59 / 90
キツネの思惑
しおりを挟む
――テントから出たナオキはヨタヨタと倒れそうになりながら歩いていた。ナオキが先ほどまでいたテントにベルの姿は無く、どこかへ移動されていた。エルフは貴重だ。適当な場所へ移動するようなことは考えられない。
多分あそこだ……
ナオキは確信に似たモノを感じていた。早くしないとジュダが目を覚ましてしまう恐れがある。
ジュダへの最後の一撃はあえて刃先ではなかった。ゾーラの時と一緒だ。本気で剣を振ったが、ジュダのことだ、死ぬことは無いだろう。
そう願いながらヨタヨタと歩いていると目的の場所にたどり着いた。
ジュダと八京のテントだ
ここしかない。行こう
意を決し、テントへ入ろうとしたその時――後ろから人の気配がした。
えっ!? もう来た!?
突然のことに驚きながらもナオキは後ろを振り返った。
そこには月光に照らされたスティルトンが立っていた。
「く……」
反射的に身構えようとするが、全身の痛みで構えることもできず、持っていた剣を杖代わりにし、スティルトンと向かい合った。
「こんな時間にこんなところを散歩ですか? それも身体中傷だらけで」
全身を嘗め回すような視線をナオキに向けながらスティルトンは言った。
「………………」
ナオキは何も答えなかった。スティルトンがどこまで把握しているのか分からないので相手の出方を伺うことにした。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。アナタを攻撃するつもりはありません」
口元を隠しながらクスクスと小さく笑い、スティルトンは言った。その仕草に妙なイラつきをナオキは感じた。
「じゃ、じゃあオレをどうするつもりですか? まさか、付きっきりで看病してくれる。なんて言わないですよね?」
スティルトンの意図がわからない。ジュダ達同様ナオキを止めるのなら何も喋らずに一撃喰らわせればそれで終わりだ。指で突かれるだけで倒れそうなほどにナオキは弱っている。
「どうしましょうかねぇ? 無論、アナタの事情を私が何も知らないわけではありませんが……」
「じゃあ――」
「けれども、アナタに手を貸す気はサラサラありません」
どうしたいんだこの男は。目的のわからないスティルトンに苛立つ。
「そうですねぇ。あえて言うなら……何もしない」
「はぁ?」
「そう。何もしません。アナタに手を貸しませんし、捕まえもしない。ただ、アナタたちの動向を見守ることにします」
――アナタたち――
オレとレイの関係を把握しているっていうことか……まてよ
「アンタ、レイと戦ったんだよな?」
最早レイとのことにシラを切るつもりもない。
「レイ? あぁ戦いましたよ。あまりに強くて驚きました」
「なら何でここにいるんだ? レイにやられてたんじゃ……」
訳がわからなかった。
「それは簡単です。私がやられたフリをしました」
「え?」
「いやぁ。あのエルフ……レイって言うんですか? とても勝てる気がしなかったんでね、早々に負けることにしたんですよ」
「な……」
「勝てない勝負はしない。私のモットーです。それに無駄に長引かせても怪我をするだけですからね」
驚いた。まさか兵士でこんなことを平気でいうヤツがいるなんて……それもジュダの信頼が厚い男が言うコトではないだろ。
「あ、アンタ兵士だろ? もっとこう……国のためとか命令とか規律に従わないのかよ!?」
「おや? 我々を裏切ってエルフを奪還しようとしてる人が言うことですか?」
「う……」
言葉が出ない。
「でも別に私は命令や規律に反しているわけではありませんよ。現にエルフと一戦交えて負けたわけですし。今だってアナタを確保するよう言われているわけでもない。まぁ本来なら今頃はエルフに失神させられていなければいけませんがソコは内緒と言うことで」
口に指をあてて小さく笑うスティルトンを見て再び苛立ちが湧いてくる。
リスタのことが嫌いなんだろ? 何でそんな奴が少し楽しそうにそんなことをオレに喋る?
