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第38話
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ジョシアとエレオノーラが帰国した翌日。
今日は予定通り、リチャードに謁見する。
二人はリチャードに謁見するのに相応しい装いに着替え、準備する。
今日のエレオノーラは鮮やかなエメラルドグリーンのドレスを選んだ。
光沢のあるエメラルドグリーンに部分的に金糸で華やかな紋様が刺繡されている。
上品で優雅なデザインのそのドレスはエレオノーラによく似合っていた。
約束していた時間が近くなり、ジョシアはエレオノーラを迎えに来た。
「そろそろ用意は出来た?」
「ええ。もう用意出来ましたわ」
「そのドレス、素敵だね。エレオノーラが選んだの?」
「私が選びましたわ。色合いが気に入って、袖を通したくなったのです」
「そうなんだ。さぁ、応接室に行こう」
ジョシアのエスコートで応接室へと足を運ぶ。
応接室にはもうリチャードは到着しているようで、二人はノックをして入室許可を取ってから、入室する。
「父上、お待たせしました」
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「私が早く来てしまっただけだから気にするな。視察お疲れだった。結構色々な国に行ってもらったから、移動に疲れただろう?」
移動手段は馬車や船だったので、長時間乗って移動するとどうしても疲労が溜まる。
完全に気を抜いた状態で乗り物に乗るのは危機管理的な意味合いで良くないからだ。
「確かに移動範囲は広かったですが、疲れたと言うよりも見るもの全てが楽しかったです。こんな機会でもなければ多くの国を回ることなんてありません」
「私も行ったことがない国が多くて勉強になりましたわ。やはり本だけ読んで知った気持ちになるのと、実際現地に行って自分の目で見るのでは大きく異なりました。勉強する機会を頂けて嬉しかったですわ」
「そうか。良い勉強の機会になったのなら私としても視察を任せて良かった。ジョシア、視察の内容の報告書はきちんと読ませてもらって、問題になりそうな所は私の方からも改めて状況を確認して手を打つ」
「父上に満足して頂けるか自信はありませんが、自分なりにはしっかりまとめました。クーデターの影響で避難していたこともあって外国での視察は初めてみたいなものだから多少は多めに見て下さい」
「これから数をこなして徐々に慣れろ。お前の私生活がもう少しして落ち着いたら、本格的にマークを支えてやって欲しい」
「わかりました。では、私達はこれで失礼します」
「ああ。また何かあった時は呼ぶから」
ジョシアとエレオノーラは応接室から退出し、普段二人が住まいとしている部屋へと移動する。
二人は部屋のソファーに並んで腰掛ける。
二人の部屋付きのメイドがすかさず紅茶を用意し、二人は紅茶を飲みながら話をする。
今日の紅茶は帝国でよく飲まれる濃いめの紅茶で、ミルクティーにして飲むと美味しい紅茶である。
「とりあえずこれで父上に謁見も終わったね」
「予定がきちんと終わってほっとしましたわ。ジョシアはこれから先、外交関係に力を入れて活動する予定なのですか?」
「一応その予定だよ。兄上が父上の次に皇帝になることは決定事項だから僕は何らかの形で兄上を支えることを求められている。騎士団に入団して、そのトップになって軍事関係で支えることも考えたけれど、あそこは実力主義で団長とか副団長とかになるには、実際に何らかの戦に出ていくつも功績を積み、その上全員が認める強さがなければならない。僕は騎士になる為の訓練をまともに受けていないし、今から身体を鍛えたりするのはもう遅すぎるから、その道は諦めたんだ」
「そうなのですわね。確かにジョシアはあまり武芸はやらない印象ですわ」
「クーデターが起こる前の帝国でもオルレーヌ王国で過ごしていた頃も最低限の護衛術しか学んでいないんだよね。先生達からはあまり武道の才能がないと判断されたのかも。でもその分、勉強は出来たから、そっち方面ならば何とか役に立てそうと思って」
「ジョシアならきっと上手くマーク殿下を支えられますわ。私も今まで王国の王太子の婚約者として沢山のことを勉強してきました。だからジョシアが困った時はいつでも力になりますし、相談にも乗りますわ。困難な時があっても二人で乗り越えれば良いのです」
「エレオノーラにそう言ってもらえたら心強いよ。君のことは頼りにしている」
ジョシアはそう言った後、おもむろに手に持っていたティーカップをソーサーの上に置く。
「話はこれくらいにして。さぁ、エレオノーラ。僕の膝の上に座って?」
「え……!?」
「馬車の中で言ったこと、もう忘れた? ほら、どうぞ」
エレオノーラは真っ赤になるが、やがて意を決したようにジョシアの膝の上にぽすんと収まる。
そしてジョシアはぎゅっとエレオノーラを抱きしめる。
「こんな風にエレオノーラを抱きしめて座るのも久々だね。父上にはああ言ったけれど、本音を言うと色々疲れたから充電させて?」
ジョシアはエレオノーラの顔を覗き込むようにお願いする。
若干上目遣いになっているのがあざとい。
エレオノーラはそれに抵抗することは出来なかったので、顔を赤くしながらも了承する。
「ジョシアのお望みのままに」
そのまま二人は甘い時間を過ごした。
今日は予定通り、リチャードに謁見する。
二人はリチャードに謁見するのに相応しい装いに着替え、準備する。
今日のエレオノーラは鮮やかなエメラルドグリーンのドレスを選んだ。
光沢のあるエメラルドグリーンに部分的に金糸で華やかな紋様が刺繡されている。
上品で優雅なデザインのそのドレスはエレオノーラによく似合っていた。
約束していた時間が近くなり、ジョシアはエレオノーラを迎えに来た。
「そろそろ用意は出来た?」
「ええ。もう用意出来ましたわ」
「そのドレス、素敵だね。エレオノーラが選んだの?」
「私が選びましたわ。色合いが気に入って、袖を通したくなったのです」
「そうなんだ。さぁ、応接室に行こう」
ジョシアのエスコートで応接室へと足を運ぶ。
応接室にはもうリチャードは到着しているようで、二人はノックをして入室許可を取ってから、入室する。
「父上、お待たせしました」
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「私が早く来てしまっただけだから気にするな。視察お疲れだった。結構色々な国に行ってもらったから、移動に疲れただろう?」
移動手段は馬車や船だったので、長時間乗って移動するとどうしても疲労が溜まる。
完全に気を抜いた状態で乗り物に乗るのは危機管理的な意味合いで良くないからだ。
「確かに移動範囲は広かったですが、疲れたと言うよりも見るもの全てが楽しかったです。こんな機会でもなければ多くの国を回ることなんてありません」
「私も行ったことがない国が多くて勉強になりましたわ。やはり本だけ読んで知った気持ちになるのと、実際現地に行って自分の目で見るのでは大きく異なりました。勉強する機会を頂けて嬉しかったですわ」
「そうか。良い勉強の機会になったのなら私としても視察を任せて良かった。ジョシア、視察の内容の報告書はきちんと読ませてもらって、問題になりそうな所は私の方からも改めて状況を確認して手を打つ」
「父上に満足して頂けるか自信はありませんが、自分なりにはしっかりまとめました。クーデターの影響で避難していたこともあって外国での視察は初めてみたいなものだから多少は多めに見て下さい」
「これから数をこなして徐々に慣れろ。お前の私生活がもう少しして落ち着いたら、本格的にマークを支えてやって欲しい」
「わかりました。では、私達はこれで失礼します」
「ああ。また何かあった時は呼ぶから」
ジョシアとエレオノーラは応接室から退出し、普段二人が住まいとしている部屋へと移動する。
二人は部屋のソファーに並んで腰掛ける。
二人の部屋付きのメイドがすかさず紅茶を用意し、二人は紅茶を飲みながら話をする。
今日の紅茶は帝国でよく飲まれる濃いめの紅茶で、ミルクティーにして飲むと美味しい紅茶である。
「とりあえずこれで父上に謁見も終わったね」
「予定がきちんと終わってほっとしましたわ。ジョシアはこれから先、外交関係に力を入れて活動する予定なのですか?」
「一応その予定だよ。兄上が父上の次に皇帝になることは決定事項だから僕は何らかの形で兄上を支えることを求められている。騎士団に入団して、そのトップになって軍事関係で支えることも考えたけれど、あそこは実力主義で団長とか副団長とかになるには、実際に何らかの戦に出ていくつも功績を積み、その上全員が認める強さがなければならない。僕は騎士になる為の訓練をまともに受けていないし、今から身体を鍛えたりするのはもう遅すぎるから、その道は諦めたんだ」
「そうなのですわね。確かにジョシアはあまり武芸はやらない印象ですわ」
「クーデターが起こる前の帝国でもオルレーヌ王国で過ごしていた頃も最低限の護衛術しか学んでいないんだよね。先生達からはあまり武道の才能がないと判断されたのかも。でもその分、勉強は出来たから、そっち方面ならば何とか役に立てそうと思って」
「ジョシアならきっと上手くマーク殿下を支えられますわ。私も今まで王国の王太子の婚約者として沢山のことを勉強してきました。だからジョシアが困った時はいつでも力になりますし、相談にも乗りますわ。困難な時があっても二人で乗り越えれば良いのです」
「エレオノーラにそう言ってもらえたら心強いよ。君のことは頼りにしている」
ジョシアはそう言った後、おもむろに手に持っていたティーカップをソーサーの上に置く。
「話はこれくらいにして。さぁ、エレオノーラ。僕の膝の上に座って?」
「え……!?」
「馬車の中で言ったこと、もう忘れた? ほら、どうぞ」
エレオノーラは真っ赤になるが、やがて意を決したようにジョシアの膝の上にぽすんと収まる。
そしてジョシアはぎゅっとエレオノーラを抱きしめる。
「こんな風にエレオノーラを抱きしめて座るのも久々だね。父上にはああ言ったけれど、本音を言うと色々疲れたから充電させて?」
ジョシアはエレオノーラの顔を覗き込むようにお願いする。
若干上目遣いになっているのがあざとい。
エレオノーラはそれに抵抗することは出来なかったので、顔を赤くしながらも了承する。
「ジョシアのお望みのままに」
そのまま二人は甘い時間を過ごした。
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