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第3話
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シモンは学園に入学して一年目は側近一同と可もなく不可もない学園生活を送っていた。
シモンとエレオノールは同じクラスだったが、ダンスの授業でパートナーを組んで踊ること以外ではほとんど交流をしなかった。
婚約者だからと四六時中張り付き、自分の交流関係にまで口を挟んできたら鬱陶しいとシモンは思っていたから、余計な干渉をしてこなかったエレオノールにほっとした。
エレオノールはクラスの人気者で男子生徒からも女子生徒からも慕われており、いつも誰かしら彼女に絡んでいた。
ある女子生徒は読んで面白かった本の話をしたり、またある女子生徒は最近街で流行っている喫茶店の話をしたり、ある男子生徒は婚約者との仲が上手くいっていないから何か贈り物をしようと思うが、女性目線で何を貰ったら嬉しいのかという相談をしたり……という風に話題も様々だ。
一方、シモンの方はご機嫌伺いやゴマすりの為に男子生徒が絡んでくるが、目的があからさま過ぎてうんざりして相手にしなかった。
側近が決まっていないなら積極的に交流して自分の力になってくれそうな者を学園で探すが、婚約者が決まった頃に親の口利きで側近も決まった為、する必要がなかった。
シモンとエレオノールは同じクラスに所属しながらも決して二人の動線が交わることはなかった。
クラスは成績順に決まっており、二人が今所属しているのは成績上位20位までの者が所属するクラスだ。
比較対象が悪かっただけで、シモンは同年代の貴族子女から見て、成績は上位に入る。
クラス変更は基本的にないが、成績が上がった者・下がった者に対してはそれぞれ相応しいクラスに移動することになる。
二年生に進級したが、一年生の時にシモンとエレオノールと同じクラスだった者はそのまま二年生になっても同じクラスメイトだった。
シモンは今年も去年と変わり映えのない一年になるだろうと思っていたが、そうはならなかった。
シモンは人気のない学園の庭園のベンチで昼休みを過ごすのが日課だったが、その日は先約がいた。
その先客は茶髪のふんわりした髪型の可愛らしい女子生徒で、ベンチに腰掛け、膝の上にはランチボックスが置き、サンドウィッチを手に持って今まさに口に入れようとしているところだ。
大口開けてサンドウィッチを食べようとするところを人に見られた為、彼女は恥ずかしがった。
「キャッ、私ったらこんな場面を人に見られちゃうなんて! どこのどなたか存じませんが、黙っててもらえるとうれしいです」
「へぇ? 私を知らない? 珍しい子もいるものだな。君に興味が沸いた。君、名前は?」
「マリアン・ブロワ、一年生」
「ブロワと言うとブロワ公爵家?」
「そう、そのブロワ公爵家」
「……ということは君はエレオノールの義妹?」
ブロワ公爵家当主で宰相でもあるサミュエルが二年前に妻を亡くし、その半年後に再婚したことはシモンも知っていた。
再婚相手は子連れということも。
マリアンは勘違いしていた。
彼女は”マリアン・ブロワ”と名乗ったが、彼女は後妻の連れ子でブロワ公爵家の血が流れている子ではないのでブロワ公爵家の籍に入っていない。
後妻は夫と死別後、自分の実家のサレット子爵家に籍を戻し、マリアンも同じくサレット子爵家に籍を入れた。
後妻はサミュエルとの再婚時にサレット子爵家からブロワ公爵家に籍が移ったが、マリアンはそのまま子爵家に籍がある。
故に彼女の名前は”マリアン・サレット”が正しく、”マリアン・ブロワ”は間違いである。
誰も勘違いを指摘する者はいなかった。
因みに後妻の死別した夫が営んでいた商会は夫の弟が後を継いでいるので問題はない。
「はい。お義姉様を呼び捨てで呼んでいるということはあなたはお義姉様と親しい関係なの?」
「自己紹介してなかったね。私はシモン・オルレーヌ。この国、オルレーヌ王国の王太子だ。エレオノールは私の婚約者なんだ」
「王太子様とは知らず失礼しました!」
「いや、いいんだ。この学園の生徒で私を知らない者がいるなんて思っていなかったんだ。自分の自惚れが恥ずかしいよ」
「私は社交界デビューしてないから私が特殊なだけですよ、きっと!」
「君はたまたまここへ? 私は長らく昼休みはここに来ているが、ここで人に会ったのは初めてだ」
「それ。君じゃなくてマリアンって呼んで下さい! お義姉様の婚約者ということは将来的に私達は家族でしょう? それなのに名前で呼んでくれないと悲しいです」
マリアンは拗ねたように言う。
「それもそうだね。ごめんね、マリアン嬢」
「今日はたまたまお天気が良かったから、外で食べようと思ったのです。誰もいない静かな場所を探していたらここにたどり着きました」
エレオノールとは全く話せないのに、マリアンとは軽快に会話のやり取りが出来る。
マリアンの親しみやすい雰囲気も作用しているのかもしれない。
それにエレオノールとは違って、喜怒哀楽が全部表情に出ているから相手がどう思っているのかわかりやすい。
昼休み終了と午後の授業開始の予鈴の鐘が鳴り響く。
これで終わりにしたくないと思ったシモンはマリアンに尋ねる。
「マリアン嬢、またここに来てくれる?」
「はいっ!!」
マリアンは輝くような笑顔で返事をする。
こうして二人は誰もいない学園の庭園でひっそりと逢瀬を重ねるようになる。
――しかし、シモンは知らなかった。
この庭園での出会いは仕組まれたものだったということを。
シモンとエレオノールは同じクラスだったが、ダンスの授業でパートナーを組んで踊ること以外ではほとんど交流をしなかった。
婚約者だからと四六時中張り付き、自分の交流関係にまで口を挟んできたら鬱陶しいとシモンは思っていたから、余計な干渉をしてこなかったエレオノールにほっとした。
エレオノールはクラスの人気者で男子生徒からも女子生徒からも慕われており、いつも誰かしら彼女に絡んでいた。
ある女子生徒は読んで面白かった本の話をしたり、またある女子生徒は最近街で流行っている喫茶店の話をしたり、ある男子生徒は婚約者との仲が上手くいっていないから何か贈り物をしようと思うが、女性目線で何を貰ったら嬉しいのかという相談をしたり……という風に話題も様々だ。
一方、シモンの方はご機嫌伺いやゴマすりの為に男子生徒が絡んでくるが、目的があからさま過ぎてうんざりして相手にしなかった。
側近が決まっていないなら積極的に交流して自分の力になってくれそうな者を学園で探すが、婚約者が決まった頃に親の口利きで側近も決まった為、する必要がなかった。
シモンとエレオノールは同じクラスに所属しながらも決して二人の動線が交わることはなかった。
クラスは成績順に決まっており、二人が今所属しているのは成績上位20位までの者が所属するクラスだ。
比較対象が悪かっただけで、シモンは同年代の貴族子女から見て、成績は上位に入る。
クラス変更は基本的にないが、成績が上がった者・下がった者に対してはそれぞれ相応しいクラスに移動することになる。
二年生に進級したが、一年生の時にシモンとエレオノールと同じクラスだった者はそのまま二年生になっても同じクラスメイトだった。
シモンは今年も去年と変わり映えのない一年になるだろうと思っていたが、そうはならなかった。
シモンは人気のない学園の庭園のベンチで昼休みを過ごすのが日課だったが、その日は先約がいた。
その先客は茶髪のふんわりした髪型の可愛らしい女子生徒で、ベンチに腰掛け、膝の上にはランチボックスが置き、サンドウィッチを手に持って今まさに口に入れようとしているところだ。
大口開けてサンドウィッチを食べようとするところを人に見られた為、彼女は恥ずかしがった。
「キャッ、私ったらこんな場面を人に見られちゃうなんて! どこのどなたか存じませんが、黙っててもらえるとうれしいです」
「へぇ? 私を知らない? 珍しい子もいるものだな。君に興味が沸いた。君、名前は?」
「マリアン・ブロワ、一年生」
「ブロワと言うとブロワ公爵家?」
「そう、そのブロワ公爵家」
「……ということは君はエレオノールの義妹?」
ブロワ公爵家当主で宰相でもあるサミュエルが二年前に妻を亡くし、その半年後に再婚したことはシモンも知っていた。
再婚相手は子連れということも。
マリアンは勘違いしていた。
彼女は”マリアン・ブロワ”と名乗ったが、彼女は後妻の連れ子でブロワ公爵家の血が流れている子ではないのでブロワ公爵家の籍に入っていない。
後妻は夫と死別後、自分の実家のサレット子爵家に籍を戻し、マリアンも同じくサレット子爵家に籍を入れた。
後妻はサミュエルとの再婚時にサレット子爵家からブロワ公爵家に籍が移ったが、マリアンはそのまま子爵家に籍がある。
故に彼女の名前は”マリアン・サレット”が正しく、”マリアン・ブロワ”は間違いである。
誰も勘違いを指摘する者はいなかった。
因みに後妻の死別した夫が営んでいた商会は夫の弟が後を継いでいるので問題はない。
「はい。お義姉様を呼び捨てで呼んでいるということはあなたはお義姉様と親しい関係なの?」
「自己紹介してなかったね。私はシモン・オルレーヌ。この国、オルレーヌ王国の王太子だ。エレオノールは私の婚約者なんだ」
「王太子様とは知らず失礼しました!」
「いや、いいんだ。この学園の生徒で私を知らない者がいるなんて思っていなかったんだ。自分の自惚れが恥ずかしいよ」
「私は社交界デビューしてないから私が特殊なだけですよ、きっと!」
「君はたまたまここへ? 私は長らく昼休みはここに来ているが、ここで人に会ったのは初めてだ」
「それ。君じゃなくてマリアンって呼んで下さい! お義姉様の婚約者ということは将来的に私達は家族でしょう? それなのに名前で呼んでくれないと悲しいです」
マリアンは拗ねたように言う。
「それもそうだね。ごめんね、マリアン嬢」
「今日はたまたまお天気が良かったから、外で食べようと思ったのです。誰もいない静かな場所を探していたらここにたどり着きました」
エレオノールとは全く話せないのに、マリアンとは軽快に会話のやり取りが出来る。
マリアンの親しみやすい雰囲気も作用しているのかもしれない。
それにエレオノールとは違って、喜怒哀楽が全部表情に出ているから相手がどう思っているのかわかりやすい。
昼休み終了と午後の授業開始の予鈴の鐘が鳴り響く。
これで終わりにしたくないと思ったシモンはマリアンに尋ねる。
「マリアン嬢、またここに来てくれる?」
「はいっ!!」
マリアンは輝くような笑顔で返事をする。
こうして二人は誰もいない学園の庭園でひっそりと逢瀬を重ねるようになる。
――しかし、シモンは知らなかった。
この庭園での出会いは仕組まれたものだったということを。
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