上 下
19 / 22

第19話 婚約①

しおりを挟む
 シルヴィアがルークを連れて、ローランズ公爵邸に帰ってきた翌朝。
 
 ダイニングで朝食を食べていたシルヴィアに父であるデイヴィットが告げる。

「そうそう、シルヴィ。今日も午前中にルーク殿が我が家に来るから、食べ終わったら彼をお迎えするのに相応しい装いをしておけ」

(は!? 今日も来る? 一体何をしに?)

「お父様、彼は一体何の用事で来られるのですか?」

「それは彼が来てからシルヴィに話す。今の時点で言えることはシルヴィ、お前に関する話だ」


 食後の紅茶を全て飲んで、シルヴィアは自室に戻り、言われた通りにルークを出迎えるのに相応しいように着替えて身なりを整えた。


 今日のドレスは落ち着いた印象のネイビーのドレスだ。

 ドレスのスカート部分には細かいダイヤモンドの粒が縫い付けられており、光が当たる度キラキラと輝く。

 髪型は全体的にコテで巻いてくるくるにした後、ハーフアップにしてもらい、真珠の髪飾りをつける。


 準備が出来たシルヴィアは玄関に出向く。

 するとちょうどルークが到着したようである。

 今日のルークは仕立ての良い一張羅の正装で、手には真っ赤な薔薇の大きなブーケを持っている。


「おはよう、シルヴィ。今日も君に会えて僕は嬉しいよ」

 ルークは今日も朝から麗しい笑顔だ。

「ルーク、おはようございます」

「今日は閣下と会う約束があってお邪魔させてもらったんだけど、閣下と会う前にシルヴィと話をしなくちゃいけないから、まずシルヴィの部屋で話をさせてもらってもいいかい? 誓って不埒なことをするつもりはないし、部屋のドアを開けて外から使用人が部屋の様子を確認できるようにして構わないから」

 ルークは真剣な表情だったので、シルヴィアは彼を信用することにした。

「わかりましたわ。では、私の部屋で話を聞かせて頂きます」

「ありがとう、シルヴィ。じゃあ君の部屋に案内してくれる?」

「はい。では、ついて来て下さい。それとカレナは私と一緒に来て」

 カレナはシルヴィア付きのメイドの一人である。

 シルヴィアより3歳年上で、年齢が近く、主従関係ではあるもののシルヴィアにとっては姉のような存在である。
 
「シルヴィアお嬢様、畏まりました」


 シルヴィアの部屋はローランズ公爵邸の二階の角部屋である。

 彼女が自室で気に入っているところは日当たりが良く、部屋から公爵邸の庭園が見えるところだ。

 
 シルヴィアとルークは部屋の中に入り、カレナは開いたドア付近で控える。

「ここがシルヴィの部屋かぁ~…。結構女の子っぽい部屋だね」

 ルークはきょろきょろと室内を見渡す。


「可愛いものは人並に好きなので部屋は割と可愛い感じにしていますの」

 レースのカーテンや繊細な彫刻入りの書き物机、猫足のソファーに天蓋付きのベッド。

 ただし、可愛いと言ってもレースやフリルでゴテゴテしたものばかりではなく、アンティーク調の上品さのあるもので、室内は家具を含めて落ち着いた色合いのものが多い。


「ルーク、こちらに座って下さい」

 シルヴィアはソファーに腰掛け、ルークに座るよう指示する。

「失礼するよ」

 ルークが隣に腰掛けたところで、本題に入る。


「それで、私に何のお話が?」

「単刀直入に言おう。シルヴィ、僕と婚約してくれないか?」

「え……? どうして私と婚約……? な、何かの冗談ですわよね?」

 ルークは真剣な表情をしており、ふざけた様子は全くない。

「冗談なんかではない。僕は真面目に言っている」

「私とあなた、一昨日会ったばかりですわ。婚約する理由がわかりません」

(昨日、ルークの屋敷で”責任を取って欲しいということであれば責任を取る”とは言っていたけれど、あの時は軽い感じで言ってたから口から出まかせで言ってるだけかと思ったのに……)


「理由を言わないと、シルヴィは当然納得はしないだろうから説明するね。シルヴィは早く次の婚約者を決めないと足元を見られて、君が望まない婚約をする羽目になる可能性がある。それを回避する為に僕との婚約だ。僕以上に条件面でシルヴィの婚約相手にいい者はいない」

「望まない婚約って具体的には? 婚約破棄されたばかりでまだ次の婚約なんて考えられないのですが……」

「確かに考えられないのはわかる。わかるけれど、早急に決めなければならない話なんだ。望まない婚約っていうのは、訳ありと後妻、王家から婚約破棄をなかったことにしての復縁。考えられるのはこの三つ。訳ありと後妻は説明はいらないだろうから省略するね。王家からの復縁については文字通りの復縁。だけど、元々の婚約とは条件が違う」


 ルークはそこで一度区切り、説明を続ける。

「シルヴィ、君は酒場で”婚約者の両親は婚約破棄と新たな婚約について了承している”と言っていたけれど、それは嘘で、僕はフィリップ王太子殿下が国王陛下夫妻の了承を得ないまま婚約破棄したと思っている」

「え……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...