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第27話
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片や茫然自失として言葉がないシモン、片やぎゃあぎゃあと喚き立てて否定するマリアンに構うことなくエレオノーラは続ける。
「皆様にお見せしたい映像はまだありますの。次の映像を再生させますわね」
エレオノーラはまた機械を操作して再生する。
先程再生していた機械を一旦置いて、今度は別の機械から再生する。
************
「キャロル、あなたにお願いがあるの」
「マリアンお嬢様、どんなお願いですか?」
キャロルはマリアンに尋ねる。
「私、お義姉様の婚約者と付き合っていて、彼と結婚したいの。でも、お義姉様という邪魔な存在がある。だから、お義姉様を排除する為に自作自演でお義姉様を陥れようと思って」
「……。具体的には何をなさるおつもりで?」
キャロルは一瞬沈黙した後、問い返す。
「毒による殺人未遂事件を起こすの。お義姉様の仕業に見せかけて、私が自作自演する。ママから毒と解毒薬は既に貰っているから毒の入手はもう出来たし、ママから毒をどう使えばいいかも聞いた。毒をハーブティーに混ぜて、そのハーブティーを解毒剤を飲んだ私が飲んで、苦しむ演技をする。お義姉様はハーブティーは苦手という情報は掴んだから、ハーブティーを用意すれば必然的にお義姉様は飲まず、私が飲むことになる。毒で倒れた私はかわいそうな被害者で、お義姉様が加害者という完璧な構図よ。事件の後は私を愛しているシモン様がお義姉様を裁いてくれるわ」
マリアンは一拍置いてから続ける。
「キャロルにやってもらいたいことは三つ。まず一つ目は毒をハーブティーの茶葉に染み込ませる作業をして、事件当日はその茶葉を使ってハーブティーを淹れること。その毒の入った小瓶は私がお義姉様の部屋にある何かの引き出しに入れるから、茶葉に染み込ませる作業が終わったら返してね。二つ目は、公爵家のお抱えのお医者さんに前もって事情を話し、治療はそれらしい振りをしてもらうようお願いすること。最後に、事件後証言を求められたら、”お義姉様が犯人であり、お義姉様から毒を受け取り実行した。実家の家族を人質に取られて脅されていた”という内容の証言をすること」
「あの……よろしいですか? 何故私がそんなことをしなければならないのですか?」
「何故って? あなた、私の専属メイドでしょう? 私の命令には全部従うのが当然よ! 拒否するのは結構だけど、その場合、私があなたの実家の家族を殺しちゃうかもね?」
マリアンは笑いながら恐ろしいことを言う。
「お医者さんも言うことを聞かないようであれば脅して言うことを聞かせておいてね。とにかくこれは失敗出来ないから、失敗なんて許さないから! もしあなたがしくじって私が犯人だということがバレたらあなたの家族の命を以て償ってもらうからね」
「……。はい、わかりました。マリアンお嬢様」
************
エレオノーラはここで再生を一旦停止する。
「皆様、ご覧になりましたか? 事件はこの二人のやり取り通りに実行されました。シモン様は私を拷問した時、私がキャロルを脅して実行させたという証言があると仰られておりましたわね。それを私が否定したら鞭が飛んできた。でもご覧の通り、真実は逆でしたわね。私がキャロルを脅して実行させたのではなく、マリアンがキャロルを脅して実行させた。さらにこんな動画もありますわよ」
*************
マリアンはあたりをきょろきょろ見渡しながら、誰もいないことを確認してこっそりとその部屋に侵入する。
「よしっ、誰もいない。さて、ちょうど良さそうな引き出しは……と。あっ、これなんか良さそうね」
ぶつぶつ独り言を言いながら机に向かう。
マリアンは引き出しを開けると色々な小物が入っており、小瓶が一つ追加されていてもわからないような状態だ。
「ここに入ーれよっと。これで毒はお義姉様の手元にある状態だから、私が疑われることはなくなる」
マリアンは毒の入った小瓶を引き出しの奥側に入れて、引き出しを元の状態に戻す。
「こんなところに長居してもし誰か来たらめんどくさいことになっちゃうからさっさと出よう。当日までお義姉様が気づきませんように」
