上 下
83 / 90

魔人の正体

しおりを挟む
    「魔王クラス!?」

 「はい。村まであと20キロほどの所まで迫ってきてます」

 「くっ、そんなに近くまで……何故もっと早く気付かなかった?」

 「それが、先ほど突然現れて……今近隣の警備をしている者たちをかき集めています」

 「で、魔人の数は?」

 「確認できるのは一匹です」

 「一匹……妙だな……」



 クルーガーは神妙な面持ちで考え込んだ。そして――



 「よし。お前は戦えるもの以外の全ての者を避難させろ」

 「ハイ!」



 指示を受けた青年は素早く部屋を後にした。



 「レイ、私たちも魔人の元へ向かうぞ」

 「おう! ナオキ、これは俺たちエルフの問題だ。ベルやアイリと一緒に避難してくれ」

 「そういうわけにはいかない! オレだってここで世話になってるんだ。一緒に戦う」

 「駄目だ。相手は魔王クラス。殺される可能性は十二分にある」

 「それでもだ。オレはこの村の人たちに良くしてもらった。ここでその恩を返さないでいつ返すんだ。頼むレイ、オレを連れて行ってくれ」



 レイはナオキの眼を見つめた。ナオキの覚悟を確かめているようだった。



 「ナオキ……わかった。だが、お前を守ることは出来ないぞ?」

 「あぁ。覚悟の上だ」

 「兄さま私も行きます! 私の回復魔法がきっと役に立ちます」

 

 ベルも志願をした。しかし――



 「お前は駄目だ」



 レイに即却下をされてしまった。



 「何故です!? 私だって死ぬ覚悟はできてます」

 「ベル。お前の回復魔法は貴重だ。お前が最前線にいて真っ先に殺されたら怪我人を誰が治療するんだ?」

 「そ、それは……」



 こういった機転が利くレイは流石だと改めて感じる。



 「お前は一度避難して、怪我をした者の治療をするんだ。分かったな?」

 「……わかりました。でも兄さま、決して無理はしないでください」

 「わかってる。安心しろ」

 「アイリ。君も非難するんだ。近くにクーとガーもいるはずだ」



 ナオキがアイリへ促す。



 「は、はい」

 「間違ってもアイツらが近づかないように頼むぞ」

 「わかりました。あの……ナオキさん……」

 「なに? どうしたの?」

 「その……ちゃんと帰ってきてください」

 「? あぁ。大丈夫だよ。心配しないで」

 「ナオキ行くぞ!」

 「あぁ。じゃあ、行ってくる」



 ナオキとレイは魔人の元へ向かった。







 ――魔人との距離はおよそ150m程。村を出てからはナオキでもわかるくらい魔人のオーラがビリビリと伝わり、今では皮膚が痛いほどだ。



 これが魔人……やっばい……怖い……



 不安と緊張で鳥肌が立っている。



 「ナオキ。お前は一人じゃねぇ。それに、怖くなったら逃げてもいいぞ」

 「じょ、冗談じゃない。誰が逃げるかよ」

 「冗談じゃない。ぶっちゃけ、村に危害が及ばないなら俺だって逃げ出したいくらいだ。けどそうも言ってられないからな」



 珍しくレイの拳が震えている。それほどヤバい相手なんだと実感する。



 「それはオレも同じだ。世話になったこの村を守ってみせる」

 「ナオキ君。頼もしい言葉、本当に感謝するよ」



 ナオキの背後からクルーガーが声を掛けた。



 「でも君は息子の客人だ。君になにかあってはコイツの親として、そして族長としてこれほどの無礼はない。君は自分の身を最優先に考えてくれ」

 「クルーガーさん……でも……」

 「ナオキ。お前がここに立っていることが俺たちエルフを奮い立たせてるんだ。それだけで十分なんだよ」

 「息子の言う通り、君の誠意はここにいる皆に伝わっている。だから無理だけはしないでくれ」

 「……わかりました。クルーガーさんの言う通りにします」



 今のところはだけど……



 「族長、魔人までおよそ100m! そのまま歩いてきます」

 「ヨシ! 全員、戦闘準備!」



 クルーガーの声で一斉に臨戦態勢に入った。魔人が一歩ずつ近づくたびにその禍々しいオーラが皮膚に突き刺さるようだった。



 怖い……でもオレだって戦うんだ。八京さんに助けてもらったこの命、八京さんを失望させない。



 先ほど受け取った『クサナギ』を握りしめいつでも動けるようにナオキは構えた。

 魔人の目的は分からない。だが魔人がいつ攻撃を仕掛けてもいいように全員が緊張し、空気が張り詰めている。魔人は変わらず一歩ずつ近づいてきた。



 ……80m……



 ……70m……



 ……60m……



 ……50m……



 ……40m……



 まだか



 心臓の鼓動がデタラメなビートを刻む。剣を握る手は汗で上手く握れない。



 ……30m……



 魔人の姿がハッキリわかる距離まで来た。その時だった――



 ――えっ?――



 ナオキはこの魔人に見覚えがあった。



 まさか魔人だったのか!?



 「こんな離れたところまで逃げてきたんですか。探しましたよ」



 不意に魔人が喋った。その声はやはり聞き覚えがある。

 間違いない。この魔人はナオキに話し掛けている。



 「な……なにか用ですか? ……エドガーさん」 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...