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第1話
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「セリーヌ。お前との婚約を解消する。そして、ミリィと新たに婚約することになった。お前には拒否権はない」
「一応お尋ねしますけれど、私との婚約に何か問題でもありましたか?」
「問題だと? 問題しかない。お前は何かにつけてはミリィを虐めていたらしいじゃないか。そんな性根の醜い女と婚約するなんて虫唾が走る。それにミリィのお腹には俺たちの子がいるんだ」
「イアン様ぁ~」
ミリィは目に涙を浮かべてイアンにしがみついているが、セリーヌにだけは口角を上げて勝ち誇っているような表情を向けている。
「もう心配するな。俺がついている。俺達が結婚したら、セリーヌは伯爵家から出て行ってもらうからそれまでの辛抱だ」
「はい……!」
セリーヌは白けた表情で二人の茶番を見ていた。
セリーヌは3ヶ月前、隣の国・レストーネに短期間留学の為に旅立ち、今日留学を終えて自国・サノワに帰ってきた。
長時間の乗り物の移動でセリーヌは疲れていたので、ヴォクレール伯爵家の自室でお土産や留学先で勉強した資料の整理をしながらゆっくり休もうかと思っていたら、ミリィ付きのメイドに応接室に来るよう呼び出され、入室した直後に婚約解消を告げられた。
留学する前はそんな気配はなかったので、推測するに、セリーヌが留学で留守にしていた間に二人は交流を深め、子まで出来たということだろう。
ミリィは、セリーヌの母が病死した後、父が連れてきた後妻の子である。
父はずっと後妻と付き合っていたが、両親の命令でセリーヌの母と結婚することになった。
しかし、二人の関係は結婚後も続いており、ミリィは後妻と父の子である。
「それで、お父様とお義母様はこの話はご存知なの?」
「ああ。二人には説明して、二人でヴォクレール伯爵家を盛り立ててくれと大賛成してもらっている。なっ、ミリィ?」
「はい!!」
同意を求めるイアンに対して、ミリィはパアッと満面の笑みを浮かべ同意する。
セリーヌとイアンの婚約は、イアンが伯爵家に婿入りしてくることになっていた。
イアンはクレマン子爵家の二男である為、実家のクレマン子爵家を継ぐことは出来ない。
だから、イアンにしてみれば、相手がセリーヌからミリィに変わるだけで婿入りするという点は変わらないと思っている。
(二人は大賛成、ね……。お父様はお忘れなのかしら? お父様は私が成人するまでの伯爵代理で、お父様ひいてはミリィには伯爵家に関する権利なんて何一つないことを)
ヴォクレール伯爵家は元々セリーヌの母の実家であり、父は単なる婿養子に過ぎない。
そしてセリーヌの母は伯爵家の一人娘だった。
セリーヌの母が伯爵であったが、死亡時、セリーヌはわずか10歳。
そんな小さな子に伯爵なんて務まる訳もない為、セリーヌが成人して正式に伯爵を継ぐまでの間、一時的にセリーヌの父が伯爵代理になることになったのである。
セリーヌは今17歳。
即ち父が伯爵代理になってから7年の年月が経過した。
7年の内に自分が伯爵ではなく伯爵代理だということをすっかり忘れ去ったのかもしれない。
「そうなのですか。それでしたら私も異論はございませんわ。婚約解消は承知致しました」
「俺達は一ヶ月後に結婚する。だからそれまでにヴォクレール伯爵家を出る準備はしておけよ。準備が出来ていなくても出て行ってもらうからな。話は以上だ」
イアンは吐き捨てるようにそう告げ、セリーヌが返事をする前に二人は応接室を退室した。
(一応教えてさしあげようかと思いましたが、私の話は聞きたくないとばかりに出て行きましたわね。でもそれでかえって良かったのかも。やってもいないミリィへの虐めでイアン様の同情を買い、婚約者を奪っていったのですもの。一ヶ月後、伯爵家を出て行くのは私ではなくあなた達二人とお父様とお義母様の方よ)
「一応お尋ねしますけれど、私との婚約に何か問題でもありましたか?」
「問題だと? 問題しかない。お前は何かにつけてはミリィを虐めていたらしいじゃないか。そんな性根の醜い女と婚約するなんて虫唾が走る。それにミリィのお腹には俺たちの子がいるんだ」
「イアン様ぁ~」
ミリィは目に涙を浮かべてイアンにしがみついているが、セリーヌにだけは口角を上げて勝ち誇っているような表情を向けている。
「もう心配するな。俺がついている。俺達が結婚したら、セリーヌは伯爵家から出て行ってもらうからそれまでの辛抱だ」
「はい……!」
セリーヌは白けた表情で二人の茶番を見ていた。
セリーヌは3ヶ月前、隣の国・レストーネに短期間留学の為に旅立ち、今日留学を終えて自国・サノワに帰ってきた。
長時間の乗り物の移動でセリーヌは疲れていたので、ヴォクレール伯爵家の自室でお土産や留学先で勉強した資料の整理をしながらゆっくり休もうかと思っていたら、ミリィ付きのメイドに応接室に来るよう呼び出され、入室した直後に婚約解消を告げられた。
留学する前はそんな気配はなかったので、推測するに、セリーヌが留学で留守にしていた間に二人は交流を深め、子まで出来たということだろう。
ミリィは、セリーヌの母が病死した後、父が連れてきた後妻の子である。
父はずっと後妻と付き合っていたが、両親の命令でセリーヌの母と結婚することになった。
しかし、二人の関係は結婚後も続いており、ミリィは後妻と父の子である。
「それで、お父様とお義母様はこの話はご存知なの?」
「ああ。二人には説明して、二人でヴォクレール伯爵家を盛り立ててくれと大賛成してもらっている。なっ、ミリィ?」
「はい!!」
同意を求めるイアンに対して、ミリィはパアッと満面の笑みを浮かべ同意する。
セリーヌとイアンの婚約は、イアンが伯爵家に婿入りしてくることになっていた。
イアンはクレマン子爵家の二男である為、実家のクレマン子爵家を継ぐことは出来ない。
だから、イアンにしてみれば、相手がセリーヌからミリィに変わるだけで婿入りするという点は変わらないと思っている。
(二人は大賛成、ね……。お父様はお忘れなのかしら? お父様は私が成人するまでの伯爵代理で、お父様ひいてはミリィには伯爵家に関する権利なんて何一つないことを)
ヴォクレール伯爵家は元々セリーヌの母の実家であり、父は単なる婿養子に過ぎない。
そしてセリーヌの母は伯爵家の一人娘だった。
セリーヌの母が伯爵であったが、死亡時、セリーヌはわずか10歳。
そんな小さな子に伯爵なんて務まる訳もない為、セリーヌが成人して正式に伯爵を継ぐまでの間、一時的にセリーヌの父が伯爵代理になることになったのである。
セリーヌは今17歳。
即ち父が伯爵代理になってから7年の年月が経過した。
7年の内に自分が伯爵ではなく伯爵代理だということをすっかり忘れ去ったのかもしれない。
「そうなのですか。それでしたら私も異論はございませんわ。婚約解消は承知致しました」
「俺達は一ヶ月後に結婚する。だからそれまでにヴォクレール伯爵家を出る準備はしておけよ。準備が出来ていなくても出て行ってもらうからな。話は以上だ」
イアンは吐き捨てるようにそう告げ、セリーヌが返事をする前に二人は応接室を退室した。
(一応教えてさしあげようかと思いましたが、私の話は聞きたくないとばかりに出て行きましたわね。でもそれでかえって良かったのかも。やってもいないミリィへの虐めでイアン様の同情を買い、婚約者を奪っていったのですもの。一ヶ月後、伯爵家を出て行くのは私ではなくあなた達二人とお父様とお義母様の方よ)
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