侵入した時と同様にマリアンはそそくさと退室する。
************
「これは公爵邸での私の部屋ですわ。マリアンが毒入りの小瓶を持って私の部屋に侵入し、机の引き出しに入れている様子です。ここまでお見せすればマリアンも言い逃れ出来ませんでしょうし、皆様には犯人がマリアンであることも十分にご理解頂けたかと思いますわ。シモン王太子殿下、マリアン。何か仰りたいことはおありですか?」
エレオノーラが再生した録画は真実を如実に語っていた。
”メイドを脅して実行させるなんて”、”笑いながらあんな恐ろしいことを言うなんて王太子妃殿下って怖い方なのね”等というひそひそ声が聞こえる。
「そ、そんな……嘘、だろう……。では、私は……私がしたことは……罪のない人間を断罪して、陥れた人間を側に置いて幸せに暮らさせていたということ、か……? そして、マリアンに良いように利用されていた、ということか……」
「そういうことになりますわね。マリアンの言うことを無条件に信じた結果ですわ」
「何でこんな動画が今になって出てくるのよ……! しかもそんな機械の存在なんて知らなかった……!」
「捜査の時は見つかったけれど、何に使うのかわからないので特に何もなしとして捨て置かれたようですわ。使用人も全員には使用用途を伝えていなかったので、知っている者と知らない者がおり、たまたま使用用途を知らない使用人に使用用途を尋ねた結果、わからないと返答されて捨て置かれましたわ」
エレオノーラの攻撃はまだ始まったばかりだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
27話を執筆するにあたり、19話に大切な情報が抜けていた為、加筆しました。
キャロルはエレオノーラの指示によってマリアンの言う通りに事を進めることになっていたという内容です。
加筆は一文だけでその為にわざわざ戻って読み返してもらうのも申し訳ないのでここに補足させて頂きます。
大変失礼致しました。
「皆様にお見せしたい映像はまだありますの。次の映像を再生させますわね」
エレオノーラはまた機械を操作して再生する。
先程再生していた機械を一旦置いて、今度は別の機械から再生する。
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「キャロル、あなたにお願いがあるの」
「マリアンお嬢様、どんなお願いですか?」
キャロルはマリアンに尋ねる。
「私、お義姉様の婚約者と付き合っていて、彼と結婚したいの。でも、お義姉様という邪魔な存在がある。だから、お義姉様を排除する為に自作自演でお義姉様を陥れようと思って」
「……。具体的には何をなさるおつもりで?」
キャロルは一瞬沈黙した後、問い返す。
「毒による殺人未遂事件を起こすの。お義姉様の仕業に見せかけて、私が自作自演する。ママから毒と解毒薬は既に貰っているから毒の入手はもう出来たし、ママから毒をどう使えばいいかも聞いた。毒をハーブティーに混ぜて、そのハーブティーを解毒剤を飲んだ私が飲んで、苦しむ演技をする。お義姉様はハーブティーは苦手という情報は掴んだから、ハーブティーを用意すれば必然的にお義姉様は飲まず、私が飲むことになる。毒で倒れた私はかわいそうな被害者で、お義姉様が加害者という完璧な構図よ。事件の後は私を愛しているシモン様がお義姉様を裁いてくれるわ」
マリアンは一拍置いてから続ける。
「キャロルにやってもらいたいことは三つ。まず一つ目は毒をハーブティーの茶葉に染み込ませる作業をして、事件当日はその茶葉を使ってハーブティーを淹れること。その毒の入った小瓶は私がお義姉様の部屋にある何かの引き出しに入れるから、茶葉に染み込ませる作業が終わったら返してね。二つ目は、公爵家のお抱えのお医者さんに前もって事情を話し、治療はそれらしい振りをしてもらうようお願いすること。最後に、事件後証言を求められたら、”お義姉様が犯人であり、お義姉様から毒を受け取り実行した。実家の家族を人質に取られて脅されていた”という内容の証言をすること」
「あの……よろしいですか? 何故私がそんなことをしなければならないのですか?」
「何故って? あなた、私の専属メイドでしょう? 私の命令には全部従うのが当然よ! 拒否するのは結構だけど、その場合、私があなたの実家の家族を殺しちゃうかもね?」
マリアンは笑いながら恐ろしいことを言う。
「お医者さんも言うことを聞かないようであれば脅して言うことを聞かせておいてね。とにかくこれは失敗出来ないから、失敗なんて許さないから! もしあなたがしくじって私が犯人だということがバレたらあなたの家族の命を以て償ってもらうからね」
「……。はい、わかりました。マリアンお嬢様」
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エレオノーラはここで再生を一旦停止する。
「皆様、ご覧になりましたか? 事件はこの二人のやり取り通りに実行されました。シモン様は私を拷問した時、私がキャロルを脅して実行させたという証言があると仰られておりましたわね。それを私が否定したら鞭が飛んできた。でもご覧の通り、真実は逆でしたわね。私がキャロルを脅して実行させたのではなく、マリアンがキャロルを脅して実行させた。さらにこんな動画もありますわよ」
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マリアンはあたりをきょろきょろ見渡しながら、誰もいないことを確認してこっそりとその部屋に侵入する。
「よしっ、誰もいない。さて、ちょうど良さそうな引き出しは……と。あっ、これなんか良さそうね」
ぶつぶつ独り言を言いながら机に向かう。
マリアンは引き出しを開けると色々な小物が入っており、小瓶が一つ追加されていてもわからないような状態だ。
「ここに入ーれよっと。これで毒はお義姉様の手元にある状態だから、私が疑われることはなくなる」
マリアンは毒の入った小瓶を引き出しの奥側に入れて、引き出しを元の状態に戻す。
「こんなところに長居してもし誰か来たらめんどくさいことになっちゃうからさっさと出よう。当日までお義姉様が気づきませんように」
侵入した時と同様にマリアンはそそくさと退室する。
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「これは公爵邸での私の部屋ですわ。マリアンが毒入りの小瓶を持って私の部屋に侵入し、机の引き出しに入れている様子です。ここまでお見せすればマリアンも言い逃れ出来ませんでしょうし、皆様には犯人がマリアンであることも十分にご理解頂けたかと思いますわ。シモン王太子殿下、マリアン。何か仰りたいことはおありですか?」
エレオノーラが再生した録画は真実を如実に語っていた。
”メイドを脅して実行させるなんて”、”笑いながらあんな恐ろしいことを言うなんて王太子妃殿下って怖い方なのね”等というひそひそ声が聞こえる。
「そ、そんな……嘘、だろう……。では、私は……私がしたことは……罪のない人間を断罪して、陥れた人間を側に置いて幸せに暮らさせていたということ、か……? そして、マリアンに良いように利用されていた、ということか……」
「そういうことになりますわね。マリアンの言うことを無条件に信じた結果ですわ」
「何でこんな動画が今になって出てくるのよ……! しかもそんな機械の存在なんて知らなかった……!」
「捜査の時は見つかったけれど、何に使うのかわからないので特に何もなしとして捨て置かれたようですわ。使用人も全員には使用用途を伝えていなかったので、知っている者と知らない者がおり、たまたま使用用途を知らない使用人に使用用途を尋ねた結果、わからないと返答されて捨て置かれましたわ」
エレオノーラの攻撃はまだ始まったばかりだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
27話を執筆するにあたり、19話に大切な情報が抜けていた為、加筆しました。
キャロルはエレオノーラの指示によってマリアンの言う通りに事を進めることになっていたという内容です。
加筆は一文だけでその為にわざわざ戻って読み返してもらうのも申し訳ないのでここに補足させて頂きます。
大変失礼致しました。
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