19 / 90
辛い過去
しおりを挟む
ルカは一度深呼吸をした。
「……えっと……私……両親がとても厳しくて……小中学校って進学校に通ってました。私、普段から勉強しかしてこなくて、その甲斐あって成績はいつも一番だったんですけど……って言っても自慢とかじゃなくって、その……私ってこんなだから友達もいなかったし、でも別にそれでもいいやって思ってました。友達がいても特にやりたいことも無いし。
私、周りから浮いてたみたいで、誰も声かけてくれなかったしその……私にはホントに勉強しかなかったんです。私の存在を示せるものが……両親も先生もそんな私に期待してて……私、とにかく周りの期待に応えたくって必死に勉強したんです」
拙いながらも一生懸命に話すルカを月光りが照らす。ルカの手は膝の上で強く握られている。
「当然高校は一流の進学校を受験しました。私の学力なら問題ないって両親も先生も言ってたし、私もそれなりに自信あったんです。
けど……結果は不合格……原因は分かってました。学力じゃないって。だって試験問題は全部分かりましたから……駄目だったのは面接でした」
ここでルカは再び深呼吸をした。
「私、面接官を前に頭が真っ白になっちゃって……何も言えなかったんです。もうどんな質問だったのか、どんなことを言ったのかも覚えてないくらいパニックになっちゃって……気が付いたら家へ歩いてるところでした。
その後は第二志望も落ちて第三志望の高校に入学したんですけど……その……やっぱり周りと馴染めなくて……元々同じ中学校にいた同級生もいたし周りの人たちが私のこと落ちこぼれだって見てる気がして……分かってるんです。そんなの気のせいだって。気にしなくってもいいんだって……でも今更誰かと話しなんかできないし。
両親は志望校に落ちた時点で私のことに関心が無くなっちゃったみたいで会話はほとんどなくなって」
いつの間にかルカの頬を涙が伝っていた。
「そんなことをしてるうちに、何だか学校に行くのが怖くなって……学校に行かなくなったら今度は家から出るのも怖くなっちゃって……気が付いたら一日中家に閉じ籠ってました。
もう……私には生きる価値が無いんだって感じながら、だからって死んだりとかは怖くて出来なくって……ただ部屋の中で時間が過ぎていくだけの日々だったんです。
そんな時です。この世界に来たのは。正直びっくりしたけど、ここには昔の私を知ってる人はいないし、皆さんこんな私に優しくしてくれて……本当に嬉しかった……だから私、この世界なら頑張っていけるかなって思ったんです。
そしていろいろ人と仲良くなって、いろいろな人に期待されて、頼られて、褒めてもらえる。そんな人間になれるんじゃないかって思ったんです。
でも、明日のことを考えるとやっぱり怖くて……本当に私に魔物を殺せるのか不安で……また昔の自分に戻ってしまうんじゃないかって考えると不安で不安で……押しつぶされそうになるんです。今だって不安で眠れなくって場内を歩いてたらここに来て、星を眺めてたんです」
そこまで話し、ルカは話すのを止めた。そして二人の間に少しの沈黙が訪れた。
夜中の城庭には時々風が草木を擦らせる音だけで静寂そのものだった。だが、不思議と二人の沈黙が不快だとはナオキは感じなかった。
「……すいません。こんな話。つまらなかったですよね」
そんな沈黙を破ったのはルカだった。
「いや、つまらないなんて……そんなこと思ってないから大丈夫だよ」
正直ルカにどう言っていいか分からなかった。何か言葉をかけても全てが薄っぺらくなってしまいそうで。
再び二人の間に沈黙が訪れた。
「あの、話聞いてくれてありがとうございます。今の話聞いて『気持ち悪い』とか『変な奴』とか感じると思うんですよ。実際そうなんだし……でも私……ナオキさんに聞いてもらって嬉しかったしその……以前の自分より少し前に進めそうな気がします」
「オレは何もしてないよ。でも、前を向けるきっかけになったなら良かった。別にオレは変だなんて思ってないし。それに、ルカさんのこと――」
「『さん』付けはやめてください。そっちのほうが私もその……嬉しいんで……」
「じゃ、じゃあルカちゃん……」
「……はい」
ナオキは自分の体温が上がるのを感じた。おそらくルカも――
「オ、オレ、ルカちゃんのこと知れて良かったよ。ぶっちゃけオレのこと嫌いなんじゃないかと思ってたから……ほら、初めて会った時のことも有ったし……」
「あ……あれは事故じゃないですか……全然気にしてません。こっちこそなんかすいませんでした」
「……ねぇルカちゃん……」
「何ですか?」
「その……今度はオレの話を聞いてもらえるかな……」
「え? その……いいんですか?」
驚いたルカはナオキに伺う。
だがナオキの覚悟は決まっていた。
「オレの話もさ……なんて言うか……ルカちゃんが嫌な気分になるかも知れないし、オレのことを軽蔑するかもしれないんだけど……」
「私、ナオキさんのことを軽蔑するなんて絶対にしません。大丈夫です。信じてください」
ルカはナオキの手を握った。その手はひんやりと冷たかったが手の奥の方からわずかな温もりを感じた。
「……分かった。話すよ……」
ナオキは玲とのことを話し始めた……
「……えっと……私……両親がとても厳しくて……小中学校って進学校に通ってました。私、普段から勉強しかしてこなくて、その甲斐あって成績はいつも一番だったんですけど……って言っても自慢とかじゃなくって、その……私ってこんなだから友達もいなかったし、でも別にそれでもいいやって思ってました。友達がいても特にやりたいことも無いし。
私、周りから浮いてたみたいで、誰も声かけてくれなかったしその……私にはホントに勉強しかなかったんです。私の存在を示せるものが……両親も先生もそんな私に期待してて……私、とにかく周りの期待に応えたくって必死に勉強したんです」
拙いながらも一生懸命に話すルカを月光りが照らす。ルカの手は膝の上で強く握られている。
「当然高校は一流の進学校を受験しました。私の学力なら問題ないって両親も先生も言ってたし、私もそれなりに自信あったんです。
けど……結果は不合格……原因は分かってました。学力じゃないって。だって試験問題は全部分かりましたから……駄目だったのは面接でした」
ここでルカは再び深呼吸をした。
「私、面接官を前に頭が真っ白になっちゃって……何も言えなかったんです。もうどんな質問だったのか、どんなことを言ったのかも覚えてないくらいパニックになっちゃって……気が付いたら家へ歩いてるところでした。
その後は第二志望も落ちて第三志望の高校に入学したんですけど……その……やっぱり周りと馴染めなくて……元々同じ中学校にいた同級生もいたし周りの人たちが私のこと落ちこぼれだって見てる気がして……分かってるんです。そんなの気のせいだって。気にしなくってもいいんだって……でも今更誰かと話しなんかできないし。
両親は志望校に落ちた時点で私のことに関心が無くなっちゃったみたいで会話はほとんどなくなって」
いつの間にかルカの頬を涙が伝っていた。
「そんなことをしてるうちに、何だか学校に行くのが怖くなって……学校に行かなくなったら今度は家から出るのも怖くなっちゃって……気が付いたら一日中家に閉じ籠ってました。
もう……私には生きる価値が無いんだって感じながら、だからって死んだりとかは怖くて出来なくって……ただ部屋の中で時間が過ぎていくだけの日々だったんです。
そんな時です。この世界に来たのは。正直びっくりしたけど、ここには昔の私を知ってる人はいないし、皆さんこんな私に優しくしてくれて……本当に嬉しかった……だから私、この世界なら頑張っていけるかなって思ったんです。
そしていろいろ人と仲良くなって、いろいろな人に期待されて、頼られて、褒めてもらえる。そんな人間になれるんじゃないかって思ったんです。
でも、明日のことを考えるとやっぱり怖くて……本当に私に魔物を殺せるのか不安で……また昔の自分に戻ってしまうんじゃないかって考えると不安で不安で……押しつぶされそうになるんです。今だって不安で眠れなくって場内を歩いてたらここに来て、星を眺めてたんです」
そこまで話し、ルカは話すのを止めた。そして二人の間に少しの沈黙が訪れた。
夜中の城庭には時々風が草木を擦らせる音だけで静寂そのものだった。だが、不思議と二人の沈黙が不快だとはナオキは感じなかった。
「……すいません。こんな話。つまらなかったですよね」
そんな沈黙を破ったのはルカだった。
「いや、つまらないなんて……そんなこと思ってないから大丈夫だよ」
正直ルカにどう言っていいか分からなかった。何か言葉をかけても全てが薄っぺらくなってしまいそうで。
再び二人の間に沈黙が訪れた。
「あの、話聞いてくれてありがとうございます。今の話聞いて『気持ち悪い』とか『変な奴』とか感じると思うんですよ。実際そうなんだし……でも私……ナオキさんに聞いてもらって嬉しかったしその……以前の自分より少し前に進めそうな気がします」
「オレは何もしてないよ。でも、前を向けるきっかけになったなら良かった。別にオレは変だなんて思ってないし。それに、ルカさんのこと――」
「『さん』付けはやめてください。そっちのほうが私もその……嬉しいんで……」
「じゃ、じゃあルカちゃん……」
「……はい」
ナオキは自分の体温が上がるのを感じた。おそらくルカも――
「オ、オレ、ルカちゃんのこと知れて良かったよ。ぶっちゃけオレのこと嫌いなんじゃないかと思ってたから……ほら、初めて会った時のことも有ったし……」
「あ……あれは事故じゃないですか……全然気にしてません。こっちこそなんかすいませんでした」
「……ねぇルカちゃん……」
「何ですか?」
「その……今度はオレの話を聞いてもらえるかな……」
「え? その……いいんですか?」
驚いたルカはナオキに伺う。
だがナオキの覚悟は決まっていた。
「オレの話もさ……なんて言うか……ルカちゃんが嫌な気分になるかも知れないし、オレのことを軽蔑するかもしれないんだけど……」
「私、ナオキさんのことを軽蔑するなんて絶対にしません。大丈夫です。信じてください」
ルカはナオキの手を握った。その手はひんやりと冷たかったが手の奥の方からわずかな温もりを感じた。
「……分かった。話すよ……」
ナオキは玲とのことを話し始めた……
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる