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第8話 キャシー視点
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ジュリアンとフルールを離婚させることが出来なくてやきもきしたまま、時が過ぎ、貴族院に行ってから三週間程度過ぎた。
キャシーは未婚の令嬢で自分と爵位が近い者ーー主に男爵家・子爵家の令嬢ーーばかりが集まる茶会に招待された。
キャシーは帰国してすぐに招待されたお茶会で、男爵家の令嬢が付けていたルビーのネックレスが欲しくなり、「そのネックレスを私にちょうだい」とその令嬢からネックレスを奪った時から、その場にいた令嬢達はキャシーを茶会に招待したいと思う者はほぼいなくなった。
いくらボナリー子爵家が国内でも有数に力のあるボナリー商会を経営しているとしても、キャシーの令嬢としての評判は最悪だ。
仮にも親が商売をしているのに、他人の物をお金も払わず奪い取る所業に令嬢達の付き合いたくないリストにすぐリスト入りを果たした。
そのネックレスでの一件をきっかけに、キャシーはお茶会に呼ばれることはほぼなくなり、今回お茶会に呼ばれたのは一ヶ月と少しぶりである。
まともな貴族令嬢なら放っておいても一ヶ月に3~4回くらいはどこかしらのお茶会に呼ばれるのに、一ヶ月以上も呼ばれないのは異常だ。
そんなことも気づかないキャシーは、今日のお茶会で誰のものを奪うか楽しげに思案していた。
今日のお茶会はブレル男爵家の令嬢のロシーユが主催である為、お茶会はブレル男爵家の庭園で開かれた。
ブレル男爵家は、ボナリー子爵家と同じく商会を経営している。
ボナリー商会と比べて歴史は浅く、規模はまだまだ小さいが、商人としての目利きは素晴らしく、着実に成長を続けている商会である。
ジュリアンとフルールが例の頬紅を卸すことにした商会の一つはこのブレル男爵家が経営しているブレル商会だ。
招待客全員が着席し、お茶会が始まる。
今日のお茶会は主催のロシーユを含めて7名で、規模としては小さめのお茶会である。
「皆様、今日はご参加ありがとうございます。今日の為に珍しい紅茶を仕入れたので、皆様楽しんで下さいね」
ロシーユがにこやかに開始の挨拶をし、紅茶が全員に振舞われる。
「あら、今日のお茶は香りがするわね」
「この紅茶はカモミールティーですわ。まだ珍しいものだから少量だけしか仕入れることは出来なかったけれど、いずれ流通させることを考えています」
令嬢の言葉に対し、ロシーユが答える。
「ロシーユ様。こんな時に言うのは何ですが、例の頬紅の件、ありがとうございました」
「此方こそ我が家の商会でご購入頂き、ありがとうございます」
(例の頬紅? 一体何のこと?)
「ねぇ、その例の頬紅って何ですか?」
「まぁ、キャシー様はご存知ないのですね。金細工の容器に入った薔薇の花びらの形をした頬紅。ブロワ公爵家が新しく作ったものですわ」
(ブロワ公爵家! ジュリアンの家じゃない!)
「私も欲しいです! ロシーユ様、私に下さい!」
「キャシー様ったら相変わらずですわね。では、お代金を先払いして頂けますか?」
「お金は持ってきていないわ。持ってきていないけど、欲しいのよ!」
「お代金を今、お支払い頂けないなら、商品をお渡ししないわ。あなたの前科を考えると、このままお代金なしにお渡ししたら、"これは貰い物だ"と主張してお支払い頂けそうにないですもの」
その言葉にキャシーは黙り込む。
キャシーは代金を払うことなく無料で貰おうとしていたのだから。
黙り込んだキャシーにロシーユは続ける。
「商会は信用に基づいて取り引きしますから、信用がなければ売ることは出来ませんわ。あなたのお父様も商会を経営なさっているでしょう? ウチではなくお父様にお願いしては如何ですか?」
「わかったわ! ロシーユ様には頼まない!」
怒ったキャシーはお茶会を中座して帰宅した。
「パパ! ジュリアンの家が新しく作った頬紅、私も欲しい! 何とか手に入れてくれない?」
「キャシー。儂もその件は知っておるが、もう卸す商会は決まっていて、そこの商会以外は卸さないそうだ。今、商会同士の交流もないから、卸している商会からキャシー用に譲ってもらうことも出来ない。すまない」
「キャシーのお願いは何でも叶えてくれるんじゃなかったの!? パパの嘘つき!」
キャシーはそう叫んで、自室に閉じこもった。
キャシーは未婚の令嬢で自分と爵位が近い者ーー主に男爵家・子爵家の令嬢ーーばかりが集まる茶会に招待された。
キャシーは帰国してすぐに招待されたお茶会で、男爵家の令嬢が付けていたルビーのネックレスが欲しくなり、「そのネックレスを私にちょうだい」とその令嬢からネックレスを奪った時から、その場にいた令嬢達はキャシーを茶会に招待したいと思う者はほぼいなくなった。
いくらボナリー子爵家が国内でも有数に力のあるボナリー商会を経営しているとしても、キャシーの令嬢としての評判は最悪だ。
仮にも親が商売をしているのに、他人の物をお金も払わず奪い取る所業に令嬢達の付き合いたくないリストにすぐリスト入りを果たした。
そのネックレスでの一件をきっかけに、キャシーはお茶会に呼ばれることはほぼなくなり、今回お茶会に呼ばれたのは一ヶ月と少しぶりである。
まともな貴族令嬢なら放っておいても一ヶ月に3~4回くらいはどこかしらのお茶会に呼ばれるのに、一ヶ月以上も呼ばれないのは異常だ。
そんなことも気づかないキャシーは、今日のお茶会で誰のものを奪うか楽しげに思案していた。
今日のお茶会はブレル男爵家の令嬢のロシーユが主催である為、お茶会はブレル男爵家の庭園で開かれた。
ブレル男爵家は、ボナリー子爵家と同じく商会を経営している。
ボナリー商会と比べて歴史は浅く、規模はまだまだ小さいが、商人としての目利きは素晴らしく、着実に成長を続けている商会である。
ジュリアンとフルールが例の頬紅を卸すことにした商会の一つはこのブレル男爵家が経営しているブレル商会だ。
招待客全員が着席し、お茶会が始まる。
今日のお茶会は主催のロシーユを含めて7名で、規模としては小さめのお茶会である。
「皆様、今日はご参加ありがとうございます。今日の為に珍しい紅茶を仕入れたので、皆様楽しんで下さいね」
ロシーユがにこやかに開始の挨拶をし、紅茶が全員に振舞われる。
「あら、今日のお茶は香りがするわね」
「この紅茶はカモミールティーですわ。まだ珍しいものだから少量だけしか仕入れることは出来なかったけれど、いずれ流通させることを考えています」
令嬢の言葉に対し、ロシーユが答える。
「ロシーユ様。こんな時に言うのは何ですが、例の頬紅の件、ありがとうございました」
「此方こそ我が家の商会でご購入頂き、ありがとうございます」
(例の頬紅? 一体何のこと?)
「ねぇ、その例の頬紅って何ですか?」
「まぁ、キャシー様はご存知ないのですね。金細工の容器に入った薔薇の花びらの形をした頬紅。ブロワ公爵家が新しく作ったものですわ」
(ブロワ公爵家! ジュリアンの家じゃない!)
「私も欲しいです! ロシーユ様、私に下さい!」
「キャシー様ったら相変わらずですわね。では、お代金を先払いして頂けますか?」
「お金は持ってきていないわ。持ってきていないけど、欲しいのよ!」
「お代金を今、お支払い頂けないなら、商品をお渡ししないわ。あなたの前科を考えると、このままお代金なしにお渡ししたら、"これは貰い物だ"と主張してお支払い頂けそうにないですもの」
その言葉にキャシーは黙り込む。
キャシーは代金を払うことなく無料で貰おうとしていたのだから。
黙り込んだキャシーにロシーユは続ける。
「商会は信用に基づいて取り引きしますから、信用がなければ売ることは出来ませんわ。あなたのお父様も商会を経営なさっているでしょう? ウチではなくお父様にお願いしては如何ですか?」
「わかったわ! ロシーユ様には頼まない!」
怒ったキャシーはお茶会を中座して帰宅した。
「パパ! ジュリアンの家が新しく作った頬紅、私も欲しい! 何とか手に入れてくれない?」
「キャシー。儂もその件は知っておるが、もう卸す商会は決まっていて、そこの商会以外は卸さないそうだ。今、商会同士の交流もないから、卸している商会からキャシー用に譲ってもらうことも出来ない。すまない」
「キャシーのお願いは何でも叶えてくれるんじゃなかったの!? パパの嘘つき!」
キャシーはそう叫んで、自室に閉じこもった。
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