37 / 41
第37話
しおりを挟む
「無事に帝国に戻って来て良かった。思ったよりもここに訪ねてきたのが早かったな。まだ屋敷の内装は色々準備不足で客人に見せられるような状態ではないが……」
サミュエルもまだ帝国に住まいを移して日が浅い為、屋敷の内装まで手を入れる時間はなかった。
「本当は今日はお父様を訪ねてここに来る予定ではなかったのです」
「僕達は今日帝国に帰国してきたのですが、まず帰国の挨拶を父上にするつもりが今日はずらせない予定ばかりだったので、それが明日になったのです。時間が空いたので何をしようかと思った時にふとお義父上の屋敷に行くことを思いついたのです。屋敷の場所の確認とお義父上に会うことを目的としていますので、屋敷内を色々見せて頂くとかは考えていませんよ」
「そうか。屋敷の中の案内はまた日を改めてということで」
「それよりお父様。先程ニコラスに会いましたわよ。他には誰を連れて来ていらっしゃるのですか?」
「ニコラスとナタリア、料理人のダンとロビン、庭師のビクター、メイドのアネットだ。屋敷に住むのは私一人で現状家族が増える予定はなく、屋敷の大きさもそんなに大きくないからあまり沢山の使用人は要らないと思って」
「後は私達がたまに来る程度ですものね」
「そうだ。それに、向こうにいた時みたいに要職に就く気持ちはなく、侯爵の仕事としてゆっくり領地経営するだけだから、そんなにこの屋敷に人を招待することもない」
「確かにブロワ公爵家では色々なお付き合いでお客様をお呼びしていましたわね。そう言えば、ブロワ公爵邸はどうなっておりますの?」
「公爵の地位と領地、公爵邸は弟夫婦に譲った。帝国に移住する私が持っていても仕方ない。領地にしょっちゅう足を運べないのでは、何か起きた時に領地民が困ったことになってしまう。私達の事情に無関係の領民を巻き込んではいけない」
基本的に領地経営は爵位を持っている者が最終的な責任を持つ。
なので、領地で何か問題が発生した時に速やかに駆けつけて問題を解決する必要がある。
自分に代わって確実に管理出来る身内がいる場合以外は爵位持ちの外国移住は不可である。
しかし、仕事はやらせても爵位を譲らないというのは少々ムシのいい話になってしまう為、普通は爵位を譲渡する。
余談だが、サミュエルがリチャードから貰った侯爵家の屋敷とこれからサミュエルが管理していく侯爵家の領地は、サミュエルが移住する前は城勤めの役人がきちんと管理していた。
「叔父様夫婦にお譲りしましたのね。なくなってしまうよりも叔父様夫婦にお譲りして、残っている方が私も嬉しいですわ」
「今後の王国の政治状況が変わって王国から移住したい場合は爵位を返上していいとは伝えている。今の時点では、とりあえず弟夫婦に譲って任せているという方が正しい。ところで、話は変わるのだが、ちょうど今、ビクターは庭仕事しているが、会って行くか?」
「ビクターさんには向こうでお世話になりましたので、是非挨拶したいです」
「わかった。じゃあ庭に行こう」
サミュエルの案内でジョシアとエレオノーラは庭園に移動する。
「ビクター。お前にお客さんだ」
「旦那様。俺に来客? ……ってジョシアじゃないか!」
ビクターは50代の男性で、気のいい陽気なおじさんである。
今日もトレードマークの繋ぎの作業服に帽子を被って、手には剪定鋏を持っている。
庭師にありがちな頑固で付き合いにくい職人気質ではない。
「ビクターさん、こんにちは。向こうではお世話になりました」
「ジョシアこそ形ばかりではなく、育てている花や木に興味を持って本当に手伝ってくれて嬉しかったよ。重労働は流石にさせなかったけど。今、庭園を整えているところで、基本は馴染みのある王国風にして、ところどころは帝国風にしようと思っているんだ。……とは言え、帝国風はまだ勉強中だから、植物園に足を運んだりしてどんな感じか見て回っている」
「王国と帝国ではデザイン性も違うし、植えられている花も違いますからね。もし必要であれば、グロスター城の庭園の見学許可を発行するので、いつでも声をかけて下さいね」
グロスター城の庭園と言えば、帝国の中でも最大の規模を誇る庭園で、帝国風の庭園を見学するならば外せない場所だ。
国内屈指の腕のいい庭師を数名お抱えで雇っているので文句なしに美しい庭園となっている。
ただし、警備の都合上、グロスター城の庭園は貴族階級の者は出入り自由だが、城勤めではない部外者の平民の場合は見学許可証が必要である。
ジョシアは第二皇子なので許可証を発行する権力は持っている。
「それは嬉しいな。伝手がないから入れないと諦めていたんだ。旦那様経由で頼んでいいか?」
「ええ。城に戻って申請して、ここに届くように手配します」
「ありがとう。楽しみだな」
三人で会話をしていたら、サミュエルから指摘を受ける。
「ジョシア、エレオノーラ。そろそろ城に帰った方がいい時間では?」
「そうですわね。私達はそろそろお暇させて頂きます」
「今日のところはこれで失礼します。今度はゆっくり時間が取れる時に伺わせて頂きますね」
「ああ。待っている。それでは気を付けて」
エレオノーラとジョシアは公爵邸を後にして、グロスター城に戻った。
サミュエルもまだ帝国に住まいを移して日が浅い為、屋敷の内装まで手を入れる時間はなかった。
「本当は今日はお父様を訪ねてここに来る予定ではなかったのです」
「僕達は今日帝国に帰国してきたのですが、まず帰国の挨拶を父上にするつもりが今日はずらせない予定ばかりだったので、それが明日になったのです。時間が空いたので何をしようかと思った時にふとお義父上の屋敷に行くことを思いついたのです。屋敷の場所の確認とお義父上に会うことを目的としていますので、屋敷内を色々見せて頂くとかは考えていませんよ」
「そうか。屋敷の中の案内はまた日を改めてということで」
「それよりお父様。先程ニコラスに会いましたわよ。他には誰を連れて来ていらっしゃるのですか?」
「ニコラスとナタリア、料理人のダンとロビン、庭師のビクター、メイドのアネットだ。屋敷に住むのは私一人で現状家族が増える予定はなく、屋敷の大きさもそんなに大きくないからあまり沢山の使用人は要らないと思って」
「後は私達がたまに来る程度ですものね」
「そうだ。それに、向こうにいた時みたいに要職に就く気持ちはなく、侯爵の仕事としてゆっくり領地経営するだけだから、そんなにこの屋敷に人を招待することもない」
「確かにブロワ公爵家では色々なお付き合いでお客様をお呼びしていましたわね。そう言えば、ブロワ公爵邸はどうなっておりますの?」
「公爵の地位と領地、公爵邸は弟夫婦に譲った。帝国に移住する私が持っていても仕方ない。領地にしょっちゅう足を運べないのでは、何か起きた時に領地民が困ったことになってしまう。私達の事情に無関係の領民を巻き込んではいけない」
基本的に領地経営は爵位を持っている者が最終的な責任を持つ。
なので、領地で何か問題が発生した時に速やかに駆けつけて問題を解決する必要がある。
自分に代わって確実に管理出来る身内がいる場合以外は爵位持ちの外国移住は不可である。
しかし、仕事はやらせても爵位を譲らないというのは少々ムシのいい話になってしまう為、普通は爵位を譲渡する。
余談だが、サミュエルがリチャードから貰った侯爵家の屋敷とこれからサミュエルが管理していく侯爵家の領地は、サミュエルが移住する前は城勤めの役人がきちんと管理していた。
「叔父様夫婦にお譲りしましたのね。なくなってしまうよりも叔父様夫婦にお譲りして、残っている方が私も嬉しいですわ」
「今後の王国の政治状況が変わって王国から移住したい場合は爵位を返上していいとは伝えている。今の時点では、とりあえず弟夫婦に譲って任せているという方が正しい。ところで、話は変わるのだが、ちょうど今、ビクターは庭仕事しているが、会って行くか?」
「ビクターさんには向こうでお世話になりましたので、是非挨拶したいです」
「わかった。じゃあ庭に行こう」
サミュエルの案内でジョシアとエレオノーラは庭園に移動する。
「ビクター。お前にお客さんだ」
「旦那様。俺に来客? ……ってジョシアじゃないか!」
ビクターは50代の男性で、気のいい陽気なおじさんである。
今日もトレードマークの繋ぎの作業服に帽子を被って、手には剪定鋏を持っている。
庭師にありがちな頑固で付き合いにくい職人気質ではない。
「ビクターさん、こんにちは。向こうではお世話になりました」
「ジョシアこそ形ばかりではなく、育てている花や木に興味を持って本当に手伝ってくれて嬉しかったよ。重労働は流石にさせなかったけど。今、庭園を整えているところで、基本は馴染みのある王国風にして、ところどころは帝国風にしようと思っているんだ。……とは言え、帝国風はまだ勉強中だから、植物園に足を運んだりしてどんな感じか見て回っている」
「王国と帝国ではデザイン性も違うし、植えられている花も違いますからね。もし必要であれば、グロスター城の庭園の見学許可を発行するので、いつでも声をかけて下さいね」
グロスター城の庭園と言えば、帝国の中でも最大の規模を誇る庭園で、帝国風の庭園を見学するならば外せない場所だ。
国内屈指の腕のいい庭師を数名お抱えで雇っているので文句なしに美しい庭園となっている。
ただし、警備の都合上、グロスター城の庭園は貴族階級の者は出入り自由だが、城勤めではない部外者の平民の場合は見学許可証が必要である。
ジョシアは第二皇子なので許可証を発行する権力は持っている。
「それは嬉しいな。伝手がないから入れないと諦めていたんだ。旦那様経由で頼んでいいか?」
「ええ。城に戻って申請して、ここに届くように手配します」
「ありがとう。楽しみだな」
三人で会話をしていたら、サミュエルから指摘を受ける。
「ジョシア、エレオノーラ。そろそろ城に帰った方がいい時間では?」
「そうですわね。私達はそろそろお暇させて頂きます」
「今日のところはこれで失礼します。今度はゆっくり時間が取れる時に伺わせて頂きますね」
「ああ。待っている。それでは気を付けて」
エレオノーラとジョシアは公爵邸を後にして、グロスター城に戻った。
67
お気に入りに追加
6,535
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる