お姉様、ご自分が婚約破棄されたからと言って私の婚約者を奪わないで下さい

水月 潮

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第3話

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「旦那様。婚約破棄の慰謝料についてはどうなっておりますの?」

 慰謝料についての説明がなく、疑問に思った公爵夫人が質問する。

「慰謝料については、ダミアン王太子殿下に反省させる目的でダミアン王太子殿下個人の財産より支払うこととなった。王家から頼んできた婚約を王家の都合でこんな風に公衆の面前で一方的に破棄されたんだ。こういうのはどうしても破棄された側の方が受けるダメージは大きい。だから慰謝料はかなり吹っかけてやった。ダミアン王太子殿下は子爵令嬢にかなり貢いでいたようだから、慰謝料を払うには足りないだろう。不足分は子爵令嬢に贈ったドレスやアクササリーを取り戻して売却し、慰謝料にあてるか、借金という形で国王陛下の個人財産から借りるということになる」


 婚約破棄は、ダミアンとレジーヌの婚約は白紙に戻し、ダミアンとマーシャは平民落ちした後、何があっても離縁不可・生活費の援助は一切なしという条件の下で結婚するという結論に至る。

 慰謝料はダミアンの個人財産から支払われる。


 ダミアンとマーシャの今後については公爵の説明でわかった。

 ではレジーヌの今後はどうなるのだろう?

 この件については公爵夫人もレジーヌも口を閉ざしているが、皆考えることは同じだろう。

 答えを聞きたくないと言って先延ばしにしても事態は何の解決にもならない。

 シャルロットが思い切って質問する。


「お父様。ダミアン王太子殿下と子爵令嬢の処断、婚約破棄に際する慰謝料については今の説明でわかりました。では、お姉様の今後はどうなるのでしょう?」

「レジーヌは新たな婚約者を探そうと思っている。しかし、新たな婚約者を選ぶにも妥協せざるを得ない」


 婚約は家と家の結びつきだ。

 だからここをおざなりに適当に選んでしまうと今後の家の進退にも影響を及ぼす。

 結婚で発展した家もあれば、結婚で失敗した家もある。

 それくらい貴族にとって結婚は重要なものだ。


 婚約は良い条件の者ほど早く決まる為、レジーヌと同じ年頃でルーキエ公爵家に並べるような家格でまだ婚約者がいない者と婚約するとなれば、ほぼ確実に何かしら問題があると思ってよい。

 爵位は高いのに実態は借金まみれだったり、本人の性格に難ありだったり、身内に厄介な者がいたり、例を挙げるとこんな感じだ。

 いずれにしても婚約が決まらないそれ相応の理由がある。

 爵位や当人の容姿・性格、年齢などいずれかの部分で妥協しなければならない。


 ここまで黙っていたレジーヌがテーブルをバンっと叩き、立ち上がる。

「お父様。ダミアン王太子殿下に婚約破棄された私にまともな嫁ぎ先がないことはわかりますわ。でも妥協して新しい婚約者を選ぶなんて嫌です! 幼少期からずっと厳しい王妃教育を受けてきた私に対する仕打ちが婚約破棄と妥協して選んだ新しい婚約者!? あんまりですわ!」

 レジーヌはいいことを思いついたというようにシャルロットの方を向いてにんまりと笑う。

 その笑みは奇しくもあの婚約破棄の時に、マーシャが見せた笑みを彷彿とさせる。

「シャルロット。あなたの婚約者のエリック様を私に譲りなさい! そして私が彼とルーキエ公爵家を継ぐわ! そうしたら私の品位は保たれるし、ずっとルーキエ公爵家にいられるわ!」


 それは悪魔のような言葉だった。
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