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第31話
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「父上も婚約破棄……?」
シモンがポツリと漏らすとそれにエレオノーラが答えた。
「ええ、そうですわよ。シモン王太子殿下はご存知ありませんでしたのね。陛下は殿下と同じく婚約破棄を突き付けたのです。当時の陛下の婚約者は私のお母様で恋人は殿下の実のお母様ですわ。婚約破棄の現場はサンブルヌ学園の卒業式。ちょうど私達と同世代の子の親世代の話ですわね。当時、現場に居合わせた者には緘口令が敷かれておりました」
「そんな……」
自分の父もまた不義理をしていたことにシモンはショックを受ける。
イレーヌはもう数年前に亡くなっていたが、シモンの覚えている彼女はいつも明るく笑っているような女だった。
少々世間ズレしていて頭が足りないような部分はあったが、父に愛されて幸せいっぱいなオーラを振りまいていた。
婚約者から略奪するような強かな女には見えなかった。
だから自分の家族は後ろ暗いところはないと思っていたのだ。
ところが父は婚約破棄を突き付け、自分の愛した女性を妻に迎え、実の母は婚約者がいた父と恋人になり、婚約者を差し置いて妻になった。
結局自分も同じ血が流れる家族だったようだ。
「陛下、私からよろしいですか」
ここでサミュエルが国王に話しかける。
「私は本日限りで宰相の職を辞任します。今までお世話になりました」
サミュエルが宰相を辞任すると発表した時、周囲に衝撃が走る。
”閣下が宰相を辞めるなんてこの王国は大丈夫なのか?”、”閣下からすればやはり色々思うところがあったのだろう”等ひそひそ話が交わさせる。
「何だと!? お前がいないと困るのだが……。私の友人でもあり、長年一緒にやって来た仕事仲間でもあるお前がいなくなるなんて考えたくもない」
「困ると言われても知りません」
サミュエルはにべもなく切り捨てる。
「それに私の方はあなたのことを友人だと思っていたのはシモン王太子殿下とエレオノーラを婚約させるまで。あなたが二人の婚約を言い出した時、私はあなたに失望したのです」
「何故だ!?」
「先程エレオノーラが言ったようにクリスティーンを踏みつけにしたにも関わらず、よりによってクリスティーンの娘のエレオノーラにご自分の結婚の結果の尻拭いをさせようとしたからですよ。あなたは別の思惑があったのかもしれませんが、こちらにしてみれば自分の都合で一方的に婚約破棄した癖に権力が必要な時だけは都合よく利用しようとしている風にしか見えなかったのです」
「そんなことは……」
国王の返事に被せるようにサミュエルが告げる。
「ない、と言い切れますか? 一応、私と陛下は幼少期の頃からずっと付き合いがあって、私的な場では友人同士という関係でしたが、友人だからと言ってそれに甘えて何でもかんでも笑って許すようなことはありませんよ。あと、学園の卒業パーティーという公衆の面前で婚約破棄を突き付けるという愚行をした陛下の息子という点も気になっていたのです。シモン王太子殿下も同じことをしてエレオノーラを悲しませたり、苦しませることにならないか。親ならば自分の娘がそんな目に遭わないか心配になるような相手でしたよ、シモン王太子殿下は。現にシモン王太子殿下はエレオノーラがいながらも、王太子妃殿下と付き合ってエレオノーラを蔑ろにした。エレオノーラがシモン王太子に注意しても聞く耳を持たなかったそうですね。そして、遂にはエレオノーラを冤罪で処刑し、王太子妃殿下と結婚」
サミュエルはさらに続ける。
「私達臣下はあなた方王族の都合で勝手に振り回していい駒ではないんですよ。陛下がご自分の感情を持っているのと同じように私達にも感情というものがある。陛下は私の立場に立ってシモン王太子殿下とエレオノーラの婚約について考えたこと、ないでしょう? 私がオルレーヌ王国でやるべきことは全て終えました。もうこれ以上あなた方の都合に付き合わされるのは願い下げです」
「宰相を辞任するとして、その後はどうするつもりなのか?」
「それは陛下には関係ありませんよ。言うつもりもありません」
サミュエルは思い出したかのように付け加える。
「私の補佐官に宰相の職の引継ぎはちゃんと済ませておりますので、私がいなくなった後は彼に仕事上のことはご相談下さい」
サミュエルは遂に長年溜め込んでいた本心を国王に突きつけた。
彼の今後はエレオノーラ達と共にルズベリー帝国に移住し、帝国でゆっくり過ごす予定だ。
サミュエルがいなくなることはエレオノーラが主張した悪い行いは自分達に返ってくることの内の一つである。
特に国王にとっては大きな痛手だ。
サミュエルの心境を理解しようともしなかった国王が悪い。
まだまだ悪い状況は続く。
シモンがポツリと漏らすとそれにエレオノーラが答えた。
「ええ、そうですわよ。シモン王太子殿下はご存知ありませんでしたのね。陛下は殿下と同じく婚約破棄を突き付けたのです。当時の陛下の婚約者は私のお母様で恋人は殿下の実のお母様ですわ。婚約破棄の現場はサンブルヌ学園の卒業式。ちょうど私達と同世代の子の親世代の話ですわね。当時、現場に居合わせた者には緘口令が敷かれておりました」
「そんな……」
自分の父もまた不義理をしていたことにシモンはショックを受ける。
イレーヌはもう数年前に亡くなっていたが、シモンの覚えている彼女はいつも明るく笑っているような女だった。
少々世間ズレしていて頭が足りないような部分はあったが、父に愛されて幸せいっぱいなオーラを振りまいていた。
婚約者から略奪するような強かな女には見えなかった。
だから自分の家族は後ろ暗いところはないと思っていたのだ。
ところが父は婚約破棄を突き付け、自分の愛した女性を妻に迎え、実の母は婚約者がいた父と恋人になり、婚約者を差し置いて妻になった。
結局自分も同じ血が流れる家族だったようだ。
「陛下、私からよろしいですか」
ここでサミュエルが国王に話しかける。
「私は本日限りで宰相の職を辞任します。今までお世話になりました」
サミュエルが宰相を辞任すると発表した時、周囲に衝撃が走る。
”閣下が宰相を辞めるなんてこの王国は大丈夫なのか?”、”閣下からすればやはり色々思うところがあったのだろう”等ひそひそ話が交わさせる。
「何だと!? お前がいないと困るのだが……。私の友人でもあり、長年一緒にやって来た仕事仲間でもあるお前がいなくなるなんて考えたくもない」
「困ると言われても知りません」
サミュエルはにべもなく切り捨てる。
「それに私の方はあなたのことを友人だと思っていたのはシモン王太子殿下とエレオノーラを婚約させるまで。あなたが二人の婚約を言い出した時、私はあなたに失望したのです」
「何故だ!?」
「先程エレオノーラが言ったようにクリスティーンを踏みつけにしたにも関わらず、よりによってクリスティーンの娘のエレオノーラにご自分の結婚の結果の尻拭いをさせようとしたからですよ。あなたは別の思惑があったのかもしれませんが、こちらにしてみれば自分の都合で一方的に婚約破棄した癖に権力が必要な時だけは都合よく利用しようとしている風にしか見えなかったのです」
「そんなことは……」
国王の返事に被せるようにサミュエルが告げる。
「ない、と言い切れますか? 一応、私と陛下は幼少期の頃からずっと付き合いがあって、私的な場では友人同士という関係でしたが、友人だからと言ってそれに甘えて何でもかんでも笑って許すようなことはありませんよ。あと、学園の卒業パーティーという公衆の面前で婚約破棄を突き付けるという愚行をした陛下の息子という点も気になっていたのです。シモン王太子殿下も同じことをしてエレオノーラを悲しませたり、苦しませることにならないか。親ならば自分の娘がそんな目に遭わないか心配になるような相手でしたよ、シモン王太子殿下は。現にシモン王太子殿下はエレオノーラがいながらも、王太子妃殿下と付き合ってエレオノーラを蔑ろにした。エレオノーラがシモン王太子に注意しても聞く耳を持たなかったそうですね。そして、遂にはエレオノーラを冤罪で処刑し、王太子妃殿下と結婚」
サミュエルはさらに続ける。
「私達臣下はあなた方王族の都合で勝手に振り回していい駒ではないんですよ。陛下がご自分の感情を持っているのと同じように私達にも感情というものがある。陛下は私の立場に立ってシモン王太子殿下とエレオノーラの婚約について考えたこと、ないでしょう? 私がオルレーヌ王国でやるべきことは全て終えました。もうこれ以上あなた方の都合に付き合わされるのは願い下げです」
「宰相を辞任するとして、その後はどうするつもりなのか?」
「それは陛下には関係ありませんよ。言うつもりもありません」
サミュエルは思い出したかのように付け加える。
「私の補佐官に宰相の職の引継ぎはちゃんと済ませておりますので、私がいなくなった後は彼に仕事上のことはご相談下さい」
サミュエルは遂に長年溜め込んでいた本心を国王に突きつけた。
彼の今後はエレオノーラ達と共にルズベリー帝国に移住し、帝国でゆっくり過ごす予定だ。
サミュエルがいなくなることはエレオノーラが主張した悪い行いは自分達に返ってくることの内の一つである。
特に国王にとっては大きな痛手だ。
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まだまだ悪い状況は続く。
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