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第4話
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シモンとマリアンの逢瀬は、逢瀬が続くうちに長い時間をかけていつしか恋情を伴うものになっていった。
二人は恋人になったのだ。
婚約者がいる王太子と婚約者の義妹という背徳感は一層彼らの恋の炎を燃え上がらせるスパイスとなった。
恋人になった時点でシモンはマリアンを側近に紹介した。
シモンの側近はダミアン・ペルソナ、ポール・ベスコ、メルヴィル・モロゼックの三人だ。
全員シモンと同い年である。
ダミアンは財務大臣の二男、ポールは騎士団副団長の長男、メルヴィルは外務大臣の長男だ。
ポールの父は王妃カルメンの兄で騎士団長ジャックの部下にあたる。
三人はシモンとマリアンの関係に驚きはしたが、婚約者を持ちながらその義妹と恋仲になることを諫めることはせず、温かく見守ることにした。
マリアンを紹介した時の表情が普段の仏頂面とは比べ物にならないくらい穏やかな微笑みだったから、強く窘めることは出来なかったのだ。
本来側近とは王子が悪い道に進もうとしたら諫めるべき存在でもあるのだが、彼らはまだ言っても少年。
若さ故に視野が狭く、理性より感情で物事を考えてしまう。
側近の公認となった頃から徐々にシモンは人目を憚らずマリアンと逢瀬を重ねた。
側近に認められたことで自信がついたのだろう。
ある時は学園の食堂で二人でランチをしたり、ある時は図書館で同じ机で並んで座り本を読んだり、またある時は学園の敷地内でも人の往来が激しい場所にあるベンチで二人で座っていちゃついていたり。
二人きりではないというカモフラージュの為に側近も二人の近くに控えていたけれど、効果はない。
今までは庭園でひっそりと恋情を育んでいただけだから噂にならなかったけれど、人前で一緒にいれば噂になるのは火を見るよりも明らかだ。
シモンはエレオノールの婚約者で、マリアンは正確に言うと義妹ではないが実態はどうあれ世間的にはエレオノールの義妹という関係だから、最初は単にシモンが婚約者の家族の義妹と交流していると思われていたが、距離感がどう見ても家族の距離感と雰囲気というよりも恋人の距離感と雰囲気だった。
噂はエレオノールの耳にも当然入ってくる。
心配した友人達がエレオノールに教えた。
流石に婚約者として噂になっている事態を看過することは出来なかったエレオノールは二人が食堂で一緒にいるところに現れて注意をした。
「シモン王太子殿下。あなたとマリアンが恋仲という噂が大きくなっていますわよ。人目のある場所でマリアンと会うのはおよしになりなさい。シモン王太子殿下は”婚約者がいながらその義妹を愛した浮気者”、マリアンもこのままだと”義姉の婚約者を奪った非常識な女”という悪評判が立ちますわ。シモン王太子殿下の婚約者は私。それをお忘れなきよう」
エレオノールはそう告げて返事も聞かず立ち去った。
「今まで絡んでこなかったのに噂になった途端、小言か……」
「シモン様は気にすることないです。あれは愛されていない者の僻みですよ」
エレオノールの忠告も恋の炎に燃え上がる二人の前には何の意味もなかった。
以降、度々エレオノールは忠告に来るも、二人は全く聞く耳を持たなかった。
それどころかエレオノールは自分達の愛の前に立ちはだかる悪役令嬢だという認識になる。
恋に障害はつきもの。
障害があればあるほどますます盛り上がるのだ。
それから少し経った頃、シモンはいつものようにマリアンを誘ってランチをする。
場所は出会ったあの庭園だ。
シモンが庭園に着いた時、いつも明るいマリアンが沈み切った表情で待っていた。
「マリアン、沈んだ表情をしているがどうしたんだい? 何かあった?」
「シモン様……。私、屋敷でお姉様に虐められているんです」
「え!?」
「今まで言えなかったけど、屋敷に住むようになってからずっとです。私とシモン様の噂が出たあたりから酷くなってきて……もう限界、です」
「エレオノールに何をされたんだ?」
「お義姉様は貴族のことなんて何もわからない私に、食事のマナーで失敗したり、挨拶で失敗する度に”これだから平民出身は”と何かにつけて馬鹿にしてくるんです。時には使用人に命じて私の食事を抜いたり、ママから貰ったアクセサリーも似合わないからと取り上げられたり、ドレスをずたぼろに引き裂かれたり……。最近では使用人の真似事をさせられています」
「くそっ、エレオノール! 何でマリアンを虐めるんだ!?」
「私にもわかりません……。平民出身の私はお義姉様の鬱憤晴らしにちょうどいい存在だったのでしょうね……」
マリアンは全てを諦めきった表情で告げる。
「マリアン、君の為にどうにかしてあげたい気持ちはあるんだけど、いくら王太子であっても流石に公爵家内部のことまで首を突っ込むことは出来ない。せっかく王太子という権力を持ってるのにマリアンの為に役に立てない!」
シモンは権力がありながら愛する彼女の役に立てない不甲斐なさに悔しさを滲ませる。
――だが、状況は一変する。
エレオノールを断罪出来る契機が訪れたのだ。
二人は恋人になったのだ。
婚約者がいる王太子と婚約者の義妹という背徳感は一層彼らの恋の炎を燃え上がらせるスパイスとなった。
恋人になった時点でシモンはマリアンを側近に紹介した。
シモンの側近はダミアン・ペルソナ、ポール・ベスコ、メルヴィル・モロゼックの三人だ。
全員シモンと同い年である。
ダミアンは財務大臣の二男、ポールは騎士団副団長の長男、メルヴィルは外務大臣の長男だ。
ポールの父は王妃カルメンの兄で騎士団長ジャックの部下にあたる。
三人はシモンとマリアンの関係に驚きはしたが、婚約者を持ちながらその義妹と恋仲になることを諫めることはせず、温かく見守ることにした。
マリアンを紹介した時の表情が普段の仏頂面とは比べ物にならないくらい穏やかな微笑みだったから、強く窘めることは出来なかったのだ。
本来側近とは王子が悪い道に進もうとしたら諫めるべき存在でもあるのだが、彼らはまだ言っても少年。
若さ故に視野が狭く、理性より感情で物事を考えてしまう。
側近の公認となった頃から徐々にシモンは人目を憚らずマリアンと逢瀬を重ねた。
側近に認められたことで自信がついたのだろう。
ある時は学園の食堂で二人でランチをしたり、ある時は図書館で同じ机で並んで座り本を読んだり、またある時は学園の敷地内でも人の往来が激しい場所にあるベンチで二人で座っていちゃついていたり。
二人きりではないというカモフラージュの為に側近も二人の近くに控えていたけれど、効果はない。
今までは庭園でひっそりと恋情を育んでいただけだから噂にならなかったけれど、人前で一緒にいれば噂になるのは火を見るよりも明らかだ。
シモンはエレオノールの婚約者で、マリアンは正確に言うと義妹ではないが実態はどうあれ世間的にはエレオノールの義妹という関係だから、最初は単にシモンが婚約者の家族の義妹と交流していると思われていたが、距離感がどう見ても家族の距離感と雰囲気というよりも恋人の距離感と雰囲気だった。
噂はエレオノールの耳にも当然入ってくる。
心配した友人達がエレオノールに教えた。
流石に婚約者として噂になっている事態を看過することは出来なかったエレオノールは二人が食堂で一緒にいるところに現れて注意をした。
「シモン王太子殿下。あなたとマリアンが恋仲という噂が大きくなっていますわよ。人目のある場所でマリアンと会うのはおよしになりなさい。シモン王太子殿下は”婚約者がいながらその義妹を愛した浮気者”、マリアンもこのままだと”義姉の婚約者を奪った非常識な女”という悪評判が立ちますわ。シモン王太子殿下の婚約者は私。それをお忘れなきよう」
エレオノールはそう告げて返事も聞かず立ち去った。
「今まで絡んでこなかったのに噂になった途端、小言か……」
「シモン様は気にすることないです。あれは愛されていない者の僻みですよ」
エレオノールの忠告も恋の炎に燃え上がる二人の前には何の意味もなかった。
以降、度々エレオノールは忠告に来るも、二人は全く聞く耳を持たなかった。
それどころかエレオノールは自分達の愛の前に立ちはだかる悪役令嬢だという認識になる。
恋に障害はつきもの。
障害があればあるほどますます盛り上がるのだ。
それから少し経った頃、シモンはいつものようにマリアンを誘ってランチをする。
場所は出会ったあの庭園だ。
シモンが庭園に着いた時、いつも明るいマリアンが沈み切った表情で待っていた。
「マリアン、沈んだ表情をしているがどうしたんだい? 何かあった?」
「シモン様……。私、屋敷でお姉様に虐められているんです」
「え!?」
「今まで言えなかったけど、屋敷に住むようになってからずっとです。私とシモン様の噂が出たあたりから酷くなってきて……もう限界、です」
「エレオノールに何をされたんだ?」
「お義姉様は貴族のことなんて何もわからない私に、食事のマナーで失敗したり、挨拶で失敗する度に”これだから平民出身は”と何かにつけて馬鹿にしてくるんです。時には使用人に命じて私の食事を抜いたり、ママから貰ったアクセサリーも似合わないからと取り上げられたり、ドレスをずたぼろに引き裂かれたり……。最近では使用人の真似事をさせられています」
「くそっ、エレオノール! 何でマリアンを虐めるんだ!?」
「私にもわかりません……。平民出身の私はお義姉様の鬱憤晴らしにちょうどいい存在だったのでしょうね……」
マリアンは全てを諦めきった表情で告げる。
「マリアン、君の為にどうにかしてあげたい気持ちはあるんだけど、いくら王太子であっても流石に公爵家内部のことまで首を突っ込むことは出来ない。せっかく王太子という権力を持ってるのにマリアンの為に役に立てない!」
シモンは権力がありながら愛する彼女の役に立てない不甲斐なさに悔しさを滲ませる。
――だが、状況は一変する。
エレオノールを断罪出来る契機が訪れたのだ。
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