31 / 41
第31話
しおりを挟む
「父上も婚約破棄……?」
シモンがポツリと漏らすとそれにエレオノーラが答えた。
「ええ、そうですわよ。シモン王太子殿下はご存知ありませんでしたのね。陛下は殿下と同じく婚約破棄を突き付けたのです。当時の陛下の婚約者は私のお母様で恋人は殿下の実のお母様ですわ。婚約破棄の現場はサンブルヌ学園の卒業式。ちょうど私達と同世代の子の親世代の話ですわね。当時、現場に居合わせた者には緘口令が敷かれておりました」
「そんな……」
自分の父もまた不義理をしていたことにシモンはショックを受ける。
イレーヌはもう数年前に亡くなっていたが、シモンの覚えている彼女はいつも明るく笑っているような女だった。
少々世間ズレしていて頭が足りないような部分はあったが、父に愛されて幸せいっぱいなオーラを振りまいていた。
婚約者から略奪するような強かな女には見えなかった。
だから自分の家族は後ろ暗いところはないと思っていたのだ。
ところが父は婚約破棄を突き付け、自分の愛した女性を妻に迎え、実の母は婚約者がいた父と恋人になり、婚約者を差し置いて妻になった。
結局自分も同じ血が流れる家族だったようだ。
「陛下、私からよろしいですか」
ここでサミュエルが国王に話しかける。
「私は本日限りで宰相の職を辞任します。今までお世話になりました」
サミュエルが宰相を辞任すると発表した時、周囲に衝撃が走る。
”閣下が宰相を辞めるなんてこの王国は大丈夫なのか?”、”閣下からすればやはり色々思うところがあったのだろう”等ひそひそ話が交わさせる。
「何だと!? お前がいないと困るのだが……。私の友人でもあり、長年一緒にやって来た仕事仲間でもあるお前がいなくなるなんて考えたくもない」
「困ると言われても知りません」
サミュエルはにべもなく切り捨てる。
「それに私の方はあなたのことを友人だと思っていたのはシモン王太子殿下とエレオノーラを婚約させるまで。あなたが二人の婚約を言い出した時、私はあなたに失望したのです」
「何故だ!?」
「先程エレオノーラが言ったようにクリスティーンを踏みつけにしたにも関わらず、よりによってクリスティーンの娘のエレオノーラにご自分の結婚の結果の尻拭いをさせようとしたからですよ。あなたは別の思惑があったのかもしれませんが、こちらにしてみれば自分の都合で一方的に婚約破棄した癖に権力が必要な時だけは都合よく利用しようとしている風にしか見えなかったのです」
「そんなことは……」
国王の返事に被せるようにサミュエルが告げる。
「ない、と言い切れますか? 一応、私と陛下は幼少期の頃からずっと付き合いがあって、私的な場では友人同士という関係でしたが、友人だからと言ってそれに甘えて何でもかんでも笑って許すようなことはありませんよ。あと、学園の卒業パーティーという公衆の面前で婚約破棄を突き付けるという愚行をした陛下の息子という点も気になっていたのです。シモン王太子殿下も同じことをしてエレオノーラを悲しませたり、苦しませることにならないか。親ならば自分の娘がそんな目に遭わないか心配になるような相手でしたよ、シモン王太子殿下は。現にシモン王太子殿下はエレオノーラがいながらも、王太子妃殿下と付き合ってエレオノーラを蔑ろにした。エレオノーラがシモン王太子に注意しても聞く耳を持たなかったそうですね。そして、遂にはエレオノーラを冤罪で処刑し、王太子妃殿下と結婚」
サミュエルはさらに続ける。
「私達臣下はあなた方王族の都合で勝手に振り回していい駒ではないんですよ。陛下がご自分の感情を持っているのと同じように私達にも感情というものがある。陛下は私の立場に立ってシモン王太子殿下とエレオノーラの婚約について考えたこと、ないでしょう? 私がオルレーヌ王国でやるべきことは全て終えました。もうこれ以上あなた方の都合に付き合わされるのは願い下げです」
「宰相を辞任するとして、その後はどうするつもりなのか?」
「それは陛下には関係ありませんよ。言うつもりもありません」
サミュエルは思い出したかのように付け加える。
「私の補佐官に宰相の職の引継ぎはちゃんと済ませておりますので、私がいなくなった後は彼に仕事上のことはご相談下さい」
サミュエルは遂に長年溜め込んでいた本心を国王に突きつけた。
彼の今後はエレオノーラ達と共にルズベリー帝国に移住し、帝国でゆっくり過ごす予定だ。
サミュエルがいなくなることはエレオノーラが主張した悪い行いは自分達に返ってくることの内の一つである。
特に国王にとっては大きな痛手だ。
サミュエルの心境を理解しようともしなかった国王が悪い。
まだまだ悪い状況は続く。
シモンがポツリと漏らすとそれにエレオノーラが答えた。
