐の性器から先走りがとぷりと溢れ出してくる。奥でイくより先に射精しそうだ。

「や゙、っああ……ッ! うゔ……! ~~ッやめ、やめて……!」

 狐の声が切羽詰まったものに変わる。もう少しかと思い、強めに突き上げた瞬間、

「も、だめ、っーーー~~~!」

 狐の背が大きく仰け反った。全身がびくびくと震えている。

「イッた?」
「あ、っ……あ゙……あっ」

 暫く言葉も発せずに痙攣していた狐だったけれど、少し落ち着きを取り戻すと俺をきっと睨み付けてきた。

「き、みの、君のせいで身体が変になった……!」

 狐はぜえぜえと息を吐きながら涙目で訴えてくる。

「奥苦しいのに、突かれる度に変な気分になって、頭がおかしくなりそうになる」
「……」

 それはつまり奥が気持ちよくてそこでイッたという事だろう。ぐり、と奥を突きあげれば狐はびくっと震える。

「ん゙ぅ゙ッ……イ、イッたら奥突くのやめるって言ったじゃないか!」
「多分って言っただろ。絶対やめるなんて言ってない」
「ひ……卑怯だ……!」
「浅い所突かれても、奥突かれてもイけるようになったんだから、良かったね」
「よくな、いっ……!やっ、あっ……!」

 ずるずると引き抜き、前立腺を先端でこね回す。身を捩って逃げようとした狐の腰を押さえ付ねてごりごりと突き上げた。

「あああ゙……! そこ突かないで……あっ、奥は、もっと駄目……! ぐりぐりしないで……!」
「なら抜く?」
「ぬ、抜くのも駄目」
「じゃあどうされたいの?」
「う、うう……」

 顔を覗き込んで尋ねるも、狐はぐすぐすと泣いているだけだ。苦しいからなのか感じ過ぎているからなのか判断がつかない。
 狐は泣きながら両手を伸ばしてきた。どうする気なのかと思えば、そのまま俺の背に手を回して抱きついてくる。

「もっと、や、優しくしてくれ」
「……鬼に対して随分無茶な要求をするね」

 鬼に優しさなんてあると思ってるのか。
 狐は俺に抱きついたまま泣き続けている。

「具体的にはどうされたいの?」
「ゆ……ゆっくりして」

 僅かに腰を引くと狐は身体を強ばらせた。緩く突き上げると狐はほっとしたように脱力する。

「あっ……う、うん、そう、そう、要望を聞いてくれたってことは僕のこと好きってことだよね?」
「相変わらず愉快な頭してるね」

 いつも同じようにやっては飽きるからそうしただけだ。
 ゆっくりと抽挿を再開させると狐は鼻につくような声を上げた。どこかわざとらしい。

「何その声」
「お礼にかわいく感じてる僕の姿を見せてあげようかと」
「気持ち悪いからやめて」
「きっ、きもちわるい……!?」
「普通にしてて」
「えっ、あっ……あぅっ……!」

 先端でとんとんと前立腺を叩く。狐が抱きついたままだから動きにくい。

「んっ…んぅぅ……あっ……!」

 緩く前立腺をこね回すと狐はわざとらしい声を出すのはやめて大人しく喘ぎ声を漏らす。随分気持ち良さそうな声だ。

「ああっ……! あっ、あッ……! んぅ……!」

 亀頭の辺りまで引き抜き、狐が苦しがらない所まで挿入する。ゆっくりとした抽挿を繰り返していくうちに段々と狐の声は余裕の無いものに変わっていった。

「ひ、うっ、ッああ、あっあっ! ッま、た、いくっ……! イくッ……!」
「っ……」

 狐が絶頂を迎えながらぎゅっと抱き着いてくる。同時に俺も中に射精した。

 中からずるりと性器を引き抜けば、狐は俺から手を離し、くたりと横になる。

「僕、いつもと同じだよね?」
「……ん」

 頷けば、狐はほっとしたような、随分幸せそうな表情を浮かべた。






 事後、狐はいつもの調子を取り戻したようだった。夕食を食べる俺の背後に座って、俺が文句を言わないのをいいことに背中に尊大にもたれかかってきている。
 
「やっぱり僕はちゃんと人間に化けられてる。鬼をたぶらかせるぐらいにかわいくて格好良くて美人だ。物に化けるのだけ下手になってしまったんだろうか」
「ああ……そうなんじゃない?」

 適当に返事をした。今更「別に物にも普通に化けられている」と言ってもうるさく騒がれるだけな気がした。

「修行に行かないと」
「滝にでもうたれるの?」
「そんな過酷でつまらないことしないよ。人里に下りるんだ。人間の商人の所なんかに行くと物がいっぱいあるから、化ける練習に丁度いいんだよ。お金を払って僕を買った相手を馬鹿にする事も出来て一石二鳥だ」
 
 随分はた迷惑な修行だ。騙される客もそうだし、おかしな物を売ったと信用がガタ落ちになる商人にとってもたまったものじゃないだろう。
 まあ、どうでもいい。俺には関係ない。

「君、いつまでいる気?」
「腰が痛いし、それに今日は寒いから泊めてくれると嬉しい」
「火の中に飛び込むと暖まるよ」
「それは燃えるって言うんだよ」


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