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第39話
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それから穏やかに日々は過ぎていく。
ジョシアは本腰を入れて次代の皇帝の弟として活動を始めた。
大臣達の集う会議に参加して見識を深めたり自分の意見を主張したり、外国の要人が帝国にやって来た時はその要人の接待や要人との交渉をする。
ジョシアは日々朝も早くから執務に出かけ、夜も遅い時間にならないと部屋には戻って来ない。
エレオノーラも自分の父であるサミュエルが今のジョシアと同じような生活をしていたので、ジョシアの生活リズムには理解があった。
エレオノーラはエレオノーラで、夫人同士の付き合いのお茶会に出席してジョシアの役に立ちそうな情報を収集したり、ダイアナと一緒に孤児院を訪問して孤児院の現状を確認して、これから孤児院にはどんな形で援助するのかということを考えたりと何かとやることは多かった。
ジョシアは確かに日中は不在の時間が多いが、その分、夜はちゃんとエレオノーラと顔を合わせ、その日にあった出来事などの話をする。
エレオノーラも夫が帰ってくる時間に自分だけぐっすり熟睡するような図太い神経は持ち合わせていなかったから、大抵はジョシアが部屋に戻る時は起きている。
そんな中、ある日の日中、部屋で福祉関係の勉強をしていたエレオノーラは強烈な睡魔に誘われて気づいたら眠っていた。
起きたら部屋のソファーに横になっている状態で、使用人がソファーに寝かせてくれたのだと察する。
「ソファーに横にしてくれたのは有難いけれど、起こしてくれたら良かったのに」
「疲れが溜まっておられるかと思いましたのでそっと寝かせることにしたのです。それにその勉強は急ぎのものではないようでしたので」
自分が気づいていないだけで身体は疲れているのかもしれない。
そう考えたエレオノーラはジョシアが戻る前に眠ることにした。
翌朝、前日に早く就寝したエレオノーラは朝早い時間に目が覚めた。
まだジョシアは執務室へは出ていない時間だ。
「おはよう、エレオノーラ。メイドに聞いたんだけど、大丈夫? 疲れているなら無理はせず、ゆっくり休むことは大事だよ」
「おはようございます。一晩ゆっくり寝たからもう大丈夫ですわ」
「せっかくエレオノーラが起きているから、一緒に朝ごはん食べる?」
「はい!」
エレオノーラは朝はそんなに早起きではない為、ジョシアと朝食を共にするのは初めてだった。
二人で食堂に出向き、テーブルに着く。
料理人が出来立てほやほやの朝食を二人分用意し、給仕係がジョシアとエレオノーラ、それぞれの前に朝食をセットする。
今日も料理人の朝食は文句の付け所がない完璧なものだったが、エレオノーラは朝食の匂いを嗅いで気分が悪くなり、その場で嘔吐してしまう。
ジョシアはすぐに席から立ち上がり、エレオノーラに駆け寄り、背中をさする。
「エレオノーラ、大丈夫!? そこの君、医者を呼んで来てくれ!」
「畏まりました!」
ジョシアはこの場にいた給仕係に城に常駐している医者を呼ぶよう指示する。
数分後、給仕係が医者を連れて戻ってきた。
医者は男性も女性も城に常駐させており、患者の性別に合わせて担当の医者が決まる。
今回連れて来られた医者は女医だった。
「まず、奥様をここから移動させましょう。診察はそれからです」
ジョシアがエレオノーラを俗に言うお姫様抱っこで部屋まで運び、ベットにそっと横たえる。
「さて、今から診察をしますが、ジョシア殿下はここから離れて違う場所でお待ち下さい」
「何故? 聞かれたら不味い話でもあるのか?」
「ジョシア殿下がいらっしゃると奥様も話しにくいかもしれないからです。必ず診察結果はお伝えしますので、ここは受け入れて下さい」
「わかった」
ジョシアが席を外すと、女医はエレオノーラの診断を始める。
「早速、診断しますね。最近体調の異変を感じたことはありますか?」
「異変……と言えるかわかりませんが、昨日、昼間なのに眠気が酷くて気づいたら眠ってしまいました。夜は夜でしっかり寝ていたはずなのに昼間にあんなに眠たくなるのはおかしいと思って」
エレオノーラの言葉を聞いて女医は事態をほぼ確信した。
「最後に月のものが来たのはいつですか?」
「え~っと、2~3ヶ月前位ですわね」
「奥様。先程匂いで嘔吐してしまったことと酷い眠気に襲われたこと。それから月のものが来ていないこと。これらを総合して考えると奥様は妊娠している可能性が高いです」
「妊娠……?」
「はい。まだ断言は出来ませんが、可能性が高いです。もう少し時間が経てば確実にわかるかと思います」
女医はジョシアを部屋に呼び戻す。
「ジョシア殿下。奥様は恐らく妊娠しています」
「え!? 僕達の子供が出来たの?」
「そうですね。しばらく奥様の体調不良は続くと思いますが、何かあったら責任を持って私が対応しますのでその時は呼んで下さい」
「父上達に報告はどうしたらいいのかな?」
「公務などに差し障りがあったら良くないので、妊娠している可能性があると私から報告しておきます。確実に妊娠していると断定出来たらまた報告します」
「わかった。エレオノーラの診察は君に一任する」
女医は報告する為に退室する。
「エレオノーラ、ありがとう。まだ確実ではないからぬか喜びかもしれないけれど、僕達の子供、楽しみだね!」
「ええ! まさか妊娠しているなんて思ってもいなかったから驚いたけれど、私達に新しい家族が増えますのね」
女医は確実ではないと言ったが、エレオノーラは自分のお腹に新しい生命が宿っていることを確信していた。
ジョシアとエレオノーラは新しい家族が生まれる日を心待ちにしながら日々を過ごす。
ジョシアは本腰を入れて次代の皇帝の弟として活動を始めた。
大臣達の集う会議に参加して見識を深めたり自分の意見を主張したり、外国の要人が帝国にやって来た時はその要人の接待や要人との交渉をする。
ジョシアは日々朝も早くから執務に出かけ、夜も遅い時間にならないと部屋には戻って来ない。
エレオノーラも自分の父であるサミュエルが今のジョシアと同じような生活をしていたので、ジョシアの生活リズムには理解があった。
エレオノーラはエレオノーラで、夫人同士の付き合いのお茶会に出席してジョシアの役に立ちそうな情報を収集したり、ダイアナと一緒に孤児院を訪問して孤児院の現状を確認して、これから孤児院にはどんな形で援助するのかということを考えたりと何かとやることは多かった。
ジョシアは確かに日中は不在の時間が多いが、その分、夜はちゃんとエレオノーラと顔を合わせ、その日にあった出来事などの話をする。
エレオノーラも夫が帰ってくる時間に自分だけぐっすり熟睡するような図太い神経は持ち合わせていなかったから、大抵はジョシアが部屋に戻る時は起きている。
そんな中、ある日の日中、部屋で福祉関係の勉強をしていたエレオノーラは強烈な睡魔に誘われて気づいたら眠っていた。
起きたら部屋のソファーに横になっている状態で、使用人がソファーに寝かせてくれたのだと察する。
「ソファーに横にしてくれたのは有難いけれど、起こしてくれたら良かったのに」
「疲れが溜まっておられるかと思いましたのでそっと寝かせることにしたのです。それにその勉強は急ぎのものではないようでしたので」
自分が気づいていないだけで身体は疲れているのかもしれない。
そう考えたエレオノーラはジョシアが戻る前に眠ることにした。
翌朝、前日に早く就寝したエレオノーラは朝早い時間に目が覚めた。
まだジョシアは執務室へは出ていない時間だ。
「おはよう、エレオノーラ。メイドに聞いたんだけど、大丈夫? 疲れているなら無理はせず、ゆっくり休むことは大事だよ」
「おはようございます。一晩ゆっくり寝たからもう大丈夫ですわ」
「せっかくエレオノーラが起きているから、一緒に朝ごはん食べる?」
「はい!」
エレオノーラは朝はそんなに早起きではない為、ジョシアと朝食を共にするのは初めてだった。
二人で食堂に出向き、テーブルに着く。
料理人が出来立てほやほやの朝食を二人分用意し、給仕係がジョシアとエレオノーラ、それぞれの前に朝食をセットする。
今日も料理人の朝食は文句の付け所がない完璧なものだったが、エレオノーラは朝食の匂いを嗅いで気分が悪くなり、その場で嘔吐してしまう。
ジョシアはすぐに席から立ち上がり、エレオノーラに駆け寄り、背中をさする。
「エレオノーラ、大丈夫!? そこの君、医者を呼んで来てくれ!」
「畏まりました!」
ジョシアはこの場にいた給仕係に城に常駐している医者を呼ぶよう指示する。
数分後、給仕係が医者を連れて戻ってきた。
医者は男性も女性も城に常駐させており、患者の性別に合わせて担当の医者が決まる。
今回連れて来られた医者は女医だった。
「まず、奥様をここから移動させましょう。診察はそれからです」
ジョシアがエレオノーラを俗に言うお姫様抱っこで部屋まで運び、ベットにそっと横たえる。
「さて、今から診察をしますが、ジョシア殿下はここから離れて違う場所でお待ち下さい」
「何故? 聞かれたら不味い話でもあるのか?」
「ジョシア殿下がいらっしゃると奥様も話しにくいかもしれないからです。必ず診察結果はお伝えしますので、ここは受け入れて下さい」
「わかった」
ジョシアが席を外すと、女医はエレオノーラの診断を始める。
「早速、診断しますね。最近体調の異変を感じたことはありますか?」
「異変……と言えるかわかりませんが、昨日、昼間なのに眠気が酷くて気づいたら眠ってしまいました。夜は夜でしっかり寝ていたはずなのに昼間にあんなに眠たくなるのはおかしいと思って」
エレオノーラの言葉を聞いて女医は事態をほぼ確信した。
「最後に月のものが来たのはいつですか?」
「え~っと、2~3ヶ月前位ですわね」
「奥様。先程匂いで嘔吐してしまったことと酷い眠気に襲われたこと。それから月のものが来ていないこと。これらを総合して考えると奥様は妊娠している可能性が高いです」
「妊娠……?」
「はい。まだ断言は出来ませんが、可能性が高いです。もう少し時間が経てば確実にわかるかと思います」
女医はジョシアを部屋に呼び戻す。
「ジョシア殿下。奥様は恐らく妊娠しています」
「え!? 僕達の子供が出来たの?」
「そうですね。しばらく奥様の体調不良は続くと思いますが、何かあったら責任を持って私が対応しますのでその時は呼んで下さい」
「父上達に報告はどうしたらいいのかな?」
「公務などに差し障りがあったら良くないので、妊娠している可能性があると私から報告しておきます。確実に妊娠していると断定出来たらまた報告します」
「わかった。エレオノーラの診察は君に一任する」
女医は報告する為に退室する。
「エレオノーラ、ありがとう。まだ確実ではないからぬか喜びかもしれないけれど、僕達の子供、楽しみだね!」
「ええ! まさか妊娠しているなんて思ってもいなかったから驚いたけれど、私達に新しい家族が増えますのね」
女医は確実ではないと言ったが、エレオノーラは自分のお腹に新しい生命が宿っていることを確信していた。
ジョシアとエレオノーラは新しい家族が生まれる日を心待ちにしながら日々を過ごす。
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