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操り人形

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「そ、そんな、待って……」



 八京が言い終わる前に、ジュダの握っていた宝石が光りだす。途端に八京は喋るのを止め、頭を抱えて蹲った。



「や、八京さん?」

「………………うぅ……ううぅ……」



 八京からの返事は無い。代わりに酷く辛そうな呻き声が絞り出される。



「ジュダさん。アンタ、八京さんに何をしたんだ!?」



 ジュダに詰め寄り問い詰めた。どう見ても八京はただ事じゃない。



「ナニって、これを使ったのさ」



 先程握っていたネックレスをナオキの目の前でブラブラと振って見せる。



見覚えがある。ケドどこで……



「それがどうしたんだ!? 何で八京さんが苦しんでるんだ!?」

「そうか、君にはまだ知らされてないのか。まぁ知らないのも無理はない。知ったらコレを拒絶するだろうしな」



 意味深な笑みを浮かべるジュダに苛立ちを覚える。



「だから何なんだ! サッサと教えろよ!!」



 このままではジュダを殴ってしまいそうだ。いっそ本当に殴ってしまおうか。



「まぁ落ち着け。別に教えないとは言ってないだろう? これは魔石だよ」

「魔石!?」



 思い出した。八京が見せてくれたモノと同じだ。だが魔石が八京にどう影響しているのかがわからない。



「そうさ。八京たちリスターターには魔石が埋め込まれているのは知ってるかな?」

「………………」

「何故リスターターに貴重な魔石を埋め込むと思う?」

「そ、それは……リスターターの魔力を上げるのと、もしリスターターがはぐれた時に分かるようにするために……」

「勿論そういった意味もある。だが、本当の目的は別にある」

「別に!?」



そんなことは知らない。



「それは私たち人間が君たちリスタを操るためさ」

「な、何だって!?」

「考えてもみろ。異世界から来たリスターターなんて、君みたいに我々の世界に馴染めない者もいる。時には反抗的にもなる。そうなった時リスターターの脅威と言ったらとてつもないモノだ」



確かにそうだ。



「そんな危険な存在を野放しに出来るか? 答えはNoだ! だったら我々が制御すればいい。そのために使用されているのがこの魔石さ」



 ジュダが魔石をナオキの前に掲げる。その赤い輝きが血の色のようでおぞましく感じる。



「八京に埋め込まれた魔石と私の持っている魔石はリンクしていてね。私の魔力で八京を遠隔操作出来るのさ。その気になればこの魔石で八京を殺すことだってできる」

「そ、そんな……」

「だから八京は私に決して逆らえない。まぁ、こんなモノを埋め込まれてるんだ。本来なら遠隔で操る必要もないがな」



酷過ぎる



「喜べ、君たち新転者にも、もうじき魔石が埋め込まれる。そうなったらもう今みたいに好き放題出来なくなるからな」

「狂ってる……オレたちはそんな扱いを受けるためにこんな世界に呼ばれたのか……」



 腹の底から怒りが込み上げてきた。今にも噴き出しそうだ。



「そうとも。君たちは私たちのために文字通り身を粉にして働いてもらう。そのためのリスターターだからな」

「うわあぁl」



 その言葉を聞いた瞬間、何かが吹っ切れて、ナオキはジュダに殴りかかった。



 許さない。絶対に許さない。こんなことがまかり通って良いはずがない。こんなことを言っているやつを今スグぶちのめしてやりたかった。

――だがそれは叶わなかった。



「アイスウォール!」



 ジュダが呪文を唱え、手を上に振った。瞬間、ジュダとナオキの間に氷の壁が地面から盛り上がり、ナオキの行く手を阻んだ。



――魔法か――



「でもさっきの戦いじゃ使わなかった……」

「あんなテントの中で魔法を使ったらテントが崩壊しかねないだろ。周りの状況を把握して使うんだよ」



なるほど……って感心している場合じゃない。この氷壁を何とかしないとジュダへ一発喰らわせられないじゃないか。



「こんなモノ」



 剣で氷壁を崩そうとするが、破片が飛び散るだけでほとんど意味が無い。



「私のアイスウォールは硬いぞ。そう簡単に壊せるもんじゃない。それにほら、後ろに注意したほうがいい」

「え?」



 言われるままに振り返る。なんと、そこにはナオキ目掛けて八京が剣を振り下ろそうとしていた。



「うわっ!」



 反射的に身を反らし、ナオキは八京の攻撃を躱すことが出来た。



「や、八京さん……?」

「………………」



 返事が無い。八京は目が虚ろで口も半開き、生気が感じられない。

 これが操られるということか。



「八京さん、オレですよ? ナオキ、わかります?」

「………………」



 やはり返事は無い。そもそもナオキの声に反応すらしていない。



「無駄だ。今の八京は意思の無い人形。この状態を我々は『マリオネット』と呼んでいる。そう。私の操り人形さ」



 自分の玩具を自慢するようにジュダは喋った。



「こんなことやめろ! 人間を操るなんてやって良いことじゃ無いだろ」

「それは君の世界の理屈か? 残念だが、この世界では力のあるものは何をやっても正義だ。そう、何をやってもだ。人間やエルフを奴隷にすることも犯すことも、殺すことだって許される。力を持っている者が正しい。八京には魔石の力に耐えうる力が無かった。ただそれだけだ」

