悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮

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第37話

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「無事に帝国に戻って来て良かった。思ったよりもここに訪ねてきたのが早かったな。まだ屋敷の内装は色々準備不足で客人に見せられるような状態ではないが……」

 サミュエルもまだ帝国に住まいを移して日が浅い為、屋敷の内装まで手を入れる時間はなかった。

「本当は今日はお父様を訪ねてここに来る予定ではなかったのです」

「僕達は今日帝国に帰国してきたのですが、まず帰国の挨拶を父上にするつもりが今日はずらせない予定ばかりだったので、それが明日になったのです。時間が空いたので何をしようかと思った時にふとお義父上の屋敷に行くことを思いついたのです。屋敷の場所の確認とお義父上に会うことを目的としていますので、屋敷内を色々見せて頂くとかは考えていませんよ」

「そうか。屋敷の中の案内はまた日を改めてということで」

「それよりお父様。先程ニコラスに会いましたわよ。他には誰を連れて来ていらっしゃるのですか?」

「ニコラスとナタリア、料理人のダンとロビン、庭師のビクター、メイドのアネットだ。屋敷に住むのは私一人で現状家族が増える予定はなく、屋敷の大きさもそんなに大きくないからあまり沢山の使用人は要らないと思って」

「後は私達がたまに来る程度ですものね」

「そうだ。それに、向こうにいた時みたいに要職に就く気持ちはなく、侯爵の仕事としてゆっくり領地経営するだけだから、そんなにこの屋敷に人を招待することもない」

「確かにブロワ公爵家では色々なお付き合いでお客様をお呼びしていましたわね。そう言えば、ブロワ公爵邸はどうなっておりますの?」

「公爵の地位と領地、公爵邸は弟夫婦に譲った。帝国に移住する私が持っていても仕方ない。領地にしょっちゅう足を運べないのでは、何か起きた時に領地民が困ったことになってしまう。私達の事情に無関係の領民を巻き込んではいけない」


 基本的に領地経営は爵位を持っている者が最終的な責任を持つ。

 なので、領地で何か問題が発生した時に速やかに駆けつけて問題を解決する必要がある。

 自分に代わって確実に管理出来る身内がいる場合以外は爵位持ちの外国移住は不可である。

 しかし、仕事はやらせても爵位を譲らないというのは少々ムシのいい話になってしまう為、普通は爵位を譲渡する。


 余談だが、サミュエルがリチャードから貰った侯爵家の屋敷とこれからサミュエルが管理していく侯爵家の領地は、サミュエルが移住する前は城勤めの役人がきちんと管理していた。
 

「叔父様夫婦にお譲りしましたのね。なくなってしまうよりも叔父様夫婦にお譲りして、残っている方が私も嬉しいですわ」

「今後の王国の政治状況が変わって王国から移住したい場合は爵位を返上していいとは伝えている。今の時点では、とりあえず弟夫婦に譲って任せているという方が正しい。ところで、話は変わるのだが、ちょうど今、ビクターは庭仕事しているが、会って行くか?」

「ビクターさんには向こうでお世話になりましたので、是非挨拶したいです」

「わかった。じゃあ庭に行こう」

 サミュエルの案内でジョシアとエレオノーラは庭園に移動する。

「ビクター。お前にお客さんだ」

「旦那様。俺に来客? ……ってジョシアじゃないか!」


 ビクターは50代の男性で、気のいい陽気なおじさんである。

 今日もトレードマークの繋ぎの作業服に帽子を被って、手には剪定鋏を持っている。

 庭師にありがちな頑固で付き合いにくい職人気質ではない。


「ビクターさん、こんにちは。向こうではお世話になりました」

「ジョシアこそ形ばかりではなく、育てている花や木に興味を持って本当に手伝ってくれて嬉しかったよ。重労働は流石にさせなかったけど。今、庭園を整えているところで、基本は馴染みのある王国風にして、ところどころは帝国風にしようと思っているんだ。……とは言え、帝国風はまだ勉強中だから、植物園に足を運んだりしてどんな感じか見て回っている」

「王国と帝国ではデザイン性も違うし、植えられている花も違いますからね。もし必要であれば、グロスター城の庭園の見学許可を発行するので、いつでも声をかけて下さいね」

 グロスター城の庭園と言えば、帝国の中でも最大の規模を誇る庭園で、帝国風の庭園を見学するならば外せない場所だ。

 国内屈指の腕のいい庭師を数名お抱えで雇っているので文句なしに美しい庭園となっている。


 ただし、警備の都合上、グロスター城の庭園は貴族階級の者は出入り自由だが、城勤めではない部外者の平民の場合は見学許可証が必要である。

 ジョシアは第二皇子なので許可証を発行する権力は持っている。


「それは嬉しいな。伝手がないから入れないと諦めていたんだ。旦那様経由で頼んでいいか?」

「ええ。城に戻って申請して、ここに届くように手配します」

「ありがとう。楽しみだな」

 三人で会話をしていたら、サミュエルから指摘を受ける。

「ジョシア、エレオノーラ。そろそろ城に帰った方がいい時間では?」

「そうですわね。私達はそろそろお暇させて頂きます」

「今日のところはこれで失礼します。今度はゆっくり時間が取れる時に伺わせて頂きますね」

「ああ。待っている。それでは気を付けて」


 エレオノーラとジョシアは公爵邸を後にして、グロスター城に戻った。
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