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第5話
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その事件はブロワ公爵邸で起きた。
マリアンはエレオノールを誘い、公爵邸の庭園でお茶会をする。
エレオノールは何かと多忙なので、学園の休日もブロワ公爵邸にいることはほぼないので、マリアンは二週間程前にお茶会の約束を取り付けた。
勿論これまでのことを水に流す仲直りのお茶会をする訳ではない。
シモンとエレオノールの学園卒業後についてマリアンが牽制する目的で開いた。
元々の予定ではシモンとエレオノールは卒業後、すぐ結婚することになっていたが、シモンがそれを渋り、エレオノールではなくマリアンと結婚したいと言い出す。
シモンは外では完璧な令嬢として振る舞い、評判は良いのに、人の目のないところでは義妹のマリアンを虐げるというエレオノールの二面性を持った性根の悪さを嫌悪し、同じブロワ公爵家の娘ならそんな性根の悪いエレオノールより自分の愛しい恋人のマリアンと結婚したいと思っていたのだ。
ただし、この話は当事者のマリアンと側近一同の内輪だけでの話であり、国王陛下夫妻には現時点で話は通っていない。
オルレーヌ王国の法律では身分に関係なく男性は16歳、女性は14歳から結婚可能なので、シモンもマリアンも結婚を許される年齢である。
学園は貴族の子女が通う為、何らかの事情で結婚が早まり、途中で結婚して中途退学する女子生徒も毎年ちらほらいる。
マリアンにとっては学園はあまり居心地の良い場所ではなかった。
シモン王太子の婚約者として有名なエレオノールの義妹なのに所属するクラスは成績最下位層のクラスである時点で既に悪目立ちしていた。
最下位層のクラスには子爵家・男爵家の子女が多数を占めており――高位貴族になればなるほど教育には力を入れる為、必然的に成績上位のクラスは上位貴族の子女達で構成される――、その中で公爵家に属するマリアンは浮いた存在だった。
授業ではいくら元々平民だったとは言え、今までろくに勉強したのがないのが丸わかりな状態な上、わからないものを少しでも学ぼうという気概も感じられない。
彼女と同じクラスの者は、自分が最下位層のクラス所属であることに恥じて、少しでも成績を上げようと努力している者の方が多い。
それに加え、マリアンがエレオノールの婚約者のシモン王太子と恋仲であるという噂が広まって以降、”義姉の婚約者を略奪する己の分を弁えない身の程知らずの愚かな令嬢”として認識される。
その結果として、彼女と関わろうとする者など皆無だった。
だからマリアンはシモンがエレオノールではなく、自分を選んで結婚してくれるのなら、学園は中途退学する心づもりでいる。
庭園の真ん中に用意されたテーブルと椅子に二人は向き合って座る。
テーブルの上にはティースタンドとカップとソーサーが用意されている。
ティースタンドにはバターの香りのするクッキーと色とりどりのマカロン、宝石のようにキラキラしたフルーツを使ったプチケーキが載っている。
庭園では若い男性の庭師が屋敷の中を飾る花を選ぶ為にああでもないこうでもないと頭を悩ませながら作業をしていたが、マリアンは気にも留めていなかった。
エレオノールは庭師に気づき、目配せする。
庭師の方もエレオノールを認識し、一礼する。
メイドが熱い紅茶を淹れたポットをティーワゴンに乗せて、二人が座っているテーブルまで来ると、マリアンの言葉で茶会が始める。
このメイドはマリアンの専属メイドで、名前はキャロルだ。
「今日は来て下さってありがとうございます、お義姉様。今日の紅茶はお母様に頼んで、私が用意しました。レトナーク領産の紅茶です。この紅茶はお母様からハーブティーだと聞きました」
レトナーク領はオルレーヌ王国の国内で紅茶の一大生産地である。
「あら。あなたのことは義妹なんて思ってないから”お義姉様”呼びはやめて下さらないかしら。それに私、ハーブティーは苦手ですわ。自分が招待した相手の好みも知らず相手の苦手なものを出すなんて非常識よ」
エレオノールは不愉快そうに告げる。
「ご、ごめんなさい……! 知らなかっただけでわざとではないんです!」
「今日は我が家であなたと私のお茶会だから私の苦手なものを出してもすぐ軌道修正出来るし、私が外部に漏らさない限りは誰かに嘲笑されることもありませんわ。しかし、これが他家の方を数名お招きしてのお茶会ならそうはいきません。今日のところは、あなたは用意したそのハーブティーをお飲みなさい。あなたはハーブティーが苦手ではないのでしょう? せっかく用意したのに飲まないのは勿体ないですわ。私は別の紅茶を用意してもらいますわ。アネット、いつもの紅茶をお願いするわ」
「畏まりました」
アネットはエレオノールの専属メイドで、エレオノールの身の回りの世話は彼女に一任されている。
彼女はエレオノールに命じられて庭園からほど近い給湯室で紅茶を準備することになった。
アネットがエレオノール用の紅茶を用意して庭園に戻ってきたところで、キャロルとアネットはそれぞれ自分の主人のティーカップに紅茶を淹れる。
そしてエレオノールもマリアンもカップに口を付けて、紅茶を飲む。
その直後、マリアンは持っていたカップを落とし、急に苦しみ始めた。
座っていた椅子から転がり落ち、胸を手で押さえつけ、嘔吐する。
この光景に一同は騒然とする。
「マリアンお嬢様!? 大丈夫ですか!?」
「マリアン、どうしたの!?」
キャロルとエレオノールはマリアンに必死に呼びかけるも彼女はぐったりとしていてとても返事など出来るような状態ではなかった。
この場でアネットだけは冷静だった。
庭師に医者を呼ぶよう頼み、庭師はすぐに屋敷の中にいる執事に庭園で起きた出来事を報告し、医者を呼んでもらった。
マリアンはエレオノールを誘い、公爵邸の庭園でお茶会をする。
エレオノールは何かと多忙なので、学園の休日もブロワ公爵邸にいることはほぼないので、マリアンは二週間程前にお茶会の約束を取り付けた。
勿論これまでのことを水に流す仲直りのお茶会をする訳ではない。
シモンとエレオノールの学園卒業後についてマリアンが牽制する目的で開いた。
元々の予定ではシモンとエレオノールは卒業後、すぐ結婚することになっていたが、シモンがそれを渋り、エレオノールではなくマリアンと結婚したいと言い出す。
シモンは外では完璧な令嬢として振る舞い、評判は良いのに、人の目のないところでは義妹のマリアンを虐げるというエレオノールの二面性を持った性根の悪さを嫌悪し、同じブロワ公爵家の娘ならそんな性根の悪いエレオノールより自分の愛しい恋人のマリアンと結婚したいと思っていたのだ。
ただし、この話は当事者のマリアンと側近一同の内輪だけでの話であり、国王陛下夫妻には現時点で話は通っていない。
オルレーヌ王国の法律では身分に関係なく男性は16歳、女性は14歳から結婚可能なので、シモンもマリアンも結婚を許される年齢である。
学園は貴族の子女が通う為、何らかの事情で結婚が早まり、途中で結婚して中途退学する女子生徒も毎年ちらほらいる。
マリアンにとっては学園はあまり居心地の良い場所ではなかった。
シモン王太子の婚約者として有名なエレオノールの義妹なのに所属するクラスは成績最下位層のクラスである時点で既に悪目立ちしていた。
最下位層のクラスには子爵家・男爵家の子女が多数を占めており――高位貴族になればなるほど教育には力を入れる為、必然的に成績上位のクラスは上位貴族の子女達で構成される――、その中で公爵家に属するマリアンは浮いた存在だった。
授業ではいくら元々平民だったとは言え、今までろくに勉強したのがないのが丸わかりな状態な上、わからないものを少しでも学ぼうという気概も感じられない。
彼女と同じクラスの者は、自分が最下位層のクラス所属であることに恥じて、少しでも成績を上げようと努力している者の方が多い。
それに加え、マリアンがエレオノールの婚約者のシモン王太子と恋仲であるという噂が広まって以降、”義姉の婚約者を略奪する己の分を弁えない身の程知らずの愚かな令嬢”として認識される。
その結果として、彼女と関わろうとする者など皆無だった。
だからマリアンはシモンがエレオノールではなく、自分を選んで結婚してくれるのなら、学園は中途退学する心づもりでいる。
庭園の真ん中に用意されたテーブルと椅子に二人は向き合って座る。
テーブルの上にはティースタンドとカップとソーサーが用意されている。
ティースタンドにはバターの香りのするクッキーと色とりどりのマカロン、宝石のようにキラキラしたフルーツを使ったプチケーキが載っている。
庭園では若い男性の庭師が屋敷の中を飾る花を選ぶ為にああでもないこうでもないと頭を悩ませながら作業をしていたが、マリアンは気にも留めていなかった。
エレオノールは庭師に気づき、目配せする。
庭師の方もエレオノールを認識し、一礼する。
メイドが熱い紅茶を淹れたポットをティーワゴンに乗せて、二人が座っているテーブルまで来ると、マリアンの言葉で茶会が始める。
このメイドはマリアンの専属メイドで、名前はキャロルだ。
「今日は来て下さってありがとうございます、お義姉様。今日の紅茶はお母様に頼んで、私が用意しました。レトナーク領産の紅茶です。この紅茶はお母様からハーブティーだと聞きました」
レトナーク領はオルレーヌ王国の国内で紅茶の一大生産地である。
「あら。あなたのことは義妹なんて思ってないから”お義姉様”呼びはやめて下さらないかしら。それに私、ハーブティーは苦手ですわ。自分が招待した相手の好みも知らず相手の苦手なものを出すなんて非常識よ」
エレオノールは不愉快そうに告げる。
「ご、ごめんなさい……! 知らなかっただけでわざとではないんです!」
「今日は我が家であなたと私のお茶会だから私の苦手なものを出してもすぐ軌道修正出来るし、私が外部に漏らさない限りは誰かに嘲笑されることもありませんわ。しかし、これが他家の方を数名お招きしてのお茶会ならそうはいきません。今日のところは、あなたは用意したそのハーブティーをお飲みなさい。あなたはハーブティーが苦手ではないのでしょう? せっかく用意したのに飲まないのは勿体ないですわ。私は別の紅茶を用意してもらいますわ。アネット、いつもの紅茶をお願いするわ」
「畏まりました」
アネットはエレオノールの専属メイドで、エレオノールの身の回りの世話は彼女に一任されている。
彼女はエレオノールに命じられて庭園からほど近い給湯室で紅茶を準備することになった。
アネットがエレオノール用の紅茶を用意して庭園に戻ってきたところで、キャロルとアネットはそれぞれ自分の主人のティーカップに紅茶を淹れる。
そしてエレオノールもマリアンもカップに口を付けて、紅茶を飲む。
その直後、マリアンは持っていたカップを落とし、急に苦しみ始めた。
座っていた椅子から転がり落ち、胸を手で押さえつけ、嘔吐する。
この光景に一同は騒然とする。
「マリアンお嬢様!? 大丈夫ですか!?」
「マリアン、どうしたの!?」
キャロルとエレオノールはマリアンに必死に呼びかけるも彼女はぐったりとしていてとても返事など出来るような状態ではなかった。
この場でアネットだけは冷静だった。
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