「そんなクソみたいな理屈、オレは許さない!」

「なら君の力で覆してみるがいいさ。それがこの世界での理屈だ」

「言われなくてもやってやる」



とは言ったもののどうする……



 おそらくジュダの持っている魔石を奪ってしまえば八京を操ることが出来なくなる。そのためにはジュダの前に存在する氷壁を何とかしなくてはいけない。だが……



「ほら、気をつけないと八京に殺されるぞ!」



 ジュダの言葉通り八京はナオキへ攻撃を開始した。

 八京の連撃を何とか捌きつつナオキは必死に考えを巡らせた。



 先ずは八京を何とかしないことにはどうすることも出来ない。

 ナオキが八京を? そんなことできるだろうか……無理だ。意識が無いとはいえ、相手は八京だ。レベルが違いすぎる。頼みの綱は一つだけだ。



「レイ! そっちの状況はどうだ? こっちへこれそうか?」



 やはりレイしかいない。先ほどの勝負もほぼ互角だった。



「そ、それがよぉ。こいつ等一人一人は大したことねぇんだけど、恐ろしく連携が出来ててほとんど倒せてねぇんだ」



……チッ……任せておけと言ったのはどこのどいつだ。



「お前の力で何とかできないのか!?」

「今やってるんだよ! こっちはお前に言われたように殺さないようにしてるんだ。加減が難しいんだ!」



いっそ殺しても構わないと言ってしまおうか……ダメだ。それをしたらアイツらとなんら変わらない。



「とにかく早く来てくれ!こっちもヤバいんだ!」

「分かってるよ!もう少し踏ん張れ!!」



 こいつはかなりのピンチじゃないか?暫くはレイに期待できそうにない。となるとナオキ自身で何とかしなくてはならない。今は目の前にいる相手……八京を何とかしなくては。



やるしかない。覚悟を決めろ。

 

 八京の一撃一撃は重く、捌いている剣を伝い、両手が痺れている。集中していないと剣を落としてしまいそうだ。だがそれでもナオキしかいない。



負けるな。ここが踏ん張りどころだ。



 幸いなことに八京の攻撃は単調なものだった。レイとの戦闘のような華麗な技も見えないほどの斬撃も見られない。

 操られているというだけあって、ジュダの攻撃に似ていた。どうやら八京の実力を引き出すには操るものの力量がかなり必要らしい。



「ベルさん、クーの……その子の腕は繋がりますか?」



 八京に集中しつつクーの状況が知りたかった。



「すいません。私の魔法では斬られた箇所を繋げることはできません。止血をし、痛みを和らげるのが精一杯です」

「そうですか……」



 ベルの回復魔法で可能なら、八京の足でも斬り落としてジュダに専念することを考えたがどうやらダメらしい。改めて涼音の凄さが分かる。



どうする……



 そんな考えを巡らしているさ中でも八京の攻撃は絶え間なく襲ってくる。このまま何も策を講じないで戦い続けていればナオキがやられることになる。



「何だ、私の時のように反撃をしないのか?」



 氷の向こうからジュダが不敵な笑みを浮かべている。

 こんな壁無ければ、多少リスクを冒してもジュダを倒しに行けるのに……



「今どうやってアナタに一撃喰らわせるか考えてるんですよ」

「ほう。そいつは楽しみだ。だが、私の元に来る前に八京にやられてしまうんじゃないか? 押されているぞ?」

「……もう少しで何とか出来そうなんであっせんないで下さいよ」

「ふん、その強がりがいつまで続くかな? こっちはそろそろ真面目に斬りこんでいくぞ」

「えっ!? 今が限界なんじゃ……」

「私がいつそんなこと言った? 勝手にそう思うのは自由だが、本来の八京の強さはこんなものではないだろう? ほら、どんどん行くぞ!」



 ジュダの言葉を皮切りに八京の攻撃が激しく、力強くなっていく。

 八京の攻撃全を捌ききれなくなり、致命傷にならない小さな傷を負い始める。



 これはいよいよ厳しい状況になった……



「……どうすればいいんだ……」



 そんなナオキの考えとリンクするようにレイが言葉を発した。



「ナオキ! どうやらこの状況、かなりマズいぞ」

「奇遇だな。オレもそう思ってたとこだ」



 ジュダがクスッと小さな笑い声を漏らす。『やはり』とでも言いたそうだ。
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