創作BL R-18短編集

とぶまえ

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被虐趣味の鬼

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 人間、人それぞれ色んな性癖がある。それは鬼も同じだ。

「あ……ぁ……ッ」

 手首を後ろで縛り目隠しをした彼の後ろから抱きつくような体勢で、勃起したものをゆっくりと扱いた。それだけなのに彼は息を乱し、時折耐えきれないと言った様子で声を漏らす。

「っん…ぅッ……ひぅ……」

 彼は所謂鬼という存在だ。人間よりも力が強くて、残虐で、恐ろしい存在。なのにさっきからあげている声はどれも弱々しくてとてもかわいらしい。
 声を堪能しながら扱き続けていると彼は切羽詰まった声をあげ身体が強ばらせた。イッちゃいそう、と思ったのでぱっと手を離す。

「ーーーっ……ぁ、ああッ……!」

 刺激を失った彼は切なげな声をあげながら首を横に振った。性器はびくびくと震えながら先走りを垂れ流している。少し扱けばすぐに射精するだろう。

「……んッ…ぁッ……!」

 過敏になっているのかするっと軽く肌を撫でるだけで彼は喘ぐような声を漏らした。彼の呼吸が落ち着くまで肌を撫でて遊んでから、またゆっくりと扱き始める。

「んぅぅっ……!」

 緩い手の動きにとても焦れったそうにしている。

「イキたい?」

 耳元で囁くと彼は一瞬びくりと身体を震わせた。それからこくこくと頷く。

「あと三回ぐらい我慢しようね」

 彼は小さく頷いた。彼はとても従順だ。本来、鬼は人間なんて簡単に殺してしまえる。人間の中でも貧弱な部類である僕なんて、それこそ赤子の手をひねるよりも簡単に殺せるだろう。言うことを聞く必要なんて全くない。それでも大人しくされるがままになっているは、彼がか弱い人間に良いようにされるのが大好きだという、倒錯した趣味を持っているからだ。


◇◇◇


「っあ、あああ゙ッ……! ぅうーー……ッ!」

 十回目の寸止め。彼はとても辛そうな声を上げながら身を捩った。三回、とは言ったものの楽しくて続けてしまった。

「あ、っ……ぅんっ……!」

 ぜえぜえと荒く息を吐いている。肌はじっとりと汗で濡れていた。さっきからずっと足の指がもどかしげに丸まっている。
 僕はゆっくり彼の太ももを撫でた。

「まだ我慢出来るよね?」
「ッ……ぅ……」

 余程辛いのか返事はすぐに帰ってこない。手を縛った縄からぎちぎちと妙な音が聞こえている。本当なら今すぐ振りほどいて気持ちよく射精したい筈だ。

「どうする?」

 僕が先日剃ったので何も生えていない下腹に触れて緩く撫でる。根元に触れると彼は息を詰まらせた。触って欲しいとでも言うように腰が微かに揺れている。

「……ぅ、ぅうう……」

 縄からぎちぎちと嫌な音がしている。
 大丈夫かなと、少しだけ不安が頭を過った。

「が…まん、する……から、」

 彼が言葉を発した直後、ぶちり、と異様な音が聞こえた。
 彼はゆっくり振り返り、千切れた縄が引っ掛かった腕を僕へ差し出した。

「もっときつく縛って」


◇◇◇


 彼はかわいいけれど鬼という種族自体は本当にかわいげが無い。僕はちゃんと縛っていた。あの状態から引き千切るなんて人間では到底出来ない。

 要望通りに、そして僕の身の安全の為に、彼を厳重に縛った。さっきよりも太い縄を使い、背中側で腕を組ませてきつく縛り、胴体と腕もしっかり固定し、首にも縄を引っ掛けて、腕を動かしたら首が絞まる状態にした。ついでに足も曲げさせた状態で縛る。
 彼は縛られている間終始大人しく、期待しているかのように息が荒かった。

「口、塞いでいい?」

 縄を撫でながら確認すると彼は頷いた。素直だ。
 猿轡を噛ませてから僕はまた背後から抱きつくような格好を取る。

「じゃあ続きをしようか」

 縛っている間もずっと勃起していた性器をすぐ弄ってもいいのだけれど、それだけだとつまらないので乳首を軽く撫でる。

「ッ……ふ、ぅっ……!」

 彼は油断していたのか身体を大袈裟に震わせた。

「ん、ッ……ぅう……! ……ッううー……!」

 右の乳首をくりくりと弄りつつ、左手で下もゆっくりと扱きあげる。

「ぅ……ッ! く…ぅっ……ぅん……!」

 猿轡のせいで苦しそうだけれど声自体は気持ちよさそうだ。

「ふ、ぅ……ううッ……!」

 芯を持って硬くなった乳首を強く摘みながら指先で扱くように弄ると、性器の先端からはどぶっと先走りが溢れだしてきた。

「胸弄られるの好きだね」

 乳首と一緒に性器も強めに扱くと彼はすぐに射精してしまいそうになったので、そちらを扱くのは中断して両手で乳首を弄ることにした。

「ッッ……ぅ、ぅうう……!」

 暫く放置していた左の乳首を急に強く弄るのは可哀想だと、別に思っては無いけれど思った事にして、ゆるゆると撫でる。右の乳首にはさっきまでと同じように強く刺激を与えた。

「んぅぅぅ……!」  
「どうしたの?」

 もどかしげに左胸を指に押し付けようとしてくる。

「ふ……っ、ぅ……く、ぅ……ん……!」
「こっちも弄って欲しい?」

 彼は必死になって頷いていた。

「こう?」
「んぅッううッ……~~~~!」

 左の乳首をきゅっと摘みぐりぐりと擦り合わせて刺激すると、待ち侘びた刺激に彼は背を仰け反らせて喜んでいた。

「ん、ぅ……うぅぅっ!」
「そのうち乳首だけでもイケるようになったり出来るかな?」

 じっくり弄り回してから、今度は放置していた性器を掴んで緩く扱く。

「うぅ……ッ……んッ……!」
「すぐイッちゃいそうだね」
「ッッううゔ……!」

 彼がイキそうになったのを見計らい、また手を離す。

「んぅ゙ーー……!」
「うん、うん、イキたいね。もうちょっと頑張ろうね」

 彼が落ち着くまでは性感帯は触らず、射精感が遠のいたらまた弄って、射精しそうになったら止める。それを何度か繰り返してから、猿轡を外してあげた。

「っぁ……イ……きた……も、イキた…い…!」
「もう我慢出来ない? 思いっきり扱いて貰って射精したい?」

 彼は必死に頷いている。

「どうしようかな」

 悩んでいるふりをしつつ、カリを掴んで先端だけを指でぐちぐちと弄る。一回も出していない彼のちんちんは張り詰めていてあと数回扱いただけでも射精しそうだ。

 僕は懐から小指ほどの太さの尿道バイブを取り出した。先走りをすくい取って塗り付け、尿道へあてがう。太いけれどここに物を入れるのは初めてではないし、鬼だし、大丈夫だろう。

「ひ、っあ゙あ゙あ゙あ゙ッ……!?」

 ずぶっとバイブの先端が尿道に侵入した瞬間に彼は悲鳴のような声を上げた。構わずに根元までずぶずぶとバイブを埋め込む。

「ぃい゙ッ…あ゙ッ…あ゙……ッ! これ゙、嫌…ぁ……!」

 尿道を弄られるのが大好きな癖に彼は逃げるように身をよじる。あんまり動くと首が絞まってしまうだろうに。
 突き刺さったバイブは隙間なく尿道を埋めている。

「いっぱい射精していいよ。沢山扱いてあげる」

 出口を塞がれては出来る訳がないけれど。
 僕はバイブのスイッチを入れ、性器を根元から強く扱き上げた。

「あ゙ッ…~~~~ーーーッ!」

 彼は声にならない声を上げながらがくがくと身体を震わせる。僕は気持ちよくなって貰えるように一生懸命扱く。

「あっ、あ゙ッ……! ひ、ぎ…い゙い゙い゙……! いや゙……ああ゙……!」
「どうしたの? 射精したくなくなっちゃった?」
「ち、がっ…ぁッああ゙あ゙ーーーー! ぬ゙い゙てぇえッ……!」

 尿道バイブがお気に召さないらしい。気持ちよさが足りなかったのかと思い振動を更に強めた。

「ひい゙ッ…いあ゙あ゙あ゙あ゙……!」 

 うん、気持ちよさそうだ。

「気持ちよくて嬉しいね」
「ぁあ゙っ…ぃ゙あ゙あーーーッッ!」
「ね」

 聞いているのに全然返事をしてくれない。そもそも言葉らしい言葉すら発してくれない。
 肉を隔てても伝わってくる振動を手に感じながらゆっくり扱きあげた。

「ううゔゔ……! ひぁ゙ッ…~~ーーッ゙!!」

 振動が強くて手が痺れてしまいそうだ。

「も゙、…もう…むり゙……ゆる゙して…ッ…!」
「んー」

 生返事をしながらバイブを掴み、ゆっくりゆっくり、自分でも苛つくぐらいの速度で少しずつ引き抜いた。

「あ゙っ…アッ……! 抜い゙て…ぬ゙い゙て……ッ!」

 彼は狂ったように抜いてとばかり言っている。
 三分の二程抜いた所で手を止めると、彼はそれはもう悲しげな声を上げた。
 目隠しを取ってあげて顔を覗き込む。目元は涙で赤くなっていた。怖い怖い鬼とは思えない。

「ひっ……!」

 バイブを奥へと戻そうとすると彼は顔を歪ませ嫌だ嫌だと首を横に振った。首元も縄で擦れて赤くなってしまっている。

「やめて欲しい?」

 彼は頷く。

「本当に?」

 彼はまた頷いた。

「そっかあ」
「ッひ、い゙!?」

 バイブを握り直して一気に奥まで捩じ込んだ。途中まで出かかっていたのだろう精液を強引に押し戻された彼はびくびくと身体を痙攣させる。
 目の焦点も怪しかったけれど、まあ、鬼だし、身体は丈夫だろうから無視して、バイブをギリギリまで抜いてまた戻すのを繰り返した。

「あ゙~~~~~! ッいや、…や゙…ッーーー!」

 動かす度に尿道とバイブの隙間から先走りと一緒に白い液体が僅かに漏れ出てきている。射精出来たじゃないか。良かったね。

「あ゙…ッあ! ひぐ、ゔゔゔゔゔッ!」
「限界だったら限界って言ってね」

 彼は叫び声のような喘ぎを上げつつ途切れ途切れに「限界」と言った。

「うん」

 だから別にどうするとは言ってないけれど。

 その後も、バイブの充電が切れるまでじっくり彼を弄り回した。



◇◇◇


 つい先程まで彼に突っ込んでいたバイブを手で弄びながら着物を着る彼をぼんやりと眺めていた。縄で擦れて赤くなっていた肌はもう殆ど治っている。鬼というのは再生能力が高過ぎやしないだろうか。

「また三日後に来るから」
「声酷いよ」

 ちょっとましになったとは言え枯れた喉で強引に喋る彼の声はそれはもう酷かったので素直にそう言ったのだけれど、彼は不満げに僕を睨んできた。

「誰のせいだよ」
「君」

 だって、「やめろ」と言ってこなかった。僕は彼に「やめろ」と言われたら絶対に、何があってもその瞬間にやめると約束している。言わなかったんだから彼のせいだ。

「次来る時服着ないで家に来てよ」
「やめろ」

 ほら、本気で嫌だったらすぐにやめろって言う。

「それにしても、君って射精出来ないだけで泣くんだねえ」

 目を真っ赤にしていた彼を思い出してしみじみと呟いた。彼はとてもばつが悪そうにしている。恥ずかしがらなくていいのに。

「また楽しいことしようね」


◇◇◇
(出会った時の話)


 僕は陰間屋で働いていた。それなりに人気があり、店の主人にもかわいがられていた。

 その日は常連のお客さんを縛って遊んでいた。その人は所謂被虐趣味があり、僕をどうこうするよりもいじめられるのが好きだった。
 僕としても抱かれたりするよりもいじめる方が楽だし、何よりその人は羽振りが良い。とても良いお客さんだった。

 お客さんが店に来てから暫く。外がなんだか騒がしくなった。誰か喧嘩でもしているのかと最初は気に止めていなかったけれど、叫び声まで聞こえてきて、いよいよ尋常な事態ではないと気が付いた。

 ふいに襖が勢いよく開かれた。現れたそのひとの手には刀があり、着物には返り血が付着していた。それだけでも恐怖心を抱くには充分だったけれど、そのひとの頭に角が生えていて、人ではなく鬼なのだと気付いた瞬間僕は震え上がった。
 鬼は僕と、縛られたまま布団に転がっていたお客さんを見て目を細めた。

 鬼はゆっくり部屋の中に入ってくると手にした刀でお客さんの首を迷いなく撥ねた。ごとりと首が落ちて、血が流れ出して布団も床も赤く染っていく。
 目の前に広がる恐ろしい光景に僕は卒倒してしまいそうだった。僕もきっと殺されてしまう。鬼はとても残虐だと噂で聞いている。命乞いなんて聞いてくれる筈がない。

 鬼は恐怖心で動けずにいる僕の髪を鷲掴みにすると無理矢理顔をあげさせた。鬼がすぐ側で顔を覗き込んで来ている。僕は今にも泣き出してしまいそうだった。

「俺にもやって」

 鬼は床に転がっている死体を指差しながら言った。
 僕は「へ?」と、この上なく間抜けな声を上げた。


◇◇◇


 僕のいた陰間屋は鬼の集団に襲われて金品を奪われ、働いていた男娼も連れ去られた。売って金にされた者もいたし、鬼に食べられてしまった者もいた。鬼に気に入られた者は鬼たちの住処で慰みものとして犯された。

 僕はと言うと、例の鬼に別の場所に連れて行かれた。人間の領主ではなく鬼たちへ年貢を収めて生かしてもらっている人間たちが住む山奥の村だった。その村の端にあった小屋に僕は連れ込まれた。
 要求されたのは陰間屋でお客さんにやっていたようにその鬼をいじめることだった。他の鬼に見られると決まりが悪いから今後はここで暮らせとも言われた。

「断ったり、したら」

 僕は鬼が怖くて堪らず、すぐにでもこの場から逃げ出したかった。震えながら尋ねると鬼は不思議そうな顔をした。

「殺すに決まってる」

 当然だと言わんばかりだった。万が一、万が一僕のことを気に入ってくれていて逃がしてくれるとか、そんな事を期待していたけれど現実は甘くなかった。

 僕は頷くより他がなくしぶしぶ従った。
 縛れと言われ、自分は一体何をしているのだろうと思いながら言われるがまま彼を縄で縛った。
 縛る最中、ぎゅ、と縄を引いた時、彼は小さく声を漏らした。

「あっ……」

 感じ入ったような表情だった。
 その姿を見た瞬間、僕は妙な感覚に襲われた。頭の中が妙にふわふわとして、心臓はどきどきと強く脈打っていた。

 鬼でも、喘いでいる姿はかわいいんだななんて、そんなことを思ってしまった。



「次は何して欲しい?」

 縛り上げてから尋ねると彼は「好きにしていい」と答えた。

「その為に慣れてそうな奴連れてきたんだから」

 そんなに、そんなにいじめられたいんだ。
 彼の身体の自由を奪えたこともあって恐怖心はすっかり薄まっていた。実際には彼は引き千切ろうと思えばすぐに引き千切ることが出来たのだけれど、この時の僕は知らなかった。

 僕は楽しさすら感じながら彼をゆっくり押し倒した。

「一つだけ約束事をしよう。本当に嫌な時はやめろって言ってね。やめろって。やめてとか、嫌とかじゃ、僕やめないからね」
「何それ」
「やり過ぎて君の機嫌を損ねて後から殺されでもしたら嫌じゃないか」

 彼は数瞬、何かを考える素振りを見せてから「分かった」と答えた。
 後から聞いたところによると、人間に何をされたって耐えられない事なんてないからそんな約束はいらないと、そんな事を考えていたらしい。



 結局その日、彼は泣きながら「やめろ」と言ってきたから約束はちゃんと役に立った。

「次はもうちょっと頑張ろう?」

 床でぐったりとしていた彼の顔を覗き込みながら、僕は陰間屋のお客さんに言うぐらいの気持ちでついついそんなことを口走った。
 彼は無言のまま僕の腕をがしっと掴んだ。疲れているとは思えない掴む力の強さに、気に障ってしまったのかと僕は一瞬で顔を青くした。
 けれど、彼は僕を引き寄せるとそのまま抱き着いてきた。

「良いものを拾った」

 上機嫌そうな声が聞こえてきて僕はほっと胸をなでおろした。

「ただし、やめろって言われたらその瞬間にやめろ。今日みたいに数秒遅れたら殺す」
「う……うん。約束する」

 やっぱり鬼は怖い。


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