「ええ、そうですわよ。シモン王太子殿下はご存知ありませんでしたのね。陛下は殿下と同じく婚約破棄を突き付けたのです。当時の陛下の婚約者は私のお母様で恋人は殿下の実のお母様ですわ。婚約破棄の現場はサンブルヌ学園の卒業式。ちょうど私達と同世代の子の親世代の話ですわね。当時、現場に居合わせた者には緘口令が敷かれておりました」
「そんな……」
自分の父もまた不義理をしていたことにシモンはショックを受ける。
イレーヌはもう数年前に亡くなっていたが、シモンの覚えている彼女はいつも明るく笑っているような女だった。
少々世間ズレしていて頭が足りないような部分はあったが、父に愛されて幸せいっぱいなオーラを振りまいていた。
婚約者から略奪するような強かな女には見えなかった。
だから自分の家族は後ろ暗いところはないと思っていたのだ。
ところが父は婚約破棄を突き付け、自分の愛した女性を妻に迎え、実の母は婚約者がいた父と恋人になり、婚約者を差し置いて妻になった。
結局自分も同じ血が流れる家族だったようだ。
「陛下、私からよろしいですか」
ここでサミュエルが国王に話しかける。
「私は本日限りで宰相の職を辞任します。今までお世話になりました」
サミュエルが宰相を辞任すると発表した時、周囲に衝撃が走る。
”閣下が宰相を辞めるなんてこの王国は大丈夫なのか?”、”閣下からすればやはり色々思うところがあったのだろう”等ひそひそ話が交わさせる。
「何だと!? お前がいないと困るのだが……。私の友人でもあり、長年一緒にやって来た仕事仲間でもあるお前がいなくなるなんて考えたくもない」
「困ると言われても知りません」
サミュエルはにべもなく切り捨てる。
「それに私の方はあなたのことを友人だと思っていたのはシモン王太子殿下とエレオノーラを婚約させるまで。あなたが二人の婚約を言い出した時、私はあなたに失望したのです」
「何故だ!?」
「先程エレオノーラが言ったようにクリスティーンを踏みつけにしたにも関わらず、よりによってクリスティーンの娘のエレオノーラにご自分の結婚の結果の尻拭いをさせようとしたからですよ。あなたは別の思惑があったのかもしれませんが、こちらにしてみれば自分の都合で一方的に婚約破棄した癖に権力が必要な時だけは都合よく利用しようとしている風にしか見えなかったのです」
「そんなことは……」
国王の返事に被せるようにサミュエルが告げる。
「ない、と言い切れますか? 一応、私と陛下は幼少期の頃からずっと付き合いがあって、私的な場では友人同士という関係でしたが、友人だからと言ってそれに甘えて何でもかんでも笑って許すようなことはありませんよ。あと、学園の卒業パーティーという公衆の面前で婚約破棄を突き付けるという愚行をした陛下の息子という点も気になっていたのです。シモン王太子殿下も同じことをしてエレオノーラを悲しませたり、苦しませることにならないか。親ならば自分の娘がそんな目に遭わないか心配になるような相手でしたよ、シモン王太子殿下は。現にシモン王太子殿下はエレオノーラがいながらも、王太子妃殿下と付き合ってエレオノーラを蔑ろにした。エレオノーラがシモン王太子に注意しても聞く耳を持たなかったそうですね。そして、遂にはエレオノーラを冤罪で処刑し、王太子妃殿下と結婚」
サミュエルはさらに続ける。
「私達臣下はあなた方王族の都合で勝手に振り回していい駒ではないんですよ。陛下がご自分の感情を持っているのと同じように私達にも感情というものがある。陛下は私の立場に立ってシモン王太子殿下とエレオノーラの婚約について考えたこと、ないでしょう? 私がオルレーヌ王国でやるべきことは全て終えました。もうこれ以上あなた方の都合に付き合わされるのは願い下げです」
「宰相を辞任するとして、その後はどうするつもりなのか?」
「それは陛下には関係ありませんよ。言うつもりもありません」
サミュエルは思い出したかのように付け加える。
「私の補佐官に宰相の職の引継ぎはちゃんと済ませておりますので、私がいなくなった後は彼に仕事上のことはご相談下さい」
サミュエルは遂に長年溜め込んでいた本心を国王に突きつけた。
彼の今後はエレオノーラ達と共にルズベリー帝国に移住し、帝国でゆっくり過ごす予定だ。
サミュエルがいなくなることはエレオノーラが主張した悪い行いは自分達に返ってくることの内の一つである。
特に国王にとっては大きな痛手だ。
サミュエルの心境を理解しようともしなかった国王が悪い。
まだまだ悪い状況は続く。
78
お気に入りに追加
6,539
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる