創作BL R-18短編集

とぶまえ

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魔法使いと兵士

番外編 デートの後 媚薬を打たれて放置される話

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「とても楽しい一日だったよ。ありがとう」

 俺の部屋の前で魔法使いはそう言った。辺りはもう暗い。午後はただ城下町の中をぶらついたり、たまにベンチで休憩したりであっという間に過ぎて行った。

「君は楽しかった?」
「楽しかったと思ってるの?」
「思ってる」
「とち狂ってるのも大概にしろよ」

 俺は家の扉を開けた。用は済んだのだからさっさとこいつから離れたい。

「またね」

 背後から魔法使いの声が聞こえる。二度と会いたくないと思いながら扉を閉めた。いつも侵入されるから意味は無い気がするけれど鍵をしっかりかける。そっと扉の覗き穴を覗くと魔法使いはもういなくなっていた。その事に安心しながら振り返る。

「──は?」
「やあ。また会ったね。短いお別れだったけど寂しかったよ」

 ベッドに腰かけた魔法使いがいる。でもそれは俺のベッドじゃない。

 そもそも、明らかにここは俺の部屋じゃない。魔法使いの家の部屋だ。

「っ」

 何が起きているのか分からないけれど、この場にいるのは絶対に良くない。この部屋に連れてこられた時はいつもろくな目に合わされない。俺はすぐに外に逃げようとした。なのに、どうやっても鍵が開かない。

「どうしたの? 鍵をかけたのは君じゃないか」

 魔法使いが俺の肩に手を置く。その途端に急に身体から力が抜けて俺は扉に縋り付きながらずるずるとしゃがみ込んだ。

「あれ。一日歩いて疲れちゃった? でも入口で休むのは良くないよ。ベッドに行こう」

 声が笑っている。絶対こいつのせいだ。
 上手く抵抗する事が出来ずに、引きずられるようにしてベッドまで連れて行かれた。無理矢理ベッドに乗せられて、服に手をかけられる。

「邪魔だから全部脱ごうね」
「っやめろ、なんで、今日は外に行く許可しか取ってないんだろ!?」
「ああ、あれね。嘘だよ。王さまとは君のこと一日好きにしていいって話をしたんだ。だから昼間連れ回しても、夜にぶち犯しても、全部大丈夫」
「ふざけんなよ君……!」

 俺は力が入らない身体をどうにか動かしてそいつから離れようとした。しかしあっさり押さえ込まれる。

「あんまり暴れないでくれ。酷いことなんてしないよ」
「君に対する信用なんて毛ほどもない」
「それは悲しいなあ」

 魔法使いは「まあ、実際するしね」なんて言う。俺は必死に魔法使いの下から這い出そうとした、その瞬間、急に身体に力が入るようになって、勢い余ってベッドから落ちた。
 痛みで呻いているとベッドから降りた魔法使いが顔を覗き込んでくる。

「君はベッドが嫌いみたいだね」


◇◇◇


「痛くない?」
「痛いって言ったら解くの?」
「ううん。痛いんだあって思うよ」

 へらへら笑うそいつに本気で腹が立った。首を絞めたい。
 ベッドから落ちたあと、一悶着あったけれど結局逃げきれず、そもそも「王さまの許可を取っている」と言われて俺は黙るしかなく、服を剥かれて椅子に縛り付けられた。腕は肘掛に、足は椅子の脚に、胴体も背もたれに厳重に縛り付けられていて頭以外殆ど動かせない。
 あまりにも居心地が悪くてもぞもぞしていると、魔法使いが手に注射器を持っていることに気付いた。

「……何、それ」
「注射器」
「中身の話をしてるんだよ」
「気持ち良くなれる薬」

 答えながら魔法使いは俺の首元にそれを近付けてくる。飲まされたりした事はあるけれど、注射なんてされたことが無い。恐怖心で逃げようとしたけれど、逃げられるはずも無くて首元に薬を打たれた。
 打たれてすぐ、視界がぐらついた。なんだか気持ち悪い。吐きそう。胸が苦しい。

「あとはこれ付けてね」

 魔法使いは細くて黒い布を取り出すと目隠しをするように巻き付けてきた。視界が完全に真っ暗になる。何も見えない。

「……君」
「なあに?」
「失明させられかけたこと根に持ってるだろ」
「あはは。本当にそうなら君の目永遠に見えなくするよ」
 
 そのまま弄り回されるかと思ったのに、魔法使いの足音は離れていった。





「……う……」

 頭がぐらぐらする。薬で無理矢理肉欲をあおられて全身が熱い。息をするのが辛い。身体中が過敏になっていて縄が擦れるだけで悶えそうになる。

「ぅう……っ」

 あまりにもきつくて肘掛を手で握り締める。それでどうにかなる訳もなくて身体がずっと辛い。
 もうずっとこの状態のまま放置され続けている。何も音がしなくて、部屋の中に魔法使いがいるのかすら分からない。一体何分経ったんだ。いつまでこの状態が続くんだ。

 荒く息を吐いた。腰が疼いて仕方ない。身体を触りたい。この辛さを今すぐに解消したい。

「っあ……!?」

 不意に、腹の辺りを触られた。驚きと刺激で身体がビクつく。そのままゆっくりと撫でられると全身が強ばった。

「ひ、ぁ、~~……っ!」
「わあ。かわいい声出すね」

 魔法使いの笑い声がする。腹を触っていた手が首元を撫でる。どこを触られるのも辛くて身体が震えた。

「そろそろ一番効果出て来る時間だと思うんだけど、どう? 気持ちいいことされたくて堪らない? さっきみたいなかわいい声だして沢山イキたい?」
「う、るさい……」

 俺が何言ったってどうせやる癖に。
 そう思っていたら、首元に痛みを感じた。ぷすりと、細い針が刺さったような。さっきの注射器と同じものだと気付いて焦った瞬間にはもう針は引き抜かれていた。

「君はまだ気持ちいいことしたくないらしいから、僕はゆっくり待つね」
「な……」
「まあでも、君のことただずっと眺めてるのも何だし、お風呂にでも入ってこようかな」
「っ……!」

 待って、と言っても返事はなく、変わりに部屋から魔法使いが出て行く音がした。




「ぁっ……~~……! ぅう……!」

 ぎしぎしと縄が音を立てている。縄が擦れるのが辛い、でも、じっとしている事が出来ない。これ以上ないほどに身体が昂っていて、じっとしていると頭がおかしくなりそうになる。
  
「~~~っ……んぅぅぅ……ッ!」

 指先が無意識に肘掛をがりがりと引っ掻く。足の指先が丸まる。唇を噛み締めても声が漏れる。
 早く、早く開放されたい。もう一秒たりとも耐えたくない。耐え切れない。

「ぁ、あっ……! んぅ……~~~っ!」

 耐え切れないのに、もう限界なのに、いつまで経っても終わらない。魔法使いはまだ戻って来ていない。終わらせてくれる人間がいない。
 早く、早く、早く。俺は魔法使いが戻って来るのをひたすら待った。




「お待たせ」

 扉が開く音と、魔法使いの声。聞いた瞬間に俺はこの上ない安堵感に包まれた。やっと終わる。もう耐えなくていい。
 魔法使いの足音が近付いてくる。石鹸のような匂いがする。
 魔法使いの手が俺の口元を拭うように触れてきた。

「あはは、色んな液体垂れ流しだね。顔も下もぐっちゃぐちゃになってる。辛かった?」

 答えようとした俺の口に魔法使いは指を突っ込んできた。舌を弄られる感覚に震えながら、必死に頷く。魔法使いにその必死さを笑われたけれど、もうどうでも良かった。

「気持ちいいことしたくなった?」

 また必死に頷いた。早く、なんでもいいから、終わらせてくれ。
 口から指を引き抜かれる。髪で唾液を拭かれているような感触があったけれどそんなことに構っていられなかった。

