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第13話
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※このページ以降、エレオノールの名前は地の文:エレオノーラ、オルレーヌ王国時代の過去の出来事における台詞内:エレオノールで表記しています。
誤表記ではありません。
**************************
結婚式の翌朝。
「おはよう、エレオノーラ。よく眠れた?」
「んっ……。おはようございます、ジョシア。今、何時ですの……?」
「今は朝の10時くらいだよ。今日は朝は起こさないでと使用人には言ってあるから」
エレオノーラはその言葉に真っ赤になる。
昨晩は初夜を過ごした。
二人は長い年月、同じ屋敷に住んでいたが、ブロワ公爵邸で同じ部屋で一緒に夜を過ごしたことはなかった。
エレオノーラには婚約者がいた上に、公爵邸では表向き二人の関係は主従関係だったから。
加えてルイズとマリアンに関係をバレたくなかったから、あまり会う訳にもいかなかった。
昨晩、二人は長年の反動でお互いがお互いを情熱的に求め合った。
やっと身も心も結ばれて晴れて正式な夫婦になれた。
幸せに微睡みながらエレオノーラは過去を回想する。
エレオノーラはサミュエルとクリスティーンの一人娘として大切に慈しまれて育った。
世間的にはサミュエルとクリスティーンは、国王に婚約破棄されたクリスティーンを気の毒に思ったサミュエルが妻に迎え入れたと思われているが、それは違う。
国王のことで悩んでいるクリスティーンの相談にサミュエルが乗っているうちに、お互いに恋愛感情が芽生えた。
ただ二人とも自分の役割はわかっているので、間違っても表には出さなかった。
結果的にクリスティーンは婚約破棄された為、サミュエルは愛しいクリスティーンを妻に迎えたのである。
ブロワ公爵邸にはいつも笑顔と温かい雰囲気が溢れていた。
一人娘で、兄や姉、弟や妹はいなかったが、周囲の愛情を一心に受けたエレオノーラは兄弟がいない寂しさを感じることはなかった。
エレオノーラが7歳の時のある日、サミュエルが一人の少年をブロワ公爵邸に連れて来た。
少年はアイスブルーの髪にどこまでも広い海を思わせるような鮮やかなコバルトブルーの瞳の美少年だ。
「エレオノール。訳あって今日から我が家に一緒に住むことになったジョシアだ。エレオノールより二歳上だから、兄が出来たとでも思ったらいい」
「初めまして。私はエレオノールと申しますわ。よろしくお願いします」
「初めまして、エレオノール嬢。ジョシアです。閣下が仰った通り僕のことは兄とでも思ってもらえたら」
これが二人の出会いである。
ジョシアはルズベリー帝国の皇帝の子で、ルズベリー帝国がクーデターで混乱に陥って危険な状態だったから、国が安全な状態になるまで皇帝からサミュエルがジョシアを預かることになった。
そんな事情は当時のエレオノーラには伝えられていない。
さて、出会った二人だが、何をするにもいつも一緒だった。
周囲は大人たちばかりで、一番年齢が近いメイドでもエレオノーラとは10歳離れている。
屋敷内で自分と年齢がそんなに変わらない存在が初めての彼女はつい何かにつけてはジョシアに構って貰っていた。
ジョシアは嫌な顔一つせずに、エレオノーラの相手をした。
一緒に勉強したり、バイオリンやピアノを演奏したり、庭園に花を見に行ったり。
ジョシアは妹がおり、時間のある時は妹の面倒を見て遊んだりしていた。
皇族の割には仲の良い家族だったから、一般的な王族や皇族よりは家族交流は多かったのだ。
ジョシアは妹感覚で相手をしていたけれど、嫌な顔せず自分の相手をしてくれるサミュエルにエレオノーラはすっかりなついていた。
いつでもどこでも一緒にいる二人はまるで幼い恋人同士のようだった。
さて、幸せに溢れていたブロワ公爵邸に不穏な雰囲気が漂う。
シモン王太子殿下とエレオノーラの婚約が持ち上がったからだ。
国王陛下夫妻は自分達がクリスティーンにした仕打ちを忘れたのか、シモンの婚約者にエレオノーラをいけしゃあしゃあと指名してきたのだ。
確かに側妃カルメンとの政略的なバランスはとれてはいるし、後ろ盾としての力はある。
だが、そもそも国王陛下が政略的に最良だったクリスティーンとの婚約を自分のわがままで蹴ったことでこの事態を引き起こしているのに、その尻拭いをクリスティーンの娘のエレオノーラにさせるなんて。
馬鹿にするにも程がある。
おまけにシモンは婚約者がいながら恋人を作り、その恋人と結ばれる為に公衆の面前で婚約破棄なんて愚かなことをした国王陛下の息子だ。
シモンもまたそんな愚かなことをするのではないか?
そんな不安もある。
因みに婚約破棄なんて愚かなことをしておきながら、廃嫡にならなかった理由はたった一つ。
前国王陛下には現国王陛下しか子がいなかったからだ。
そうでなければ廃嫡されている。
前国王陛下に子が一人しかおらず、その子が愚かなことをしても廃嫡出来なかったという苦い過去が、現国王の側妃を迎えさせ、新たに子を産ませるという話に繋がっている。
この話が国王からされた瞬間、サミュエルは静かに国王陛下を見限った。
見限ったが、王と臣下の関係だ。
業腹だったが受け入れた。
誤表記ではありません。
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結婚式の翌朝。
「おはよう、エレオノーラ。よく眠れた?」
「んっ……。おはようございます、ジョシア。今、何時ですの……?」
「今は朝の10時くらいだよ。今日は朝は起こさないでと使用人には言ってあるから」
エレオノーラはその言葉に真っ赤になる。
昨晩は初夜を過ごした。
二人は長い年月、同じ屋敷に住んでいたが、ブロワ公爵邸で同じ部屋で一緒に夜を過ごしたことはなかった。
エレオノーラには婚約者がいた上に、公爵邸では表向き二人の関係は主従関係だったから。
加えてルイズとマリアンに関係をバレたくなかったから、あまり会う訳にもいかなかった。
昨晩、二人は長年の反動でお互いがお互いを情熱的に求め合った。
やっと身も心も結ばれて晴れて正式な夫婦になれた。
幸せに微睡みながらエレオノーラは過去を回想する。
エレオノーラはサミュエルとクリスティーンの一人娘として大切に慈しまれて育った。
世間的にはサミュエルとクリスティーンは、国王に婚約破棄されたクリスティーンを気の毒に思ったサミュエルが妻に迎え入れたと思われているが、それは違う。
国王のことで悩んでいるクリスティーンの相談にサミュエルが乗っているうちに、お互いに恋愛感情が芽生えた。
ただ二人とも自分の役割はわかっているので、間違っても表には出さなかった。
結果的にクリスティーンは婚約破棄された為、サミュエルは愛しいクリスティーンを妻に迎えたのである。
ブロワ公爵邸にはいつも笑顔と温かい雰囲気が溢れていた。
一人娘で、兄や姉、弟や妹はいなかったが、周囲の愛情を一心に受けたエレオノーラは兄弟がいない寂しさを感じることはなかった。
エレオノーラが7歳の時のある日、サミュエルが一人の少年をブロワ公爵邸に連れて来た。
少年はアイスブルーの髪にどこまでも広い海を思わせるような鮮やかなコバルトブルーの瞳の美少年だ。
「エレオノール。訳あって今日から我が家に一緒に住むことになったジョシアだ。エレオノールより二歳上だから、兄が出来たとでも思ったらいい」
「初めまして。私はエレオノールと申しますわ。よろしくお願いします」
「初めまして、エレオノール嬢。ジョシアです。閣下が仰った通り僕のことは兄とでも思ってもらえたら」
これが二人の出会いである。
ジョシアはルズベリー帝国の皇帝の子で、ルズベリー帝国がクーデターで混乱に陥って危険な状態だったから、国が安全な状態になるまで皇帝からサミュエルがジョシアを預かることになった。
そんな事情は当時のエレオノーラには伝えられていない。
さて、出会った二人だが、何をするにもいつも一緒だった。
周囲は大人たちばかりで、一番年齢が近いメイドでもエレオノーラとは10歳離れている。
屋敷内で自分と年齢がそんなに変わらない存在が初めての彼女はつい何かにつけてはジョシアに構って貰っていた。
ジョシアは嫌な顔一つせずに、エレオノーラの相手をした。
一緒に勉強したり、バイオリンやピアノを演奏したり、庭園に花を見に行ったり。
ジョシアは妹がおり、時間のある時は妹の面倒を見て遊んだりしていた。
皇族の割には仲の良い家族だったから、一般的な王族や皇族よりは家族交流は多かったのだ。
ジョシアは妹感覚で相手をしていたけれど、嫌な顔せず自分の相手をしてくれるサミュエルにエレオノーラはすっかりなついていた。
いつでもどこでも一緒にいる二人はまるで幼い恋人同士のようだった。
さて、幸せに溢れていたブロワ公爵邸に不穏な雰囲気が漂う。
シモン王太子殿下とエレオノーラの婚約が持ち上がったからだ。
国王陛下夫妻は自分達がクリスティーンにした仕打ちを忘れたのか、シモンの婚約者にエレオノーラをいけしゃあしゃあと指名してきたのだ。
確かに側妃カルメンとの政略的なバランスはとれてはいるし、後ろ盾としての力はある。
だが、そもそも国王陛下が政略的に最良だったクリスティーンとの婚約を自分のわがままで蹴ったことでこの事態を引き起こしているのに、その尻拭いをクリスティーンの娘のエレオノーラにさせるなんて。
馬鹿にするにも程がある。
おまけにシモンは婚約者がいながら恋人を作り、その恋人と結ばれる為に公衆の面前で婚約破棄なんて愚かなことをした国王陛下の息子だ。
シモンもまたそんな愚かなことをするのではないか?
そんな不安もある。
因みに婚約破棄なんて愚かなことをしておきながら、廃嫡にならなかった理由はたった一つ。
前国王陛下には現国王陛下しか子がいなかったからだ。
そうでなければ廃嫡されている。
前国王陛下に子が一人しかおらず、その子が愚かなことをしても廃嫡出来なかったという苦い過去が、現国王の側妃を迎えさせ、新たに子を産ませるという話に繋がっている。
この話が国王からされた瞬間、サミュエルは静かに国王陛下を見限った。
見限ったが、王と臣下の関係だ。
業腹だったが受け入れた。
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