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第29話
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エレオノーラは、録画を使って事件の証拠とマリアンの本性を衆人環視の元に晒した。
マリアンはまさか決定的な証拠――まさにその時の言動が丸わかりになるような――が出て来るとは夢にも思っていなかっただろう。
実は最初にマリアンが盗みを働いた時から、エレオノーラの手によって人知れず録画機械は稼働を始めた。
機械を変に意識して不自然な動きをされても困るので、本当に信用出来て、不自然な動きをしない極一部の者にしか伝えられていない。
マリアンのことを”見た目は悪くないのに中身は醜悪”と断じたエレオノーラは追撃の手を緩めない。
「ねえ、マリアン。邪魔な私を陥れて排除して、何食わぬ顔で空席となったシモン王太子殿下の婚約者の座に座り、そのまま結婚した幸せはどんなお味? 是非私に教えて下さらないかしら?」
エレオノーラは一見穏やかに微笑んでいたが、その瞳は笑っていない。
「せっかく計画が上手くいって幸せだったのに……。何であんたが生きてるのよ……! 何で今になってこんなものが出てくるのよ! どうしてなのよ!!」
マリアンの叫びはエレオノーラに鼻で笑われた。
「こういうものはちゃんと備えておかない者が負けなのよ。知っていて対策を取らないのも愚の骨頂ですし、相手を侮って万が一のことを想定しないのも悪手。私はたまたま公爵邸でのあなたの振る舞いをもしもの時のために備えて録画していたら、予定外のものが撮影されただけ」
マリアンが後から何を言おうとも負け惜しみである。
エレオノーラが主張していることは詭弁だと思っても、正論でもある為マリアンは言い返せない。
「それに知らないって幸せね。あなたとシモン王太子殿下の婚姻を心から祝福している者なんて皆無なのに。私の友人達からお聞きしたのですが、あなた達の結婚式の様子。とてもこじんまりとした規模のものだったらしいですわね。王太子殿下夫妻の結婚式で参加者がほぼいないなんてあなた達夫婦を信用出来ない貴族ばかりということになりますわよ? 私によるこの大暴露で事件の真相も分かったことですし、真に裁かれるべき悪はあなたという判断が下されるでしょうから、もうじき王太子妃の位なんて剥奪されるでしょうね」
「王太子妃の位を剥奪……!?」
「ええ。そうですわよ。まさかシモン王太子殿下の正式な婚約者だった私を陥れて冤罪で処刑させ、何食わぬ顔でシモン王太子殿下の婚約者になろうなんて者をそのまま王太子殿下妃に据えようなんて話が罷り通るとでも言うのかしら? あなたはシモンとの結婚式を挙げたことで国王陛下夫妻に私の代わりとして認められたと勘違いされているのかもしれませんが、それはあり得ませんわよ」
「どういうことよ……!?」
「仮にもオルレーヌ王国の王太子の相手ですわよ? あなたみたいな令嬢には王太子妃として素質なんてまるでないわ」
「そんなもの愛があればどうにでもなるわ!」
「ここにおられる皆様方はご存知ないかもしれませんが、マリアンはシモン王太子殿下との婚姻以前、私の義妹としてブロワ公爵家の一員として名を連ねているのではなく、お義母様の実家であるサレット子爵家に籍がありましたの。つまり子爵家から王家に嫁いでいることになっておりますわ」
エレオノーラが説明すると、”そうだったんだな”、”子爵家から王家に嫁ぐなんて前例はありませんわよね”等というざわめきが広がる。
「実家の爵位だけでも王太子の相手として疑問がありますが、加えてマリアンは学園でのクラスは男爵家や子爵家の者達が大半の成績が最下位層のクラス。それでいて勉強は大嫌いと来たら、もう救いようもない。愛だけでは国は回らないのです。皆様方でしたらこのような令嬢にこの王国の王太子妃の地位は相応しいと思われますか?」
”相応しいとは言えませんわね”、”ブロワ公爵家から嫁いだのならまだしも、子爵家から嫁いでそれなんて……”という声が口々に上がる。
「うるさいわね……! そんなもの今から頑張ればどうにでもなる……!」
まだ諦めずに反論しているマリアンにエレオノーラはオルレーヌ王国語ではなく、ルズベリー帝国語で話しかける。
「こんにちは、今日はいい天気ですね」
「え? 何言ってるの?」
混乱しているマリアンをよそにエレオノーラは今度はヴァレント王国語で同じく”こんにちは、今日はいい天気ですね”と話しかけた。
さらにライジンク王国語でも同じことをする。
しかし、マリアンは最初のルズベリー帝国語の時点で明らかに頭にはてなが浮かんでいる状態で、ヴァレント王国語、ライジンク王国語でも同じくわかっている様子はなかった。
「今、あなたに言ったのは三つとも違う言葉で言いましたが、訳すと全て”こんにちは、今日はいい天気ですね”という文ですわ。王太子妃は外交の場にも駆り出されるので、最低でも三ヶ国語は現地の方々と同じレベルで読み書きと会話が出来なければならないのです。こんな短文ですら一つもわからないあなたには三ヶ国も習得するなんて出来ないでしょう? それにあなた昔、お父様が公爵邸に連れて来た家庭教師の先生を”指導が厳し過ぎる”という理由で勝手に解雇していたでしょう? 簡単に逃げるのに”今から頑張ればどうにでもなる”なんて言わないで頂きたいですわ」
「くっ……!」
「実家の爵位や勉学で王太子妃としての素養が何もないばかりか、正式な婚約者を陥れる悪事を働く。あなたを楽で楽しい生活させる為に王太子妃という位がある訳ではないのです。王家側はあなたが子爵家に籍があり、学園での所属クラスや成績も把握した上で、シモン王太子殿下との結婚を許可した。初めから認められていなかったのよ」
マリアンはガックリと膝をつく。
あなたの幸せの時間はもう終わりよ。
マリアンはまさか決定的な証拠――まさにその時の言動が丸わかりになるような――が出て来るとは夢にも思っていなかっただろう。
実は最初にマリアンが盗みを働いた時から、エレオノーラの手によって人知れず録画機械は稼働を始めた。
機械を変に意識して不自然な動きをされても困るので、本当に信用出来て、不自然な動きをしない極一部の者にしか伝えられていない。
マリアンのことを”見た目は悪くないのに中身は醜悪”と断じたエレオノーラは追撃の手を緩めない。
「ねえ、マリアン。邪魔な私を陥れて排除して、何食わぬ顔で空席となったシモン王太子殿下の婚約者の座に座り、そのまま結婚した幸せはどんなお味? 是非私に教えて下さらないかしら?」
エレオノーラは一見穏やかに微笑んでいたが、その瞳は笑っていない。
「せっかく計画が上手くいって幸せだったのに……。何であんたが生きてるのよ……! 何で今になってこんなものが出てくるのよ! どうしてなのよ!!」
マリアンの叫びはエレオノーラに鼻で笑われた。
「こういうものはちゃんと備えておかない者が負けなのよ。知っていて対策を取らないのも愚の骨頂ですし、相手を侮って万が一のことを想定しないのも悪手。私はたまたま公爵邸でのあなたの振る舞いをもしもの時のために備えて録画していたら、予定外のものが撮影されただけ」
マリアンが後から何を言おうとも負け惜しみである。
エレオノーラが主張していることは詭弁だと思っても、正論でもある為マリアンは言い返せない。
「それに知らないって幸せね。あなたとシモン王太子殿下の婚姻を心から祝福している者なんて皆無なのに。私の友人達からお聞きしたのですが、あなた達の結婚式の様子。とてもこじんまりとした規模のものだったらしいですわね。王太子殿下夫妻の結婚式で参加者がほぼいないなんてあなた達夫婦を信用出来ない貴族ばかりということになりますわよ? 私によるこの大暴露で事件の真相も分かったことですし、真に裁かれるべき悪はあなたという判断が下されるでしょうから、もうじき王太子妃の位なんて剥奪されるでしょうね」
「王太子妃の位を剥奪……!?」
「ええ。そうですわよ。まさかシモン王太子殿下の正式な婚約者だった私を陥れて冤罪で処刑させ、何食わぬ顔でシモン王太子殿下の婚約者になろうなんて者をそのまま王太子殿下妃に据えようなんて話が罷り通るとでも言うのかしら? あなたはシモンとの結婚式を挙げたことで国王陛下夫妻に私の代わりとして認められたと勘違いされているのかもしれませんが、それはあり得ませんわよ」
「どういうことよ……!?」
「仮にもオルレーヌ王国の王太子の相手ですわよ? あなたみたいな令嬢には王太子妃として素質なんてまるでないわ」
「そんなもの愛があればどうにでもなるわ!」
「ここにおられる皆様方はご存知ないかもしれませんが、マリアンはシモン王太子殿下との婚姻以前、私の義妹としてブロワ公爵家の一員として名を連ねているのではなく、お義母様の実家であるサレット子爵家に籍がありましたの。つまり子爵家から王家に嫁いでいることになっておりますわ」
エレオノーラが説明すると、”そうだったんだな”、”子爵家から王家に嫁ぐなんて前例はありませんわよね”等というざわめきが広がる。
「実家の爵位だけでも王太子の相手として疑問がありますが、加えてマリアンは学園でのクラスは男爵家や子爵家の者達が大半の成績が最下位層のクラス。それでいて勉強は大嫌いと来たら、もう救いようもない。愛だけでは国は回らないのです。皆様方でしたらこのような令嬢にこの王国の王太子妃の地位は相応しいと思われますか?」
”相応しいとは言えませんわね”、”ブロワ公爵家から嫁いだのならまだしも、子爵家から嫁いでそれなんて……”という声が口々に上がる。
「うるさいわね……! そんなもの今から頑張ればどうにでもなる……!」
まだ諦めずに反論しているマリアンにエレオノーラはオルレーヌ王国語ではなく、ルズベリー帝国語で話しかける。
「こんにちは、今日はいい天気ですね」
「え? 何言ってるの?」
混乱しているマリアンをよそにエレオノーラは今度はヴァレント王国語で同じく”こんにちは、今日はいい天気ですね”と話しかけた。
さらにライジンク王国語でも同じことをする。
しかし、マリアンは最初のルズベリー帝国語の時点で明らかに頭にはてなが浮かんでいる状態で、ヴァレント王国語、ライジンク王国語でも同じくわかっている様子はなかった。
「今、あなたに言ったのは三つとも違う言葉で言いましたが、訳すと全て”こんにちは、今日はいい天気ですね”という文ですわ。王太子妃は外交の場にも駆り出されるので、最低でも三ヶ国語は現地の方々と同じレベルで読み書きと会話が出来なければならないのです。こんな短文ですら一つもわからないあなたには三ヶ国も習得するなんて出来ないでしょう? それにあなた昔、お父様が公爵邸に連れて来た家庭教師の先生を”指導が厳し過ぎる”という理由で勝手に解雇していたでしょう? 簡単に逃げるのに”今から頑張ればどうにでもなる”なんて言わないで頂きたいですわ」
「くっ……!」
「実家の爵位や勉学で王太子妃としての素養が何もないばかりか、正式な婚約者を陥れる悪事を働く。あなたを楽で楽しい生活させる為に王太子妃という位がある訳ではないのです。王家側はあなたが子爵家に籍があり、学園での所属クラスや成績も把握した上で、シモン王太子殿下との結婚を許可した。初めから認められていなかったのよ」
マリアンはガックリと膝をつく。
あなたの幸せの時間はもう終わりよ。
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