「ところで僕、髪を乾かしたいんだ」

 ──え? と思った瞬間に首元にまたあの痛みが走った。茹だった頭の血の気が引く。

「な、ん、なんでっ、いやだ、もういやだ!」
「だって髪が濡れたままだと風邪ひいちゃうじゃないか」
「っ髪ぐらい、魔法で何とか出来るだろ!」
「わあ。流石にそこまで頭馬鹿になってなかったんだね。そうだな、じゃあ、あれにしよう。スキンケア。大事だろ? 風呂上がりのストレッチでも良い。まあ、なんでもいいよ。ともかく先にやることがあるって事にしておいてくれ」
「……!」

 また放置される。もう無理なのに。頭がおかしくなりそうなのに。

「頼むから、お願いだから……」

 たすけてと消え入りそうな声で言った。
 魔法使いは目隠しの上から右目の辺りに触れてきた。

「やだ♡」

 ──そういえば、フォークが刺さった場所、右目だったなと思った。やっぱり根に持ってるだろこいつ。






「~~~、っーー~~……ッ!」

 もう、全部駄目だ。何も考えられない。何もかも辛い。

「凄くえっちで眼福なのだけれどこの感動をどう伝えたら良いだろう。写真撮ってあげようか?」
「い、い、何でもいいから、もうゆるして……!」
「わお、君絶対後から後悔するよ。是非とも後悔してる顔も見せてね」

 何か言っているけれど、そんなの知らない。早く解放してくれ。それ以外全部どうでもいい。

「も、やだ、おわらせて、頼むから……!」
「注射、あと3回分あるんだけどどうする?」
「っひ……嫌、もう止めて、もう、本当に……!」

 俺はぐすぐすと泣きながら訴えた。本当に、限界だった。情けないとかもうそんなこと頭になかった。

「かわいい」

 魔法使いが頭を撫でてくる。

「気持ちいいことしたい?」
「し……したいっ、だから、もう……」
「うんうん、いい子」

 魔法使いの手が離れていく。

「いい子のお願いは聞いてあげないとね」

 もう許してくれるのだと、安心したのに、首元にあの嫌な痛みが走る。俺は半狂乱になって暴れた。

「なんで、きいてくれるって、きいてくれるって言ったのに……!」
「うん。言ったね。言っただけ」
「ッ……!」
「これ入れてあと3回分、頑張ろうね。その後いっぱい気持ちいいことしてあげる」


◇◇◇
(魔法使い視点)


「う……あ……」
「んー」

 やり過ぎてしまっただろうか。一時間ぐらい前までは元気に悶えていたのに、さっきから彼は唾液を垂れ流しながら呻き声をあげるだけでぐったりしている。目隠しの下を透視して見るととても虚ろな目が見えた。意識はあるようだけれど、多分頭なんて働いていないだろう。まだ薬は1回分残ってるのに。
 それにしてもこれだけ弱らせられるならこの薬は拷問とかに使えるかも知れない。今度そういう名目で売り出そう。

「大丈夫?」

 そっと彼の手を撫でる。その瞬間、彼は大きくびくついた。

 なんだ。まだ元気じゃないか。


◇◇◇
(兵士視点)


「何したい?」
「なに……?」
「うん。何して欲しい? なんでもしてあげる」
「なんでも……」

 俺はぼんやりとしながらおうむ返しに呟いた。頭が異様な程にぐらぐらする。こいつに何かして欲しかったような。なんだっけ。ああ、そうだ。

「さわって」
「どこを? どんな風に?」
「わかんない」
「僕も分からないよ」

 そんなことを言われても、頭が重くて何も考えられない。

「すきにして」

 魔法使いが笑っている。何がおかしいんだ。何が、何を、

 俺は何を言ってるんだ。 

「っ、ぅあ……!?」

 ふいに魔法使いの手がちんこに触れて、軽くそこを扱きあげた。

「~~~ーーッッ!」

 ずっと放置されていた身体にはあまりにも強い刺激で、全身に快感が駆け巡ってどぷりと精液が溢れ出した。

「わあ、これだけでイッちゃった?」

 魔法使いは笑いながらイッたばかりのそこを扱き続ける。ただでさえ過敏になっているのに、出した直後に追い打ちまでかけられて俺は激しく身悶えた。

「い、やだ、やめろ、さわんな……!」
「あれ、起きたの? 頭いっちゃってそうだったのに」
「さわ、ん、ッあ……やめ、や、あ゙~~~ッ!」
「触ってって言ったの君じゃないか」

 言った。言ったけど。

「それ、や゙めて、今やめて……!」
「ん、きつい?」

 俺は必死に頷いた。

「そっかあ。でも、好きにしてって言われたしなあ」

 そんなの、頭がおかしかったから言っただけだ。
 魔法使いの手が離れていく。それでもさっきまでの感覚が抜けなくて身体が辛い。ぜえぜえと息が乱れる。
 魔法使いは腕を拘束している縄に触れた。

「縄、解いてあげるね。でも自分で身体触ったら薬打って朝まで放置するからね」

 俺はぐっと唇を噛み締めて頷いた。魔法使いは拘束を解き始める。手が自由になっても、触るなと言われたから必死に我慢した。また放置なんてされたら頭がおかしくなったまま戻らなくなる。
 拘束を全部解いてから、魔法使いはふらつく俺の手を引いてベッドに連れて行った。そのままうつ伏せに押し倒される。布に身体が擦れる刺激で俺は小さく声を上げた。

「手後ろに回して」

 俺が従うより前に魔法使いは俺の腕を掴んで手首に手錠のようなものをかけた。手を動かそうとするとがちゃりと鎖が擦れる音がする。拘束されて、俺は半分安心していた。だって、身体を触るななんて、絶対にその内耐え切れなくなる。
 魔法使いは俺に腰をあげさせると後孔にローションを垂らして来た。冷たさに震える俺を他所に、穴のふちを指でなぞる。

「あはは、凄くひくひくしてる」

 つぷりと指が入り込んでくる。指先が軽く前立腺をかする。本当に、それだけだったのに。

「──~~~~ッ!」
「え?」

 自分でも信じられないほどに呆気なくイッてしまって声にならない声をあげた。魔法使いは驚いたような反応をしながらも、ぐりぐりとそこを弄る。

「や、め、今、やめ、あ゙っ……ああっ……! ーーー……ッ! やだ、だめ、ッんんん……!」
「凄いね。こんなに敏感になったの初めてじゃないかな」

 刺激される度に快感が駆け巡ってずっとイッているような感覚に陥る。息がまともに吸えない。

「ん゙ううう……ッ! ひぅ゙ッ、~~~……! っああ……ッ!」
「指だけでこんなにかわいい反応して貰えるなんて嬉しいな。毎回あの薬使う?」

 恐ろしい言葉を聞いて俺はぶんぶんと首を横に振った。魔法使いは笑っている。

 ひたすら弄り回され、何回イッたのか分からない程になった頃に魔法使いは指を引き抜いた。息を整えようとしている間に、魔法使いのものを押し当てられてゆっくりと中に挿入される。

「あ、あっ……ーーー~~~~ッ!」

 太いものにこじ開けられる感覚も、中を擦り上げられる感覚も、前立腺を押し潰される感覚も、全部があまりにも気持ちよくて、意識が飛んでしまいそうだった。
 魔法使いは酷くゆっくり抽挿を始める。少し動かれる度に絶頂を迎えて、頭の中が真っ白になる。

「君の中凄く気持ちいい。ね、君は?」
「や、あ゙ッ、あう……~~~ッ……! ーーっ……ッ! ~~……!」
「んー、そうだね、喋れないぐらい気持ちいいね。沢山我慢したし、沢山イこうね」
「っあ……!?」

 完全に熱に浮かされてただ喘ぐだけになっていると、ふいに魔法使いが前に手を回してきてちんこを握りこんできた。

「や゙……~~ッ! や、めて、っ、そ、こは……っ、あっ……さわら、ないで……!」
「どっちも弄った方が気持ちいいよ?」
「んぅぅ……ッ!」

 数回扱かれただけで呆気なく射精してしまった。魔法使いは指先でぐちぐちと精液を吐き出したばかりの尿道口を弄る。辛い刺激に思わず腰を引こうとするけれど、そうしたら後ろから突き上げられるだけで逃げ場がない。