「な、何もしないって言ったけど、一体何が目的なんだ?」
苛立ちを隠せずつい口調がキツクなる。
「それは内緒です」
「んなっ!?」
またもや口元に指を当てて意地悪な笑みを浮かべて言った。
――ムカつく――
「そんなに何でもかんでもアナタに喋る訳無いじゃないですか。アナタも所詮はリスタ。もう少し考えられませんか?」
怪我をしていなかったらこの男を殴っていただろう。
「ですが、そうですねぇヒントを一つ。私はある目的のために動いています。それに今回の件が無関係だとは言えないでしょう。けど私は今のところは傍観することにします。それが私の今の仕事です」
「仕事? 傍観が? まったくわからない……」
「それはアナタが知る必要はありません」
そのことについては言うつもりはないらしい。
「なら、何でここに来たんだ? それくらいはいいだろ?」
「そうですね……まぁいいでしょう」
少し間を開けてスティルトンは言った。
「なんてことはありません。アナタに興味があったからです」
「はぁ!?」
今日一番くだらない答えのような気がした。
「私の目的のためにアナタの行動が利益になるかどうか。それを見定めるために来ました」
この男は何を言っているのだろう……
どうリアクションをしていいか分からなくなってきた。
「ほら、お仲間の妹さんを救わなくていいのですか? 妹さんはアナタの想像通り、このテントの中にいますよ」
こいつ……
「い、言われなくても分かってる……本当に何もしないんだな?」
「えぇ。私の目的に支障が無い限りはね」
この男を信じることは出来ない。ナオキの中でそう警笛が鳴っている。でも……
「……わかった。でももしオレの邪魔をするなら……」
「そんなことはしませんから早くお行きなさい」
もう話すことは無いとでも言いたげにスティルトンは“シッシッ”と手を振った。
コイツ、いつかぶっ飛ばしてやる
言われるままにナオキはテントを開けようとした。
「あぁ最後に一つ。今私と話したこと、誰にも喋らないでくださいね。周りに知られると何かと面倒なんで。二人だけのナイショってやつで」
「なに!?」
こいつ。どこまで人を馬鹿にしたようなことを言うんだ。
「アンタとの会話を誰かに言ったところでオレに不都合はない。だからアンタの言うことをきく必要はないだろ!」
「それはそうですが、まぁあるとすれば、今この場でアナタが私に捕まっていない。それを交渉の材料にしましょうか」
「おま……さっきは何もしないって言ったろ」
「だ・か・ら。これはお願いです。私としては、今この場でアナタを捕らえることも殺してしまうこともできます。ですが、それでは面白くない。だから何もしないんです。そして、今傍観することで私の目的達成が早まるなら尚更です。と言うことでどうでしょう? 悪い話では無い筈ですよ」
「………………」
考え込んでしまう。悪い話ではない。というか今スティルトンと一戦交えれば確実に負ける。答えは出ていた。
「わかった。誰にも言わないよ」
「そう言ってもらえると思いました。一見頭が悪そうですがアナタはタダのリスタではありませんね」
ひと言多い
「じゃあもういいな? オレは行くぞ」
「はい。アナタが無事であらんことを」
礼儀正しく会釈をし、スティルトンは言った。
白々しい。いちいちムカつく
今度こそナオキはテントを開け、ヴェルニカ救出に動いた。
多分あそこだ……
ナオキは確信に似たモノを感じていた。早くしないとジュダが目を覚ましてしまう恐れがある。
ジュダへの最後の一撃はあえて刃先ではなかった。ゾーラの時と一緒だ。本気で剣を振ったが、ジュダのことだ、死ぬことは無いだろう。
そう願いながらヨタヨタと歩いていると目的の場所にたどり着いた。
ジュダと八京のテントだ
ここしかない。行こう
意を決し、テントへ入ろうとしたその時――後ろから人の気配がした。
えっ!? もう来た!?
突然のことに驚きながらもナオキは後ろを振り返った。
そこには月光に照らされたスティルトンが立っていた。
「く……」
反射的に身構えようとするが、全身の痛みで構えることもできず、持っていた剣を杖代わりにし、スティルトンと向かい合った。
「こんな時間にこんなところを散歩ですか? それも身体中傷だらけで」
全身を嘗め回すような視線をナオキに向けながらスティルトンは言った。
「………………」
ナオキは何も答えなかった。スティルトンがどこまで把握しているのか分からないので相手の出方を伺うことにした。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。アナタを攻撃するつもりはありません」
口元を隠しながらクスクスと小さく笑い、スティルトンは言った。その仕草に妙なイラつきをナオキは感じた。
「じゃ、じゃあオレをどうするつもりですか? まさか、付きっきりで看病してくれる。なんて言わないですよね?」
スティルトンの意図がわからない。ジュダ達同様ナオキを止めるのなら何も喋らずに一撃喰らわせればそれで終わりだ。指で突かれるだけで倒れそうなほどにナオキは弱っている。
「どうしましょうかねぇ? 無論、アナタの事情を私が何も知らないわけではありませんが……」
「じゃあ――」
「けれども、アナタに手を貸す気はサラサラありません」
どうしたいんだこの男は。目的のわからないスティルトンに苛立つ。
「そうですねぇ。あえて言うなら……何もしない」
「はぁ?」
「そう。何もしません。アナタに手を貸しませんし、捕まえもしない。ただ、アナタたちの動向を見守ることにします」
――アナタたち――
オレとレイの関係を把握しているっていうことか……まてよ
「アンタ、レイと戦ったんだよな?」
最早レイとのことにシラを切るつもりもない。
「レイ? あぁ戦いましたよ。あまりに強くて驚きました」
「なら何でここにいるんだ? レイにやられてたんじゃ……」
訳がわからなかった。
「それは簡単です。私がやられたフリをしました」
「え?」
「いやぁ。あのエルフ……レイって言うんですか? とても勝てる気がしなかったんでね、早々に負けることにしたんですよ」
「な……」
「勝てない勝負はしない。私のモットーです。それに無駄に長引かせても怪我をするだけですからね」
驚いた。まさか兵士でこんなことを平気でいうヤツがいるなんて……それもジュダの信頼が厚い男が言うコトではないだろ。
「あ、アンタ兵士だろ? もっとこう……国のためとか命令とか規律に従わないのかよ!?」
「おや? 我々を裏切ってエルフを奪還しようとしてる人が言うことですか?」
「う……」
言葉が出ない。
「でも別に私は命令や規律に反しているわけではありませんよ。現にエルフと一戦交えて負けたわけですし。今だってアナタを確保するよう言われているわけでもない。まぁ本来なら今頃はエルフに失神させられていなければいけませんがソコは内緒と言うことで」
口に指をあてて小さく笑うスティルトンを見て再び苛立ちが湧いてくる。
リスタのことが嫌いなんだろ? 何でそんな奴が少し楽しそうにそんなことをオレに喋る?
