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第2話

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「あなた達、頭に何か悪いものでも詰まっているのかしら? どういう思考回路を以てしてそんな結論に至ったのか全く理解出来ないけれど、このエヴァンス侯爵家はシリル様の家ではなく、私の家。出ていくべきはあなた達の方ですわ」

「はぁ? 何言ってるんだ? エヴァンス侯爵家は俺のものだろう? お前と結婚したら俺はエヴァンス侯爵家の当主になるんだ。こんな家に当主になる為に来てくれる奴なんていないから、お前と婚約解消しても俺がそのまま当主になってやるよ」

「そうです! シリル様のおうちですよ? そしてシリル様の血を引くこの子こそエヴァンス侯爵家の跡取りにふさわしいのです! アイリーン様の方こそ何を言っているの?」

 二人とも心底不思議そうな目をアイリーンに向けているが、アイリーンにしてみれば理解出来ないことを言っているのは明らかに二人の方である。

「まず、シリル様。あなたは大変な勘違いをなさっています。あなたは確かに私の婚約者、いえ今は元婚約者ですわね。あなたの役割はエヴァンス侯爵家の当主ではなく、私の補佐。お父様の次の当主はあなたではなく、私ですわ。このことは婚約した時にきちんと説明しましたけれど、覚えてらっしゃらないかしら?」

「そんなこと、聞いていないが。じゃあ何で月に数回もここに呼び出されて勉強させられていたんだ? あれこそ次期当主教育じゃないのか?」

「自分にとって都合の悪いことだけ聞き流していらっしゃるだけでしょう。帰ったらあなたのご両親に確認してみなさいな。それに、あれは次期当主になる為の勉強ではなく、私の補佐をする為の勉強ですわ。仮にも侯爵家に婿入りしてくる者が、侯爵家について何も知りません、ではお話になりませんし、私の補佐をするにも基本的なことくらいはわかっていなければ出来ませんもの」

 アイリーンは紅茶を一口口に含み、話を続ける。

「シリル様にお伺いしたいのですが、あれを次期当主教育だと思っていたなら、何故一か月もしないうちに勉強に来なくなったのかしら?」

「そ、それは難し過ぎて……。あんなものわからなくても当主としてやっていけると思ったんだ」

 しどろもどろになりながら、シリルは答える。

「そうですの。領民の生活を豊かにする為に私達貴族は努力しているのです。そんなことも理解出来ない上、努力もせず簡単に投げ出すあなたには当主なんて荷が重すぎる仕事ですわ。我が家に来なくなってから、お父様はあなたに見切りをつけました。お父様に見限られているあなたがお父様の次の当主で、エイダ様を妻としてこの家で暮らす? 片腹痛いですわ」

 アイリーンはシリルに冷え切った視線を向ける。

「何も言ってこなかったのは黙認してくれたんじゃないのか!?」

「黙認ではありませんわよ。その程度で音を上げる婿なんて要らないということですの」

「そ、そんな……」

(何も言ってこない=黙認だと思われるなんて甘く見られたものですわね。マイソン伯爵一家はシリル様を除くとまともな方達なのにどうしてシリル様だけこんな風なのか本当に不思議だわ)
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