「~~ーーー……っ! や、あ゙ああ……! ~~~~ッ! やめ、はなして……あぁ……ッ! んーーー……ッ!」
「っん、気持ちいい」

 魔法使いは荒く息を吐きながら呟き、そう経たないうちに中に吐精した。ちんこを引き抜かれて、俺はぐったりとその場に崩れ落ちた。やっと終わったと、深く息を吐く。

「……ぅ……あ?」

 もう眠ってしまいたかったのに、身体に違和感を覚えた。熱が治まっていない。あんなにイッたのにまだ身体の奥の方が疼いている。

「なんで……」
「ああ、あれだけ薬打ったんだし効果切れるまで相当時間かかるんじゃないかな?」
「……!」
「そのうち切れるよ。あ、目隠し外そうね」

 呑気に言った魔法使いは目隠しを取ると俺の横に座った。俺はしばらくじっとしていたけれど、段々熱に堪え切れなくなってもぞりとシーツに身体を擦り付けた。

「自分で身体触ったらまた薬打って放置するって、僕言ったよね? 朝まで頑張りたい?」
「っ、手じゃ、触ってない……」
「それでも駄目。屁理屈言わないでくれ」

 俺は押し黙った。また薬を打たれることが怖くて、身動ぎも出来ない。

「う、んぅ……」

 椅子に縛り付けられていた時ほどではなくても、到底無視することは出来ないほど身体が疼いている。

 魔法使いに視線をあげる。機嫌良さげに俺を見下ろしていた。いつも気絶するぐらいまで犯すくせに、何故今この状態で放置されているのか分かって無性に腹がたった。
 分かったところで、どうしようもない。何もしなかったらこいつは絶対に俺を放置し続ける。

「さ……わって」
「なあに?」
「また触って」
「ん、ふふ、どうしようかな。さっきまでいっぱい触ってたしなあ」

 俺の意識がはっきりしている時に言わせたいだけの癖に、魔法使いは酷く勿体ぶった言い方をする。

「君のお願いだし聞こうかな。ああ、でも、別の言い方が良いな。あれ気に入ったんだ」
「……」
「何して欲しい?」

 黄色い目が楽しげに笑っている。その目にあまりにもイラついて、潰れろと思った。

「好きにして」


◇◇◇


「……」

 目覚めてから改めて自分の身体を見ると酷いことになっていた。長時間椅子に縛られた状態でずっと悶えていたから縄で擦れた箇所が酷い跡になっている。手首も手錠で擦れて傷が出来ている。
 げんなりしていると横にいた魔法使いがのそのそと起き上がった。

「おはよう」
「死ね」
「斬新な挨拶だね」

 魔法使いは俺の手首を握ってきた。なんなんだ、気持ち悪い。そう言おうとしているとすぐに手を離された。さっきまであった傷が綺麗に消えている。

「……」
「昨日はとても有意義で素晴らしい一日だったね」

 魔法使いは抱き着いて来てぺたぺたと俺の身体を触り傷を治していく。俺は深く溜め息をついた。今まで朝になっても傷が残っていることなんて殆どなかった。いつもこうされてたのか。

「溜め息をつくと幸せが逃げるんだよ」
「君に会ってからそもそも全部逃げてる」

 全部治させてから俺は床に落ちていた服を回収してそれを着た。そのまま扉に向かって歩いて行くと魔法使いに呼び止められる。

「忘れ物だよ」
「忘れ物……?」

 俺は大して物を持ってきていなかったし、心当たりがない。けれど魔法使いは俺に向かって何かを差し出している。無視するのもはばかられて魔法使いの所に戻る。

 渡されたのは、椅子に縛られて酷い顔で悶えている俺の写真だった。

「……」
「わあ、期待よりも嫌そうな顔」

 楽しそうな魔法使いの声にイラつきながら俺は写真を破り捨てた。


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