「な、何もしないって言ったけど、一体何が目的なんだ?」
苛立ちを隠せずつい口調がキツクなる。
「それは内緒です」
「んなっ!?」
またもや口元に指を当てて意地悪な笑みを浮かべて言った。
――ムカつく――
「そんなに何でもかんでもアナタに喋る訳無いじゃないですか。アナタも所詮はリスタ。もう少し考えられませんか?」
怪我をしていなかったらこの男を殴っていただろう。
「ですが、そうですねぇヒントを一つ。私はある目的のために動いています。それに今回の件が無関係だとは言えないでしょう。けど私は今のところは傍観することにします。それが私の今の仕事です」
「仕事? 傍観が? まったくわからない……」
「それはアナタが知る必要はありません」
そのことについては言うつもりはないらしい。
「なら、何でここに来たんだ? それくらいはいいだろ?」
「そうですね……まぁいいでしょう」
少し間を開けてスティルトンは言った。
「なんてことはありません。アナタに興味があったからです」
「はぁ!?」
今日一番くだらない答えのような気がした。
「私の目的のためにアナタの行動が利益になるかどうか。それを見定めるために来ました」
この男は何を言っているのだろう……
どうリアクションをしていいか分からなくなってきた。
「ほら、お仲間の妹さんを救わなくていいのですか? 妹さんはアナタの想像通り、このテントの中にいますよ」
こいつ……
「い、言われなくても分かってる……本当に何もしないんだな?」
「えぇ。私の目的に支障が無い限りはね」
この男を信じることは出来ない。ナオキの中でそう警笛が鳴っている。でも……
「……わかった。でももしオレの邪魔をするなら……」
「そんなことはしませんから早くお行きなさい」
もう話すことは無いとでも言いたげにスティルトンは“シッシッ”と手を振った。
コイツ、いつかぶっ飛ばしてやる
言われるままにナオキはテントを開けようとした。
「あぁ最後に一つ。今私と話したこと、誰にも喋らないでくださいね。周りに知られると何かと面倒なんで。二人だけのナイショってやつで」
「なに!?」
こいつ。どこまで人を馬鹿にしたようなことを言うんだ。
「アンタとの会話を誰かに言ったところでオレに不都合はない。だからアンタの言うことをきく必要はないだろ!」
「それはそうですが、まぁあるとすれば、今この場でアナタが私に捕まっていない。それを交渉の材料にしましょうか」
「おま……さっきは何もしないって言ったろ」
「だ・か・ら。これはお願いです。私としては、今この場でアナタを捕らえることも殺してしまうこともできます。ですが、それでは面白くない。だから何もしないんです。そして、今傍観することで私の目的達成が早まるなら尚更です。と言うことでどうでしょう? 悪い話では無い筈ですよ」
「………………」
考え込んでしまう。悪い話ではない。というか今スティルトンと一戦交えれば確実に負ける。答えは出ていた。
「わかった。誰にも言わないよ」
「そう言ってもらえると思いました。一見頭が悪そうですがアナタはタダのリスタではありませんね」
ひと言多い
「じゃあもういいな? オレは行くぞ」
「はい。アナタが無事であらんことを」
礼儀正しく会釈をし、スティルトンは言った。
白々しい。いちいちムカつく
今度こそナオキはテントを開け、ヴェルニカ救出に動いた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる