【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する？ ならば即刻我が家から出ていって頂きます

第４話

　ソフィアの父にそこまで言われて、ビクターはやっと自分の立場を何となく把握した。

「そんな……！　おじさんとおばさんは僕を捨てるつもりなんだ……！　僕はこのリシャール侯爵家でブリジットと幸せに暮らしたいのに！」

　ビクターは大袈裟に泣き喚くが、ソフィアの両親はそれをバッサリと切り捨てる。

「夫人の願いから君を引き取り、君にとってはどうだかわからないが十分良い生活をさせ、私達は夫人の願いは果たしたと思っている。何故私達が実子でもない君に対してそこまで便宜を図らねばならない？　浮気者の君と娘の婚約者を奪った令嬢がこのリシャール侯爵家で幸せに暮らせると思うなんて君の頭は随分おめでたいようだ。これから先の君の人生は、ソフィア以外の令嬢と結婚するのならそれはリシャール侯爵家から出て自分で好きなようにやってくれ。君がしたことは恩を仇で返すことだ」

「ビクター君。私達はもう既にあなたに見切りをつけていたのよ。今日こうやって恋人を連れてソフィアに婚約破棄を突き付けたから、たまたま今日になっただけで、近々言うつもりだった。あなたの生活はソフィアの婿にするという前提があってのこと。その前提部分を反故にするのなら今までの生活は当然なくなる。浮気しておきながらも、恋人とリシャール侯爵家で今まで通りの生活を送りたいなんて浅ましさに反吐が出るわ。あなたにとって都合が良いように世の中は回っていないのよ」


　ここまでのやり取りを黙って聞いていたブリジットが声を上げる。

「ちょっと待ってよ！　ビクターは侯爵家の跡取りじゃないってこと？」

「ええ、そうよ。侯爵家の跡取りは私。ビクターは単なる入り婿予定だったから侯爵にはなれないの」

「そんな……！　次期侯爵だって言うからビクターと付き合ってプロポーズを受けたのに次期侯爵じゃないなら意味ないじゃん！」

「ブ、ブリジット……！？」

「私、ビクターとは結婚しない！　ビクターはいつも上等な服ばかり着ていて一緒に行ったレストランは高級店ばかりでお金持ち。おまけに次期侯爵だって言うから頑張ってアタックしたのよ！　これでやっと貧乏生活から抜け出せると思ったのにとんだ計算違いよ！」

「僕を愛してくれていたんじゃなかったのか！？」

「私は容姿はそこそこでも将来的に高い爵位を継いでお金持ちの令息を狙っていたの。次期侯爵でもお金持ちでもないならビクターに用はないわ！　さようなら！」


　ビクターの返事を聞くことなくブリジットは足早に駆けて行った。